復帰したので、のんびり書き始めます。
コーディネイターとナチュラル。
二つの種が多くの争いを経て、地球軌道上で行われたデスティニープラン騒動をキッカケとして共に平和へ向けて歩み始めてから約十か月。
月面都市コペルニクスのドックにて、一つの戦艦が遂に完成の時を迎えようとしていた。
大西洋連邦、ZAFT、オーブの三勢力が協力し、先の戦争で多くの危機を救い、人々の希望を集めた艦『ミネルバ』の設計思想を引き継いだスーパーミネルバ級の戦艦『ミレニアム』
多くの知識と、技術を詰め込んだ戦艦は、静かに出航の時を待っていた。
「大尉殿。遂にここまで来ましたね」
「えぇ。ラミアス一佐が居なくなり、どうなる事かと思いましたが……式典には間に合いそうで何よりです」
「しかし……良かったのでしょうか」
「何がですか?」
「この艦の運用にはナチュラルも関わるとか……やはり我々だけで行った方が」
「ふっ」
部下に話しかけられたアルバート・ハインライン大尉はバカを見る様な目で部下を見た後、ふっと鼻を鳴らす。
未だコーディネイターだ、ナチュラルだと語っている事自体が時代遅れであり、その様な思考をしている底辺の存在に彼は部下の能力の低さを嘲る。
「私の知る限り、ラミアス一佐以上の働きをした者は片手で数えられる程ですが。彼女はナチュラルだ」
「た、確かにそれはそうですが……!」
「しかも彼女はあの不沈艦アークエンジェルの艦長であったという話だ。君に彼女以上の働きが出来ると?」
「それは……!」
「出来ないのであれば、コーディネイターだ、ナチュラルだと種だけで語るのは止めた方が良いでしょうね。それこそコーディネイター全てが愚かだと思われる。迷惑だ」
「くっ……」
部下を黙らせてから、そういえばとハインラインはマリューがアスランと銃撃戦の訓練をしていた事を思い出し。彼女は本当にナチュラルなのだろうか?
と疑問を浮かべたが、彼女の周りに居るムウ・ラ・フラガや、ネオ・ロアノークなども相当に人間離れしており、考えるだけ無駄かと思考を止めた。
そもそもの話。
幼い子供ながら、モビルスーツを開発した存在も居るのだ。
種で人を語るなど愚かとしか言いようが無い。
コーディネイターであれば、キラやセナの様に出来るワケでは無いのだから。
「やぁやぁ。アルバート・ハインライン大尉。ミレニアムの状況はどうかな?」
「えぇ。問題はありませんよ。予定通り現在は最終調整を行っています」
「それは重畳。聞いていた通り君は優秀な様だ。ラミアス一佐のいう様に、君を中心に指揮系統を作って良かったよ」
「それはどうも」
ハインラインと同じ金髪の、嫌味ったらしい笑みを浮かべた青年……ムルタ・アズラエルは広いドックの中にある戦艦を前方から後方に向けて確認し、うんうんと頷く。
別にメカニックでも無いだろうに、各国の代表の中で誰よりもこのドックへと足を運ぶその男がハインラインはそこまで嫌いでは無かった。
まぁ、彼が以前はブルーコスモスの盟主であったという事から好意を抱く様な事は無いのだが。
「それで? 本日はどの様な用事で?」
「んー? いやなに。新しい戦艦が、もう完成間近って聞いたら見たいじゃない。希望の象徴って奴が、イマイチだったら困るでしょ」
「設計図や完成予想図は送っていた筈ですが?」
「当然それも見てるけどね。こういうのは実物を見るのも大事だからね。それともコーディネイターってのは無条件に相手の仕事を信じられる物なのかい?」
どこか嫌味を混ぜた様な様子で語るアズラエルに、ハインラインはまたか、と心の中でため息を吐いた。
この男はイチイチ会話の中に嫌味を混ぜないと会話が出来ないのだ。
何かの病気では無かろうかと、ハインラインは自分を棚に上げて、なるべく面倒のない言葉を返す事にした。
しかし、そんなハインラインの言葉を遮る様に一人の男が二人の会話に割り込んでくる。
「何やら。険悪そうな空気ですが、何か問題ですかな?」
「……コノエ大佐か」
「お久しぶりですな。アズラエル理事。今日は視察ですか」
「あぁ。まぁね。コーディネイターの仕事ぶりが心配でさ」
「ハッハッハ。それは仕方がない。これまで我々は敵対しておりましたからな。いきなり味方と言われても、まぁ、信用は難しいでしょう」
アズラエルの嫌味を、ミレニアムの艦長として乗艦するお艇の男アレクセイ・コノエ大佐は笑いながら吹き飛ばした。
そして、微笑みながらアズラエルに一つの提案をする。
「あぁ、そうだ。せっかくですし。艦内を視察されますか? 外から見ているよりも得る物は多いと思いますよ」
「うん。せっかくだし。見せて貰おうかな」
「ではご案内しましょう。いや。ミレニアムの食堂は広くてね。そこも見どころですな!」
「ミレニアムは大型戦艦だからね。確かに食堂が大きくなるのは必然かな」
「えぇ。皆の憩いの場となれば良いかと……」
ハインラインは話しながら遠ざかってゆくコノエに軽く敬礼をし、自らの持ち場へと向かった。
コーディネイターとナチュラル。
大西洋連邦とZAFTとオーブ。
様々な種、様々な勢力の人間が乗艦する予定のミレニアムでは、艦長としての能力もそうだが、人当たりが良い事も選出対象として重要視されており、ミネルバの副長であるアーサー・トラインもまた、是非にというコノエの要望があり、配属する予定である。
