エターナルより、クサナギとガーティ・ルーへ。
そして、宙域に居る地球連合軍、オーブ、ZAFTの全艦隊へ。
その報告は急ぎ伝えられた。
『ユニウスセブンが安定軌道を外れ、地球へと接近中である』という報告が。
その報告を受けたラクス・クラインは急ぎZAFT全軍へと戦闘行為の停止を申し入れ、カガリ・ユラ・アスハもまた自軍と地球連合軍へと戦闘を止める様に呼びかける。
だが……。
「戦いを止めて下さい! 地球へとユニウスセブンが向かっており、このままでは地球は壊滅的な被害を受け、滅ぶ可能性があります!」
「オーブ全軍! 地球連合軍! 撃ち合っている場合ではないぞ!」
「だ、駄目です! ZAFT軍、戦闘を中止しません!」
「なにぃ!? 連中め! 戦っている場合じゃないという事が分からないのか!?」
『もしくは、地球など滅んでも良いと考えているのかもしれませんね』
「くっ!」
『そちらに何か手はありますか? 代表サン。ユニウスセブンを破壊する方法は』
「……あるには、ある」
『ほぅ』
「だが、それには私が地球まで行く必要がある。ここに居てはどうにもならん!」
『であれば。急ぎ地球へ。地球の敵となった者達はこちらで処理しますので。こちらも月艦隊に核ミサイルを配備させ、向かわせますので、後は上手くやって下さい』
「核ミサイルだと!?」
『この期に及んで、平和だ共存だと言っている状況では無いでしょう。連中はこちらを滅ぼすつもりなんだ。滅ぼされる前に、滅ぼさなくてはね。これは向こうが選んだ結末ですよ。やはりプラントは全て落とすべきだ、という事です。それで世界は平和になりますよ。今度こそね』
「コーディネーター全てが悪では無いんだぞ!」
『えぇ。分かっていますよ。ですから、地上に残ったコーディネーターには何もしませんとも。滅ぼすのはあくまでプラントだ』
「アズラエル!」
『ここで言い合っていてもどうにもならないでしょう? さ。早く行って、地球を守ってくださいよ。キラとセナのお姉サン』
カガリは突如として齎された、地球とプラントの危機に顔をしかめる。
だが、そんなカガリの手を取って、ラクスは強い瞳でモニターに映る苛立ちを隠さぬままプラントへと悪意を向けている男を見やった。
「アズラエル様。今、プラントに居るのは戦わないという選択をしたコーディネーターと彼らの親類であるナチュラルです」
『それがどうしました? 今、戦っていないからと言って、これからも戦わないという保証は無いでしょう? 現に、今、こうして地球を滅ぼそうとしている連中が居るのだから』
「だとしても、討つべきでは無い者に、その憎しみを向ければ、それはまた果てない争いと憎しみを呼ぶでしょう。そしてその憎しみは再び地球へと向かいますわ」
『プラントを全て滅ぼせば、争いは消える』
「消えません。プラントを消したとしても。争いは終わらない。それはアズラエル様も良く分かっているでしょう? 地球に存在する火種はコーディネーターとナチュラルの問題だけでは無いのですから」
『……ならば、どうするつもりかな。君は』
「
『世界平和監視機構?』
「えぇ。武力を持った独立武装組織が、戦闘行為に介入し、制圧するのです。この機構がプラントも監視すれば何も問題は無いでしょう?」
『その組織が暴走しないという保証は?』
「ありませんわ。部隊の隊長にはキラを置きますから」
『っ!』
「キラも了承して下さいました。そして、総裁には
『それには僕も参加出来るんだろうね?』
「無論ですわ。そして、その意思決定の中で、もはやコーディネーターは争いを生み出す為の存在でしかないと判断されたなら、
「お、おい……ラクス。そんな事言って、大丈夫なのか?」
「えぇ。問題はありません。そうならない様に、
笑顔のまま、プラントを滅ぼす選択肢もあると語るラクスにアズラエルはしばし考えていた様だったが、ため息を吐いて、「分かった」と呟いた。
『まったく。平和の歌姫だと聞いていたが、とんだタヌキの様だね。君は』
「あら。褒めていただき、ありがとうございます」
「え? どういう事だ?」
『つまりは、こういう事さ。カガリ・ユラ・アスハ。そこの歌姫が言う。世界平和監視機構とやらは既に水面下で動いており、もし、僕らがプラントを攻撃するという洗濯をした場合、こちらに攻撃を仕掛けて来るというワケだ。知らなければ、どうとでもなったが、聞いた以上は、知らなかったと言うコトも難しい。この会話を記録されている可能性は高いしね。キラが部隊を率いている以上、その行動の正当性を訴えるのは容易い。そうなれば、最悪僕らが自分たちの武力を失うばかりか、コーディネーター共が支配する世界が来てもおかしくはない』
「察しが良くて助かりますわ」
