ミレニアムが無事オーブに到着し、ラクスを乗せたエターナルも地球軌道上に到着した。
そして、エターナルからはラクス・クラインを乗せたシャトルが着陸し、中からやや派手な恰好をしたラクス・クラインが登場し、カガリに会場へと案内される。
二人は歩きながらも会話を行っており、遠くから見ていても楽しそうに談笑している様子だった。
ラクスが到着したことで、無事ミレニアムの観艦式が盛大に行われる事となり、会場やその周辺ではお祭り騒ぎの様に盛り上がっていたのである。
「レイ! さっき聞いたけどさ。なんか、出店があるらしいぜ?」
「落ち着け。シン。我らは護衛の任務がある。買い食いは後にしろ」
「そうよー。シン」
「ったく。山猿なんだから」
他の者達に注意をされながらもシンは、不満げな顔をして首元を軽く撫でる。
そして、周囲の者達と同じ様に制服を整えながら背筋をピンと伸ばした。
「良いじゃんか。護衛はいっぱい居るんだしさ。少しくらい」
「大勢いれば良いという事ではない。我らの役目はコンパスの兵隊だ。というアピールと、イザとなった時の戦力だ」
「いざ?」
「モビルスーツ戦の為の準備だな。ムラサメだけでは対応できない事もある」
「ムラサメだけではって……!」
「テロ事件が起きる可能性だってあるって事だ。しかも爆弾とかではなく、モビルスーツを使った直接制圧とかな」
「……そんな」
シンは大々的に飾り付けられているミレニアムを見上げながらため息を吐いた。
あの中に格納されているモビルスーツは現在、外に出ているし、シン達が護衛する場所から走れば五分程度で用意されている新型に乗る事が出来る。
コンパスの為に用意された新型に。
「覚悟の話だ。シン。何も必ず起きるとは言っていない。が、気を抜いているのと、覚悟しているのでは話が違うだろう?」
「そうそう。ミネルバの時を思い出しなさいよ。ゆるゆるじゃあ大変な事になるわよ」
「……分かった」
シンは戦友たちの言葉に素直に頷いて、心を強く持つ。
これから何かが起きるかもしれないと、考えておくのだ。
「あらら。真剣な顔しちゃって。単純ね。アンタも」
「なんだよー」
「別に。文句は無いわ。ただ、観艦式でトラブルなんて、最悪って思うだけ」
「そうねぇ。アグネスの言う通りだけど、狙いやすいのよ実際。色々な人が来るし。警備も緩いしさ」
「ミネルバの時もそうだったものね」
「えぇ、ホント。今でも嫌になる思い出だわ」
アグネスの言葉にルナマリアは応え。
どこか和やかな空気が彼女たちの中に漂ってきた。
が、そんな空気を知ってか知らずか、一人の男が険しい顔のまま近づいてくる。
「お前たち。様子はどうだ」
「問題ありませんよ。ザラ隊長殿ー」
「なんだその言い方は! シン! 本当に大丈夫なんだろうな!?」
「だから、大丈夫だって言ってるじゃ無いっすか! 話聞いてないんすか!?」
「お前の言い方を注意しているんだ! 俺は!」
「あーあ」
「始まってしまったな。まったく」
シンは突如として現れたアスラン・ザラに怒鳴り返し、二人は言い争いを始めてしまう。
それは周囲から見ていると、言い争いなんてモノではなく、ただただ言葉をぶつけ合って争うだけの物に見えた。
その為、ルナマリアとレイはため息を吐きながら、自分たちの不幸を呪い。
二人の争いを止める為に口を開こうとしたのだが……。
『皆さま。本日は新型艦。スーパーミネルバ級MS惑星強襲揚陸艦 ミレニアムの観艦式にお越しいただき、ありがとうございます』
「……ラクスの挨拶が始まった。皆、定位置へと向かえ」
「はーい」
「了解」
「了解デース」
「はいはい」
「しっかりしろ! お前たち」
アスランの小言が響く中、シン達は小走りに自分の持ち場へと向かい、壇上に立っているラクスは変わらない笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。
『
『ラクス様!!』
『っ』
「なんだ!?」
ラクスのマイクに護衛として立っていたヒルダの声が入ったすぐ後に、ラクスが立っていた場所にどこからか銃弾が撃たれる。
それは明らかにラクスを狙った物であり、突如として響いた銃声に観客たちは悲鳴に包まれた。
そして……。
『お前の戯言は聞き飽きた!』
『ここで滅べ! ラクス・クライン!』
会場の上空から数機のモビルスーツが落ちてきて、銃口を壇上のラクスへと向けるのだった。
しかし、オーブ上空から落ちて来たであろうモビルスーツへの対応は非常に早く、オーブ軍ムラサメはそれらの機体に接近して、ラクスを撃たせない様にシールドを構えて立ち回る。
ヒルダは彼らの奮戦を見ながら急いでラクスを安全な場所へと連れて行くのだった。
『我らは長き時を耐えて来た! 傲慢なるナチュラル共との共生! デュランダルの語る甘い理想に従ってやったのも! 全ては奴の傍にセナ様が居たからだ!』
『コーディネーターにも、ナチュラルにも付かないコウモリ野郎! お前らに負ける物かよ!』
