キラとセナが表舞台からほぼ姿を消したとしても、世界は動き続けている。
二人が表舞台から消えた事を知ったムルタ・アズラエルやプラントのワルター・ド・ラメントは、キラが居る事でコンパスを承認したのだが? と小言をラクスに向けたが、キラがフリーダムで移動をしている為、コンパスに異常があれば、すぐにキラが戻ってくるという言葉と。
これまで幼い頃から世界の為にと働き続けて来た二人に、休む為の時間を与えてはくれないか? と頭を下げて真摯に願いを口にするラクスに、ひとまずはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
二人も長い事キラとセナが世界の為にと心を砕いて来た事は知っているし、つい先日は二人が戦う様な事態にさえなってしまったのだ。
今後の事も考えれば、ここで心を休める事も重要だろうと考えたのだろう。
ラクスが考えているよりも素直に、キラとセナの休息は認められた。
しかし、当然と言えば当然の話であるが、キラとセナを独自に捜索し、身の安全を図りつつ、あわよくば自軍に引き入れてしまおうとアズラエルもラメントも考えており、ラクスが考えているよりは多少利己的に彼らは動いていた。
が、だとしてもある程度認められた形で二人は自由となった訳で、セナが消えてしまった事を考えると今更な話ではあるが、ラクスはひとまず安堵する事となったのである。
それから。
公的には、キラはセナと共に極秘任務に就く事となり、コンパスの各部隊へ指示を出す役目にはアスランが就任する事となった。
この決定には……一部を除くほぼ全部隊から反論があったが、キラの決定だと伝えれば、その反論も静かになり、少しずつではあるがアスランも隊長として受け入れられていく事になる。
そして、表舞台が火種だらけの世界の中で、ゆっくりとではあるが、活動を始めた頃。
キラとセナが残した言葉を元に動き出した部隊が一つあった。
それは、オーブ連合首長国の直轄部隊であり、作戦内容はおろか、部隊に参加している人間も全て極秘という部隊である。
「すまないな。マリュー・ラミアス。また貴君に頼る事になる」
「いえ。キラちゃんとセナちゃんのお願いですもの。喜んでお受けしますわ」
「そうか。では、ガーティ・ルーの艦長は引き続き、貴君という事で良いな?」
「え。いや、それは……ネオさんとか、イアンさんとか居ますよね?」
「悪いが、ラミアス艦長。私はモビルスーツに乗る。艦に居るのは平時だけだ。それでは艦長は出来んだろう?」
「自分は副長をやっておりますからなぁ。艦長は是非、ラミアス艦長に」
「いやっ! もう、キラちゃんが乗ってないんだから、イアンさんの方が良いですよね!?」
「いやぁ。しかし。階級で考えれば、ラミアス一佐が艦長となるのは当然かと、自分は二佐ですし」
「ガーティ・ルーの艦長としてはアインさんの方が長いでしょう!?」
「それは確かに。ですから、副長として、お支えいたします!」
キリっとした顔で敬礼をしてくるイアンに、マリューは肩を落としながら深い、深いため息を吐いた。
責任が重い。
ヘリオポリスでモビルスーツの開発をしている頃は良かったと。
遥か遠い過去の事を思い出して涙するのだった。
しかし、そんなマリューの肩を叩きながら軽薄な笑みで話しかけて来る男が一人、
「まぁまぁ。これから外宇宙なんて未知の場所に行くんだ。何かあった時、アドリブがきく艦長の方が良いだろう?」
「はぁ……まったく。いつもそうやって」
「私は君が艦長であるのは賛成だがね。かつて敵対していた時は終ぞ沈められなかった艦の艦長だ。何も不満はあるまい」
「……」
ムウに、クルーゼにと畳みかけられ、マリューは、深い、ふかーいため息を吐いた。
そして、仕方ありませんわね。と頷いて任務を受けるのだった・
どちらにせよ。任務は受けるつもりであったから、艦長という座にさえ納得すれば後は早い。
マリューは必要な要因を選抜し、ガーティ・ルーを母艦として、外宇宙の脅威を探索する為の旅へ出る事にするのだった。
そして、人員を決めていく中でマリューが指名した人物の中で一人に関してカガリが難しい顔をしながら、彼女は無理だなとマリューの要望を却下する。
「バジルール二佐にはコンパスの作戦指揮を任せている。悪いが、無理だ」
「あら。そうでしたか」
「あぁ。本人の強い要望もあってな。『セナ様とキラ様が居ない間、部隊の管理は私が! 徹底的に規律を叩き込みます!』と意気込んでいたよ」
「それはそれは……シン君も苦労しそうですわね」
「そうだな。アスランにバジルールニ佐に、グラディス艦長だ。当分は息苦しい事になるだろうな」
カガリは嫌そうな顔をしながら部隊表を見ていた少年を思い出し苦笑する。
だが、すぐに表情を穏やかな笑みに変えると、ゆるりと口を開いた。
「しかし、多くの者がシンに期待しているのは確かだ。あの地球軌道上での戦いでも、シンの叫びを聞いて、自分を取り戻せた者は多い。アイツが見本となる様な軍人となれば、また何かが変わるかもしれん。人の命を奪うのが軍人ではなく、誰かの命を助けるのが軍人、とな」
「えぇ、そうですわね」
カガリの言葉に同意しながらマリューは微笑みを浮かべ、そしてすぐに敬礼をしてから部隊と任務に関して最終的な合意をカガリとした。
母艦はガーティ・ルー。
艦長はマリュー・ラミアス。
副長はイアン・リー。
総舵手以下、クルーは元アークエンジェルクルーとガーティ・ルーのクルーを配備。