どうにも対人関係は苦手なハインラインとしては非常にありがたい配置であり、これにキラやセナが加われば、ミレニアム内部で争いが起きる事は少なくなるだろうと未来を思う。
最も、二人は別の任務で部隊を離れており、合流はまだまだ先との事だが……。
それでも。
いずれは、二人も合流するだろうし。
そうなれば、本格的にミレニアムは世界の平和と自由の象徴として、地球圏で活動をするのだろうとハインラインは未来に想いを馳せるのだった。
ハインラインがミレニアムの最終調整を行い始めた頃。
彼が想いを馳せていたキラとセナはちょうど月面都市コペルニクスにいた。
民間人が多く居る街の中で、小さなサングラスと帽子で顔を隠しながらパソコンを使って情報収集をしている。
「んー。特におかしな事は起こっていないみたいだね」
「……そうか」
そして、キラの言葉に、セナと同じ見た目の少女……クリスタはそっけなく言葉を返しながらストローでジュースを一口、二口と飲むのだった。
今回の件はセナと関係がない件の為、クリスタにはあまりやる気がない。
「でも……ミレニアムに襲撃を仕掛ける意味はよく分からないな」
「新時代の象徴だからな。ムカつくんだろう」
「そんな、それだけの理由で仕掛ける?」
「あぁ。十分にあり得るさ。大層な理由はなくとも、人は容易く誰かを傷つける事が出来る、殺す事が出来る。ここはそんな世界だろ?」
「それは……そうかもしれないけどさ」
「だから、何故、どうして。なんて考えるだけ無駄だ。襲撃を止めるのなら、フリーダムで行けばいい。無視するのなら、ミレニアムに警告してやれば良い。どちらを選ぶのもお前次第だ。キラ」
「ふむ」
クリスタの言葉にキラは腕を組みながら考える。
自分達はどう動くべきか、と。
「介入するのであれば、少々面倒な事になるかもしれんな」
「そうだね。なら……まぁ、ミレニアムのみんなに対処して貰おうか。僕らはイザとなった時に大元を叩く方が良さそうだ」
「そうか……まぁ、そうしたいのなら、そうすれば良い」
「うん」
そうと決まれば、とキラは早速ミレニアムのコノエ艦長にメッセージを送り、出航の際には気を付ける様にと言葉を残しておいた。
無理にキラ達が介入しなくても、コノエ達は強い。
何とでも対応は出来るだろう。という判断だ。
「これで良しと。じゃあ僕らもそろそろ行こうか」
「次はどこへ行くんだ? まったく。お前はセナを探すと言いながら、どうでもいい奴らの事ばかり」
「ごめんごめん。ついでだからさ。色々と一緒に片付けておく方が楽でね。今度はちゃんとセナに関わる所だからさ」
「ハァ……そう言って、どうせまた世界の為に行動するのだろう? お前を信じた私がバカだった……」
「そんなにいじけないでよ。今度は本当だから」
「なら、どこへ行く」
どこかやる気のない目でキラを見据えるクリスタにキラは苦笑しながら、次に向かう場所をクリスタへと告げた。
その場所の名に、期待していなかったクリスタの顔が驚愕に染まる。
「次に行くのは、コロニーメンデルだよ」
「……メンデル、だと?」
「うん。あそこは僕やセナの始まりの場所だからね。サイコフレームの件もあるし。調べるのならあそこが一番かなって」
「キラ……お前、本当に」
「当たり前でしょ。セナは僕の妹で、クリスタも僕の妹なんだから。セナを探すのも、クリスタの願いを叶えるのも、僕にとっては重要な事なんだよ。今回はちょっと世界の火種が強そうだから世界を優先したけど。後はシン君達に任せられるし。これからはセナの事を優先するよ」
「……ありがとう。キラ」
「うん。お姉ちゃんにお任せ。だよ」
キラはクリスタの額に口づけを落として、ジュースを持ちながら椅子を立ったクリスタの手を取り、一緒にコペルニクスの中を歩く。
かつてセナとそうしていた様に。
姉として妹のクリスタの気持ちを感じながら、繋いだ手の熱に微笑みを浮かべるのだった。
「あー。でも、メンデルに行く前に食料とか大量に買って行かないとね。あそこ放置されてるから何もないし。クリスタは何か食べたい物とか、ある?」
「私は……」
「うん」
「その……な?」
「うんうん」
「じつは、その……食べ物とかよく分からなくてな。何が良いか、分からないんだ」
「なら、お姉ちゃんに任せてよ。美味しい料理。いっぱい作るから」
「キラは、料理が作れるのか?」
「まぁ、ね。昔、月面に居た時に、カリダお母さんに色々教えて貰ったんだよ。ま、今もアカツキ島に教わりに行くけどさ」
「そうなのか……お母さん、か」
「ふふ。クリスタも今度会ってみる? 良い人だよ。きっとクリスタが想っている以上にね」
「……いや、何となく分かるさ。セナの中で、セナが楽しんでいた事は感じていた」
「そっか。なら、ハジメマシテでもあんまり緊張しないかな」
「私は、行くとは言ってないぞ」
「でも、会ってみたいでしょ? 何となく、分かるよ」
「……フン。どうだかな」
クリスタは顔を逸らしながら、それでもキラの手をギュッと握って小さな足取りでキラと共に歩く。
未だ平和に満ちた世界を。