シンがフリーダムと共に戦場へと向かうと、すぐにシンの元へと緑色のビームが放たれた為、急いで機体を変形させ上空へと飛びあがった。
そして、その直後にシンが居た格納庫が爆散する。
「格納庫が! レイ!?」
『俺は無事だ。シンはどうだ』
「あぁ! 俺は無事だ! それよりも」
『そうだな。話は後だ。まずはあのデカブツを倒す必要がある』
シンは地上に舞い降りながら、格納庫にビームを放ったモビルスーツをビームサーベルで切り捨てる。
そして、燃え上がる大地の上で、ゆっくりと動いている巨大なモビルスーツ、サイコガンダムを見やった。
今は、レイがビームライフルをサイコガンダムに撃ちながら注意を引こうとしているが、装甲が厚いのか、ビームライフルに耐性があるのか。
サイコガンダムはさして影響を受けていない様で、上空に居るレイに向かって指のビームを放つのだった。
レイは器用にもジャスティスを変形させながらビームをかわし、再び横合いからビームを一発放つ。
『効果はないな。このジャスティスも新型なのだが。敵はどういう化け物を造ったんだ』
「レイ! 俺も参戦する!」
『助かる! 地上はアスラン達に任せておけ! 俺たちは、この巨体を潰す!』
「分かった!」
シンはシールドをサイコガンダムに向かって投げながら上空に飛びあがった。
シールドはドラグーンシステムの様に自動で動いてサイコガンダムの腰部を傷つける。
が、その傷はあまりにも浅くてサイコガンダムの動きを止める程ではなかった。
「ふざけた固さだな! これを数百発当てろってか!?」
『小さな攻撃を繰り返しても意味は無い! ジャスティスもフリーダムも核動力じゃないんだ。この攻防戦を続けていてはこちらが倒れる!』
「でも、それならどうすれば!」
『接近戦を仕掛けるしかない』
「接近戦!?」
シンは通信の向こうから聞こえて来たレイの言葉に驚き、声を上げた。
そして、続くレイの言葉に一つの納得を示す。
『この機体は有人機だ。つまり、中の人間の意志が存在する。こちらを攻撃しようとする意志がそこにはある。それを読み取れば、戦う事は可能だ』
「意志を読み取るって言っても!」
『俺はなんとかする。お前は、ステラと共に行け!』
「ステラと!?」
シンはチラリと斜め後ろを見て、ステラへと視線を送った。
ステラはレイの言葉に覚悟を決めたのかふわりと空中を動いて、ゆっくりとシンの前に座り、小さな手でシンの手に上から重ねた。
『シン。回避はステラがやる』
「良いのか? ステラ」
『だいじょうぶ。けど……シンは、良いの?』
「当たり前だ。俺には何も見えないけど、ステラには見えてるだろ? なら、ステラに全部任せるさ」
『ありがと……シン』
「なら……」
『うん。いこう! シン!』
シンは咄嗟の回避は全てステラに任せて、ビームライフルをしまい、両手にビームサーベルを握りしめる。
ビームライフルは、その性質上撃つたびにエネルギーが消費されてしまうが、ビームサーベルで切り続ける限りはビームライフルよりも消費が少ない。
ずっと発生させ続ける関係上、長い目で見ればビームサーベルもかなりの消費があるのだが、それでも、巨大なモビルスーツと戦うのであれば、この方が効率的であった。
レイとの戦いで、ビームライフルが効かない事は見えている。
ならば、動かなくなるまで切り裂いてやると、シンはフリーダムの両手にビームサーベルを構えたままふわりと動きあがり、高速でサイコガンダムへと向かった。
サイコガンダムはシンに巨大な右手を振るって払おうとし、上空に逃げたフリーダムへと右手の指ビームを放つ。
そのビームはあまりにも巨大で、フリーダムを容易く飲み込む事が出来そうであったが、両手を下ろして、翼を小さくし、機体を横に回転させながらソレをかわしていく。
今までのシンとは違う繊細な動きに、シンは少しだけ戦いにづらさを感じたが、必死にステラがサイコガンダムを見ながら回避を行っている様子に、不満は飲み込んで、心をステラに委ねていった。
彼女の回避に合わせて攻撃を加える。
ギリギリな動きでビームの雨をかわしながらサイコガンダムに接近して、武装を切り捨てた。
そして、別の武装で迎撃されたらそれをかわして上空へ。
上空へ逃げたフリーダムへは様々な武装で追撃が行われるが、フリーダムに注意が向かっている時はレイがサイコガンダムに向かってビームサーベルで体を切り付け。
レイが危険だとレイに注目が集まれば、シンがより危険な特攻をしつつ、先ほどよりも深く機体を傷つけるのだった。
これはパターンである。
彼らの戦いはパターンの中にあった。
この戦場で、この戦闘の中で作り出した一定のリズムによるパターンだ。
シンが攻撃し、狙われれば、フリーのレイがかわりに攻撃をする。
そして、レイが狙われればレイは回避に集中して、その間にシンが攻撃する。
言ってみれば大した事のない攻撃作戦であるが、それでもサイコガンダムにとってはあまりにも効果的な攻撃であった。
同時に二機を攻撃する事も出来るが、それでも攻撃は散漫となってしまい、二機にかわされ、攻撃されてしまう。
しかし、一機を先に潰そうと攻撃を集中させれば、もう一機が攻め込んでくる。
分かっては居ても対処法が存在しない最悪の戦法であった。
それでもサイコガンダムは状況に何か変化がある事を願って、二機に攻撃を仕掛け続けた。
どちらか一方が落ちれば戦況は逆転すると。
数多くの仲間たちが参戦して来れば、戦況は逆転すると。
向こうがエネルギー切れになれば、戦況は逆転すると。
なにか、何かあれば……!
