ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第26話『遅くまでご苦労様です。サザーランド中佐』

 アズラエルとの会談も終わり、一緒に付いてきたオーブの関係者が待つ部屋に戻ったキラは、大きなため息を吐きながらソファーに深く座り込んだ。

 そして、ほぼ言葉を発する余裕のなかったウナトも大粒の汗をハンカチで拭いながら、生きていて良かったと胸を撫でおろす。

 平然としているのはセナくらいの物だろう。

 

「お疲れ様。どうやら無事に終わったみたいね」

「うん。交渉の第一段階としては、百点って感じかな? ね? ウナトさん」

「えぇ……本当に死ぬかと思いましたが、生きているので、百点でしょうな」

「交渉ってやっぱり大変なのねぇ」

「そりゃそうだよ。ここに社会科見学気分で来てるのは、ミヤビ姉さんくらいでしょ」

「あっはっは。確かにねー。妹たちの活躍。確かに見届けましたとも!」

「笑い事じゃないよ。まったく」

 

 ケラケラと笑うキオウ家の息女であり次期当主である『ミヤビ・オト・キオウ』は、淡い紫色の短い髪を僅かに揺らしながら、薄いアイスブルーの瞳を細めて、最近仲良くなった妹の様な存在を見つめる。

 キラやセナと同じコーディネーターである彼女は、ブルーコスモスの危険性をよく理解しており、ここが敵地も敵地。居るだけで寿命が縮む場所である事はよく理解していた。

 

 だからこそ、そんな組織の親玉と交渉してきたというキラやセナには驚きと憧れの念を抱いているし。

 これからの世界とオーブの事を考えれば、二人の様な人材こそ必要不可欠とも考えていた。

 

 もし、この部屋にブルーコスモスの兵隊が飛び込んできても、二人だけはこの身を呈してでも守らなくては。

 と考える程度には、命をかけてこの場所に居るのだ。

 しかし、そういう感情は表には出さず、内側に秘めたまま何でもない事の様に笑う。

 それがミヤビという人間であった。

 

 そして、そんなミヤビとは違い、不安も決意もハッキリと表に出している男、ユウナは三人の帰還に安堵の息を漏らしながら、これからの事を問うた。

 

「それで父上。次の交渉はどうなっているのでしょうか。一度オーブへ帰還を?」

「いや、アズラエル氏はキラ様やセナ様は残れと仰った」

「それは……!」

「あぁ。流石に容認は出来ない。だからどうにかオーブで開発が出来ないかと交渉を……「その必要はないと思います」……セナ様?」

 

 ウナトの言葉を遮るように発せられたセナの言葉に、部屋の中にいた誰もがセナへ疑問を混ぜた視線を送る。

 しかし、セナは何も気にした様子を見せないまま言葉を続けた。

 

「アズラエルさんの家には私が向かえば良いでしょう。そこまで難しい仕事ではありませんし」

「セナっ!」

「キラお姉ちゃんはモルゲンレーテでやる事がありますよね? こちらへ向かう前に、サハク家の方々から話があると言われていましたし」

「それは、そうだけどさ」

「時間もありませんし。出来る事は早く進めるべきかと思います。世界の動きは思っているよりも早いですから」

「でも、それはセナが残る理由にはならないでしょ。残るなら僕が残るよ。開発はセナだって出来るんだから! 安全なオーブで!」

「キラお姉ちゃん」

「……!」

「モルゲンレーテの件は作って終わりではありません。皆さんの訓練も必要です。皆さんに訓練が出来るのは、キラお姉ちゃんだけですよ」

「……でも!」

 

「そんなに心配しなくても、私は大丈夫です。昔から悪運が強い方ですから」

 

 セナはニッコリと微笑んで、キラの意見を無理矢理封殺してしまう。

 キラはまだ何か言いたそうにしていたが、オーブとしての国益を考えれば、この決断が一番だというセナの意見に、ウナトも反対意見は出せず、無理やりにでもキラはオーブに帰還させる事にするのだった。

