本人はどうでも良いと言っているが、様々な者によって整えられた豪華な品々で溢れた執務室に、一人の軍人が報告により入って来た。
「カガリ様。先ほどミレニアムが入港しました」
「そうか」
「船体に目立つ外傷はなく、現在は観艦式の海上へと向かわせています」
「分かった。では私もその会場へと向かおう」
カガリは軍人の言葉に頷いてから立ち上がり、部屋から出ていく。
先日起こったテロ事件によりオーブは新しいテロに備え、代表首長であるカガリを守るべく前後に軍人が立つのだった。
それらを引き連れながら、カガリは背筋をまっすぐに伸ばして歩く。
「ミネルバは?」
「変わらず、1番ゲートに停泊しております」
「テロ事件は」
「動きはありません。例の、シン・アスカが捕らえた案件以降は発生しておりません」
「そうか……」
カガリは思考の海に沈みながら敵の目的を考える。
世界中に存在するテロリストにとって面白く無いのはミレニアムだろう。
そして、セナの望みを破壊したキラ達だ。
しかし、キラは過去の実績とセナの姉である為、候補から外れ、キラと共にセナを討ったシンに目標が集まる。
「そうなると、狙われるのは……ミレニアムか」
「はい。その可能性は非常に高いかと思われます」
「持ち物検査は徹底しろ。男女ともに、来場者は貴賤関わらず全てだ。セナは世界中の人々へ向けたのだ。彼女の願いに同調した者は、大統領だって事件を起こすだろう」
「承知いたしました」
カガリの言葉に、軍人として命令を受けていた物は丁寧に頷いた。
そして、すぐ後ろに居た部下へと言葉を向け、対策に向かわせる。
その部下が走り去ってからは、別の部下が彼の後ろのついて歩いた。
そんな行動をカガリは気にする事もないまま話を続けてゆく。
「おそらく、会場で狙われるのはシン・アスカだ。護衛を用意しろ」
「本人は一人で解決できると言いそうですが」
「だろうな。しかし、用意出来るのであれば、した方が良い。狙われる対象は分かっているのだからな」
カガリは平静の中で言葉を向けながらさらに言葉の続きを語る。
「シン・アスカは先の戦いの英雄だ。セナが進めようとした計画を正面から否定し、その野望を打ち砕いた。無論、それはセナもそれを望んでいた事ではあるが、世界はその事を知らん。そして、キラもシンに惑わされたという事になっている。セナとキラに優遇されていたというのに、裏切ったのが許せないのだろう。まず間違いなく狙われる」
「カガリ様。そういう事でしたら、カガリ様も狙われる可能性は高いかと」
「私?」
「はい。カガリ様はキラ様とセナ様のお姉様となりますから」
「あぁ……確かにそうかもな。あの煌びやかな英雄姉妹の出来損ないの姉だ」
カガリが言われた言葉にフッと笑いながら言葉を返すと、周囲の者達は慌てた様にカガリの言葉に反論した。
「カガリ様! お言葉ですが、カガリ様は太陽の様に輝いておりまして」
「カガリ様は我らを照らすオーブの光です!」
「カガリ様が出来損ないなどと……!」
「えぇい。やかましい! 一斉に喋るな。私がどうのではない。世界が私をそう見ているのだ」
「それこそ本質が見えぬ愚か者の言葉かと!」
「かもしれんな。だが、その愚か者が集まってテロを起こしているのだ。無視は出来んだろう」
「むぅ……」
「私がどう思おうと、貴様らがどう考えようと、世界の人々は私を妹から地位を奪い取った卑怯者として見ている。直接話をした者はそうではないと思っているが、それでも腹の内は分からんさ」
「……はい」
「オーブの代表。世界の主導者にはキラが相応しい。セナが相応しい。と、意見は二分しているが、私がオーブの代表となって嬉しいと思う者など、世界には居ない。このオーブにもな」
「我らは、カガリ様こそが代表に相応しいと考えております」
「ありがたいよ。お前たちの忠義は非常に助かる。だが、オーブ国内だって、キラが代表であれば、セナが代表であれば争いに巻き込まれる事は無かったんじゃないかと考える者たちは居る。それは仕方のない事だ」
カガリは諦めた様にため息と共に喋り、その仕方のない現実を軍人たちに共有する。
「しかし。私としては、何が何でも、こんな居場所に大切な妹を置きたくは無いのだ。キラも、セナも。自由である事が良い。世界のしがらみなど関係のない場所で、ただ思うままに生きていて欲しいと思うのだ」
「……左様ですな」
「と、まぁ。こんな事を言っていたら、やはり相応しくないと言われるかもな」
カガリは自嘲気味に笑い、歩きながらの話を終わらせた。
偉大なる父を持ち、その父に追いつきたいと頑張っている間に、最愛の姉妹は己よりも才覚を示して戦いを行う。
周りに居る者に追いつくのは大変だが、そんなカガリでも応援してくれる者はいるのだ。
だから、彼女は誰よりも強くありたいと思っていた。
そして、カガリは多くの軍人たちと歩きながらミネルバへと来て、シンや艦長であるタリア・グラディス、作戦指揮官であるナタル・バジルールを呼び出して、観艦式の話をすることにした。
「みな、集まってくれてご苦労」
「いえ!」
「代表もお忙しい所、わざわざ本艦までありがとうございます」
