いよいよミレニアムがオーブに到着し、盛大な観艦式が行われる前。
宇宙の一大勢力であるプラントにある宇宙ドッグにて一つの宇宙艦が発進する為の準備をしていた。
その宇宙艦の名は、エターナル。
宇宙戦闘艦のエターナルである。
初めてこの艦が戦闘に投入された時から随分と時間も経って、その間にいくつもの新型艦が世に放たれてきた。
その為、エターナルは時代遅れの艦となりつつあったが、それでも足回りだけは改修を続け、未だに高速艦としては他の追随を許さないモノである。
だが、高速艦としては一級品なエターナルであっても、戦闘艦としては旧式も旧式のナスカ級にすら劣る物であり。
流石にモビルスーツよりは火力を出せるワケだが、こと戦闘においてはそこまで信頼されるモノでは無かった。
しかし、エターナルの真骨頂は自ら戦闘する事ではなく、搭載されているモビルスーツこそが真価を発揮する物であり、ZAFTの新型実験機であるゲルググメナース3機に、かつてデスティニープランを巡る戦場にいた漆黒のモビルスーツに、色だけは違う純白のモビルスーツも搭載されていた。
そして、ブリッジではこの艦の本領たる、本領が乗り込む準備を進めつつ、発艦の用意を進めているのだった。
「しかし、厳重な事だな。議長でも乗るのか?」
「ラメント議長は既に地球だ」
「ではジャガンナート国防委員長か?」
「彼は軍人上がりでな。自分の艦を持っているよ」
「ふむ。難しいな」
「ふふ。そう難しく考える事はないわ。シュラ。この艦はかつて歌姫の艦と呼ばれていたの」
「……! ラクス・クラインか!」
「正解だ」
ブリッジで艦長席に座るアンドリュー・バルトフェルドと火器管制を担当しているアイシャに言葉を向けながら、私服を着たシュラはどこか満足気な顔をする。
そして、その顔のまま隣に立つ女へと目線を向けた。
「どうだ。イングリット。見事にこの艦の目的を当てたぞ」
「そんな誇らしげな顔をしないで下さい。誰でも分かります」
「なにぃー!?」
シュラの言葉をどうでも良い物として流してイングリットは涼しい顔のまま話を続ける。
「ラクス様がいらっしゃるという事は、オルフェは」
「当然一緒に乗って来るぞ」
「……そうですか」
イングリットはバルトフェルドの言葉に小さく微笑みを浮かべた。
そして、それは当然の様にブリッジで彼女たちの会話を見ていた者達に目撃され微笑みを向けられる。
「なんだぁ。その顔は。嬉しいのか? 嬉しいんだな? イングリット」
「貴方は黙っていて下さい。シュラ」
「こっちを向け! イングリット! 笑っていたぞ! 貴様!」
「しつこいですよ」
イングリットは顔をそらしながら手で覆い隠すが、シュラはイタズラっ子の様な表情でイングリットの肩を掴んで揺らしていた。
その姿は完全に姉に甘える弟の様であり、とても純粋な物に見えたのである。
が、それはそれ。
「それくらいにしな。ボーヤ」
「む。誰だ。俺を坊やと呼ぶのは! 俺は特別任務担当戦闘指揮官のシュラ・サーペンタイン様だぞ」
「アンタ。ラクス様が付けた適当な名前をまーだ覚えてるのかい。呆れるねぇ」
「まぁまぁ、姉さん。シュラの奴、頭はアレですが、腕は確かですから」
「そうそう。この艦も安心だよ」
「なんだ! 貴様ら! 俺の頭が足りないだと!? シミュレーターに乗れ! 相手をしてやる!」
「いや、だから、腕は貴方の方が上だと言っているのですよ。シュラ」
「なに? なんだと?」
シュラはやや混乱した様な顔をしながら首を傾げた。
が、ブリッジに入って来たゲルググメナースのパイロットであるヒルダ達はそんなシュラに仕方ないなとため息を吐きながらバルトフェルドの方へ向き、敬礼をした。
「艦長。ラクス様は無事、ご乗艦されたよ」
「そうかそうか」
「今は貴賓室で式典の化粧をしている最中さ。地球に行ったらすぐにお披露目に参加するからね。時間のかかる作業は移動中にやろうって話だ」
「彼女にも迷惑をかける」
「まぁ、本人が志願した事ではあるし、私達が護衛に付いているから問題は無いだろうさ」
「そうだな。助かるよ」
「良いってことだ。これもラクス様のご意向だしね。キラの奴に会えないのは残念だが。まぁ、あの子とは後で会えるさ」
「姉さん……嬢ちゃんをあんまり虐めないで上げて下さいね?」
「誰がイジメてるっていうんだ! 誰が!」
「一人しかいねーだろうよ」
「ったく。私は可愛がってやってるだけだってのに……!」
「あらあら。どなたを可愛がっているのですか? ヒルダさん」
「っ! ラクス様!」
部下たちにやっかまれ、ヒルダは荒っぽい言葉を返していたが、ブリッジの中に金髪の青年を引き連れながら入って来た桃色の髪の女性に敬礼を返す。
そして、ブリッジに居た者達は誰もが彼女に向かって敬礼を行うのだった。
「ご苦労様です。わざわざ地球まで。ありがとうございます」