 

 そして、改めて部屋に通信を送ってきたアズラエルに、セナは自分だけ残るので、キラは返して欲しいと交渉を行い。

 最初は難色を示したアズラエルも、何度か言葉を重ねている内に、仕方ないですねぇ。と言いながら許可を出すのだった。

 

 それから。

 アズラエル以上に反対していたキラの意見を抑え込んで、ウナトたちはキラを連れてオーブへと戻って行った。

 一人残されたセナは、車イスに乗ったままアズラエルの元へと向かう。

 

「やれやれ。これでは君の方が姉の様ですね。彼女は少々子供すぎる」

「心配なのですよ。私が子供だった頃にブルーコスモスのテロで撃たれていますから」

「それは可哀想に。同情しますよ。コーディネーターに生まれてしまった不幸という奴ですね」

「ありがとうございます」

「……僕は今、嫌味を言ったんですよ」

「はい。分かっていますよ。ですが、私が生まれてしまった事が間違い。というのは正しい意見ですから」

「……はぁ。まったく」

 

 アズラエルはニコニコと笑うセナの前で大きなため息を吐いて、呆れた様な声を漏らした。

 

「そういう言葉は姉の前では言わない事だ。過保護が過激になりますよ」

「……気を付けます」

「えぇ。それが良いでしょう。では仕事場に案内します」

「お願いします」

 

 

 C.E.(コズミック・イラ)67年3月9日

 セナがアズラエル家に来てから、一年ほどの時間が経った。

 アズラエル財閥の管理システムに関する防衛プログラムは既に開発が完了しており、現在は大西洋連邦の軍本部の防衛プログラムを設計している最中である。

 

「ふむ。こんな所ですかな。細かい課題はまた次回の会議で確認という事で」

「お願いします。遅くまでありがとうございます。サザーランドさん」

「いえいえ。これが完成すれば、コーディネーター共に作戦が洩れませんからな。気合も入るという物ですよ」

 

 何とも反応しにくい言葉を飛ばしてくる大西洋連邦軍本部付けのウィリアム・サザーランド中佐に、セナは曖昧な笑みを向けながら頷いた。

 アズラエル家の客間から見える外の景色は暗闇に包まれており、既に時刻は深夜といかないまでも、かなり遅い時間だ。

 それなのに、軍服を乱す事なく整えて、背筋を伸ばしながら話すサザーランドは軍人の見本ともいう様な存在である。

 その言動や思想が、あまりにも偏っている事を除けば。

 

「どうやら終わった様ですね。遅くまでご苦労様です。サザーランド中佐」

「いえ。遅くまで失礼しました。アズラエル様」

「いやいや。このくらいは構わないですよ。これから宇宙の化け物と戦うんだ。出来る事は早い方が良いでしょう」

「そうですな。では申し訳ございませんが、また何日か遅い時間まで会議をさせていただきます」

「えぇ、分かりました。こちらこそよろしくお願いしますよ。人類の為に」

「えぇ。人類の為に。励ませていただきますよ」

 

 クックックと笑う二人は、実に悪らしい姿をしていたが、既にセナは慣れていた為、二人をそのまま放置し、扉の向こうからこちらを伺っていた子供に手を振る。

 扉の影からこちらの様子を伺っていた、その幼い少女は父親譲りの長い金髪をなびかせながらセナの足元に飛び込んだ。

 

「セナ!」

「はい」

「もうお仕事は終わり?」

「はい。終わりましたよ」

「じゃあ、遊びましょー! 今日はね。今日はね。お父様が新しいお人形を買ってきてくれてね!」

「あー。マリー? 悪いけど、セナはまだお父様やサザーランド中佐と話があるんだ。お部屋で待っててくれるかな」

「えー。ヤダー。マリーずっと待ってたもん」

「あー、うん。そうだね。それは凄く偉かった。だけど」

「ヤーダー!」

 

