新型の巨大モビルスーツと多くのモビルスーツによる襲撃。
それらを迎撃し、新型のフリーダム、ジャスティスを損傷させつつも、戦闘はオーブによる勝利で終わった。
しかし、彼らを招く事になった上空監視を行っていた者は敵のスパイであり、捕まった後に仕込んで置いた毒を飲んで笑みを零しながら死亡。
そして新型巨大モビルスーツが終わり際に放った通信により世界中のテロが活発化する事態となった。
混乱する世界に、コンパスが大きな力を持つ事を世界に示して、世界を平和にしていこうとする観艦式は、更なる地獄絵図を描く事になったのである。
「事態は最悪だ」
「……そうですわね」
「連中を呼び寄せた者は粛清され、会場の犠牲者もごく少数にとどまった。モビルスーツを足止めしたアスラン・ザラ。ルナマリア・ホーク。アグネス・ギーベンラートは素晴らしい行動をした。そして、シン・アスカ。レイ・ザ・バレルは新型モビルスーツを撃破し、ある程度の形を保ったまま戦闘を終わらせている。彼らのお陰でオーブは再び火の海に焼かれる事は無かった。最良の結果であったと言えるだろう」
「ですが、私達が、彼らの行動に報いる事が出来ておりませんわね」
「その通りだ。戦う者達にばかり全てを押し付けてしまうのは、変わらぬ悪癖だ。変わらねばならん」
ナタルはタリアと共に言葉を尽くしていた。
その姿には怒りが滲んでいる様にも見える。
そして、二人を前にしながらカガリはどこか申し訳なさそうな顔をしながら言葉を零す。
「事前にスパイを見つける事が出来なかったのはこちらの落ち度だ」
「何を言うんだい。カガリ。軍内部に居たスパイを見つけるのは至難の技だよ」
「しかし!」
「その通りだ。カガリ・ユラ・アスハ。我らも調査は継続して行っていた。その結果見つける事が出来なかったのだ。行政府に出来る事などない」
カガリの言葉に、同席していたユウナ・ロマ・セイランとロンド・ギナ・サハクは言葉を尽くす。
しかし、為政者としての性質か。
厄介な所ばかりを受け継いでしまった前代表からの悪癖か。
カガリは自分の責任だと落ち込んでしまうばかりだった。
「二人の言いたいことは分かる。だが、奴は死ぬ前に、キラ様が代表であれば。と言ったそうだ。その気持ちは、分かる」
「分かるな!」
「……しかし」
「所詮はテロリストの言った言葉だ。そこに意味など無い。あの女は戦闘こそ一流だが、為政者としては一般人以下だ。とてもじゃないが代表など務まる筈がない。それは貴様が一番よく理解しているだろう!」
「だが、ギナ! 彼女なら、こんな事件は起きなかったのだろう!?」
「けれど、キラが代表となれば、上手く国を動かそうとする僕たちをやっかむ人は居るだろう? 結局変わらないよ。彼らの都合がいい様に世界は動いていない」
「くぅ……」
カガリは涙を滲ませて拳を握りしめる。
まるで子供の時の様な姿であるが、彼女が妹たちや偉大なる父に追いつこうと走り続けている姿を知っている者たちは責める気にはなれなかったのである。
そして、そんなオーブの内情はため息で流してナタルは再び口を開いた。
「ユウナ様の仰る通り、キラ様が代表であったとしても、状況は変わらなかったでしょう。むしろ、より悪化していた可能性すらある。代表はそのままに内部を好きな様に変える事は可能ですからね。彼女は、良くも悪くも真っすぐな人ですから」
「そうだね……うん。可能性は高いと思うよ」
「ですから! 現在の状況は最良と考え、世界で起こっている事に目を向けるべきです」
ナタルはテーブルに世界地図を映しながらいくつかの場所を光で照らす。
その数は数十個あり、世界がどういう情勢になっているのか、よく分かる状況であった。
「昨日までに、確認が出来ているだけでも二十二か所。世界的に発生している襲撃者と同じ思想を持つと思われる人間達の自爆テロです。爆弾を使用し、それを起爆させながら多くの犠牲者を出しています」
「……今まで通りだけど、狙いは政府家系組織に集中しているわね?」
「はい。今までのテロは散発的な、目的のない物でしたが、今回の物は違う。明らかに現政府を破壊ないし、停止させる為に動いています」
「目的はデスティニープラン?」
「おそらくは。そして、彼らは口々にセナ様の復活。セナ様が世界を導いて下さると叫んでいます」
ナタルは深刻そうな顔をしながら現状を語り、現在表示しているテロ事件に被せる様な状態で別の光を映した。
「そして、これが『ブルーコスモス』の起こしたテロ事件です。あの騒動以降、明らかに活動が活発になっており、コーディネーターは彼女たちを利用しようとしているとして、テロを起こしています」
「まるで狙ってたみたいな展開ね」
「おそらくは狙っていたのだと思います。大西洋連邦から流れて来た情報によると、ブルーコスモスを率いているのは『ミケール大佐』なる人物で、アズラエル理事やロード・ジブリールらとは違い、強大なバックボーンを持ちませんが、多くのモビルスーツを運用し、部隊も率いている事から、軍でもそれなりに口が利く人物であると言えるでしょう」
