ナタルたちが作戦会議をしているミネルバのブリッジへと突撃したシンは、レイと共に医務室へ戻りながら愚痴を零す。
「んだよ。キラさんを呼び戻す話じゃないのか」
「どうやらその様だな」
「アンタは。先走りすぎなのよ。自分の状態分かってる? 傷だって開いてるんじゃないの?」
「俺は大丈夫だよ! 今は戦闘も終わってるしさ!」
シンはルナマリアの言葉に拳を握りしめて示しながら、元気なアピールをする。
だが、ルナマリアもアグネスもどこか呆れた様なため息を返すばかりだった。
「怪我してんのに、艦長の所に直談判しに行くなんて、正気じゃないわね。ホント」
「仕方ないだろー! レイが、キラさんを呼び戻す! なんて言ったから」
「呼び戻す。とは言っていない。その可能性があると言ったんだ」
シンの不貞腐れた様な声に、レイは冷静沈着なまま言葉を返し、弁明をした。
しかし、レイの言っている事はもっともであったため、シンは言葉を飲み込んで別の言い訳を始める。
「それでもさ。そんなのは駄目だって言った方が良いじゃんか。デスティニープランの時だって、何でもかんでもセナに頼って来たから、セナが自分で進めるってあえてデスティニープランの指導者になったんだろ?」
「そうだな」
「キラさんだって、セナのお姉ちゃんなんだ。セナみたいに、世界の争いを止める為にって、自己犠牲とかやるかもしれない。それが俺はいやんだよ」
「……シン」
ルナマリアとアグネスは少し、感心した様にシンを見つめて言葉を漏らす。
「アンタも考えてるのねぇ。山猿の癖に」
「なんだよー」
「別に。素直に関心しただけ。アンタの事だから、キラさんは正しい! ってバカみたいに動いてるのかと思ってた。セナちゃんよりキラさんなのかな、って」
「バカにすんなよ。俺だって自分で考えてる。前の戦いだって、信じたのは俺の判断だった。それは間違いない。まぁ、アスランとかキラさんの考えは参考にしたけどさ」
「やっぱり参考にしてるんじゃないの」
「別に良いだろ! 他の人の意見を聞いたって! 結局俺が判断したんだから、俺の決断だ!」
「まー、そう言えなくもないけどさー」
「文句でもあるのか? アグネスは!」
「別に? 何もないわよ。ただ、ツッコミどころがあったから、突っ込んだだけ」
「嫌な性格だなぁ。お前は」
シンはクスクスと笑うアグネスに言葉を返して酷く嫌そうな顔をした。
が、アグネスはそんなシンにニマリと笑うばかりだ。
そのやり取りは子供同士の戯れの様に見えて、恋人同士のいちゃつきの様にも見えた。
だから……。
「あのさ。話は違うんだけど!」
「んー? どしたの。ルナ」
「どうしたんだよ。ルナ」
「あ、いや……そのさ」
息ピッタリ、タイミングばっちりで振り返ってルナマリアに問うた二人に、ルナマリアは言葉を詰まらせていく。
そして、そんなルナマリアを見ていたレイは二人にルナマリアが聞きたかったであろう事を聞いた。
「シン。アグネス。二人は付き合っているのか?」
「っ! レイ……!」
レイはあくまで冷静な顔のまま質問を投げたが、ルナマリアは予想外な流れに頬を紅潮させながらレイに言葉を向ける。
だが、そんなルナマリアの事は気にしないままシンとアグネスは勢いよく口を開いた。
「は、はぁぁあああ!? おま、お前! レイ! 誰がこんな自己中女の事を好きになるかよ!」
「誰が自己中女ですって!? まだ人類に進化出来てない山猿の癖に! マナーとか教養はどこにおいて来たのよ!」
「別に軍人にそんなのは要らないんだよ! 強ければ良いんだ! 俺たちは!」
「誰が決めたのよ! 誰が! 言っとくけどね! エリートになると会議とか会食の場とかに行く事も多いんだからね!? 最低限のマナーくらいは身に着けておきなさいよ! 恥かくのはこっちなんだからね!」
「うっさいな! 別にどうだっていいだろ! それに、俺よりもそういう場によく行ってたキラさんは適当だったぞ!」
「キラさんは良いのよ! キラさんは! 可愛いんだから!」
「なんだ、その理屈は!」
「キラさんが正しいって理屈よ! 文句あるの!?」
「いや、無いけど」
レイの疑問をキッカケとしてシンとアグネスの戦いは始まり、廊下の真ん中で二人の言い争いは過熱してゆく。
それは通り過ぎようとする人々を遠ざける効果があり、一般兵は彼らを見て、別のルートを進み始める。
そして、二人を避ける様に遠回りをする者達とは別に、コンパスの制服を綺麗に着こなした藍色の髪の青年は彼らに真っすぐに近づいて、怒鳴り声を上げた。
「廊下の真ん中で何だ! お前たちは! 何を騒いでいる! ここは軍艦の中だぞ!」
「げ。アスラン」
「今は呼んでないですから、しっし」
「上官に向かってなんだ! その態度は! コンパスに参加する事でZAFTにも階級は生まれたし、当然コンパスにも階級はあるんだぞ!」
「はいはい。ごめんなさーい」
「アグネス・ギーベンラート!」
アスランは怒りのままに叫び、場はどんどん混乱していくのだった。
そして、そんな彼らも新型機の改修も終わり、搭乗機がミレニアムへと移されてからはミレニアムで過ごす事となった。
「これからは正式にお前が『ライジングフリーダム』のパイロットだ。シン」
