第264話『アスラン・ザラ! セイバー出る!』
音の響かない宇宙。地球軌道上に一つの戦艦が重力に引っかからない範囲で行動をしていた。
それでも地球には限りなく近い場所を航行しており、何かあれば地球に落ちてしまいそうであるが、艦に搭載された制御装置がその様なミスは許さない。
そして、目的の場所へと航行しながら、部隊の隊長であるアスランへと言葉を向けていた。
『後、十分で目的の場所に到達する。パイロットは出撃準備!』
「承知いたしました。艦長」
地球軌道上を走る戦艦、ミレニアムのブリッジから聞こえた声に、アスランは自機の計器を確認しながら通信でメンバーへと言葉を向ける。
「聞こえたな? 出撃まで後、十分だ」
『はーい』
『了解です』
『ハァー。これが終わったらゆっくりしたいわ』
『出る前から愚痴らないでよ。アグネス。テロが悪いんでしょ。テロが』
『分かってるっての』
通信の向こうから聞こえてくる女子二人の会話を聞きながらアスランは作戦において重要な事を口にしていった。
「戦場はオルドリン自治区。コーディネーターの駐留軍が敵の狙いだ。ただし、オルドリン自治区にはナチュラルも多く居る」
『いつものブルーコスモスって事ね』
『ホント、考え知らずなんだから』
「油断するな。『いつもの戦闘』とは言え、戦闘は戦闘だ。気を抜けば手痛いしっぺ返しを受けるぞ」
『『はぁーい』』
「まずは俺が出撃する。次に、シンとレイ。そしてルナマリアとアグネスだ。地上降下はいつもの事だが、油断するなよ」
『『『『了解!』』』』
威勢の良い返事を聞きながら、アスランはカタパルトへ向けて移動していく機体の中で静かに心を決める。
いつもの事ではあるが、出撃前にはこうして心を落ち着かせているのだ。
『カタパルト接続。全システムオンライン。超電導キャパシタ1番から10番臨界到達。誘導システム異常なし。進路クリアー。セイバー、発進どうぞ』
「アスラン・ザラ! セイバー出る!」
『続いて、フリーダム。カタパルトへ』
次々と慣れた仕草で出撃してゆく後続のモビルスーツを確認しながらモビルアーマー形態へと変形し、該当のオルドリン自治区へと大気の熱に焼かれながら降りてゆく。
『アスランさん。現地の情報。出ました。例のサイコフレームを使用していないデストロイが存在する様です』
「……デストロイか」
『はい。以前の様な脅威はありませんが、火力、装甲。共に一般のモビルスーツでは相手になりません』
「分かった。では、まず俺から先制攻撃を仕掛ける。シンとレイは……」
『えぇー!? 劣化デストロイの相手なら俺がやりますよ! セイバーの方が動けるんだから!』
『それを言うのなら、近接武装が多いジャスティスの方が作戦に向いているだろう。フリーダムとセイバーは多彩な武器が魅力だ。戦場を制圧してくれ』
『いや、俺が!』
「二人とも黙れ! デストロイの相手は俺がやる。皆は、他モビルスーツの迎撃と撃破。大物でなくても戦場へ与える影響は大きい」
『ちぇー』
『了解しました』
「そろそろ大気圏を抜けるな。各自、行動開始! ルナマリアとアグネスは戦場を確認しつつ、避難民の多い場所の護衛を頼む」
『了解しました』
『りょーかい』
「行くぞ!」
セイバーは大気圏を抜けた事で、地上へ向けて加速し、セイバーの接近に気づいたデストロイの攻撃をするりとかわし、変形したまま接近して、急接近してから即時変形でデストロイの右腕を切り落とした。
そして、モビルスーツ形態のデストロイに接近した状態のままいくつもの火力を撃ち、デストロイを無力化させてゆく。
その動きの早さにシンは横目でアスランの戦闘を見ながら流石だな。なんて心の中で思うのだった。
その間にも、テロリストの使うモビルスーツを素早い動きで封殺しており、アスランがデストロイを撃破してから逃げ出そうとする敵モビルスーツを見逃しているのだった。
しかし、シン達が敵モビルスーツを追いやっていると、今まで追い詰められていたZAFTのモビルスーツが武器を持って、テロリストのモビルスーツを襲っていく。
「何をやっているんだ! お前たちは!」
『黙れ! キラ様気取りの戦闘狂が!』
「なに……!?」
『キラ様の様に、武装を奪って、戦闘力を殺して、それで何が解決する! 殺された仲間の恨みはどこに向ければ良い!』
「っ!」
『我らの! 邪魔をするな!! キラ様なら、我らを止めはしない!』
ZAFTのモビルスーツは数多の武器を持って、テロリストのモビルスーツを攻撃してゆく。
テロリストたちは抵抗する事も出来ないまま逃げようとするが、憎しみで動く彼らから逃げる事は出来ず、破壊されてしまうのだった。
そして、一機のモビルスーツが爆破したことで、アスランは自分を取り戻し、ZAFTのモビルスーツの武装を破壊して、その戦闘を止める。
「止めろ! これ以上! 争いは止めるんだ!」
アスランは必死に叫びながら戦闘力を奪い、その場での戦闘行為を鎮圧していった。
