戦場はいささかどころでは無い程に混乱していた。
デスティニーの離反、突如として上空から落ちて来た何かによる津波と、衝撃により破壊されたモビルスーツは多数。
艦船だって、半数以上が戦闘不能という様な状態となっていた。
「えぇい! 状況はどうなっている! 何が落ちて来た!」
「分かりません! 状況不明!」
「まさか、オーブの隕石落としか?」
「しかし、自国のすぐ近くで隕石落としなど、正気の沙汰では無いぞ!」
ミネルバのブリッジは阿鼻叫喚という言葉がよく似合う様なものとなっており、そんな中でデュランダルは小さくため息を吐いた。
僅かな可能性ではあるが、それを信じてタリアへと声を掛ける。
「グラディス艦長」
「はい……!」
「ホープは、どうなっている」
「っ! アビー!」
デュランダルに問われ、この状況で最も大切な物の存在を思い出したタリアはアビーへと振り返って状況を問う。
「ホープは……健在。レジェンド、インパルスも同様です」
「……そうか。グラディス艦長。ここは撤退するべきだと考えるが、君はどう思う?」
「撤退……! でありますか!?」
「議長!? ここまで来て、オーブを見逃すと仰るのか!?」
「既に失われた戦力が、このまま撤退しては! 我らは何も!」
「デスティニーが離反したのだ!!」
「っ!」
「このまま戦闘を続けても、あの機体の突破力では、この艦すら落ちる!」
「そ、それは……」
弱腰な者達を怒鳴りつけて、デュランダルはタリアへと真っすぐな視線を向けた。
どうか、分かって欲しいという想いを込めながら。
「ロード・ジブリールはどの様にされるおつもりですか」
「今更な話ではあるが……オーブに交渉を願いたいと考えている」
「しかし、それは……」
「彼女なら、受けてくれるだろうと考えているよ。私は」
「彼女……?」
「シン君が言っていただろう? オーブの代表。カガリ・ユラ・アスハが帰還していると」
「っ!」
「こんな事をしてしまい、今更な話かもしれないがな。これ以上の損害は出せん」
「ハッ。私も、撤退するべきだと判断いたします!」
「では、頼む」
デュランダルは椅子にもたれかかりながら、頭を抱えて戦場を見据えた。
最悪なタイミングに最悪な事が重なるモノだと考えながら。
そして、無事撤退する事が出来た対ロゴス同盟軍は、オーブの沿岸で艦隊の状態を確認しながら、使者をオーブへと派遣する事とした。
しかし、問題となったのは誰を派遣するか。という話である。
デュランダルはその話し合いの中で早々に自分が行くと宣言したのだが、最悪は殺されるとこの案は却下されてしまった。
その決定にデュランダルは内心で、彼女たちが使者を殺すワケがないだろうと、罵っていたのだが、それに気づく者は無い。
そんな中、更なる異常事態が発生しようとしていた。
「艦長! 本艦に接近する熱源!」
「なんですって!? 何なの!?」
「これは……モビルスーツです! 機種特定……データ照合無し!」
「モニターに出して」
何者か分からないモビルスーツが近づいてきているという事でタリアはモニターでそのモビルスーツを確認しようとしたのだが。
どうやらミネルバに近づいてきているのは、彼女たちがよく知る機体に酷似した機体であった。
「これは……フリーダム?」
「その様ね。通信を繋げられる?」
「はい!」
そして、ミネルバに近づくフリーダムに酷似した機体へ通信を試みたタリアであったが、その願いはアッサリとウケられた。
『こちらフリーダム。キラ・ユラ・アスハ。お話し合いに来たのですが。着艦許可を貰えますか?』
「キラ!」
『はい。お久しぶりです。色々あって、オーブに戻ってました。ZAFTは……勝手に抜けちゃったんですけど、大丈夫ですかね?』
「大丈夫なワケないでしょ。除隊するならちゃんと手続きをしなさい」
『あ、そうですよね。では色々と終わって落ち着いてからそうしますね』
なんて、ふざけた事を言いながら、ミネルバに着艦するキラに、タリアは深いため息を吐いた。
だが、それはいつもの苦労人なため息であると同時に、キラが生きていて良かったという安堵の息でもあった。
そして、キラが乗っていると分かった以上攻撃される事もなく、キラの新しい機体ストライクフリーダムは無事格納庫に着艦した。
「うーん。何だか久しぶりな様な気もするねぇ」
「き、キキキ、キラさん!?」
「やぁ。ヴィーノ君。元気してたー?」
「いや、元気してた? って俺のセリフですけどね!? ロゴスに捕まったって聞いてたんですけど! この機体は!?」
「まぁー。色々あってねぇ。この機体は僕の新しい機体。ストライクフリーダムね。思い出深い機体の名前が二つ合わさってサイキョーって感じでしょ!」
「いや、ストライクの方は、多分ZAFTじゃああんまり良い思い出無いと思うんで、素直に喜んで良いか微妙なんっすけど」
「あー。そうだっけ。まぁ、良いや。アッハッハ」
「アッハッハ。じゃないですよ。それで? 触っても良いんですか!?」
「ダーメ。これはZAFTの機体じゃないから」
「えー。残念だなぁ。って、え!? ZAFTの機体じゃない!? なんか今、とんでもない事言われた様な!?」
「キラさん!」
キラの言葉にヴィーノの動揺していると、遠くからキラを呼ぶ声があり、キラはそちらへと顔を向けた。
