地球へと向かうナスカ級の中で、ラクスはカガリからの長距離通信を受けた。
「ファウンデーション王国、ですか?」
『あぁ。以前キラを閉じ込めた気に入らない国さ』
「……そのファウンデーション王国が、我々に依頼。ですか」
『何か企んでいるんだろうがな。よく分からん。キラは居ないし。依頼はあくまで戦闘支援だ』
カガリが両手を上げながら降参だと示しながら語った言葉に、ラクスはしばし考えるようなポーズを取った。
しかし、それも少しの間だけで、彼女はすぐに決意を込めた表情でカガリに語る。
「では、次の戦闘はファウンデーション王国での戦闘支援ですわね」
『っ!? 正気か!?』
「えぇ。無論。彼女の言うように、世界がかつてと同じ歴史を歩もうとするのであれば、あえて流れに逆らわないで進む事も必要かと」
『……そうか。まぁ、お前が言うのならそうすれば良い。私はオーブでドッグの準備をしていれば良いんだろ?』
「はい。細かい差異はありますが、流れは通常通り進行すると思われます」
『了解した。しかし、キラが居ない以上、何が起きるやら』
「そうですわね」
ラクスは少しばかり困った様に笑って、呆れた様な表情をしているカガリに言葉を向けた。
そして、カガリとの長距離通信を終わらせて、ナスカ級を地球軌道上にいるミレニアムへと向かわせる。
それから。
ラクス達は半日ほどでミレニアムへと合流し、ラクスはミレニアムのブリッジへと移動する。
ラクスの護衛をしていた者達は様々な理由を付けてブリッジへと入ろうとしたが、艦長であるコノエはブリッジ要員以外は立ち入るな。と強気な態度でそれを拒否した。
それに護衛達は不満そうな顔をしていたが、主であるジャガンナートからの命令もある為、いつでもブリッジへ入る事が出来る様にと、独自にミレニアム艦内で行動を開始するのだった。
「まったく。彼らには困った物ですな」
「追い出してしまえば良いのではないですか?」
「そうすれば、
「本当に面倒な話ですなぁ」
「しかし、こうしてブリッジの方々と
「その程度は当然ですよ。我々も彼女から話を聞いた時には驚きましたが、まさか本当にファウンデーション王国から依頼が入るとは」
コノエがおどけた様に言った言葉にラクスは少しばかり眉をひそめて暗い宇宙の中にいても、目を逸らす事が出来ない程の光を放つ星を見やる。
宇宙へと進出し、コロニーという偽りの大地を作ったとしても、そこで生まれ育ったとしても、目を逸らす事が出来ない、母なる大地。地球。
「彼らの狙いは無視できません。そして、ジャガンナート中佐が我らと敵対する道を進みながらクーデターの準備をしている様に、彼らもまたこれより起こそうとしている事で世界にその名を示すでしょう。
「そうですな」
「しかし、これより波乱が待っているという事であれば、彼らにも情報は共有するべきでは?」
「必要ありません。彼らは強い。どの様な事態に陥っても、彼らなら対抗する事が出来るでしょう」
ハインラインの疑問に、ラクスは淑やかに応えを投げ、ふぅと小さく息を吐いてから地球より上がってくる5機のモビルスーツを見やった。
いつも通り、予定通りに行動し、変形し、大気圏内を飛べるようになったセイバー、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスの三機。
そして、その三機に続く様に使い捨てブースターに掴まって宇宙空間まで上がって来たギャンシュトロームの二機だ。
「五機。無事に大気圏を突破。地上のミネルバは通常航行に移行し、オーブへと向かう様です」
「承知した」
『艦長。無事、任務を達成しました』
「報告ご苦労。アスラン。着艦し、そのまま自室で休んでくれ。報告は寝てからで良いよ」
『はい』
アスランは短く通信で用件を伝え、彼らを受け入れてからコノエは斜め後ろに居るラクスへと視線を向ける。
「彼らも戻って来た事ですし。ファウンデーション王国へと向かいますか?」
「えぇ。ただし。彼らがゆっくりと休める様に、ゆっくりと進行してください。今はまだ、急ぐ理由はないのですから」
「承知いたしました。聞こえたな? エンジン始動。航行開始」
「エンジン始動。航行開始!」
コノエの声に応えて、ブリッジがにわかに慌ただしくなる。
そんな声を聴きながらラクスはブリッジを出て、コノエに与えられた自室へと向かうのだった。
そして、誰も入れない様にと扉を閉めて、鍵をかける。
「……ハァ。楽じゃないわ。この仕事。ホント、緊張する」
ラクス、と名乗っていた女性は誰もいない部屋の中、ゆっくりと体を伸ばして肩のコリをほぐしてゆく。
周囲にはラクスであるとバレない様に立ち回っている為、余計に緊張してしまうのも原因の一つにあった。
「だー。疲れた。私もひと眠りするかぁー」
誰に聞かせるワケでもなく、仰向けでベッドに倒れ込んで独り言を呟く桃色の髪の女性であったが、不意にテーブルの上に置いてあったPCが着信を告げている事に気づいた。
そして、両足を天に上げて、それを下ろしながら勢いを付けて跳び起きる。
「はいはいはい」