 セナにしがみついたまま首を横に激しく振ってイヤイヤをするアズラエルの子供マリーに、アズラエルは小さく嘆息すると、サザーランドの方へと視線を向けた。

 視線の意味は、娘が同席しても構わないか。という様な物だ。

 

「私は構いませんよ」

「悪いね。じゃあ、セナ。悪いけど。マリーの相手をしつつ聞いてもらえるかな」

「はい」

 

 アズラエルの提案にセナは微笑みながら頷いて、マリーもまた嬉しそうにセナと共に客間のソファーに移動する。

 そして、車イスから何とか立ち上がったセナの手を握りながら一緒に高級なソファーへと座るのだった。

 

「どうやらセナ嬢の体はだいぶ良くなってきた様ですね」

「医者が言うには、来年には歩けるようになるんじゃないかって話さ。無論リハビリは必要だろうけどね」

「そしたら一緒にお出かけ出来るわね!」

「僕としては、家の庭で遊んでいて欲しいけどね。どうやら君の存在を嗅ぎ付けた連中がいるみたいで、外は少し騒がしくなってきたよ」

「私の、ですか?」

 

 セナは隣に座ってニコニコと笑っているマリーの頭を撫でながら、正面に座るアズラエルに問うた。

 

「あぁ。どうやら君を『奪還』しようと、コーディネーター連中が動いているらしい」

「奪還とは、妙な事を言いますな。セナ嬢は自らの意思でアズラエル様のお傍にいるというのに」

「まぁ、コーディネーターが僕らの傍にいるという事が許せない連中もいるって事さ。ナチュラルだからコーディネーターを利用しているに違いないとでも思っているんだろう。だから、コーディネーター様の巣に連れ去りたいんだろう」

「ふーん。コーディネーターって勝手なのね」

「そうさ。マリーも気を付けないと、化け物共に攫われちゃうよ?」

「きゃー。こわい!」

 

 アズラエルの脅しにマリーは軽い悲鳴を上げながらセナに抱き着いた。

 が、当のセナと言えば、そんなマリーを安心させるように撫でながらも、特に表情は動かず、平坦なままアズラエルとその隣に座るサザーランドへと向ける。

 

「では、私はどうしましょうか」

「うん。話をしたい所はまさにそこでね」

「はい」

「サザーランド中佐にお願いして、連邦軍人を何人か呼ぶっていう手もあるけど、それで連中を刺激して、テロでも起こされちゃ面倒だ。だから……一度君にはオーブに帰って貰おうかと思ってさ」

「なるほど」

「今日もキラからしつこく連絡が来ててね。面倒だし。一度里帰りというのも良いだろう。と、僕は考えたワケなんだけど、サザーランド中佐はどうかな。問題がある様なら、別案を考えるけど」

「いえ。我々は問題ありませんよ。防衛プログラムの設計は順調ですし。セナ嬢には以前、基地の施設もいくつか見ていただきましたからな。こういう機会に休んでいただければと思いますよ」

「そうだね。では、そういう訳だから、キラには僕から連絡しておくよ。向こうの事だから、すぐにも飛んできそうだけど。まぁ、明日の朝までには帰れる準備をしておくんだね」

「はい。分かりました」

「えぇー。セナ、どっかに行っちゃうの? ヤダヤダ」

「悪いね。こればっかりはお父様も頷けないんだ。またコーディネーター共が落ち着けば家に居られるから」

「ぶー! コーディネーターなんかみんな死んじゃえば良いのに!」

 

 セナはオーブへ戻れると、小さく息を吐きながら目を伏せるのだった。

 それから、アズラエルの言葉通り、オーブからの使者はあっという間にアズラエル家まで来て、まだ夜だというのに、攫って行く様な勢いでセナを連れて大西洋連邦を離れるのだった。

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