ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第24話『貴方が真剣に戦っている姿はとても素敵でしたよ』

 少年には幼い頃からの夢があった。

 それは父から幼い頃に贈られたチェスで世界一になる事であった。

 子供らしい可愛らしい夢だ。

 

 しかし、少年の運命はその様な小さな夢を置き去りにして、政治の世界へと足を進めさせた。

 

「いつまでこの様な物で遊んでいるつもりだ!」

 

 それは、少年を引き取った養父が少年の『趣味』を見つける度に、投げつけてきた言葉であり。

 同時に、少年に与えられた役目を強く認識させる為の物であった。

 

「我らはオーブに生きる氏族。そしてお前はセイラン家に引き取られた男。この様な物で遊んでいる暇があるのなら、少しは国の事を勉強しろ。お前の父はお前が立派な氏族になる事を最期の瞬間まで願っていたのだぞ」

「……はい」

「もう良い。今日は重要な客人が来る。お前は外に出ていなさい」

 

 少年を外へ追い出した男は、目を覆う色素の薄い茶色のバイザーを外し、軽くタオルで拭くと小さく息を吐きながら客人を迎える準備を始めた。

 約束の時間まではまだ余裕があるが、失礼のないようにしなくてはいけない相手である。

 彼の理想とする未来の為には、気の抜けない重大なイベントである。

 出来る事は全てやっておきたかった。

 

 そんな男の考えは知らず、少年は家を追い出された後、目尻に涙を浮かべながら戦略ゲームのボード型端末を抱えてセイラン家から少し離れた海岸沿いの堤防に来ていた。

 セイラン家所有の砂浜が見える堤防は、少年が一人になりたい時に来る場所であり、座り込んで海を眺めていても、誰にも文句を言われない場所であった。

 

「……はぁ」

「どうかしたんですか?」

「どうって、いつも奴さ。父上は僕の趣味が気に入らないからね。所詮僕は、父上の操り人形……って、うわっ!? 誰!?」

「あ、初めましてー。私、キラって言います。この子はセナ」

「はじめまして」

 

 突如として現れた二人の美少女に、少年は心臓がバクバクと激しい事で鳴り響くのを感じながら、たどたどしい口調で「はじめまして」と返した。

 そんな挙動不審な少年にもキラは笑顔を崩さず言葉を続ける。

 

「ここで何をしているんですか?」

「別に、何だっていいだろ」

「まぁ、それはそうですね」

 

 キラは少年の言葉に頷きながら車イスに乗ったセナを抱きかかえて、少年と同じ堤防の上に座らせる。

 痛くない様に、クッションを置いておく事も忘れない。

 そして、セナが座れた事を確認してから、キラもセナの隣に座って微笑んだ。

 そんな二人の様子を見ながら、少年はジッとキラを見つめて呟く。

 

「君たちこそ、ここで何をしているんだよ」

「いやー。実は思っていたよりも早く着いちゃって。時間つぶしをしてるんですよね。ほら、待ち合わせも早過ぎたら迷惑でしょう?」

「時間潰しをするのなら、別の場所でやりなよ。ここには僕が居るんだからさ」

「まぁまぁ、そう言わずに。良いじゃないですか。お話をするくらい」

「……フン。話したいなら姉妹で勝手に話せばいいさ。僕には関係ないね」

「あ! それって、『超戦略 西暦版』ですよね! 好きなんですか?」

「っ!」

 

 キラは少年が持っていたゲームに目を付けて、ニコニコと話しかける。

 その眩しい笑顔に、少年は黙り続けている事も出来ず、ポツリと呟いた。

 

「……好きだよ」

「そうなんですね! じゃあ、勝負しませんか!? 私、結構強いんですよ。ラウ兄さんにだっていつも勝ってましたし」

「フン。誰だよラウ兄さんって。僕は君となんか戦いたくないね。今はそういう気分じゃないんだ」

「あら。逃げるんですか? まぁ、自信が無いのなら仕方ないですけどね」

「……良い度胸じゃないか。ボコボコにされて泣くんじゃないぞ!」

 