何かが起きれば、この戦況は逆転すると。
必死に何かを求めて、サイコガンダムは戦い続けた。
しかし、その願いに応える神はおらず、サイコガンダムは遂に全身を傷つけながら仰向けで地上に倒れる事となった。
もはや抵抗すら出来ず、荒い呼吸をしながらコックピットの中より、忌まわしき二機を睨みつけ、周囲にも聞こえる様に通信を拡散させる。
『私の、負けか』
『同志諸君。これが連中のやり方だ。私がいくらキラ様とセナ様の意志を継いだ機体に乗ろうとも。体を適合させようとも。連中は、彼女たちの意志を踏みにじって、力を示す』
その広域放送は、この戦場だけでなく、オーブに。そして、世界に放送されていた。
それに気づいたレイはシンに叫ぶ。
『シン! これ以上喋らせるな! コイツは無用な争いを呼ぶつもりだ!』
「争いって」
『セナが何を願っていたか忘れたか! あの子はいつだって争いを望んだ事はない! 彼女の命で世界を平和にしたいと願っていたんだ!』
「っ! あぁ!!」
シンはレイの言葉に、右手にビームサーベルを握って、真っすぐにコックピットを目指す。
コックピットハッチを外から破壊し、中のパイロットを外に引きずり出す。
そして、正式な裁判を受けさせて……! それで、キラとセナの想いを伝えるのだと。
シンは考えながら突撃していた。
しかし。
『駄目だ! 離れろ! シン! レイ!』
「っ!?」
『アスラン!?』
『私は負けた。私の理想は砕かれた。しかし、コーディネーターの理想は、キラ様とセナ様が我らを導いてくれる未来は、そこにある。彼女たちは囚われているのだ。助け出せ。同志よ。動け。同志諸君。私に続け!』
男の声に水音が混じるようになり、吐血している様な声も混じり始める。
そして……。
『私は先に逝っているぞ!! ヴァルハラで会おう!!』
男の言葉を最後に、サイコガンダムはコックピット周辺が光に包まれて大爆発を起こす。
それは周囲に居たモビルスーツに大きな影響を与える物であり、サイコガンダムに近づきすぎていたフリーダムはシールドを構えて、爆発の衝撃に耐えようとするが、爆発の勢いは凄まじくシンはその中に巻き込まれてしまうのだった。
それから。
シンはアラートの鳴り響くコックピットの中で目をゆっくりと開けた。
中は暗くなっており、シンは痛みを感じる体を動かして、いくつかの計器を弄る。
しかし、コックピットの中が明るくなる事はなく、シンは苦痛に耐えながら小さく息を吐いた。
そして、まだ生きている正面モニターから現状を見やって舌打ちをした。
あの時、サイコガンダムは自爆したのだ。
手足などは残っているが、コックピットがあったであろう頭部から胸部の上部は全て自爆で吹き飛んでいる。
その影響にフリーダムも、ジャスティスも近くに居たモビルスーツは全て巻き込まれているのであった。
勝ったはずなのに、どこか負けた様な気持ちになりながら、シンは他の者達の状況を見るべくレーダーを付けて状況を伺う。
『シン。大丈夫か?』
「……レイ! お前も、無事か?」
『あぁ。先ほどまで意識を失っていたがな。今は無事だ』
「ハァ……良かった」
『だが、ジャスティスは動かん。そっちはどうだ?』
「こっちも同じだ。エネルギーダウンとかかな? 分からないけど……今はうんともすんとも言わないよ」
『そうか。しかし、不幸中の幸いという奴だな。幸い、戦闘は終わっている様だ』
「……そうか」
シンはレイの言葉に頷きながら戦場を見やる。
戦闘は終わったと言われたが。
自分達は勝利した筈であるが。
サイコガンダムが自爆した影響で周囲には大きな穴が開いており、未だ燃えている火がバチバチと燃え滾っている。
かつて、デストロイが地上を焼き払った時と同じ様に。
この場所にも絶望と死が振り撒かれていた。
観艦式を見ていた者達は無事逃げる事は出来ただろうが、それでも被害者は出ているだろう。
オーブ軍のムラサメだって無傷じゃない。
多くの犠牲が出ている筈だ。
狙われたラクスだって、どうなったか今のシンには分からない。
だから。
戦闘としては勝利していたとしても、この戦闘は間違いなくシン達の敗北であった。
敵は確かに戦闘には負けたが、観艦式を滅茶苦茶にするという目的を達成している。
声だって、戦闘の状況だって世界中に伝えただろう。
この戦闘は世界中に伝えられ、再び暗黒の時代が始まろうとしているのかもしれない。
シンは、モニターの端で燃え盛る火によって燃やされ始めた小さな花を見やった。
「……ごめんなさい。キラさん。セナ」
この日より、再び争いの時代が始まろうとしていた。