シンやレイから離れ、やや静かな宙域へと移動してきたシュラとオルフェは、今までの二人とは違い、酷く静かな語り合いを行っていた。
「オルフェ。まずは姫様の計画を教えて貰おうか」
『……何故だ』
「決まっているだろう! 貴様を倒し! 姫様の計画を完遂する為だ!」
『キラの味方をするというのなら、ここで争う理由もないが』
「あるな! 俺の強さを示す事が姫様への忠誠に繋がる……! そして! これから再び始まる戦乱の時代で、俺の強さは姫様の信頼に繋がるだろう!」
フフンと自信満々に語るシュラに、オルフェは目を細めながら訝し気な声を上げた。
一つの疑念が自分の中に生まれてしまった為、その疑問を解消しようとシュラに問う。
『シュラ。お前はアウラ・マハ・ハイバルの命令で動いているのではないのか?』
「母上? どういう事だ」
『どういうも何も無いだろう! お前は何故ミネルバに乗艦した。そして今もなおデスティニープランの守護者として立っている! 全てはアウラの指示なのだろう!?』
「む……? どういう事だ? イングリット。何か母上から聞いているか?」
「いえ。私は何も」
「ふむ。お前もか。俺も何も聞いていない。何の話をしているんだ。オルフェ」
『は……?』
思っていた反応とは違う反応が返ってきてしまった為、オルフェはやや混乱しながら思考を巡らせていた。
だが、混乱した頭はよい答えを生み出す事はなく、ただ、無意味な言葉を音として生み出すだけだ。
「えぇい! 母上の話はどうでも良い! 姫様の計画を聞かせろ! と言うのだ!」
『それは、出来ん』
「何ィ!? どういう事だ!」
『どういうも何も無いだろう。お前は今、デスティニープランを護るために戦っている。その敵対者に、情報が渡せるものか』
「ぐぬぬ……!」
「正論ですね」
「黙れ! イングリット! ならば! お前を倒し、聞きだしてやる!」
「結局はこうなるんですね」
「行くぞ! オルフェ!」
『……来い!』
白と黒の機体は互いにビームサーベルを持ちながらぶつかり合い、少し距離を取ってはビームライフルを。
そして、再び接近戦へと……まるで子供の喧嘩の様に殺意を持たぬままぶつかり合っていた。
しかし、それはイングリットにとって酷く安心する物であり、どこか緊張感のないまま二人の戦いを見守っているのだった。
そして。
オルフェとシュラがくだらない戦いをしている頃。
シンは要塞メサイアの陽電子リフレクターを破壊し、内部へと侵入しようとしていたが、陽電子リフレクターが破壊された瞬間、メサイアより複数のモビルスーツが飛び出して来た。
それは、量産されたインパルスの様であったが、どこか様子がおかしい。
そう。それは……人では耐えられない動きをしながら、一瞬のブレもない完璧なコンビネーションでシンに迫って来たのだ。
「こ、これは!? まさか! モビルドール!?」
シンは接近してきたインパルスの腕を破壊するが、破損したインパルスはすぐに後退し後方でシルエットを換装して完璧な状態で戦場へと復帰する。
かつてシンも乗っていた愛機である為、その機体性能に苛立ち舌打ちをした。
そして、何とかステラの協力もあり、一機のコックピットを完全に破壊するが、コックピットを破壊した筈の機体も、その部分をパージして再び無傷のインパルスとなってシンに襲い掛かってきた。
考えうる限りの最悪が目の前に展開されていた。
しかし、このインパルス部隊を突破しなくては、メサイアへと向かう事は不可能で。
シンは少しずつ後退しながらも、インパルス部隊を削ってゆくことにした。
だが、どれほど削ろうとインパルス部隊がその数を減らす事はなく、まるで宇宙を埋め尽くす様にインパルスがメサイアから飛び出してくるのだった。
「このままじゃ!」
シンは苛立ちながらクサナギとガーティ・ルーへと通信を繋げ、状況を伝える。
「カガリさん! 艦長! メサイアからモビルドールが現れた!」
『なんだと!?』
『なんですって!?』
『シン・アスカ! 機体と規模はどうなっている!』
「機体は! インパルス! 損傷してもすぐにシルエットを換装して戦線に復帰します! コックピットを破壊しても同じだ! 規模は! 分からない! が、大隊規模はあると思われます!」
『大隊規模だと!? バカな!』
「俺だけだと抑えきれません!」
『無理をするな! シン・アスカ! 後退しろ!』
「でも、ここで俺が引いたら! 部隊が!」
『それで貴様を失えば勝てるものも勝てん! 良いから退け!』
「くっ!」
シンへ詳細な報告を求めたナタルはその報告に驚愕を示しながら、すぐにシンに後退する様に指示を出すが……シンはそれを受けずアロンダイトを構えながらインパルス部隊を正面から睨みつけた。
シンとデスティニーが苦戦する様な存在だ。
これが、地球連合軍艦隊へと向かえば壊滅的な被害を受けてしまう。
だからシンは、一歩たりとも退く気はなかった。
キラの剣に。セナの盾になるのだと。
オーブという国を、家族を護るために力を求めたからこそ。
シンは、例え目の前にどれほどの困難があろうとも、下がる事は出来ない。