 キラの安い挑発に少年は容易く乗り、ボードをキラと少年の間に広げてゲームを始めた。

 キラと少年は、互いにコントローラーを握りながら、自分だけが見える画面で操作を続ける。

 

「ふふ。戦場は濃霧ですか。ですが、問題ないですよ。こういう時は、この辺りに敵が……あれ?」

「お姉ちゃん。ちゃんと索敵しないと駄目ですよ」

「フン。行動が丸見えじゃないか。そら、一艦撃破だ」

「えぇー!? なんでー!?」

「行動が単調過ぎる。焦って艦隊を広げているな? なら、こうだ」

「わ、わわ」

「あぁーお姉ちゃん。艦隊がバラバラに動いてますよ」

「ま、待って! 今整えるから! お姉ちゃんの最強艦隊が負けるワケ無いんだ」

「させるか! これで艦隊を分断。各個撃破だ」

「あぁー!?」

 

 キラは少年の猛攻に叫び声をあげ、それからさほど時間をかけずに、キラの最強艦隊は全滅した。

 そしてキラは、セナにお姉ちゃんの仇を取って! と頼んで交代するのだった。

 

 セナはキラとは違い、相手の情報が分からない状態から、丁寧に索敵をして、艦隊を上手く動かして、盤面をゆっくりと支配してゆく。

 奇策は打たないが、堅実なプレイに少年は先ほどよりも歯ごたえがあるな、と笑みを浮かべながら戦っていくのだった。

 

 

「いやー。まさかセナまで負けちゃうなんて。強いんですねぇ」

「はい! ビックリしました」

「まぁね。これでも世界大会で十位になった事もあるんだよ?」

「それは凄い!」

「世界で十位ですか! 天才!」

「フフン。まぁね」

 

 少年はキラの言葉に得意げな顔をしていたが、先ほど父と話していた事を思い出し、また気分が沈んでゆくのを感じた。

 こうして好きな事を話しているのは楽しいが、やはりそれを否定されるというのは酷く悲しい事なのだ。

 

「でも、こんな事ばかり得意でも意味なんか無いんだよ」

「そうなんですか?」

「あぁ、そうさ! 僕の人生で、こんなモノ。何一つ役に立たない! 求められていない! 無意味な物だ! 捨てなきゃいけない! 要らないモノなんだよ!」

「そうでしょうか」

 

 少年の叫びに、セナは穏やかな微笑みを浮かべたまま言葉を紡いだ。

 少年の言葉を否定しつつ、少年の中にある確かな願いに触れながら想いを奏でる。

 

「私は人生で必要がない物など無いと思っています。どの様な物でも、その人にとっては大切な物です。それがゲームであっても変わりません」

「……そんなの、ただの理想論だ」

「理想論で良いじゃないですか。この国、オーブは誰とも争わない世界。平和な世界を作るという理想を叶えようと日々努力しています。理想はきっと夢に繋がっているんです」

「……ゆめ」

「貴方の理想はなんですか? その理想を叶える為に、何をするべきか。それが一番大事なのだと思います」

「僕は……」

「何を選ぶのか。それは貴方が選ぶ事です。ですが、貴方が真剣に戦っている姿はとても素敵でしたよ」

 

 セナは少年に言葉を託し、微笑んだ。

 選ぶのはセナではない。少年だ。

 キラも、セナの言葉を受け止めて悩みながら拳を握りしめる少年に多くを語る必要は無さそうだと判断して、セナを抱きかかえた。

 

「っ! 何処へ」

「そろそろ良い時間なので。私たちは行きますね」

 

 キラはセナを抱き上げて、服を軽く払ってから車イスに乗せた。

 そして、クッションなどを回収し、そのままゆっくりと少年を置き去りにして去っていくのだった。

 

 少年はそんな二人の姿に、与えられた言葉に、自分がなすべき事を考えて、自宅へと戻った。

 自分はどんな理想を夢に描いているのか。

 その夢を叶える為に、何をするべきなのか。

 

 そして、少年は家に戻って、考えながら廊下を歩いていたのだが、侍女たちから客人が来ているという話を聞き、父の言葉を思い出していた。

 普通なら、忘れる事は無いだろう。

 しかし、少女たちとの出会いで少年の頭はいっぱいになり、父の言葉を忘れていたのだ。

 