「いや、椅子に座ってハンコを押しているだけの仕事さ。戦場を駆ける貴君ら程ではない」
「……お言葉、感謝いたします」
「さて。呼び出した用件であるが、ミレニアムがオーブに到着し、各国の代表も集まっている。いよいよ明日。観艦式を行う予定だからだ。観艦式の配置を共有したい」
「それなら、自分達にも命令が来ているんだけど」
「シン!」
「あっ、で、ですけど!」
「あぁ。無論、表の話は既に共有しているし。貴君らの配置も既に確認している」
「表の話は?」
シンはナタルに注意されてから、すぐに敬語を口にしたが、すぐにそれも忘れて首を傾げながらカガリの話を聞く。
配置や警備状況の共有が終わっているのであれば、何をしに来たのかと。
「今回の話は、シン。お前に関係のある話だ」
「自分が!?」
「……」
「でありますかー!?」
ナタルにジッと見つめられ、咄嗟に敬語を付けたシンは冷や汗を流しながら、警戒しつつ応答を行う。
どこかで気を抜いてしまえば、何を言ってしまうか分からないからだ。
そして、警戒しながらも代表として立っているカガリの話を聞く。
「以前、オーブ国内でもテロ事件が起きた。アレはおそらくオーブ国内であったとしてテロは出来るという意思表示だろう。犯人グループは逮捕したが、本命の組織は外にいる筈だ」
「なるほど」
「オーブは海洋国家である。海から侵入されてしまえば、それを防ぐ事も難しい。ましてや観艦式には多くの者が訪れ、完璧な警備も難しい。そんな中で狙われるのは、お前だ……シン」
「自分が、でありますか!?」
「あぁ。先の大戦でえ、お前は有名人となってしまった。悪い意味でな」
カガリの言葉に、シンと共に居たルナマリアは、あぁと口にしながら何故有名になってしまったかを語る。
「シンは、セナちゃんのホープを通じて、世界中に知られてしまったものね。名前も顔も」
「アレはしょうがないだろ。あぁしなきゃ、世界は大変な事になっちゃったんだからさ!」
「あぁ。しかし、シンの言葉を理解するのは周囲の者だけだ。シンを知らぬ者達からすれば、セナが自分を犠牲にしながらでも世界から争いを消そうとした計画を潰した存在でしかない」
「ほんと、山猿よね。アンタ。考え無しにもほどがあるわ」
「そうは言うけどさぁ。他に方法が無かったんだって」
「無論、シンの事情も我らは理解している。あの状況も。お前のお陰で世界は自由を手にしたまま今日を迎える事が出来た。それは間違いない。だが、それを喜びと捉えない者もいるのだ」
「……うん」
「以前お前が直接襲われる事もあったそうだが、今は他に重要とする事があるから放置されているだけだ。ミレニアムもそうだが、新しい艦に、エースとして乗り込むお前を面白くないと想っている者達は居る。だから……」
「シンが狙われる。という事ですか?」
「そうなる」
カガリの言葉に先んじて言葉を返したレイは、少しばかり難しい顔をしていた。
そんなレイにシンはどこか突き刺す様な目線を向けながら口を開く。
「レイ」
「……なんだ」
「俺が狙われることと、お前らが元議長の考えを信じて戦ってた事は別の話だぞ」
「っ!」
「自分を犠牲にしてでも事態を解決しよう。なんて考えてるのなら、そんなのは嫌だからな!」
「……シン」
真っすぐに想いを向けているシンに、レイは笑みを零しながら息を吐いた。
自分では真っすぐな少年には叶わないな。という想いで口を開く。
「すまないな。シン」
「良いんだよ。俺達。親友だろ? ならさ。一方的に寄り掛かる様な関係は嫌だなって想うんだ」
「あぁ」
レイはシンの言葉に居心地の良さそうな顔をしながら柔らかく笑う。
そんな二人を見て、カガリは「あー」と話題を逸らす様な、直接伝えるには困る様な言葉を吐く。
「レイ。お前にある男から伝言が入っているんだ」
「ある男、ですか?」
「あぁ。お前もよく知る男だ。先の大戦で、デスティニープランを実行しようとして、世界を混乱させた男だ。彼はその後、議長を辞めてからある研究を行っていてな」
「……ギル」
「彼の親友である男から遺伝子を提供して貰い、過去の知り合いであるメンデルにずっと居た女から、情報提供と技術提供を受け、仮面の男と共に研究を行っているそうだ」
「その研究は……」
レイの問いに、カガリはフッと笑っておそらくはシンがずっと聞きたかったであろう言葉を告げる。
「クローンの寿命問題に関して」
「っ!」
「それって!?」
「まだ、研究途中であるが、比較的若い個体に関しては、寿命を延ばす事が可能だと、すぐにでもレイに伝えて欲しいと言っていたぞ。まぁ、あの男は危険人物である為、とあるコロニーから動く事は出来ないし、監視もされているが、私は連絡が出来るのでな」
「ギル……!」
「オーブに届いた薬はお前の元へ届ける」
「あり、がとう……!」
「礼なら、宇宙に居るアイツに言え。「息子の為に出来る事をしたい」と言っていたぞ」
「……あぁ」
泣き崩れるレイに、カガリは話は以上だと言ってブリッジから出て行った。
レイはただただ、感謝の言葉を口にして、シンもルナマリアもアグネスも静かな穏やかな目で、手で彼に喜びを伝えるのだった。