「俺は……! こんな事で!」
『下がれ! シン!』
「っ!? この、声!」
そして、意地を張りながらインパルス部隊と戦っていたシンの元へ一つの通信が入り、シンは咄嗟に機体を退いて、モニターに映った機体を見やる。
そこには満身創痍という様な状態になりながらもドラグーンを飛ばしている存在がおり、そのドラグーンは正確に『インパルス部隊』へと向けられていた。
「レイ!?」
『……この敵は厄介だ。一人で戦おうとするな。シン』
「一緒に……戦ってくれるのか」
『あぁ』
「……!」
『俺は……怖かったんだ。お前やキラさんやセナを置いて、死ぬ事が……だから、道を間違えた』
「レイ」
『赦されるのなら……俺も、キラさんとセナの未来を、護りたい。お前やアスカ家の人たちと一緒に……また』
「許すとか! 許さないとか! 無いだろ! レイは確かに何か間違えたかもしれない。でも、俺もレイの事、何も考えないで好き勝手やってただけだ。だから、俺こそ、ごめん……!」
『シン……』
「だから、俺からも言わせてくれ! 一緒に戦ってくれ! レイ! 未来を! 守るために!」
『あぁ……!』
傷ついたレジェンドを護る様に、デスティニーはアロンダイトを構え、レジェンドはそんなデスティニーを守る様に残されたドラグーンを展開する。
『ちょっとちょっと! 私をのけ者にしないでよね!』
「あ、いや。そういうつもりじゃなかったんだけど……ルナも味方してくれる、感じか?」
『えーえー。そうですねー。ずっと無視されてたけどねー! 私もそっちに合流するつもりでしたねー!』
「えと、なんか……ごめん」
『良いわよ! 別に! それで? アレが敵って事で良いの!?』
「あぁ。でも、モビルドール部隊だ。コックピットを破壊しても武装を破壊しても復活してくる」
『ウゲー。最悪。誰があんな兵器考えたのよ』
『……ギル』
レイの呟きに、シンとルナマリアはデュランダルとレイがもしかしたら親しいのかもしれないと考えて、ひとまず話を流した。
そして、レイとルナマリアが合流した事でシステムが混乱していたのだろう。
ルナマリアが止まっていたインパルス部隊へとビームを放った事で、インパルス部隊は再びシン達を敵として認識し、攻撃を仕掛けて来た。
だが、そんなインパルス部隊へと突っ込み、『近接対装甲刀 ディス・パテール』を突き刺しながら両断する機体が現れた事で戦場の空気が一気に変わる。
『話は聞かせて貰ったぞ! シン!』
「副隊長!」
『シュラで良い! そしてぇ! いくら無限に再生が出来ようが、こうして両断してしまえば、いかなインパルスであろうと、復帰は出来ないというワケだ!』
シュラは叫びながら、自らの答えをシン達に示す様に近くにいたインパルスを縦に両断した。
しかし、そんなシュラの周囲でガンダムのビームライフルを三連射し、正確に合体しているインパルスのそれぞれのパーツを撃ち抜く者が現れる。
『わざわざ敵に近づいて破壊とは……非効率だな。シュラ』
『オルフェ! 貴様ぁ!』
『これだけの数だ。一機一機に無駄な時間をかけるな』
『分かっている! だが、この程度の相手! 俺だけで十分だ! 貴様はそこで見ていろ!』
『そういうワケにはいかないな。お前の機体にはイングリットが乗っているんだ』
『……オルフェ!』
『チィ! 通信でイチャイチャと……! 戦場で戯れるな!』
シュラは怒る勢いのまま、インパルス部隊を切り裂いてゆき、シュラが攻撃する事で見せた隙を狙うインパルスをオルフェが正確に撃ち抜いてゆく。
その圧倒的な二人の殲滅力に、呆然としていたシン達であったが、自らがやるべき事を思い出し、彼らもまた戦いへと飛び込んでゆくのだった。
そして。
彼らが増え続けるインパルスと戦っている頃。
メサイアの指令室に居たデュランダルは静かに地球軌道上と、メサイア正面で行われている戦場を見つめていた。
その表情は無に近い物であり、何を考えているのか。本人以外には分からない物であろう。
「レジェンド、インパルス、ミネルバの状況は?」
「レジェンドとインパルスは離反! ミネルバとは通信繋がりません!」
「そうか……レイはそちらを選んだか」
「こ、これは! 議長!」
「どうした?」
「地球へ……! 移動する巨大物体!」
「……」
「ユニウスセブンです!! ユニウスセブンが……! 地球へ向けて動いています!」
デュランダルはその報告に僅か口元を緩めると、モニターに映った地球軌道上の戦いを見つめた。
フリーダムとジャスティス……そして、ホープ。
三機の、親しき者達が譲れぬものをかけて戦う戦場を。
「さて。いよいよ最終局面か」
デュランダルは笑みを深めると、椅子に深くもたれかかり……ジッとホープを見つめた。
「セナ……そろそろ君ともお別れの時が来たようだ。可哀想だが……私も世界を破滅させるつもりは無くてね。ここで消えて貰おう」
そしてデュランダルは、ユーレン・ヒビキやヴィア・ヒビキと共にメンデルで撮った写真を指でなぞりながら、冷たい目をホープへと向けるのだった。