『チッ。良いだろう。どのみち、メサイアのジェネシスを破壊する必要はあるし。今はまだ、プラントを残しておいてやる』
「ありがとうございます。では、
ラクスは最後まで不機嫌な顔をして、通信を切ったアズラエルに頭を下げてから再びカガリに向き直った。
そして、驚くような言葉を向ける。
「ではカガリさん。急ぎ、ミネルバへと通信を」
「は? ミネルバ?」
「えぇ。ここから地球へと向かうのであれば、ミネルバが一番早いですから」
「いや、それは確かにそうだがな」
「大丈夫ですわ。グラディス艦長は、この様な作戦を良しとする方ではございません。必ずや力となって下さる筈です」
自信に満ちたラクスの言葉に、カガリは仕方ないなと頷いて、ミネルバへと急ぎ連絡を取った。
そして、ラクスの言った通りにミネルバはラクス達の力になってくれると言ったのだが。
『えぇ!? 艦長を私に!?』
「申し訳ございません。マリューさん。でも、貴女になら任せられる」
『いやいやいや! 私、ミネルバの事、何も知りませんよ!?』
「あら。以前オーブのドックで確認はされたでしょう? 問題はありませんわ。分からない事はアーサーへ」
『え、えぇ……?』
「そうか! では頼む。ラミアス艦長。我々は急いでいるのだ」
「お願いしますわね。マリューさん」
『ぐ、ぐぅ……! お二人に言われては……。分かりました! 分かりましたよ! すぐにそっちへ乗艦しますから! ミネルバ搭載モビルスーツ、全機帰投させておいて下さい!』
クサナギと共にミネルバに接近したガーティ・ルーから作戦を聞く為に通信を繋げていたマリューはとんでもない提案を投げられてしまい、ため息を吐きながら艦長の座をイアンに戻し、急いでミネルバへと移る準備を始めた。
そして、マリューの指示通り、ミネルバは急ぎ出撃していたモビルスーツ全機とレジェンド、ガンダムをミネルバへと戻し、レジェンドの簡易的な補修作業を始める。
そんな彼らに後の事を任せながらタリアは己が為さねばならない事のために、メサイアへと向かうのだった。
既に、メサイアの周辺に展開していたインパルス部隊は全て撃墜されており、ミネルバからメサイアへ向かう際に障害となる物は存在しない。
故に、タリアはミネルバから小型の脱出艇でメサイアへと真っすぐに向かい、多くの兵士が行き交う中を指令室へ向けて、誰にも邪魔される事なく駆けるのだった。
そして。
メサイアの奥にたどり着いたタリアは、戦闘が続いているというのに、奇妙な程静かな指令室で視線をあちらこちらへと向けながら足を踏み入れた。
「やぁ。タリア。最後に君と話がしたいと思っていたが……。まさか君から来てくれるとは思わなかったよ」
「ギルバート……!」
タリアは無人だと思っていた指令室の奥からよく聞きなれた声が届いた事で急ぎ持っていた銃をそちらへ向けた。
指令室の中央に置かれた椅子に足を組みながら座っている一人の男……ギルバート・デュランダルへと。
「どうしたんだい? タリア。そんなに怖い顔をして」
「それはこっちのセリフよ! こんな事を起こして! どういうつもりなの!?」
「どういうと問われても困ってしまうな。私はあくまで世界平和の為に行動しているだけだからね」
「何が! 世界平和! あのユニウスセブンは! 貴方が仕掛けた物なんでしょう!?」
「私ではないよ。仕掛けたのは旧ザラ派の面々さ。彼らは死に場所を探していてね。私はその場所を提供しただけだ」
「あなたという人は!」
この期に及んでも、自分は関係ないという様な態度で言葉を紡ぐデュランダルに、タリアの指は強く引き金にかけられた。
撃つ。
その為にここへ来たのだと、意志を強く持ちながら。
だが、デュランダルは銃口を向けられているというのに、変わらぬ笑みを浮かべたままだ。
「そう怒らないでくれ。タリア。どのみち、作戦は失敗し、ユニウスセブンが地上に落ちる事はない。ならば、焦る様な事では無いだろう?」
「何ですって……!? 何か、兵器でも隠しているというの!?」
「まさか。その様な物はない。あるのは、セナとホープ。そしてデミスシルエットだけだ」
デュランダルは笑みを浮かべたまま地球の映像を映し、タリアも背後の大型モニターに映った映像を見る。
そこには、虹色の光に包まれたまま、ゆっくりとユニウスセブンへと向かってゆく大きな機体が映し出されていた。
「サイコフレーム。かつてコロニーメンデルに落ちて来た遺物に載せられたその物質は、我々の世界に大きな変化をもたらした。その一つがセナであり、その一つがホープである」
「プラントの技術者たちは、誰にも動かせなかったホープがセナにだけ動かせたと言っていたが。それは違う。元より、この世界の人間がアレを動かす事は出来ないのだ。だからこそ『我々』は、ホープを動かす為に、『セナ』を作ったのだからね」
