月面都市のある基地の一角。
新しく建造された戦艦を設計、開発した責任者より呼び出された者達が二人、闇の中にある会議室にいた。
「僕に用というのはどういう事ですか? それほど暇では無いんですけど」
「話を聞く前に怒るのはどうかと思うよ。アズラエル理事」
「……まぁ、コノエ大佐がそう仰るのなら、話を伺いましょうか」
アズラエルはコノエに窘められてから、自分を呼び出した主……アルバート・ハインライン大尉へと視線を向けた。
そして、挑発的に笑みを浮かべる。
ハインラインはそういう笑みに反応する事はなく、淡々と流れて来た情報を口にした。
「ミレニアムを狙う組織がいる様です」
「ほー」
「それは確かな情報か? ハインライン」
「えぇ。何せ情報を流してきたのは、この世界の救世主様ですから」
「なるほど」
「キラが言うのであれば、確かに重要な情報ですね」
情報主について語ると、コノエもアズラエルも分かった様に頷いた。
語る前と後で手のひらがクルクルと回転している様だが、ハインラインは気にしないまま言葉を続ける。
「このまま予定通り月のドッグを出ると、地球まで降りる間に狙われる可能性があります。艦隊の配備を」
「必要ないよ」
「……アズラエル理事」
「ZAFTにせよ。連合にせよ。戦力を動かせばそれが火種となる可能性は十分にあり得るんだ。なら、動かさない方が良いだろ?」
「それは、その通りですが……狙われるのが分かっているのに」
「君の言いたい事も分かるけどね。コンパスの連中がどれだけ世界を駆け回っても火種は消えないんだ。世界は平和になんかなっちゃいない。少しでも判断をミスすれば世界は再び最終戦争を始めるよ」
「……」
「確かに。アズラエル理事の仰る通りですなぁ」
「えぇ。地球軍の月基地には核ミサイルが順次配備されて居るし。プラントはレクイエムを修復している。どこからどう始まるか。それは分からないけど、準備は完了しているんだよ」
アズラエルがテーブルの紅茶を飲みながら言った言葉に、ハインラインは反論する様に顔を上げた。
そして、現在問題となっている事に関して口を開く。
「では、このまま見過ごすべきだと?」
「まぁ、ミレニアムなら多少被弾しても地球へと向かう事は出来るでしょう。しかし、それも面白くはない」
「では、反撃を? シン・アスカたちを地上から呼びますか?」
「英雄を呼ぶまでもありませんよ。僕の護衛を使えば良い」
「「護衛?」」
アズラエルの言葉にコノエとハインラインは声を揃えながら疑問を投げた。
モビルスーツに襲われるというのに、護衛を呼んでどうするのか。という言葉を含ませた問いを。
「あぁ。ご心配なく。僕の護衛はただの護衛じゃありませんよ。本来の計画ではここまで長持ちする事は無かったのですが、キラが彼らへの投薬と実験を止めてね。次の世代の連中よりも使い勝手が良い」
「それは……」
「まぁ、見てからのお楽しみ。という奴です。とりあえず襲撃の件はこちらで対処しましょう。お二人は艦を予定通り地球へ向ける準備を」
アズラエルはそれだけ言い残すと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
コノエとハインラインは互いに顔を見ながらも首を傾げて、意志を示す。
しかし、アズラエルがやると言った以上はやるのだろうと、襲撃の件は忘れて、ミレニアムの整備と準備に心を向けるのだった。
そして。
秘密の会談から一週間ほどが経過して、ミレニアムは無事月のドッグから出撃する事となった。
「ミレニアム。準備良し」
「機関始動。艦体問題なし」
「武装よし。全て順調に進行しております!」
「よぉし。では、ドッグより出撃するぞ。ドッグはどうか!」
「無事地球にたどり着ける様に、と」
「了解した。では、行ってくると返してくれ」
「ハッ!」
艦長席に座ったコノエは上がってくる様々な報告に了承を返しながら、艦を発進させる手続きを行っていく。
そして、やや慌ただしい空気と、初めての艦だからか緊張が広がるブリッジに、スーツを着た金髪の男が入って来た。
「どうですか。艦長」
「えぇ。何も問題はありませんよ」
「それは良かった。どれだけ良い物が出来ても、初めて出撃する瞬間というのは緊張するモノですね」
「アズラエル理事も緊張されるのですか?」
「えぇ。当然。僕も人間ですからね。大仕事をする時は緊張しますよ。むしろコノエ艦長こそ緊張している様には見えない」
アズラエルが笑みを浮かべながら艦長席に手をかけて言った言葉に、コノエはクッと笑って帽子で目元を隠しつつ言葉を返した。
「私は艦長ですからな。緊張していてもそう見せないだけですよ」
「なるほど。では似た者同士というワケですか」
「そうなりますな」
「艦長!!」
「どうした」
「所属不明の戦艦が本艦新路上に現れました! 数3!」
「……来たか」
「話で聞いた通りですねぇ」
「戦艦よりアンノウンモビルスーツが出撃されています! 4、5……まだ増える……?」
「所属不明の戦艦に停戦信号! 動きが止まらない場合、対象艦を敵艦と認識!」
「ハッ!」