「ライジング……フリーダム……!」
「そして、『イモータルジャスティス』はレイが搭乗する。この二機は可変機であり行動能力も高いが、核動力では無い為、エネルギーには気を使え」
「アンタは……! ジャスティスじゃなくて良いのか?」
「あぁ。お前はフリーダムという名前の機体に乗れて嬉しいようだがな。俺はどんな機体でも構わん。それがプロという物だ」
「イチイチ一言多いな、アンタは……!」
シンは格納庫の中で、灰色になっているフリーダムの前でアスランに文句を言った。
だが、アスランはどこ吹く風という様子で、少し離れた所にある機体を見やる。
「それに、俺はフリーダムやジャスティスよりも機動力の高いセイバーに乗る。指揮は俺が取る。だから、お前は機動力に任せて戦況把握をする必要はない。細かい事は俺に任せておけ」
「俺じゃアンタの仕事は務まらないって、アンタはそう言いたいのか!」
「そう聞こえたのなら、そうかもしれないな」
「なにぃ!?」
シンは自分で言った言葉に、自分で噛みついて、グルルとアスランに対して威嚇をする。
が、アスランはそこまでシンと付き合うつもりはなく、平然と彼の言葉を流して次の話題に進んでゆくのだった。
そんなアスランにシンは軍人として、後輩として付いていく必要があり、ひとまず威嚇を止める。
が、別にアスランへの好意が高まった訳では無かった。
「そして、ルナマリアとアグネスにはZAFTよりギャンシュトロームが配備された。ルナマリアにはゲルググメナースを配備するという話もあったがな。あまり機体を分散しすぎると整備も大変だ。故に白と赤でカラーリングして、それぞれの機体だと分かる様にした」
「白が、アグネスで、赤がルナマリアですか」
「そういう事だ。本人たちの希望もあってな。アグネスはフリーダムに近い白色が良いと言ったそうだ。モテモテだな。シン」
「いや、アグネスは俺になんか興味ないと思いますけど」
「そうなのか? では、フリーダムと並び立つように赤が良いと言ったルナマリアも……」
「ルナがそんな事、言ってたんだ……!」
シンはどこか希望を持った様な目で、赤いギャンシュトロームを見やる。
その態度の違いに、アスランはため息を吐きながら若い奴の気持ちは分からないと呟いた。
そして、作戦があるから後でブリーフィングルームへ来いと言い残して格納庫から去っていくのだった。
ところ変わってブリーフィングルーム。
ブリッジクルーや整備員との会話も終わり、シン達はブリーフィングルームへと集まった。
「挨拶ご苦労。では、これからの話を始める」
アスランはブリーフィングルームの中央にあるテーブルに世界地図を映して、さらに外れた場所に地球軌道上の図面を映した。
「これは世界地図であり、この光で示された場所はテロが起こった場所である」
「……こんなに」
「随分と様々な場所に散っていますね。しかし、全て政府組織を狙ってる。これは同一犯ですか?」
「その通りだ。レイ。これは全て同一犯である」
「……狙いは、デスティニープランを再び使用する事ですか」
「あぁ。デスティニープランを施行する為には、現在の政府は邪魔であり、世界に混乱を起こせば、優しい彼女は必ず顔を見せるからな。まさに一石二鳥の作戦という事になる」
「……ムカつくな」
シンはアスランとレイの応酬を聞いて、感情を吐露する。
あまりにも真っすぐで、強い言葉にルナマリアはどこか心配そうな顔を向けるが、レイとアスランは小さく笑みを作った。
「シンの言う通りだ。セナを思うままに動かせると思われるのは腹立たしい。セナの意志はセナの物だし。セナの意志を継いだキラがデスティニープランの支配者になるなど、理想ではなく悪夢だ。故に、我らはこれを砕かねばならない」
「隊長? この白い光はテロなんですよね? では、この蒼い光は」
「ブルーコスモスだ」
「……! ブルーコスモス!」
「今回のテロ騒動はコーディネーターが中心である為、彼らも動き始めた様だ。当然ではあるが、これも潰す必要がある。世界平和の為にはテロ組織など必要はないからな」
「はい」
「基本的に乗艦するのはミレニアムであるが、ミレニアムは地球軌道上へと上げる。そして、モビルスーツだけを地上に向かわせて高速戦闘で制圧した後に、地上を動くミネルバが我らを回収し、再び宇宙へと上げる作戦だ。費用はかかるが、宇宙からの攻撃なら敵は察知しにくいし、行動も見えづらい。そして、妨害もされにくい。という三つの利点がある。何か意見のある者は?」
アスランの話を聞いていた四人は静かに首を振る。
それを見て、アスランは分かったと大きく頷いて言葉を続けた。
「承知した。では、この作戦を実行する。我らは宇宙のミレニアム。地上のミネルバと交互に移動する事となるが、何かあればすぐに言え。状況の改善は考える。だが、忙しいという話は言うだけ無駄だぞ。世界は俺達を気にしてはくれないからな」
「はい!」
「俺達が動けば動くほどに、キラを求める声は減っていく。みな、気合を入れろ」
「はい!!」
「では、作戦はこのまま進める。各自、作戦開始まで待機。以上だ」
アスランは言葉の跡に敬礼をして、シン達も応える様に敬礼を返すのだった。