第245話『僕と一緒に、セナを探しに行こうか』
戦いは終わった。
それを望もうと、望まざると、地球圏における戦いは終わったのである。
ギルバート・デュランダルは議長の座を退いて、その後任にはワルター・ド・ラメントが就任した。
彼はザラ派にもクライン派にもよらず、中立な立場に立つ人間であり、その手腕には期待が寄せられている。
ユニウスセブンを落とそうとしたザラ派の人間も、デュランダルと共にメサイアを守って戦っていたZAFT兵にもコレといった裁きは下らなかったが、それは情勢の問題ではなくプラントの人手不足が原因だ。
そして、それに意を唱えようとすれば、地球連合軍がジブリールと共に私欲の戦争をしていた事実を突かれかねない為、互いに何も言わず穏便に事を済ませた形である。
そして、地球連合軍も戦争が終わってからは、解体され、ムルタ・アズラエルを中心とした大西洋連邦と、ユーラシア連邦を中心とした部隊に再編され、世界は再びバラバラとなってしまう。
だが、そんな世界をまとめるべく立ち上がったのがオーブ連合首長国であり、『世界平和監視機構コンパス』であった。
コンパスとは大量破壊兵器や、戦争を始める組織、国家に対して、武力による介入を行い、世界を平和に導く為の組織である。
総裁にプラントの歌姫。平和の使者であるラクス・クラインを置き、ラクス・クラインと同等の位置、武装部隊の隊長としてキラ・ユラ・アスハが立った。
コンパスの設立に対して、オーブによる世界征服だという反対意見も出たが、コンパス設立を発表したラクス・クラインに対して大西洋連邦の代表として立っていたムルタ・アズラエルが設立を承認。
そして、同時期にプラント最高評議会のラメントもまた、同機関を支持、ムルタ・アズラエルと共に組織への出資と、議会への参加を申し入れた事で、世界は大いに揺れた。
結局大きな流れには流されるのが常道と、世界の国家は少しずつであるがコンパスを支持し、その武力にあやかろうと議会への参加を申し入れた。
これにより、疑似的な国際連合の復活が起こり、世界は少しずつ武力による争いから、話し合いによる解決へと移行しつつあるのだった。
そして。
静寂を取り戻した世界の片隅で、キラは砂浜に立ちながら隣に座る小さな少女に語り掛けていた。
果たせなかった約束と、これからの未来を語り合う為に。
「クリスタ」
「……」
「やっぱり、怒ってるよね?」
「当然だ。私は……助けを求めたのに、お前は私の手を振り払った。お前が、私達の姉だと! 言うから!! 信じたのに!! セナは、消えてしまった!」
「……うん」
「私は、セナさえいれば、それで……良かったのに!」
泣きじゃくり、喚き散らすクリスタをキラは静かに見つめる。
あの時、地球軌道上での戦いで、キラはセナを止めようとしていた。
世界の人柱となって、デスティニープランによる平和など認める事が出来なかったから。
セナさえ止めれば世界は平和となり、全てが戻ってくると思っていたが……違ったのだ。
ホープもデミスシルエットも、その力を使い過ぎれば命が削られる。
それは肉体的な物ではなく、精神的な物である。
そして、全ての戦いが終わり、クリスタが目覚めた時、聞かされたのは最悪の言葉だった。
『セナが、消えた。サイコフレームの使い過ぎで』
こうならない為に戦っていたというのに。
こんな事にならない様に、セナを止めようとしたのに。
結局セナは、いつもキラの手をするりと抜けて、何処かへ消えてしまうのだ。
それがキラには酷く悔しい事であった。
だから、ギュッと血が零れ落ちそうな程に手を握りしめる。
「許せないよね。クリスタ」
「っ!」
「僕を、殺す? それも良いけどね」
「~~!」
キラが呟いた言葉に、クリスタは悔しさを噛みしめた顔のまま激しく首を横に振った。
それを見て、キラが喜びを感じる事はない。
ただ、優しい子だものな。と思うだけだ。
「なら……さ。クリスタ」
「……なんだ」
泣きすぎて、歪んだ声で、クリスタはキラに言葉を返す。
瞳には沢山の涙をためて、ジッとキラを睨みつけていた。
そんなクリスタに、キラはなるべく柔らかさを保ちながら声を掛けた。
「僕と一緒に、セナを探しに行こうか」
「……セナを、探す?」
「そう。うん。そうだ」
キラはクリスタに向けていた目線を外し、暗い夜空に浮かぶ満点の星々を見上げながら言葉を続けた。
「セナは確かに消えてしまったかもしれない。でも、死んでしまった訳じゃないと思うんだ。クリスタを一人おいて、そのまま消えちゃうとも思えないしね」
「……キラ」
「だからさ。きっとセナは世界のどこかに居ると思うんだよ。あの子はきっと、今もどこかで誰かを助けてる」
「あぁ……」
「ヴェーダにアクセスしてさ。奇妙な動きも見つけたんだ。武器を密輸しようとした人たちの情報が、世界中に公開されたり、戦争を始めようとデストロイを仕入れた人たちの情報がコンパスに流れてきたりね。誰がやったかは分からないけど、僕もメイリンも犯人を知る事は出来なかった。でも、僕らから簡単に逃げられる人なんて、限られてるでしょう?」