「熱源よりモビルスーツを特定! ゲイツ、ザク、ダガー、ウィンダム!」
「混成部隊ですかな?」
「その様だねぇ。けれど、どの道こちらの邪魔をするつもりみたいだ」
「えぇ」
「じゃあ、僕の護衛を出すよ。良いね?」
「はい。お願いします」
コノエの言葉に反応して、アズラエルは声を上げる。
この時を待っていたとでもいう様に。
「アイツ等を出せ! フォビドゥン、レイダー、カラミティだ!」
「ハッ!」
「敵モビルスーツ。10を超えました!」
「3機でいけますかな?」
「あぁ。あの三人はあのヤキン・ドゥーエ攻防戦を生き抜いたパイロットさ」
「ほぅ。それは期待できますな」
コノエはアズラエルの言葉に笑みを浮かべ、通信を繋げて来た特殊なパイロットスーツの三人を見やる。
『やっぱり来たのか? オッサン』
『僕らの相手をするんだ。それなりの相手なんだろうね?』
『めんどくせ。さっさと終わらせようぜ』
「っ! 敵モビルスーツの中に!」
「どうした?」
「は、はい。敵モビルスーツの中に、『インパルス』の反応があります!」
「ふむ」
「インパルスの設計書まで持ってる連中か。どこからか流出したか。もしくは本体が流れて来たか」
「インパルス自体は、今は地上にありますよ」
「という事は予備機か、設計図だね。分かった」
アズラエルは状況を理解したと頷いて、三人に笑みを向ける。
「お前たち。朗報だ。敵にエースがいる様だよ。機体はインパルスだ」
『インパルスって事はシンか?』
『バァカ! オルガ! シンがここに居る訳ねぇーだろ!』
『シンが居ても、この艦に敵対する理由もないしね』
『そりゃそうか』
「どの道、このモビルスーツは邪魔者だ。さっさと排除していいよ」
『よーし! ソイツは俺が貰うぜ!』
『独り占めするんじゃねぇーよ!』
『どうでも良いよ。俺はさっさと終わらせるだけ』
「じゃあ、三人を出しちゃって」
「はい! カタパルト接続。全システムオンライン。超電導キャパシタ1番から10番臨界到達。誘導システム異常なし。進路クリアー。カラミティ、発進どうぞ」
『おう!』
「続けて、レイダー。発進位置へ」
順調に出撃されていくモビルスーツを見ながらアズラエルは満足気な顔を浮かべる。
もしもの時はマニュアルで出撃させるつもりだったが、以前よりも出撃は格段に順調な物になっている様であった。
「ふむ。ここまでは問題ありませんな」
「えぇ。そして、これから始まる戦闘も、問題はありませんよ」
「自信がおありで?」
「そうですね。連中の腕は保証済み。そして、モビルスーツもガワは以前と同じですが、中身は完全に別物だ。エンジンも、武装も最新の物にしている。まぁ、混成部隊とは言っても有象無象の集団だ。心配は要りませんよ」
「援護射撃はどうしますか?」
「それなら……」
「っ! 敵艦より爆炎!! レイダーの攻撃により艦が撃破されました!」
「早いね」
「それだけ加速出来る様になった。という事ですね」
アズラエルはアッサリと言葉を返し、暗い宇宙の向こうで真っ赤な爆炎に包まれながら破壊されていく戦艦を見やる。
その艦に乗っていた物がどの様な感情を持っていて、どういう考えを持っているかは関係ない。
こちらに居ては知りようがない。
だから、ここに居るのは撃つべき敵なのだ。
そして……。
「レイダー。続く2艦目、3艦目を撃破! 敵艦は爆発炎上してゆきます!」
「インパルスは?」
「現在、フォビドゥンと交戦中……! ですが」
「そろそろチェックメイトかな?」
「っ……! インパルス、撃破されました。フォビドゥンは健在です」
「よろしい」
「敵モビルスーツ。数を減らしています」
「さて。初戦としてはまぁまぁな戦果ですかね?」
「えぇ。新型モビルスーツに関しては問題ない様だ。この艦の装備は試せませんでしたがな」
「我が方のモビルスーツが圧倒的だった! それは仕方のない事でしょう」
アズラエルはコノエに笑みを返し、連れて来た三人の戦果に何度も頷いた。
三人ならやれると思っていたが、こうも圧倒的な状況を作られると、それはそれで感嘆するモノもある。
そして、グダグダと文句を言いながらも平然とした様子で帰って来た三人を迎え入れて、ミレニアムは再び地球へ向けて加速を始めるのだった。
従来の戦艦よりも遥かに早く航行できるミレニアムは道中、何のトラブルもなく地球軌道上へと向かい、シン達がいるであろうオーブへ向けて真っすぐに降りて行った。
その戦闘は、仕掛けた者達にとっては予想外な事であり。
襲撃をリークしたキラや、ミレニアムの者達には予想通りな物であった。
そして。
「どうやら。あの三機の性能は予想以上だったみたいだね。ミレニアムの性能を少しは見たかったんだけど」
『地球へ行く?』
「いや、これから行われる観艦式に興味はないよ。あの場所に、あの子は居ないからね」
『……キラ・ユラ・アスハ』
「そう。君達と同じ、究極のコーディネーターの完成体。彼女は今、どこに居るんだろうねぇ」
宇宙に浮かぶ真紅のモビルスーツは、遠くから地球に降りるミレニアムを見つめながら、僚機と緩く言葉を交わすのだった。