そこにはレイとルナマリアが心配そうな顔をして立っており、二人の後ろには、眉間に皺を寄せたセナが立っている。
「お出迎えかな? レイ。ルナ。セナ」
「はい。議長がお待ちです」
「うん。それは話が早いね」
キラはレイの言葉に満足して頷きながら、ヴィーノに手を振り、遠巻きに見ていた他の整備兵たちにまたね。と挨拶して格納庫を出て行った。
それからレイと共に通路を歩いていたキラであったが、不意にレイが足を止めた事でキラも「おっと」なんておどけた様な声を出しながら足を止める。
「キラさん」
「んー? どうしたの?」
「シンの事。キラさんが何かシンに言ったんですか!?」
「いや。僕は何もやってないよ。シン君が自分で判断して行動した。ただそれだけの話だよ」
「なら!! 何故シンはセナを裏切って、オーブに!」
「セナより、オーブを護らなきゃって思ったんでしょ?」
「っ!」
キラがアッサリと言い放った言葉にレイは言葉を詰まらせながら、怒りを表に出した。
しかし、キラの腕をグッとレイが掴んでも、キラは動かない。
ただレイを静かに見つめるだけだ。
「レイ君。シン君の道を決めるのは誰でもない。シン君なんだよ」
「分かっています……!」
「なら。真っすぐにシン君を見てあげて。互いに譲れないモノはあるかもしれないけどさ。それでも、相手をちゃんと見なきゃ、喧嘩も仲直りも出来ないよ」
「……!」
「まぁ、君がアスランに対して持ってた想いに気づかなかった僕も悪いけどさ。きっとシン君とレイ君は前みたいな仲良しに……」
「待ってください! キラさん」
「っ、な、なぁに?」
「アスランへの想い……? キラさんは誰に、それを聞いたんですか?」
「誰にって。アスランだよ」
「な……バカな。アスランは、シンが」
「うん。落としたよ。でも、流石の生命力っていうのかなー。結構な怪我はしてたみたいだけど、生きてるよ」
今度こそ、レイは完全に言葉を無くして壁に身を預ける様になってしまった。
驚愕に見開かれた瞳には何も見えていない。
だが、キラの言葉に反応した者がレイ以外にも居た。
そう。ルナマリアだ。
「キラさん! アスランさんが生きてたって、メイリンは!?」
「え? メイリン? えと、あー。そっちのアスランか。うんうん。大丈夫。イザーク達が丁重に保護したって言ってたよ。怪我一つないって」
「あぁ……メイリン。よか……メイリン」
キラの言葉にルナマリアが泣き崩れてしまい、キラはどうしたものかと頭を抱えてしまった。
しかし、そんなキラを見て、一人会話に参加していなかったセナが目線だけでキラに来いと言い、キラと共に空き部屋へと入った。
そして、二人きりとなった部屋で、セナはまず小さな声でキラに語り掛ける。
「この部屋は外から監視されていません。私達の声は私達にしか届かない」
「うん。ありがとう。それで? 君は僕にどんな用があるのかな? クリスタ」
キラは暗い部屋の奥で無表情のまま振り返った少女に微笑みかけた。
そう。セナの中にあるもう一つの人格……クリスタへと。
「二度目か。キラには全部お見通しかな」
「僕はセナとクリスタのお姉ちゃんだからね。当然だよ」
「ふっ……お姉ちゃん。か。本当に……お前と話をしていると私がしている事の全部がバカみたいに思えてくる」
「クリスタ。良いんだよ。全部投げ出したって。僕に甘えたって良いんだ」
「残念だが。それは出来ない。コレは『私の』復讐なんだ」
「……クリスタ」
「私はな。やはり、こうアレと作られたモノの願い通り。呪いの通り。憎しみに支配されて生きているモノなんだよ」
「違う」
「違わないさ」
「違うよ。人は生まれがその人を決めるんじゃない。どう生きるか。どう生きたいかが全てなんだ。君が、暖かい世界で生きたいと願えば、僕はどんな困難だって振り払ってみせる……! 君も、セナも、守り抜いてみせる」
キラが真剣に、クリスタを見つめながら向けた言葉に、クリスタはどこか諦めを滲ませた様な表情で涙を一筋流した。
「もう遅いんだ。キラ」
「何もまだ終わっちゃいない! 遅い事なんか、あるもんか!」
「いや。もう遅いさ。何せ、もう走り出してしまった」
「……え?」
「私が弱かったから。もう決めてしまったんだよ。あの子は」
「まさか……」
「セナは、もう決めてしまった。私の様なモノでも、生きていける世界を作る為に、デスティニープランを発動する気だ。お前も分かるだろう? 何をしたってあの子は止まらない」
「……止めるよ。僕は」
「無理だ。世界ももう止まらない。セナの正しさに溺れている。お前たちはオーブを攻めさせて、それを使い世論を変えようとしている様だが、既に遅いんだよ」
「どういう……意味さ」
「ロード・ジブリールは既に宇宙へと上がった」
「っ!?」
「まもなくレクイエムの一射目が放たれる。この攻撃によりプラントの一部は崩壊し、嘆きと絶望は、救世主を求めるだろう。かつて前大戦がそうして終わった様に」
クリスタが告げた言葉に、キラは急いで部屋を飛び出そうとしたが、その手をクリスタが掴んだ。
決して強くはない。
だが、希望を、救いを求める様な意志が込められていた。
キラが決して払う事の出来ない想いだ。
「キラ。もう世界は止まらない。だから……! 私と一緒に居てくれ。セナを守りたいんだ。あの子は、私だけじゃ守れないから」
「クリスタ……!」
キラはクリスタの揺れる瞳に囚われて、足を止めてしまうのだった。