『貴様と共に創設したという話なら、キラ様をどこへ隠したというのだ! ラクス・クライン! 卑劣な女め!』
『キラ様を利用し、セナ様と殺し合わせて、平和だと!? 笑わせるな!』
『我らが解放するのだ! 真の自由を!』
モビルスーツから聞こえてくる叫びに、シンは逃げまどう群衆の中を走りながら舌打ちをする。
人は信じたい物を信じる。
キラもセナも互いの理想をかけて戦い、その結果、セナはこの世を去った。
そして、キラも何処かへと消えてしまった。
だが、二人の願いは平和だった筈だ。
デスティニープランをどうするか、それは二人にも意見があるだろう。
しかし、今、世界にある平和を乱して喜ぶような二人ではない。
それだけは間違いでは無いのだ。
シンは走りながら近くのドッグに駆けこんで、一つのモビルスーツを見上げた。
シン達に用意された、これからの世界を担う為に必要な力。
ミレニアムと共に開発された新型。
キラとラクスが共に手を取り合うのなら、これしかないだろうと開発された機体だ。
「シン! 俺がジャスティスに乗る! お前はフリーダムに乗れ!」
「分かった!」
「え? ちょ、決めるの早っ! 私がフリーダムに乗りたかったんだけど」
「ちょっと! シン! 譲りなさいよ! 私の機体よ! 私のフリーダム!」
「お前たちは向こうの機体に乗れ! ワザワザZAFTから新型が贈られてきたんだぞ」
「だから何よ!」
アグネスはフリーダムへと駆けてゆくシンを呼び止めようとしながら、ルナマリアとアグネスに指示を出すアスランに怒鳴り散らす。
それはかなり理不尽な物であったのだが、アスランは慣れているのか、アグネスの事を無視して自分の機体へと走った。
デュランダル議長からキラへと託され、オーブに渡ってからはムラサメの技術も転用されて、現代戦に耐えられる様に改修された機体。
セイバー改。
見た目の変更はほぼ存在せず、エンジン回りと武装。それに操作コンピューターが変更された程度の機体だ。
後は変形する際の挙動等も変更されているのであるが、アスランには関係がない。
あくまで彼にとってはムラサメよりも扱いやすい機体というだけだ。
「上空から侵入とは! オーブは何をやっているんだ! アスラン・ザラ! セイバー出る!」
文句を言いながらも、さっさとセイバーを起動させて、瞬間変形してから戦場へと一気に駆ける。
そして、オーブのムラサメとぶつかり合っている敵機に近づいて、すぐに変形を解除してからビームサーベルで両手を切り落とした。
『なっ! は、はやい!』
「ここで、暴れるな!!」
アスランはそのまま両手にビームサーベルを握って、敵機をバラバラに分解してしまう。
両手両足。全ての武装。
敵を行動不能にする程度まで破壊してから、すぐに次の機体へと向かって行った。
その圧倒的な強さに、誰も何も出来ず。
用意された自機に乗り込んで、意気揚々と戦場に乗り込んできたルナマリアとアグネスは呆気に取られてしまう。
『つっよ』
『キラさんが居なければZAFTのトップエースだったんだし。当然じゃない?』
『アグネス。アンタ、詳しいわね』
『まぁね。前に教本で調べたのよ。そこに乗ってた。ザラ元議長の息子で、キラさんの親友だって』
『経歴だけ聞くととんでもないわね』
『戦いぶりもね。アレが朴念仁アスランだと思うとビックリするわ』
アグネスとルナマリアは協力して敵機を前後から挟んで攻撃しながら武装解除をしてゆく。
そして、二機で安全に戦っている間にアスランはたった一人で敵を制圧しているのだった。
アスランの鬼神の様な戦いに敵の数は減っていくが、シンは初めての起動で時間のかかるフリーダムの調整をしながら、後ろから聞こえてくる半透明の少女に応えていた。
『シン、急いで。上からすごく嫌な気配がする』
「二派目が来るって事だろ。分かった。すぐにでも準備を」
『ううん。これは……』
「ステラ?」
『シン! 聞こえるか! シン! 厄介な奴が現れた! あの大型機! お前が相手出来るか!?』
「大型機!?」
シンは会場のモニターに通信でアスランが言っていた機体を映して、声をあげる。
全身が黒く、手や胴体など、様々な場所に武装が付いている超巨大なモビルスーツだ。
手の大きさとセイバーの大きさが同じくらいである。
「なんだ……これ、デストロイ?」
『ちがう』
「……ステラ?」
『デストロイじゃない。アレはステラしか動かせないから。これは……デストロイよりもサイコフレームを多く使って作った、昔キラとセナが乗ってた機体を参考に作られた……ガンダム』
「ガンダム……?」
『そう。サイコガンダムだ』
ステラの言葉にシンは焦りを滲ませながらもフリーダムの起動処理を終わらせて、操縦桿を握りながら叫ぶ。
新しい時代の幕開けを。
「シン・アスカ! フリーダム! 行きます!」
そして、向かう。
漆黒のモビルスーツと、どこからか暗雲が立ち込めて来た戦場へと。