だが、戦闘が終わってからアスランは苦い想いをしながら救援に来たミネルバを見上げる事となったのである。
そして……。
「まぁ、難しい問題ですわね」
「……はい」
「戦力差を考えると、駐留部隊が一方的に攻撃されて、それでも現地民を守るために奮戦していたワケでしょ。そこには正義があったワケよ。けれど、あなた達が来る事で、その正義に、邪な感情が生まれた。護るために奪えってね。それは前の大戦でも同じだった。ZAFTはヤキン・ドゥーエ攻防戦で自国、自国民を守る為ならば、ジェネシスすらも仕方ないと割り切っていたわ。今回も同じね」
「そう、思われます」
暗く沈んだ顔をしているアスランに、タリアはハァと小さくため息を吐いてから言葉を尽くす。
今は何を言っても届かないだろうけど、今のアスランには言葉が大切だと思ったからだ。
「誰にだって、正義と理想があるわ。けれど、それが世界にとって正しい訳じゃない。あなたはよく分かるでしょう? アスラン・ザラ」
「……」
「少し休みなさい。明日になったらまた宇宙に戻るわよ。休めるうちに休むのも兵士の務めだわ」
タリアの言葉にアスランは軽く礼をしてからブリッジを出て行った。
そして、廊下を歩きながらしばし考え事をしていたのだが、廊下の先で壁に寄り掛かりながらアスランを待っていた男を見やる。
「情けない顔っすね。もう疲れたんすか?」
「俺は別に疲れてはいない」
「キラさんなら、もっと上手くやるんじゃいないかって思ってるんじゃないですか!?」
「何が……! アイツは隊長など向いていない。誰かに命令されるのも、誰かに命令するのも向いていないんだ」
「けれど、俺はキラさんにお願いされたら、何でも出来ますけどね。『敵に攻撃を仕掛けようとしてるモビルスーツを停止しろ!』とか」
「っ! シン!」
アスランは怒りのままにシンの胸倉を掴んで叫ぶ。
だが、そんな状態でもシンは変わらずにアスランを睨んだまま続く言葉を口にしていた。
「全部自分で背負えるとか思わないで下さいよ……! アンタは別に神じゃない! どれだけ優秀だって人間だ」
「……!」
「キラさんが隊長に向いてないって、アンタ言いましたね? えぇ、それは間違いないっすよ。あの人と一緒に戦って、あの人に戦い方を教わって、人の上に立つ人じゃないって、分かる! あの人には誰も追いつけないから、結局、あの人が全部片付けた方が早いのは分かる!! けどな!!」
シンは胸倉をアスランに掴まれたまま、逆にアスランの胸倉を掴んで叫ぶ。
ここで感じていた想いを。
今、シンの中に眠る、爆発しそうな感情を。
「キラさんは! 俺がやるって言ったら! 任せてくれるんだよ! 信じてくれるんだよ!! 幻影のキラさんを追いかけてるアンタとは、違ってな!!」
「シン!!」
アスランは怒りのままにシンを殴りつけた。
そして、床に倒れるシンを見て、しまったと一瞬考えたが、それを表に出す事はしない。
「おーいて。急に殴るなんて、アスランらしいっすわ」
「……シン」
頬に手を当てて、赤くなった頬を手でさすりながら、どこかいたずらっぽい顔で、シンはアスランに言う。
「ウジウジ悩んで、考えて、だんだん荒くなってるんすよ。色々な事が」
「……」
「アスラン。アンタが理想とする隊長は、部下に生意気な事を言われて、突然殴る男なんすか?」
「……違うな」
「そうでしょ?」
ニカッとシンは笑い、アスランへと笑顔を向ける。
殴られている為、どこか歪な笑顔の為、痛々しくはあるが、その気遣いがアスランにはありがたかった。
「すまん。シン」
「良いっすよ。別に。あいつらの言ってた事、俺もムカつきましたしね。なーにが、キラさんならーっすか。ありもしない理想を語られるのは、気分悪いっすよ。ホント」
「そうだな。俺も、そう思う」
頭の後ろで手を組んで、地面を蹴る様な仕草で歩くシンに、アスランは苦笑しながら応える。
そして、どこか憑き物が落ちた様な表情となったアスランに、シンはここぞとばかりに要求を増やしていくのだった。
「良い隊長は頼られる事だって知ったじゃ無いっすか。次回の戦闘は俺が先に行くんで」
「生意気な事を言うな。俺にシミュレーションで勝ってから言うんだな」
「はー!? デスティニーに乗ったら、アンタなんかボッコボコなんだが!?」
「サイコフレームが使われているデスティニーは封印中だ。無茶を言うな」
「くぅー! ムカつく!」
「お前はすぐに腹を立てているな。そういう病気か?」
「アンタのせいですよ! アンタの!」
シンはアスランに叫び、アスランはその横をいつもの装いで歩く。
喧嘩はしているが、これもまたいつもの光景であった。
そして、そんな二人を背後から見ていた三人は安堵した様な顔をしながら食堂へと向かう。
「ハァー。何とかなって良かったわ」
「隊長が苛立っていると士気に関わるからな」
「張りつめすぎなのよ。隊長は」
「しかし、シンの様に、いつも抜けていては困る」
「「確かに」」
どこか穏やかな空気になった三人はそのままとりとめのない話をしながら歩き続けるのだった。