「いえいえ! 戦争も終わったというのに、我らを重用して下さるのは助かりますよ。姫」
「皆さんは先の戦争からご一緒させていただいている方々ですからね。コンパスでも活躍をお願いしたかったのですが……」
「我々はもうシン達の様には活躍出来ませんからな」
「俺は、いつでも前線で戦えますよ」
「黙ってろ。シュラ」
「やかましいぞ。オルフェ! ラクス様の後ろで分かった様な顔をしてからに」
「……いつも通りの顔なんだがな」
「フン! 格納庫にあった機体! アレは貴様の機体だな? ガンダムはどうした。ガンダムは」
「アレなら、アムロと共に今はどこかの研究所だ。どこにあるか。それはラクス様やキラ達しか知らんがな」
「ならば」
「あぁ。貴様の予測通り。アレは俺の機体だ。ガンダムに似せているのは、その方が動かしやすいからだな」
「勝負しろ! オルフェ!」
「何故そうなる」
「新型機に乗ったお前を倒し! 俺のブラックナイツは完全なる俺専用機となるのだ!」
「意味の分からない理屈だな」
オルフェはシュラの言葉に、額に手を当てながらため息を吐いた。
そして、そんな二人を見ながらラクスは微笑みを浮かべて言葉を向ける。
「お二人の戦いは地球に彼女を送り届けた後にお願いします」
「む? という事はプラントに帰るワケでは無いのか?」
「今更何を言っているんだ。お前は」
「むむ?」
オルフェの呆れた様な声に、シュラは再び首を傾げる。
「シュラ君。エターナルは地球に行き、彼女をシャトルでオーブに行った後、『戦闘により行方不明』となるんだよ」
「……あぁ、そう言えばそんな話も聞いたな」
「そんな話ではない。重要な話だぞ」
「すまんすまん」
「テロ組織に潜入しているダコスタ君からの情報では、彼女を地上に下ろした我らに、彼らはモビルスーツを持って襲い掛かるそうだ。ヒルダ隊長たちは下ろしているし、無理に乗せている2機のモビルスーツは知らぬまま、ね」
「なるほど。そこで我らの出番という訳か」
「そういう事。細かい事はこちらでやるから、君達は何も考えぬまま敵を殲滅してくれれば良い」
「フフン。なるほどな。そういう事であれば得意だ。任せろ」
シュラが得意げに笑いながら自分の肩を叩き、それに周囲の者達もどこか安堵した様な顔になる。
そして、話が一瞬途切れた隙に、ラクスが続く様に口を開いた。
「これは始まりの合図です。僅かに続いていた平和な時は、この事件をキッカケにして動き始めるでしょう」
「宇宙に地上に。ミレニアムには苦労をかけるが、仕方ない」
「そうですわね。セナ様が導こうとしたデスティニープラン。その意思を継ぐ者達、ですか」
ラクスはどこか暗い顔のまま呟いた。
だが、それにオルフェは口を挟む。
「ラクス・クライン」
「……オルフェさん?」
「これから起こる事は、貴女が気にする様な事じゃない。どちらにせよ起こっていたことだ。ファウンデーション王国はかつての世界と同じ様に動いている。消えたはずの私、それにシュラやイングリットも、かの国には居た。イングリットに内部情報を調べて貰ったが、前と何も変わっていない」
「はい」
「イングリットさん。ありがとうございます」
「いえいえ! これくらいは! 全然!」
イングリットはラクスから頭を下げられ、急いで首を横に振りながら手を横に振った。
そんな様子にラクスはクスリと笑みを浮かべる。
「オルフェさん。貴方は勝てますか?」
「当然だ。我らも、世界も変わろうとしている。いつまでも古き時代を見つめて変わろうとしない者達になど、負けぬよ」
「俺もだ! 敵がどうこうは知らんが、俺ならば何も問題はない!」
「……シュラ。言っておくが、私の機体は複座だぞ」
「なに?」
シュラは酷く驚いた様な顔をしながらオルフェを見て、すぐ後ろのイングリットを見た。
そして、二人を交互に見ながら、どういう事だ。という様な顔で二人に問う。
「その様な顔をされましても。私はオルフェと共に戦いますから」
「い、イングリット!? 何故だ!」
「何故と問われましても、向こうもその様に来るとの事で」
「オルフェ!」
「一人で戦え。シュラ」
「バカな!」
「火器管制、周囲の索敵、地理情報から何から何まで、全部自分でやってくださいね。シュラ」
「嘘だ!!!」
シュラは受け入れがたい現実に悲鳴を上げた。
そして、その言葉を合図としたワケではないが、全ての準備を終わらせてエターナルがドッグから暗い宇宙へと走り始める。
「さぁ。私達も戦場に向かいましょう」
「了解!」
「機関始動! エターナル発進準備!」
「エターナル、発進シークエンススタート」
「気密正常、FCSコンタクト、エターナル全ステーション異常なし」
「本艦はこれよりドッグを出航する!」
『旅の安全を』
「感謝する! ……姫?」
「はい。エターナル! 発進して下さい!」
ラクスの言葉を合図として、艦は真っすぐに暗い宇宙の中を走り始めた。
新しい戦場を目指して。