 後で父に叱られるかもしれないが、なるべく叱られない様に部屋で静かにしていようと少年は自室へと向かおうとした。

 だが、客間から聞こえてきた声に、少年は足を止める。

 

「だからこそ、私は貴方の手を借りたいのです。戦争を止める為に!」

「戦争、ですか。私には遠い世界の話に聞こえますが」

 

 片方はいつも聞いている父の声だ。

 そして、父に向って語り掛けている人の声は……先ほど聞いた声だった。

 

「プラントでは反理事国の活動が強まっています。そして理事国も、またブルーコスモス等のテロリストたちも、活動が活発になっています。もはや戦争は遠い世界の話ではありません」

「もし、そうなのだとしても、オーブは中立だ。争いには巻き込まれませんよ。姫様」

「戦争が激化すれば、オーブとて無関係ではいられません」

「そうなれば、そこで敵と味方を見極めて、勝ち馬に乗れば良いだけの話ではないですか」

「では問いましょう。ウナト・エマ・セイラン。貴方は理事国とプラント。どちらに味方をするべきだと思いますか?」

「それは……先ほども言いましたが。情勢を見極めて」

「プラントに味方すれば、コーディネーター達はナチュラルに憎悪を向けるでしょう。私の母の様に。貴方や、貴方の妻が殺されるかもしれない」

「っ! それは……」

「理事国に味方すれば、私や妹のセナ。オーブに住まう多くのコーディネーターの民が殺されるかもしれない。それでも構わないと、貴方はそう仰るのですか?」

「それは大げさです。姫様。それに極論だ。まだその様な状況ではありません」

「えぇ、そうでしょうね。今は」

「……」

「貴方も分かっているのでしょう? このまま進めば、世界がどうなってしまうのか」

「……確かに。情勢は最悪です。しかし、ムルタ・アズラエル氏と会談したい等と……コーディネーターの貴女には自殺行為ですよ? 殺されに行くような物だ。それに彼と繋がれば、そこをプラントに突かれるかもしれない」

「確かにそうかもしれません。ですが、私がもし死したとしても、オーブにはカガリや多くの優秀な者たちが残ります。何も問題はない。そして、もし、プラントが私とムルタ・アズラエル氏の関係を指摘したのなら、その時、私の独断だと切り捨てれば良い話です。オーブから私を追放すれば良い」

 

 その投げやりな言葉に、少年はカっと胸の奥が熱くなる様な感覚があった。

 それは怒りか、悲しみか。

 分からない。

 だが、キラの言葉を肯定出来ない強い想いがあった。

 

 故に、少年は自らの意思で一歩を踏み出す決断をする。

 

「お話中失礼!」

「っ! なんだ!? ユウナ!お客様と話をしている最中だぞ!」

「貴方は……」

 

 驚くキラやセナ、父の視線を受けながら少年ユウナは、ほんの少し前に貰ったばかりの小さな火を胸に抱いて、叫ぶ。

 自分を閉じ込めていた世界を変えたいという願いと、自分の夢を素敵だと言ってくれた少女の為に。

 

「僕はユウナ・ロマ・セイラン! 話の仔細は分かりません! ですが、キラが、どこかへ行く事で、オーブの平和が保たれるという話は理解しました! ならば! このユウナが! キラとセナを守り、その場所へ共にゆきます!」

「何を言っているんだ。ユウナ! お前には!」

「役目がある! そう仰りたいのでしょう!? 分かりますとも! だからこそ! 私は貴方の跡を継ぐセイラン家の男として! 彼女の理想を守るべきだと判断したのです! 彼女がオーブの理念を守る為に行動するのなら、私は彼女を支える男として! 彼女を守る義務がある!」

「ユウナ……お前」

 

 ユウナの父、ウナトは燃え滾る様なユウナの強い瞳を正面から受けて、言葉もなくそのままソファーに深く沈み込んだ。

 そして、キラとセナもまた、先ほど見た悲しみを背負った少年の、あまりにも違い過ぎる姿に、呆然と見つめてしまうのだった。

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