コロニーメンデルにて、キラやクリスタ、ラクスに噂されていたアスラン・ザラは、遥か遠い地、地球にて妙な不快感を覚え、空を見上げていた。
何処かで誰かに何かを言われている。
そんな感覚が不意にアスランの中で生まれたのだ。
そして、突如として立ち止まり空を見上げた上司を見て、シンはどこか怪訝そうな顔をアスランに向けた。
「何やってるんっすか? 寝ぼけてるのなら、さっさと起きて欲しいんですけど」
「なんだ。シン。そんな寝ぼけている奴にお前は模擬戦で負けたのか?」
「は!? はぁー!? さっきは油断しただけだっての! 今度やったら負けねぇっすけどね!?」
「戦場で撃墜された時もそんな言い訳を言うつもりか? 油断していただけだ、と。随分と呑気だな」
「そんなんじゃねぇーし! 良いよ! ほら! 今すぐやりましょうよ! 今度こそ俺が勝つから!」
「悪いがそれは後だ。もう時間だからな」
「ぐるるる! がるるる!!」
シンは猛獣の様にアスランを威嚇するが、コンパスが始動してからもはや慣れた光景であった為、呆れた様な顔をしたルナマリアとレイがシンの暴走を止める。
そして、アスランは暴走するシンから意識を外したまま、プラントから直接降りて来た男に敬礼をする。
「お待ちしておりました。ラメント議長」
「あぁ。わざわざ出迎えに君達を寄越してくれるとは、代表も心配性だな」
「いえ。未だ情勢は安定しておりませんから。当然の処置かと」
「ふむ……例のセナ君を信奉するテロリストかね?」
「えぇ……セナはその様な事を望んでいないというのに。厄介な事です」
アスランは柔らかく言葉を紡ぐラメントの隣を歩きながら言葉を交わす。
だが、話をしながらも周囲には意識を常に配っており、その……一人で全てをこなそうとする姿がシン達には酷く気に入らない姿でもあった。
そして。
ラメントがオーブの首都オロファトにある、最も厳重なホテルに入ったのを確認し、アスランはシン達に軍港のミネルバへと帰還する様に命令を出し、自分はそのままホテルの中へラメントと共に入っていった。
おそらくは、これから行われる予定の新造艦推進式について話をするのだろうとシンは予測し、不満を全身で出しながらオーブの街を歩く。
「ハァー。やだやだ」
「どうしたの? シン」
「どうしたもこうしたもないよ。アスランの奴。俺一人で十分だ。みたいな顔してさ」
「事実なのだから仕方がないだろう。人間性はどうあれ、あの男は強い」
「いや、別にシンも人間性がどうのっていうのは言ってないと思うけど」
どれだけ共に居ても、任務をこなしても、アスランへの敵意を剥き出しにしているレイと、対抗意識を前面にだしているシン。
まるで子供の様な二人にアスランはどこまでも冷静で、三人の事情を詳しく知らないルナマリアからすると、どうしてもアスランが大人で、シンとレイが子供に見えてしまっていた。
まぁ、事実その通りという部分もあるのだが。
その辺りがまた状況を複雑にしているのは確かだった。
「まー。あの人優秀だもんね。顔も良いし。キラさんのアレコレが無かったら、私も隊長の肩を持っちゃってたかも」
「あれ。アグネスって隊長みたいな人が好みなの?」
「まぁ、別に悪くは無いんじゃない? どっかの山猿とか、陰険男よりはずっとマシよ。マシ!」
アグネスはケッと不満を口にまで出し始めたシンや、外面だけは保っているがシンと同等かそれ以上の不満を見せているレイを見やる。
そして、ルナマリアもアグネスの視線を追いながら、まぁこの二人よりはマシか。と何となく理性の中で同意する。
感情は……まぁ、また少し違う姿も見せていたが。
「だー! もう! イライラする! レイ! なんか食ってこうぜ! せっかく来たんだしさ!」
「いや命令は真っすぐに帰投でしょ? マズいんじゃないの?」
「別に何も起こりはしないよ。ここ、オーブの首都だぜ? 何かあっても俺達が出撃する前に国防軍が全部終わらせちゃうよ」
「確かにな。では寄っていくか」
「お! 話が分かるな! レイ!」
「当然だ。キラさんなら、俺達にストレス解消を優先しろと命じただろうからな」
「そうそう。大事大事」
ルナマリアは自由過ぎる人の言いそうな事を口にするレイとそれに同調するシン。
そして、何も言わずとも真っすぐミネルバへ帰るつもりなど無いアグネスに頭を抱えた。
いっそ自分だけ先に帰るという選択肢もあるが……それはそれで、アスラン以上に面倒な人から事情を問い詰められそうで嫌である。
それならば、このまま皆で怒られた方がまだマシ。
というワケでルナマリアはシンやレイ、アグネスと共に最近人気急上昇中だというバーガー屋へと向かうコトにした。
アグネスはハンバーガーという庶民向けの食品に、嫌そうな反応を見せていたが、キラも行っていたと言われれば反対するのも難しく、嫌々ながらキラも美味しいと言っていたのならと現地へ向かい。
最近人気があがっているという事で、行列が出来ている店の前で酷くげんなりとした顔をしているのだった。
「これに並ぶの?」
「当然だろ。並ばなきゃ食べられないんだから」
「……ハァ。こんな庶民の食べ物を食べる為に並ぶなんて……ハァ」
「まぁまぁ。食べてみたら意外と口に合うかもしれないわよ」