小さく笑みを浮かべながら『始まりの日』の話をしているデュランダルの声を聞きつつ、タリアは映像の中で起きている『奇跡』に目を見開いた。
ホープが腕を振るった瞬間、ユニウスセブンの動きが完全に止まり、ゆっくりと後退してゆく光景を。
「まさか……! あれだけの質量の物体を」
「かつてコロニーメンデルに落ちて来た者から聞いた話では、地球へ向かって落ちてゆく『小惑星アクシズ』をサイコフレームの力によって遠ざける事が出来たらしいからね。ユニウスセブンでも問題は無いという事だろう。繰り返された奇跡という奴だ」
「では、これはセナが?」
「起こしている奇跡。という事だね」
「そうなのね……」
何処か安堵した様な顔で微笑みを浮かべようとしたタリアであったが、続くデュランダルの言葉に再び顔をしかめる。
「だが、奇跡には代償がある。おそらく、セナはこの戦いの後、命を落とすだろう。いや、もしくはもう落としている。という可能性があるね」
「なんですって……!?」
「万能の力はない。という事さ。当然の事だろう? 大きな力を求めれば、それ相応の代償が存在する。この奇跡はセナの命を燃やす事で起こされている」
「どういうつもり!? ギルバート! 貴方は、セナと共にデスティニープランを実行するつもりだったんでしょう!?」
「あぁ。だが、私の計画には初めから彼女の排除が組み込まれていた。これは全て予定通りなんだよ。タリア」
「予定通り、ですって!? あの子を犠牲にする事が!?」
「そうだ。そうでなければ、この世界に平和は訪れない。あの少女がいる限り、本当の意味で安寧の時は訪れないだろう」
ハッキリと確信をもって語るデュランダルにタリアは意味が分からないと再び銃口を向けた。
もはや狂っているのなら、この手で終わりにしようと考えて。
「タリア。君はこの世界が、何度も繰り返された物である事を知っているかい?」
「ジェネシスが地球に撃たれ、核ミサイルによってプラントが滅んだ世界もあったし、自由を掴んだキラ達が愚かな大衆によって踏みにじられた世界もあった。ニュートロンジャマーキャンセラーではなく核ミサイルで報復をした世界もあったし。逆に血のバレンタインでプラントの半数が破壊された世界もあった」
「だが、無数に存在する可能性の世界にも不思議と共通している事がいくつかあった。それは、この世界では何度も何度も争いが起き続けている事。そして、急速にやせ細った世界を救うために、一人の救世主が現れるという事だ」
「……救世主?」
「そう。それこそが、『セナ』という少女だ」
「っ!」
「彼女は、世界が滅びる直前になると歴史の中に現れ、デスティニープランを用いて世界を安定させていった。ちょうど、今の彼女の様にね」
「なら……あの子が救世主だと言うのなら、何故あなたは彼女を排除しようとしているの?」
「安定させた世界を、彼女自身が滅ぼすからだ」
「セナ、が?」
「あぁ。幾度世界を繰り返しても、彼女はやはり、最後には人類を滅ぼした。アウラはセナを導く存在が必要と考え、セナの中に、クリスタという人格を与え、セナが人類を滅ぼすのではなく、支配する様な存在にしようとしたが、彼女がプラントへレクイエムを撃った以上、もはや一刻の猶予もない。ここで消さなければ、人類は彼女の手で滅ぼされてしまう」
だから、サイコフレームの力を使わせたのだとデュランダルは続けた。
だが、デュランダルの話を聞いても何一つとして納得できるものはなかった。
「ギルバート。貴方が言っている事が全て本当だとして、でも、おかしいじゃない。セナが世界を滅ぼす様な存在だというのなら、どうしてセナが自分の命を捨ててまで地球を救おうとするの!」
「それは……」
痛いところを突かれたという様な顔で、デュランダルは言い淀む。
その姿は先ほどまで流暢に話をしていたデュランダルからは考えられない物で。
タリアは何を隠しているのかと再度強く問い詰めた。
そして、帰って来た言葉は……おそらく、もはやどうにもならない物であった。
「彼女は、善良だからだ。そして、純粋だから、だ」
「……ギルバート?」
「だが、私達が間違えたのだ。それだけは間違いない」
「どういう事なの……?」
「あの時、サイコフレームの光により未来を視た私達は、彼女を悪と断定した。決めつけた。その選択が彼女をここまで連れてきてしまったと言えるだろう。全ては私達の責任だ。故に。私は全ての罪を償うつもりだ。キラに殺されるとしても……それは仕方のない事だろう。もしくは、今ここで君に撃たれるとしても……かな」
デュランダルはまるで神に祈るかの様に天を仰ぎ、呟いた。
「全ては私達が犯した……罪なのだ」