デュランダル議長の演説は全世界に放送され、それに対するオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハのプラン拒絶もまた全世界に放映された。
ここにプラントとオーブ、対立する二つの組織が描き出され、世界は真っ二つに割れていた。
そして、それはミネルバも同じであった。
「ルナマリア」
「どうしたのよ。レイ」
「お前も、シンの所へ行ったらどうだ?」
「ハァ?」
カガリ・ユラ・アスハの放送を見ていたルナマリアにレイは、いつもよりも暗い顔をしながら語る。
その、素直ではない様子にルナマリアはハァとため息を吐くのだった。
「で? 私がシンの所へ行って。アンタはどうするのよ。レイ」
「俺は……俺は議長とセナを護る」
「一人で?」
「あぁ。例え一人になろうと、俺は……俺にはこれしか道が無いんだ」
「これしか、か」
どこか追い詰められた様子のレイに、ルナマリアは少し思考を巡らせて考え事をしていた。
世界の事、キラの事、シンの事、セナの事、レイの事。そして……メイリンの事。
ルナマリアは自分がそこまで賢人では無い事を知っている。
無論、コーディネーターである以上、それなりに賢しくはあるが、それだけだ。
どちらかと言えば、考えるよりも殴った方が早い。と考えるタイプであるし。
どちらが正しいかよりも、どちらが好きか。で物事を選びたいタイプだ。
だからこそ……今、この場で考えるのは、自分がどう進みたいと考えているか、である。
「私はさ」
「……?」
「私は、ヤマト隊が好きだったのよ。アンタが居て、シンが居て。キラさんが居て。セナちゃんが居て。副隊長やイングリットさんが居て」
「……あぁ」
「だからさ。また、みんなで一緒に居たい。みんなと一緒に居たいの」
「それは無理だ」
「なんで?」
「俺たちは敵対してしまった」
「だから、もう終わりって?」
「そうだ」
レイがどこか闇を背負いながら放った言葉に、ルナマリアは少し言葉を考える。
が、やはり良い言葉が浮かばなかった為、思うままに喋る事とした。
彼女が憧れた人が、そうであった様に。
心のままに、自由にぶつかってゆく。
「まだ諦めるには早すぎるんじゃないの? 確かに意見が違えば敵対もするだろうけどさ。別に私達が憎み合っているワケじゃないでしょ? シンだって、キラさんだって、戦いが終われば話し合いに応じてくれるわ」
「そうかもしれない。だが……俺には、それほど長く時間が遺されている訳じゃないんだ」
「何それ。どういう事?」
「生まれつき、テロメアが短いんだ。俺は……クローンだからな」
「っ!?」
ルナマリアは驚愕に顔を染めながら、言葉を失う。
「無論、今日明日というワケじゃない。ワケじゃないが……それほど長くもない。ラウが後五年も無いと言っていたからな。俺もおそらくは同じくらいだ」
「五年」
「あぁ、だから……俺が死んだ後の事はシンに……」
「後、五年! あるのね!?」
再度確認する様に、レイの肩を掴みながら叫んだルナマリアに、レイはやや驚きながら小さく頷いた。
その姿に、ルナマリアは少しだけ安堵した様な顔をして、笑う。
「なら、諦めるにはまだ早すぎるわ。レイ」
「……ルナマリア?」
「無神経かもしれないけどね。自分勝手だって! 思うかもしれないけどね! まだ五年あるんでしょう!? 何を諦めた様な事言ってんのよ!」
「なにを……」
「五年あるって事はね! 私達はまだ、五年間一緒に居られるって事でしょうが! あー! もう! なんでもっと早くそういう事を言わないのよ! とにかく! さっさとこのバカげた戦争を終わらせて! キラさんとか、セナちゃんに協力して貰って! 戦果上げてるんだから! 議長とかにも協力させて! レイが一日でも多く長生き出来る方法を探すのよ! その為にも! 向こうに行くか、こっちに居るかは情勢見て決めるわ! 向こうの方が早く終わりそうならさっさと終わらせて、アンタがウジウジ悩まなくても良いようにする! 良いわね!?」
「いや、俺は……」
「何!? 何か文句あるの!? それとも死にたいの!?」
「……死にたい、訳では……無いが」
「なら良いじゃない。アンタは嫌かもしれないけどね。私も! シンも! それにキラさんだって、セナちゃんだって! みんなアンタに生きてて欲しいの! 澄ました顔しながら、ふざけた事言ってるアンタと! 一緒に居たいのよ!」
「……」
レイはもはや言葉もなく、ルナマリアにまくしたてられるまま、ただボンヤリとした顔をしていた。
そして、ルナマリアの声が大きかったからか、通路の向こうから、苦笑した者達が二人現れる。
「機密事項をルナマリアに話す時は場所を考えた方が良かったな。レイ」
「……! 副隊長!」
「シュラで良い。しかし、悪いが、話は聞かせて貰った……というか、勝手に聞こえて来たワケだが」
「あ……ゴメンナサイ。レイ」
「いや。俺はお前に感謝しているぞ。ルナマリア・ホーク」
「へ?」
「レイ・ザ・バレル。お前は優秀だ。モビルスーツの腕も、戦闘指揮も、格闘術も何もかも、な。だから、このまま命を落とすのは惜しい」
「シュラ。こういう時くらいは素直に想いを語っては如何ですか? 仲間が失われるのは、悲しいのでしょう?」
