地球において、様々な混乱がありつつも、ジブリールはある程度物事が自分の思う通りに動いていると考えていた。
だからこそ、月基地まで追い詰められていながらも、まだ、まだやり直せると必死に自分を保っていたのだ。
「だ、駄目です! フォーレが! コロニー! 崩壊します!」
「何故だ! 何故たった一つの艦から防衛できない!!」
しかし、キラとアスランのミーティアによって中継地点として置く予定だったコロニーを破壊され。
更には自身が居るダイダロス基地に、因縁のあるミネルバやかつて自分たちの部下であったガーティ・ルーが攻め込んできている事に狂気の悲鳴を上げていた。
理解が出来ない。
全て己の手の中にあった、そのハズだった。
しかし、気が付いた時には既に全てが終わっていた。
「いいや! まだだ!」
「しかし、中継のコロニーを破壊されてしまえば! レクイエムは!」
「基地の損害50%を超えました! これ以上は、戦闘の継続が出来ません!」
「おのれ……デュランダル! キラさえ、キラさえ手に入れば、貴様等には……!」
「まったく、愚かしいね。ジブリール」
「っ!? 誰だ!」
怒りに狂いながらモニターを睨みつけていたジブリールは、誰かの声に振り向き、持っていた銃を向けた。
そして、周囲にいた軍人たちも同様にその青年へと銃を向ける。
「おや? 僕の事を忘れたのかい?」
「貴様は……! リボンズ・アルマーク! 生きていたのか!」
「当然じゃないか。僕は救世主なんだよ?」
ジブリールをバカにした様な笑みを浮かべながらリボンズは、肩を竦めて言葉を並べた。
「本当は、君の茶番をもう少し見ていても良かったのだけれど。そろそろ時間も押してるしね。道化が踊って観客を楽しませる時間は終わりなんだ」
「道化!? 私が、道化だと!? 構わん! コイツを殺せ!!」
ジブリールが連合の兵士たちにそう叫んだ瞬間、多数の銃声が鳴り響き、リボンズ……ではなく、ジブリールのすぐ近くにいた連合兵が全て撃ち殺された。
何が起きたのかと驚愕に目を見開くジブリールの前に、リボンズの背後に広かる影から出てきた少年達が未だ煙の出ている銃口を見せる。
「な、なんだ……なんだ貴様らは!?」
「本当は、ステラ・ルーシェのクローンを作りたかったんだけどね。アレはどうやら失われてしまった様だから、コレは代わりさ」
「な……っ!」
ジブリールは急いで逃げようとしたが、リボンズがそれを許すはずがなく、傍に立っていた少年にあえて足を撃たせて逃亡を阻止する。
「まだ話は終わっていないんだよ。ジブリール。舞台から降りようだなんて、勝手な真似をするもんじゃない」
「ぐぁあああぁぁあ、わ、わたし……わたしが……!」
「君はブルーコスモスの盟主であった。なら知っているんじゃないか? スーパーコーディネイター。最高のコーディネイターを作り出す計画の事をさ」
「うぅ、うぅぅう。ぐうぅぅう」
「そして、僕は最高のコーディネーターのデータを手に入れた。ここに居るのは全て成功体のデータを元に改良し、調整した物ばかりだ。ヴェーダの力で生み出された最高の兵器ってワケさ」
「はぁ……はぁ……」
「リボンズ様」
「うん? なんだい?」
「もう聞いていないみたいですが」
「なんだ? 人間というのは脆いな。ジブリール」
呆れた様な顔をしながらリボンズは嗤い、ついでとばかりにジブリールの肩を、持っていたハンドガンで撃つ。
だが、ジブリールは大した反応を見せないまま呻くばかりであった。
「やれやれ。これじゃ話にならないね。せっかく色々と見せびらかしてやろうと思ったのに」
リボンズが肩を竦めながら文句を言っていると、不意に基地の装置がピピピと通信を告げた。
「出ろ」
「はい」
そして、リボンズは短く命令を出すと、モニターに映った映像を見て、笑みを深める。
『ジブリールさん! 降伏してください! これ以上の犠牲は……!』
「……き、ら……?」
「なんだ。まだ動けるじゃないか」
「ぐっ、う……! わ、たし……は……! キラ……!」
「ハハハ、頑張れ、頑張れ! モニターはすぐそこだぞ!」
リボンズはズルズルと地を這って進むジブリールを嘲笑い、頑張れなどと言いながらジブリールを撃つ。
だが、それでもジブリールはモニターに向かって進み続けた。
しかし。
「リボンズ様。基地の自爆装置作動開始しました。また、自爆と同時にレクイエムを発射します」
「そうか。では僕らも撤退するとしよう。では……キラ。また君に会うのを楽しみにしているよ」
そして、リボンズが居なくなった事にも気づかず、ジブリールはただ、ひたすらに進み続けた。
ずっと、追い求めていた。
かつで出会った光……そして、その光へと手を伸ばす為に求め続けた……彼女の愛娘へ。
「はぁ……はぁ……ヴィア……キラ」
ジブリールは命が消えていく感覚を味わいながら、ただ一つの想いだけを胸に抱いて……キラからの通信を、繋ぐ。
『っ! 繋がった、ジブリールさん!? ダイダロス基地の人ですか!?』
「に、げろ……」
『え?』
「奴は……きみを、ねら……って」
『ジブリールさん!? ジブリールさん! アスラン!! エターナル! コロニーから離れて! 何かがおかしい!』
『キラ!? しかし……!』
「早くして!!」