モビルスーツ部隊には、ラウ・ル・クルーゼを隊長として、ネオ・ロアノーク、ムウ・ラ・フラガ。
そして、行き場の無くなっていた元ファントムペインのスウェン・カル・バヤン、シャムス・コーザ、ミューディー・ホルクロフト。
また、外宇宙への調査隊という事で、DSSDよりセレーネ・マクグリフ以下、数名の科学者と、その護衛としてエドモンド・デュクロも同行する予定である。
「DSSDの部隊とは軌道上で合流の予定だ。が、向こうも準備に中々時間がかかっている様でな。急いでいるが、一緒に連れて行くモビルスーツの調整が終わり次第という所らしい。カグツチから来るから、まぁ二日前には連絡出来るだろうさ。それまでは準備を進めつつ休暇を楽しんでくれ。次の仕事は長いからな」
冗談の様に言ったカガリの言葉に、マリューは「そうですわね」と笑いながら敬礼をした。
そして、マリュー達は最終調整も終わりという事で行政府から軍本部へと向かい、カガリは自らの執務室に戻って山積みの書類を前にため息を吐いた。
何処かへ行ってしまった妹たちを恋しく思うように。
「カガリ。入っても良いかい?」
「あぁ。ユウナか。大丈夫だ」
「では、失礼するよ……と、だいぶお疲れの様だね」
「まぁ、な。世界は平和になったというのに、私の執務室はまるで戦場だ」
「僕の部屋も同じさ。まったく。僕らの平和はいつになったら来るのかねぇ」
「休むのなら、休んでも良いんだぞ。別に強要はしちゃいない」
「それはそうなんだろうけどさ。色々ときな臭い話も聞こえてくるからね。急ぎたくなるのも仕方ないだろう?」
「きな臭い?」
カガリは執務室の椅子に座りながら両手を組んで、ユウナに疲れた様な笑みを向けた。
「それはなんだ? プラントや大西洋連邦がキラとセナを探している事か? もしくはレクイエムをコソコソ再建している事か? はたまた、ブルーコスモスにデストロイを含めたモビルスーツ部隊や、武器弾薬が流れていることか?」
「それらも問題だろうけどね。僕が言っているのは『ファウンデーション王国』の事さ」
「あぁ。あの国か。以前もキラを監禁し、問題となったな」
「うん。そのファウンデーション王国なんだけどね。どうやら独自にデスティニープランを実施しているみたいなんだ」
「それは良いんじゃないか? 別に規制などはしていないからな。好きにやれば良い。私達が口出しをする権利は無いだろう」
「確かに」
カガリの反論に、ユウナは肩を竦めながら笑う。
だが、すぐに真剣な顔になると、でもね。と続けた。
「そのファウンデーション王国が、デスティニープランを実施する少し前に、軌道上に残されたホープの一部を回収したという話を聞いてね」
「……なに?」
「無論、ホープ本体は地上に落ちてたし、あくまで彼らが手に入れたのはデミスシルエットの残骸だけ……なんだけど。君はどう思う? カガリ」
「デスティニープランを実施しようとしている国が、デミスシルエットの確保に動いた。か? しかし、オーブもかなり早い段階でアレの確保に動いた筈だ。その上で連中に先を越されたというのか?」
「いや、タイミングはこっちの方が早かったよ。でもね。回収部隊が襲撃を受けたんだ。それで交戦になって、デミスシルエットの残骸は奪われてしまったという所だね」
「交戦し、奪われただと? 戦力は」
「ムラサメ改が三機とムラサメが十二機。クサナギが一隻だね」
「それで敗北したとなると……向こうはかなりの大部隊だな」
「いや」
カガリが目を閉じつつ思考しながら呟いた言葉をユウナは小さく否定する。
「敵は一機だった様だよ」
「……バカな。では何か? 敵は核動力のエース機だったとでも言うつもりか?」
「核動力かは分からないけど……帰って来た者達の言葉では、敵はレーダーに一切映らない謎の機体だった、と言っていてね」
「レーダーに映らない機体」
カガリは、少し前に起こった戦いの中で、キラが報告していた機体について思い出す。
キラも言っていたが、かの機体はあらゆるレーダーに引っかからず、電子機器を通した場合姿も見えなくなると。
確か、その機体の名前は……。
「ガンダム、か」
カガリは呟きながら高速で思考を回し、ユウナの求めている事に対する回答をすぐに導き出した。
「分かった。ではアレックスの奴をファウンデーション王国の調査に向かわせよう」
「アレックスというと、例の、アスラン・ザラのクローンかい?」
「あぁ。今はまだアスランと名乗る事は出来ないとか何とかいって、以前アスランが使っていた偽名を今は使っている」
「なるほど。彼もまた面倒なタイプなんだねぇ」
「そういうワケだ。だが、この手の任務ではアスランが二人いるというのは非常に助かる。奴には内部の情勢を探らせよう。ちょうどテストしたい機体もあったしな」
「例のズゴックかい?」
「あぁ。上手い擬装だろ? 埃をかぶっていた機体を隠すのにもちょうどいい」
「確かにね」
「後は、メイリンを付けるか。どうもガンダムを使っている連中はヴェーダと繋がっている可能性が高いらしいからな。そちらからも探らせるとしよう」
「その辺りの細かい人選は任せるよ。ただ、僕らが思っているよりも時間は無いかもしれない」
「分かっているさ。未だ世界は落ち着いては居ないのだからな。私も急がねばなるまい」
「働きすぎて倒れないでくれよ?」
「ふっ、それはお前に返しておく」
カガリは目元を指で押さえながら、ユウナに言葉を返して、次の問題について話をするのだった。