「そう?」
「それほど嫌ならば先に帰れば良いだろう。お前だけ」
「うるさいわね。ネチネチ、ネチネチ。陰険男」
「ちょっと、こんな所で喧嘩しないでよ」
大勢の人が居る中で、目立つコンパスの制服を着たまま言い争いを始めたアグネスとレイにルナマリアは二人を諫めようとするが、ふと視界の端に何か光る物を見つけて、目を見開く。
そして、向き合って言葉をぶつけ合っていた二人を押しのけながら走り出した。
「っ!?」
「ルナ!?」
「みんな!! 伏せて!!」
ルナマリアは大声で、周囲にいる民衆に叫びながら両手に爆弾を持ちながら歪な笑みを浮かべている少女に向けて走る。
そして、少女が投げようとしたソレを勢いよくを蹴り上げて、自身も少女を庇いながら地面に伏せた。
瞬間。
耳が聞こえなくなるほどの轟音が上空で鳴り響き、ビリビリとした振動が地面や建物を揺らし。
近くにあった窓ガラスが衝撃で割れ、人々の悲鳴や絶叫が周囲に響き渡った。
「ルナ!!」
「……っ、つつ」
「大丈夫か!? ルナ!」
「ん……うん。私は、大丈夫」
ルナマリアは誰よりも早く駆けつけて来たシンに手を握られながら立ち上がり、周囲を見渡した。
どうやら爆弾による人的被害は最小限に抑えられたようで、周囲の人々も突然の事態に騒いではいるが、怪我人などは居ない様だった。
しかし……とルナマリアは自分が押し倒した少女を見やる。
「あなた……」
「……!」
ルナマリアが押し倒した少女は地面に仰向けで寝転んで、真っすぐに自分を見下ろすルナマリアやシン、レイ、アグネスを睨みつけていた。
まだ十代半ばくらいの子だろうに、その瞳には轟々と燃える憎しみの炎が宿っている。
「もう少しで……セナ様の所へ行けたのに……!」
「セナの……ところ?」
「セナ様は虹の向こうで、私を待っているんだ! パパも、ママも、セナ様と一緒に私を待ってる!」
「虹の向こうって」
「サイコフレームの話では無いだろう。おそらくは死後の世界だ」
シンの疑問にレイはあくまで冷静に応え、そのレイの言葉にアグネスもルナマリアも驚愕に動きを止める。
しかし、少女の叫びは止まらない。
「裏切者! 裏切者! セナ様はみんなを幸せにしようとしたのに! 裏切者!!」
「ちょっと待ちなさいよ。セナちゃんは虹の向こうなんかに居ないわよ。今だってキラさんと一緒に……!」
「アハハ! やっぱり! 何も知らないんだ! あの御方の言う通りだ!」
「何もって……」
「セナ様は虹の向こうへ行ってしまった! お前たちがセナ様を裏切ったからだ!! キラ様はセナ様を助けようとしていた!! なのに! お前たちがキラ様を利用したから!! 薄汚い欲望で!! 汚そうとしたから!! キラ様も世界を見捨ててしまったんだ!! でも! 私達が忠誠を見せれば! キラ様も戻ってきて下さる!! そして、今度こそ! セナ様が待っている虹の向こうへ!! 行くんだ!! お前たち裏切者を一人でも多く、殺して!! セナ様に褒めていただくんだ!!! だから、離せ!! このままじゃ、私も裏切者になっちゃう!! お前たちを殺さなきゃ!! 私の忠誠を見せなきゃ!! 邪魔をするな!!!」
「ちょ、ちょっと! 暴れないで!」
「ルナ!」
「そのまま押さえていろ。少し眠らせる」
「うっ……!」
ルナマリアとシンが少女を押さえている間に、レイが少女の腹部へと拳を叩き込み、少女を沈黙させる。
完全に意識を失った少女を見下ろしながら、シンもルナマリアも言葉を無くしていた。
しかし、アグネスだけはハァとため息を吐きながら呟く。
「コレって、前にシンを襲った子と一緒の?」
「あぁ。おそらくはな。セナを信奉し、テロを起こしている連中だ。しかし……まさかオーブ本島にも出て来るとはな」
レイが少女を見下ろしながら呟いた言葉がシン達の耳に入る頃……騒ぎを聞きつけたオーブ防衛軍が駆けつけてきて、シン達の元へと来るのだった。
「あぁ。良かった。コンパスの方々でしたか。こちらで爆弾テロがあったと聞き。対応に来ました。私はオーブ軍の……って、シン! レイじゃないか!」
「うん? あれ!? アマギ一尉! 何やってるんですか!?」
「何をやっているは無いだろう。何をやっているは。ちょうど近くに居てな。駆けつけたのだ。クサナギは今、全点検でカグヤに降りて来ていてな」
「お疲れ様です。アマギ一尉」
「うむ。レイも元気そうだな。良かった。良かった。トダカ海将も二人が元気な事を喜んでいるだろう。墓にはもう行ったのか?」
「……はい」
「なんだ。まだ気にしているのか? 気にするなとは言わないがな。あの人は自らの役目を果たす為に命をかけたのだ。そう落ち込んでやるな。どうせなら、笑って、俺たちは元気にやっていますよ。とでも言った方があの人は喜ぶと思うがな」
「そう、ですね」
「ふむ。まぁ、そう容易く割り切る事も出来んか。すまんな」
「い、いえ!」
「まぁ、今度どこかで話でもしよう。二人の話は噂でしか知らないからな。色々と聞かせてくれると、私も部隊でお前たちの自慢が出来る」
ニカッと人の良い笑みを浮かべるアマギに、シンとレイは小さく笑みを浮かべた。
そして、自分たちの話は後にしようと、少女についてアマギへと報告をするのだった。