アスランの声がキラと繋がった通信から聞こえた瞬間、ジブリールの周囲は光に包まれた。
それは基地が自爆する光であり……レクイエムが発射された光でもある。
「……ヴィア。私は」
そして、ダイダロス基地の自爆に合わせて放たれたレクイエムは、コロニーを防衛していた地球連合軍艦隊や、キラ達の攻撃に合わせて艦隊を動かしていたZAFT艦隊に壊滅的な打撃を与え。
ダイダロス基地の自爆は、ミネルバとガーティ・ルーの部隊に大きな損害を与える。
「艦長!!」
「回避! 取り舵!」
「レクイエム! フォーレの艦隊へと向かってゆきます!」
「っ! キラちゃんは!?」
マリューの悲鳴の様な声に、ガーティ・ルーブリッジクルーは急いでキラとエターナルの無事を確かめる。
だが、レクイエムが撃たれた影響で通信は荒れており、ガーティ・ルーは急いで戦線を離脱して、キラ達が居た宙域を目指して移動を始めるのだった。
ガーティ・ルーがダイダロス基地を離れ、エターナルのある宙域を目指している頃。
何とかレクイエムの直撃を避ける事が出来たキラとアスラン、そしてエターナルは静かな宙域の中で、レクイエムによって完全に破壊されたコロニーと、その周辺にあった艦隊の残骸を見ていた。
『無事か? キラ』
「……うん。でも、地球連合の人たちが」
『俺達を排除する為に、味方ごとレクイエムを撃つなんてな……信じられない事をする』
「本当に、そうなのかな?」
キラはアスランの言葉に疑問を返し、最後に聞こえた声に想いを馳せる。
あの声の人は逃げろと言っていた。
その声があったからこそ、キラはアスランとエターナルに危険を知らせる事が出来たのだ。
もし、キラ達を排除する為に撃ったのであれば、何故警告などをしてきたのか。
キラには理由が分からなかった。
そして、そんなキラの疑問に応える事は出来ないが、キラ達の無事を確かめる為に移動してきたガーティ・ルーから、ダイダロス基地が自爆したという事を聞き、謎は謎のまま闇の中に消えてしまうのだった。
それから。
ダイダロス基地はミネルバと遅れてやってきたZAFT艦体によって制圧される事になり、キラ達はひとまず月面都市コペルニクスへと向かう事とし、戦いは終わりを迎えた。
正式にロード・ジブリールの死亡が確認されたとプラントから発表があり、これで世界に敵は居なくなった筈である。
だが、未だ世界は緊張状態を続けていた。
何故か。
理由は簡単だ。
撃つべき敵だと言って示したロゴスを討ったにも関わらず、未だ宇宙ではZAFTが活発に動き回っていたからである。
対ロゴス同盟軍として共に戦った地球連合軍であったが、つい二年前までは敵として戦っていた相手だ。
不穏な動きを見せているという事であれば、対応をしなければいけないと、艦隊をいつでも動かせる様に準備していたのであった。
それゆえに、宇宙ではいつまでも緊張状態が解けずにいたのであった。
そして、続く緊張状態と、地上で失われた指導者の代わりが未だ現れない状況に……月艦隊の司令官は一つの決断を下す。
それは、コペルニクスに小規模ながら艦隊を駐留させているキラ・ユラ・アスハにお伺いを立てる事であった。
「この様な情勢の中、会談をお受け下さりありがとうございます」
「いえいえ。こちらとしても地球連合の方々とお話がしたかった所ですから」
「それはありがたいお言葉! やはりキラ様はいつでも我らを見守って下さる! オーブではキラ様を月の女神の様だと称されているというお話ですが、まさに、ですなぁ」
「我ら月艦隊としては、女神様に日々守られながら生きてるようです」
「えぇ。まったく」
「あー。ははは」
キラはまるでオーブ軍人と話しているみたいだなと思いながら苦笑いを浮かべる。
そして、少しだけ真剣な表情になって、地球連合軍の高官たちに口を開くのだった。
「地球連合の方々からZAFTの動きは観測されているのですか?」
「えぇ。いくつか記録はあるのですが……どうも連中。妙なものを作っている様でして」
「妙なもの?」
「いくつか写真があるのですが……あー。こちらが一番分かりやすいですかな」
キラは地球連合軍の高官が出して来た写真を手に取り、目を細めた。
そこには、ナスカ級と並び動いていると思われる巨大な人型の何かが写っていたのだが……そのサイズがかなり大きい。
デストロイと同等か、それ以上という様な大きさだ。
「これは……モビルアーマー、ですかね?」
「分かりません。ですが、近くまで接近し、その姿を目撃した者達は……天使の様であったと言っていました」
「天使……?」
「はい。こう、頭にですね。天使の輪がついていて、全体的に白い姿をした機体であったと」
「天使……」
「それに、ですね。奇妙な事に、連中が動かしているコレに近づいた時、声を聞いた。というんですよ」
「声? ですか」
「えぇ。なんでも幼い少女の声が頭に直接響いて来たとかなんとか。まぁ、偵察任務をしていると精神に異常をきたす者もいて、おそらくはその類だと思うのですがね?」
「……そうですか。その兵士さんには、どうかお体をゆっくり休めて下さいと」
「えぇ! 大変喜ぶと思います! ありがとうございます!」
「いえ」
キラは謎の声と、天使の様な姿の者が何者なのかと思考を巡らせるのだった。