向こうには聞こえていないだろうに、声を上げながら通信を繋いで、喋り出した。
「こちら、ラクス・クライン様ですわ~。
『相変わらずな奴だな。それでラクス・クラインのフリが出来ているのか?』
「当然。って、こんな話通信で話してて良いんですの? 聞かれたら大変ですわよ?」
『急にラクスのフリをするな。今は素のままで良い。この通信はメイリンが制御している。この通信を盗聴出来る者など、キラか、セナくらいの物だ』
「そう。なら、安心ですわね」
女性は息を吐きながら椅子の背もたれに寄り掛かって、休日の様にゆったりとした姿になった。
整えていた髪をほどいて、服をはだけさせながらコップを持ってきて、少し離れた所にある冷蔵庫からジュースを取り出す。
『通信は傍受されないが、酒を飲んでも良いとは言ってないぞ』
「分かってるわよ。コレはジュース。とりあえず仕事終わるまでは飲まないから」
『それなら良いがな』
通信向こうから聞こえる小言に、女性はフッと笑いながらコップの中にあるジュースを一口飲む。
彼から情報が来たという事は、かの国で何が動きがあったのだろうと。
「それで? 私に繋いだ用件は?」
『俺が侵入していたファウンデーション王国だがな。スラム街は想像以上に酷い状態だ。煌びやかなのは王都ばかりだな』
「……そうね。デスティニープランはそういう政策だから。彼らは必要のない人材だと弾かれたんでしょ」
『そうだな。それで……そんな必要のない人材だがな。実はある仕事が与えられているんだ』
「仕事?」
『そう。人が管理する不完全なデスティニープランでは救いきれず、神たるセナ様を取り戻す事さえ出来れば、全てを取り戻す事が出来ると教えられたセナを神として信奉する集団』
「っ! それって!」
『今、世界中を騒がせているテロ集団。セナを崇める連中は、かの国のスラム街で生まれた様だ』
女性は通信の向こうから聞こえてくる言葉に、ハッと息をのんだ。
今までに起こった争いの中から自然発生してしまった集団かと思っていたが、彼らはファウンデーション王国が実行したデスティニープランの弊害であったのだ。
それが、世界中にネットワークを広げて、戦争による被害者も巻き込みながら動いている。
「彼らの目的は、デスティニープランにより幸せな生活を取り戻したい。ってところ?」
『まぁ、それもあるだろうが。彼らはセナが再び、完璧なデスティニープランを実行すると信じている。今は消えてしまったキラと一緒に戻ってくるとな』
「そんな、戻ってくるって……キラ達はまだまだ若い女の子だよ? ずっと世界の為に戦ってたのに、まだ、世界の為に生きろって、そう言ってるの?」
『俺じゃない。彼らの意志だ』
通信向こうから聞こえた声に、女性はグッと押し黙った。
そして、キュッと強くコップを握りしめて、怒りを滲ませる。
「突然人々がそんなことを言い出すとは思えない。誰かが、彼らにそう教えたんじゃないの?」
『……あぁ』
「誰! 誰がそんなことを言ったの!」
『アウラ・マハ・ハイバル。ファウンデーション王国の現王女だ。デスティニープランの実行者でもある』
「……彼女が」
『そして』
通信向こうから流れて来た声は、女性の望む答えを言ってから、再び言葉を続ける。
が、どこか戸惑っている様に聞こえるその声には、何かしらの意図が含まれている様に見えた。
『例の月で見つかった技術を応用し、特定の遺伝子と、彼女の技術を合わせて、複製人物を生み出す事が出来る様だ。無論、色々な条件はあるんだろうがな』
「複製人間? クローンみたいな?」
『そうだな。簡単に言えば、クローンというのが分かりやすいだろう。そして、生み出された人物は、採取された記憶が埋め込まれ、本物の様に活動する事が出来る』
「本物の様にって……あ」
『気づいたか。かつて、姿を現したアスラン・ザラとラクス・クラインの偽物も、彼女たちが生み出していたんだ』
「……!」
『だからどう。という事は無いんだろうが、俺はこの地に、どこか懐かしさを感じる。来たことは無いんだがな』
「……アレックス」
『この技術を使ってキラを生み出しても良いんだろうが、彼らはソレをするつもりは無いらしい。そこに目的の様な物が見えるだろう。まだ調査を行うが、もしかすれば良い情報が見つかるかもしれん』
「お願いするわ」
『あぁ。任せておけ』
「厄介な話は聞いたけど、これでまた一つ面倒な勢力を滅ぼせる……って、ちょっと待って?」
女性は受けた話を整理しながら独り言を呟いていたのだが、不意に気づいた事があり通信の向こう側へと視線を向ける。
そして、藍色の髪の青年。アレックス・ディノを見やった。
「さっき、キラのクローンは作っていないって言ってたわよね? セナは? セナも一緒よね?」
『残念だが。かつてメンデルで『セナ』を作り出したのはアウラ・マハ・ハイバルだ』
「っ!」
『状況は分からないが、既にセナのクローンは作り出されている』
「ま、さか」
『かの庭園で彼女が歩いている姿を見つけた』
アレックスは一呼吸置いてから言葉を続けた。
『敵は、既にセナを己のコマとして動かしている』