月面都市コペルニクスへと向かっていたラクスとセナが帰還し、デュランダルはひとまず安堵の息を吐いた。
だが、ラクスより、本物のラクス・クラインを討ったという報告を聞き、椅子に預けていた体を持ち上げて、ラクスをやや見開いた瞳で見やる。
「いや、まさか……しかし、本当にラクス・クラインを討ったのかい?」
「えぇ。間違いありませんわ。胸に三発。ほぼ即死であったと思います。医者に連れて行った様子もありませんし。命を落としたのは確実かと」
「……そうか」
ラクスが頷きながら続けた言葉に、デュランダルは力が抜けた様に、再び椅子にもたれかかった。
そして、目を閉じながら何かを考え始める。
「デュランダル議長。プランを発動する絶好の機会かと思いますが」
「……そうだね」
「であればすぐにでも全軍を招集し、プランの実施を」
「オーブが未だ脅威として残っている。すぐにプランの実施とはいかないだろう」
「レクイエムがあるではないですか」
「レクイエムはダイダロス基地と共に自爆しただろう?」
「ふふ」
「……?」
「既にレクイエムは修理されておりますよ。幸い損傷部分はコントロール部分のみでしたから。修理は容易かったと」
「……リボンズ・アルマークか」
「えぇ。既に準備は完了しているとの事です」
デュランダルは妖しい笑みを浮かべるラクスを前に、眉間に皺を寄せながら思い悩む。
そんなデュランダルの姿にラクスは追撃をする様に口を開いた。
「デュランダル議長。今が絶好の機会なのです。カガリ・ユラ・アスハはオーブにおります。レクイエムを使えばオーブもろとも消し去る事が出来ますわ」
「……」
「そうなれば、セナ様に勝てる『声』を持つのはキラのみ。
「しかし、セナ姫の体調は良くないのだろう? あまり強硬するべきではないと思う。ミーア・キャンベルという不安要素もある」
「セナ様の体調を考えるからこそ、ですわ。カガリ・ユラ・アスハが宇宙へと上がってくれば、セナ様も無理をする必要が出ます。しかし、今ならば、キラ達を力で押さえつけ、その隙にオーブを討ち、世界にデスティニープランの素晴らしさを伝えるだけで良い。そうでしょう?」
繰り返されるラクス・クラインの甘言に、デュランダルは眉をひそめたまま口を閉ざす。
しかし、そんなデュランダルの姿はラクスにとってあまり都合がよろしくない。
「ミーア・キャンベルの事を心配されているのですか? ご心配されずとも、あの女に出来る事など何もありませんわ。所詮は声が似ているというだけで影武者とした女。本物には遠く及びません」
「それは……私も同意見だ。あの少女はラクス・クラインにはなれない。どうあってもな」
「であれば……! 後は決断するだけではありませんか」
さぁ進め。
早く進め。
と煽ってくるラクス・クラインにデュランダルは深いため息を吐いた。
これ以上、先延ばしにするのは無理だろうと諦めた、ため息だ。
「分かった」
「では……!」
「あぁ。デスティニープランを実行しよう」
「それはとても、素晴らしいお考えですわ」
ラクスは笑みを深め、動き始めたデュランダルを見送るのだった。
そして……。
『皆さん。私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです』
『本日は皆さんにこれからの世界について一つ提案をするべく、こうして皆さんに語り掛けております』
『私は、どうしてこの世界から争いが消えぬのか。何故憎しみが消えぬのか考え続けてきました』
『多くの悲しみが世界を覆い、多くの怒りが世界を包んでおります』
『そして、今私の中にも皆さんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています』
『何故こんなことになってしまったのか。考えても既に意味のないことと知りながら私の心もまた、それを探して彷徨います』
『私達はつい先年にも大きな戦争を経験しました。そしてその時にも誓ったはずでした。こんなことはもう二度と繰り返さないと』
『にも関わらず悲劇は再び起き、努力も虚しくまたも戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大して私達はまたも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました』
『本当にこれはどういうことなのでしょうか。愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは』
『一つには先にも申し上げたとおり、間違いなくロゴスの存在所以です』
『敵を創り上げ、恐怖を煽り戦わせてそれを食い物としてきた者達。長い歴史の裏側に蔓延る彼等、死の商人達です』
『だが我々はようやくそれを滅ぼすことが出来ました。だからこそ今敢えて私は申し上げたい』
デュランダルは語る勢いのままに両手で机を叩きながら立ち上がった。
そして、叫ぶ。
『我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦っていかねばならないと』
必死に、魂のままに訴える。
『そして我々はそれにも打ち勝ち、解放されなければならないのです!』