「アズラエル理事は?」
「存じない事態と言っており、大西洋連邦に戻って彼の調査を行っています。ただし、ミケール大佐を捕まえるのは難しいでしょう。彼はゲリラ作戦を行っている様ですし。軍人として、というよりは思想で動いていますからね」
ナタルの悲痛な言葉に、タリアはため息を吐きながら応え、チラリとカガリたちの方へと視線を向ける。
彼らも現状を嘆いており、どうにか対策する術は無いかと考えている様だ。
そんな所に、一つの鋭い声がかかる。
「コーディネーターにせよ。ナチュラルにせよ。テロ事件というには許しがたい犯罪です。確実に減らしていく必要があります。それはキラもセナさんも願った事でしょう」
「……ラクス様」
「先日、あのガンダムが地上に降りて来た日、宇宙でエターナルが襲撃され、テロリストによって撃破されました。悲劇的な事です。艦を動かして下さった方々には申し訳なさもあります。ですが、だからこそ。世界を平和としなくてはいけないと
キリっと引き締めた様な表情で語るラクスに、ナタルは一つの疑問を問うた。
「ラクス様。キラ様にご帰還願う事は出来ないのですか? キラ様がご意思を示せば、コーディネーターのテロ集団は抑えられます」
「出来ません」
「ラクス様……!」
「確かに、ナタル様の仰る通り、キラやセナさんが戻ればこの事件は全て解決するでしょう。そして次は? その次はどうされるおつもりなのですか?」
「……次?」
「はい。今回の事件が終わっても、キラを象徴として置き続ける事は難しい。キラなら頷いてくれるかもしれませんが、彼女の自由を縛り、ただ世界の為に微笑み続けていろと? 不満を内に溜めたまま、問題と言い続けていろと?」
「それは…」
「皆さんの本位では無いでしょう。
「……ラクス様」
「無論、これは
「分かるよ。ラクス」
「……! カガリさん」
「私も同じ意見だ。確かに私の考えは良くない。世界の人々の安全を思えば、平和を考えればすぐにでも事態を収束するべきだ。しかし……それでも、私はあの子の姉なんだ。妹には幸せでいて欲しいと願ってしまう」
「……カガリ様」
ナタルは二人の強い意志を見て、ため息を吐いた。
そして、どこか吹っ切れた様な顔をしながら笑みを浮かべる。
「お二人の考えは分かりました。ですが、そうであれば、これまで以上に私達は頑張らねばなりませんね」
「……ナタルさん」
「グラディス艦長は、どの様にお考えですか?」
「私も同じですわ。あの子達は幼い頃から、世界の為にと働いていたんですもの。自由に休む権利くらい、誰にでもあります」
「そうだな。誰かの犠牲で世界が救われても……同じことをひたすらに繰り返す物となってしまう。我らは変わって行かなくてはいけない。それがセナの意志でもあった筈だ」
話をまとめる様にカガリが想いを口にして、その場にいた者達が強く頷いた。
犠牲は多く生まれるだろうが、それでも。
またセナやキラに動いてもらえば、彼女たちは自らを犠牲とする道を進み続けるだろう。
それでは何も変わらないのだ。
「では、具体的な今後の話ですが……」
『だから、ここは立ち入り禁止だ!』
「……? 何やら外が騒がしいな」
「様子を見て来ましょうか」
タリアは何やら騒がしい外の様子を見てこようと椅子から立ち上がろうとした。
が、その瞬間にブリッジの扉が大きく開かれ、一人の少年が衛兵に抑えられながら中に足を踏み込む。
制服の上は羽織るだけで、体に巻き付けられている包帯が痛々しい少年の名は。
「シン・アスカ! 貴様。医務室を抜け出して何の用だ」
「用だ! じゃありませんよ! 俺は反対です! 確かにキラさんなら、事態を解決出来るかもしれないですけど! まだ俺は負けてないんです! 戦えます!」
「なに?」
「そりゃその方が早いかもしれないけど! キラさんは、別に何もかもが嫌になって出て行ったんじゃないんだ! それを連れ戻すなんて……!」
「コラ! 暴れるな!」
「大人しくしろ!」
「うげっ、お、俺達、だって! 戦えます! そんなに心配ですか!? 俺達じゃあ!」
必死に衛兵に押さえつけられながら叫ぶシンに、ナタルは手で顔を覆って深いため息を吐いた。
カガリはシンの奇行に笑みを向けていたが、タリアもまたナタルと同じ呆れた様な顔をしていた。
「シン・アスカ。落ち着け。我らは、キラ様を呼び戻すつもりなどはない」
「だから……! って、へ?」
「お前がいう様に、我々だけで解決しようとしているのだ」
「そ、そうなんすか? あ、いえ! そうなのでありますでしょうか!」
「敬語がグチャグチャだな。お前は……まったく」
ナタルはため息を再度吐いてから、扉の向こうでシンと同じ様に包帯を体に巻きつけながら立っている少年を見やる。
「レイ」
「ハッ!」
「シンは誤解をしている。二人は医務室で待機している様に」
「ハッ!!」
レイは敬礼をして、シンの元へ行き、外へ引きずり出してから扉を閉めた。
その行動にタリアもナタルも、どこか遠い目をしながら諦めの息を吐くのだった。