「やかましいぞ。イングリット……! あー、いや。しかし。それもまた真実ではあるか」
「……シュラさん」
「レイ。俺は……いや、俺も。友と仲たがいをしている。それは互いに譲れぬ物があるからだ。それに……俺は、奴に嫉妬しているのだ。奴が奴の道を歩み始めたから。それを羨ましく思っている」
「……シュラ」
「だが、奴は言った。俺との対話を求めていると。それは例え敵対していたとしても、分かり合う事で、銃ではなく、言葉を、向け合う事が出来るという事だろう?」
「シュラさん」
「俺は……同じ事がお前とシンの間でも出来ると思っている。お前の全てをシンにぶつけ、そして想いを語れ。シンは熱い男だ。強い男だ。必ずやお前の想いを受け止めてくれる。その上で、互いに譲れぬ物の為に戦えば良い。どちらかは負けてしまうだろうが……それでお前とシンの関係が終わる訳じゃない」
「はい……」
「シュラもたまには良い事を言うんですね」
「たまに。は余計だ」
「ふふ。姫様にご報告してあげますよ」
「いや……」
「あら? しない方が良いですか?」
「いや。報告という形ではなく、こう、それとなく俺の評価があがる様にだな……」
「シュラ。貴方。俗物になりましたね」
「なんだと!? どういう意味だ! イングリット!」
「そのままの意味ですよ」
先ほどまでシリアスな話をしていたというのに、突如ふざけ始めてしまった二人にレイは笑った。
そして、確かに自分はこんな風に笑える場所を求めていたのだと、涙を滲ませながら、思い出していた。
「レイ。俺はな。お前たちと共に食べた串焼きで世界が変わった。大袈裟な話ではない。あの時、確かに変わったのだ。戦士として、その役目にのみ生きるシュラ・サーペンタインはあの時死に、俺は姫様の騎士として……世界を、より広い世界を知りたいと思えた。あの時の事があったからこそ、俺はオルフェの言葉に耳を傾ける事が出来たのだろう」
「シュラ……」
「ふっ、だからな。恩返しをしなくてはいけない。お前とシンに。だから、それまで死ぬんじゃないぞ。必ずだ。お前の体の事は俺も協力する。イングリットは……」
「勿論。私も協力しますよ」
「と、いう事だ。お前には多くの仲間が居る。諦めるな」
シュラの強い言葉に、レイは胸が震える様な心地を味わって、深く頭を下げた。
その姿にシュラもイングリットも満足そうに笑い、小さく息を吐く。
そして、彼らの語らいが終わるのを待っていたかの様に艦内放送が鳴り響いた。
『コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください』
「さて。どうやら来たようだな。出撃準備だ。行くぞ!」
「ハイ! って、アレ!? シュラ副隊長はどうするんですか!? 議長? キラさん!? どちらの味方に!?」
「決まっているだろう。俺は姫様の騎士だ」
「あら? ではオルフェとの対話は?」
「無論、それが終わってからだ。奴を倒し! 俺の方が正しかった事を証明してから、ZAFTを離反し! 姫様の軍に合流する!」
「副隊長も離反するのなら、私も向こうに行こうかな」
「うむ。姫様と議長ではどちらが正しいかなど考えるまでも無いからな」
「私はたまにシュラの思考回路が羨ましくなりますよ」
「なんだ? それは。バカにしているのか? イングリット」
「よく分かりましたね」
「貴様……! 後で覚えていろ!」
ふざけた様子の三人に、レイは拳を強く握りしめながら問うた。
最後に、聞かねばならない事を。
「副隊長は!」
「うん?」
「セナの事をどう思っているのですか!? どうするつもりなのですか!?」
「止める」
「っ!」
「姫様もそれを望んでおられる。デスティニープランの欠陥を我らは既に知っている」
シュラは隣に立つイングリットを見やった。
イングリットは小さく頷き、それを見てからシュラは再びレイへと視線を向けた。
「デスティニープランの欠陥を埋める為には人の手が必要だ。おそらくセナ姫は自らを人柱とする事で、永続的な世界の安定をと考えるだろう。ホープのデミスシルエットを調べ、俺とイングリットはそう結論を出した。故に、止める」
「キラ様を悲しませたくありませんからね」
「レイ。お前が進む道はお前が決めろ。無論、セナ姫とデスティニープラン。おそらく完璧な形で成されるであろう世界平和を願うのなら、それもまたお前の道だ」
「でも、どんな道を選んでも。私達は友達だからね! レイ!」
「……俺は」
シュラとルナマリアの言葉に、レイは瞳をさ迷わせながら答えを求めていた。
だが、そんなレイを見て、シュラは笑う。
「まだ迷っているのなら、結論を急ぐな。どのみち、シンとも話すのだろう?」
「……はい」
「ならば、ゆっくりと考えれば良い。まぁ、それだけの時間を……姫様が残してくれるかは、分からないがな」
シュラの言葉を証明する様に、ダイダロス基地へと迫るエターナルは衝撃的な速さで戦場を駆け抜け。
エターナルの正面の宙域を突き進んでいるミーティアを装備したストライクフリーダムは、視界に捉えた機体を全て戦闘不能にしながら、真っすぐにレクイエムを目指していた。