デュランダルの演説に少し離れた場所から聞いていたラクスが笑みを深め、セナは真剣な眼差しでジッとデュランダルや世界を見据えた。
『皆さんにも既にお解りのことでしょう。有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬわけ。常に存在する最大の敵、それはいつになっても克服できない我等自身の無知と欲望だということを!』
デュランダルの言葉は、この放送を聞いていた者達にとって意味が分からない物であり、困惑を誘う物であった。
故に、デュランダルの演説を放送している者達の中でも疑問が浮かび、それが周囲に伝わってゆく。
『地を離れて
『だがそれももう終わりにする時が来ました。終わりに出来る時が。我々は最早その全てを克服する方法を得たのです。全ての答えは皆が自信の中に既に持っている!』
『今のこの世界では我等は誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時々に翻弄されて生きている!』
『それによって人を知り、自分を知り、明日を知る』
『これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。私は人類存亡を賭けた最後の防衛策としてデスティニープランの導入実行を、今ここに宣言いたします!』
その放送は……ある意味で間違いなく歴史に残る演説であっただろう。
誰もがデュランダルの言葉に何か意味があるのだと考え、その意味を語り合う。
そして、それはエターナルに居るキラやアスラン達も同じであった。
「遂に始まったね」
「デスティニープラン……か」
「うん。遺伝子によってその人の適性を決め、その通りに生きる様、強要するシステムなんだけど……セナが居る以上はその人の心や環境も考慮した上での適正が出るだろうさ」
「でも、セナ一人で全人類の適性を見るなんて出来るんっすか?」
「セナ一人じゃ無理。でも、セナはきっとヴェーダともう繋がってるから。ホープとデミスシルエット、ヴェーダの三つを使って、セナは世界を管理するシステムになるつもりなんだよ」
「そんな……!」
キラがアッサリと告げた言葉にシンは顔を青ざめさせながら言葉を無くしていた。
しかし、とバルトフェルドが声を上げた。
「一見完璧なシステムだが、大きな欠陥がある。それはセナ君の犠牲が無ければ成り立たないシステムという事だ」
「えぇ」
「だからこそ、俺たちはデスティニープランを止めなきゃいけない」
「でも、止めるって言ってもどうやって止めるんっすか?」
「ホープとデスティニープランの制御ユニットを破壊するしか無いだろうね。そして、セナを確保って感じかな」
「なるほど……」
「だが、ZAFT全軍を相手にする事になる。それに、対ロゴス同盟軍として参加した連合も敵になる可能性があるだろう」
「そうだね。だから僕らは少ない戦力をうまく使って、これを止めないといけない」
アスランの言葉にキラが応え、シンはゴクリと唾を飲み込んだ。
分かってはいたことであるが、こうして言葉にされると緊張するのもまた事実である。
「とにかく、議長が動き始めた以上……僕らも急いでダイダロス基地へ向かわないと」
「ダイダロス? 何をしに行くんだ。キラ」
「そうっすよ。あそこはもう何も」
「あるよ。ね? メイリン」
アスランとシンが声を揃えながら問うた質問に、キラは笑顔のままメイリンに顔を向けて同意を求めた。
そして、メイリンはやや困った様な顔をしながらキラの言葉に合わせて、先日手に入れたばかりの情報を伝える。
「ZAFTはダイダロス基地のレクイエムを修復しました。現在レクイエムは使用可能な状況です」
「「なっ!?」」
「さらに言うのであれば、例の要塞メサイアも移動を始めてる。ダイダロス基地の近くに向かってね」
「待て! メサイアには確か……!」
「うん。ジェネシスが搭載されてる。つまりは、レクイエムで遠距離攻撃をしながら、ジェネシスでレクイエムを破壊しようとする部隊を撃破する。二重の防衛線って事だね」
「考えうる限りの最悪を用意してくるな。デュランダルは」
「それだけオーブを警戒しているんだと思います。カガリは、おそらくセナが計画を実行する上で最も邪魔な存在ですから」
「……つまり、最初の狙いは」
「オーブ首都。オロファト。行政府も軍本譜も関係ない。全てを滅ぼすつもりなんだよ。カガリも、カガリの気持ちに寄り添う人たちも、全員ね」
「……!」
キラは小さく息を吐いて、これからの方針を伝える。
「だから、僕らはまずレクイエムとメサイアを叩かないといけない。多分ZAFTの部隊は邪魔してくるし。大量破壊兵器も飛び交ってる前大戦みたいな最悪の戦場だ。でも、それでも壊さなきゃ。オーブもセナも、自由も! 何もかも奪われて終わる。それだけは絶対に避けなきゃいけない」
「……あぁ」
「行きましょう! キラさん!」
「ありがとう。二人とも。じゃあ、バルトフェルドさん」
「えぇ。そろそろ参りましょうか! エターナル! 発進準備!」
「目標はダイダロス基地です。先行しているガーティ・ルーを目指して……行きましょう!」
「発進!!」
いよいよ最後の戦いが、始まろうとしていた。