「セナ、か」
「うん。だからさ。僕はあの子を探しに行こうと思うんだ。クリスタ。君と一緒に」
「……だが、お前は、コンパスで隊長をやるのだろう?」
「あー。まぁ、そうだね。けど、まぁ、頼りになる弟もいるし。力になってくれる幼馴染もいるし。向こうは名前だけ置いておいて、後は任せちゃおうと思ってね」
「そんな事、出来る訳がない」
「なんで……! 最初から諦めちゃうかなぁ!」
「きゃっ」
キラは座り込んでいたクリスタの手を握り、クリスタが痛くならない様にと気を付けながら立ち上がらせた。
そして、立ち上がったクリスタの細い腰に手を当てて、片手を握ったまま器用にも砂の上で踊り始める。
「希望はまだ消えちゃいない。未来はまだそこに残っている。僕が言えた事でも無いだろうけどさ。諦めないで。クリスタ」
「……キラ」
「大丈夫。僕らならやれるさ。世界の果てだって。きっとセナを見つけて見せる。そうでしょ?」
「ふっ、お前は……本当に」
クリスタは微笑むキラに、涙を流しながら苦笑した。
どこまでも諦めの悪い姉だと、声を漏らしながら。
だが、クリスタは困った様な笑顔のまま、キラに一つだけ忠告をする。
「私が、お前と共に行くのは良い。だが、一つ、頼まれごとがある」
「頼まれごと?」
「そうだ。プラントよりもずっと向こう。暗い宇宙の向こう側に、嫌な気配がある」
「嫌な、気配か」
「あぁ。まだ、その時では無いだろうが、何かがあってからじゃ遅い。誰か派遣しておけ」
「……うん。分かったよ」
「なら、良い」
安堵した様子のクリスタに、キラは全身が震えるほどの喜びを感じてクリスタを勢いよく抱きしめた。
その遠慮のない坑道に、クリスタはキラの体を叩きながら、文句を言うが、キラは気にしない。
「ありがとう! クリスタ! 世界の、人の事を想ってくれるんだね!」
「バカを言うな! セナが戻ってきた時、世界が戦争状態だったら、セナが悲しむだろうなと思っただけだ! それだけだ!」
「うんうん。それで良いよ。それで良いんだ」
涙声で何度も喜びの声を上げるキラに、クリスタは小さくため息を吐きながら星空を見上げた。
小さな体で、キラに抱き上げられたまま、セナは静かに星空へと想いを向ける。
「キラ。いつかお前には話そうと思う。今はまだ、出来ないが……いつか」
「……? なぁに?」
「私には……いや、私達には夢があったんだ。大きくて、とても遠い夢がな」
「うん」
キラはクリスタの話に静かに耳を傾けて。話し疲れたのか寝てしまったクリスタを抱き上げて、額に口付けを落とす。
そして、砂浜から歩き出すと、アカツキ島の地下にある格納庫へ向けて歩き出そうとした……のだが。
「行ってしまうのですね。キラ」
「あぁ、ラクス。見つかっちゃったね。ごめん」
「いえ。こうなるだろう、とは思っていました」
「アコードの力?」
「いいえ。これは愛の力ですわ」
「そっか。それは確かに。何でも出来そうだね」
「えぇ」
ラクスは昔よりもだいぶ大人びた表情でキラをジッと見つめる。
微笑みを浮かべてはいるが、その顔にはどこか寂しさが映し出されていた。
「
「それは出来ないよ。君まで居なくなったら、きっとカガリもアスランも困っちゃう」
「……
「そんな事言っちゃ駄目だよ。シーゲルさんは、ラクスを愛していたんだから」
「それは分かっていますが、もし、私がラクス・クラインでなければ、キラと共に行けたでしょう?」
「通信は毎日するよ」
「それでも触れ合う事は出来ません」
「じゃあ一ヵ月に一回は会いに来るとか?」
「それでは寒すぎて、泣いてしまいますわ」
「さみしがりのウサギさんみたいだね」
「耳を付けて、ぴょんぴょんと跳ねれば、キラは
冗談の様に両手を頭の上に乗せてウサギのポーズをするラクスに、キラはやや困ったような顔で笑う。
だが、冗談として流してもいけない為、キラは真剣な眼差しでクリスタを抱えたままラクスを見つめた。
「セナを見つけたら、結婚しよう。ラクス」
「キラ……!」
ラクスは感涙極まって、キラに抱き着こうとしたが、クリスタが居る事を思い出し、ギリギリまで近づいてからキラの唇を奪った。
そして、イタズラ好きな妖精の様な顔で微笑む。
「あまり長く待たせてしまうと、
「分かってるよ。おばあちゃんになったラクスも、可愛いだろうとは思うけどね。でも、そんなに待たせないから」
「はい!」
キラはラクスに笑顔で別れを告げて、そのまま、自らの愛機へと向かった。
そして、夜闇に紛れてフリーダムを発進させ……そのまま何処かへと消えてしまったのであった。
だが、キラが居なくなっても世界は動き続けている。
コンパスはキラの代わりにアスランを隊長として、動き始め、クリスタから託された話はキラがマリューらに頼む事で、世界は静かに平和の中、動き始めるのだった。