シン達、コンパスの面々がファウンデーション王国に訪れた事で、ファウンデーション王国では盛大な歓迎パーティーが開かれる事となった。
その規模はかなり大きなもので、会場だけでなく、その会場から見えるテラスにも料理が置かれ、来場する高名な人間達は話をしながら食事や飲み物を味わっていた。
薄暗い中庭の料理を皿に映しながら会場の規模をうっすらと遠い気持ちで眺めていたレイ・ザ・バレルは遠くから自分に向かって歩いてくる存在を見つける。
「はじめまして。かな。レイ・ザ・バレル」
「えぇ。そうですね。リュー・シェンチアン殿」
「っ! 私の名前を知っていたとは……! どこからそれを?」
「貴国の公開データに名前と顔写真の記載がありました。それを確認しただけですよ」
レイが無表情のまま語るソレに、リューはヒクヒクと笑顔のまま口の端を震わせて歪な笑顔を作る。
その顔に、レイは丁寧な物腰も見かけだけか、と心の中でごちた。
「それで? 私に何か御用でしょうか」
「……っ! そう。私が貴方に声を掛けたのは、デスティニープランについてです」
「デスティニープラン?」
「えぇ。そう。デスティニープラン。かつて貴方はデュランダル議長の下で、デスティニープランを正しい物としてシン・アスカと戦ったのでしょう? であれば、貴方はデスティニープランが正しい物と考えている。ならば、何故コンパスに賛同して、シン・アスカと共に戦っているのですか」
「親友だから」
「え?」
「シンは、私の出自を聞いても、意志を聞いても、友であろうとしてくれた。私も同じこと」
「そ、それは、貴方を騙す為の演技かもしれない……!」
「だとしても、それで私は救われた。シンと共に戦う事も、良きことの様に思えた」
「……このままシン・アスカと共にあれば、死にますよ。貴方」
「ふっ」
レイはどこか外れた様な言葉を言うリューを鼻で笑う。
所詮はその程度か、と笑う様な顔でリューに言葉を向けた。
「今更。死など恐れる様な物ではありませんよ。私の命はそこまで重くはない」
「後悔しますよ。貴方」
「貴国と共に殉じる気持ちはない。兵隊が欲しいのなら、他の人間に当たって欲しいですね」
レイはどこまでも丁寧な態度を崩さないままに、辛辣な言葉をリューに向けた。
その言葉はリューの目的を見透かす様な物で、狙いがバレていると察したリューは「失礼!」と言って、その場を後にするのだった。
その背を軽く目線で追いながら、レイは先ほど皿に移していたグラタンを一口食べる。
「……! なるほど」
「おーい! レイ。ここに居たのか!」
「シン」
「探したぜ。向こうにさ。ミートボールとスパゲッティがあってな? って、どうした。レイ。嬉しそうな顔して」
「いや。世の中には戦う者としての俺とは別の物を見つけてくれる人も居るのだと思っただけだ」
「はん?」
「なんでもない。それで? ミートボールとスパゲッティだったか? こちらは何とも珍しいグラタンを見つけたぞ。味付けが独特だ」
「ほー。どれだ? 俺も食ってみたい」
「これだ」
レイはキョロキョロと料理皿を順に見てゆくシンに、レイが食べたグラタンの場所を教え、それから二人で楽し気に会話をしているのだった。
そして、そんな二人を遠くから見ていたルナマリアは、レイがいつもの様な笑みを浮かべている事に安堵して、ホッと息を吐く。
「お前はあそこに行かなくて良いのか?」
「えーまー。男同士の友情に入り込むのも、なんか野暮じゃないですか?」
「そういう物か?」
「アスランさんは、なんか面倒だなーって感じる時は無いんですか? カガリさんと一緒に居る時」
「カガリと一緒に居る時、か? いや、別に感じた事はないな」
「フーン」
「それに、男同士の友情というのも俺には覚えがない。そういう物が何処かにあるのは知っているが、俺の記憶にはないな」
「へー」
「人によるという事だろうな」
「まぁ、アスランさんに友達が少なそうだという事は理解出来ました」
「は……なに!? 待て、ルナマリア!」
「もう話は終わりましたよ。隊長」
ルナマリアはサクッとアスランとの話を終わらせて、中庭にあるベンチで無駄にたそがれている同僚に声をかけた。
珍しいというか。
意中の相手も居ないだろうに、良い女を演出しているのは何故だろうか、と理由を問う。
「なーにやってのよ。アンタは」
「あぁ、ルナ? 別に、ただ、こう、月の光でも浴びようかなって」
「ハァー?」
ルナマリアは気でも狂ったかとベンチの上で自称月の光を浴びている女を見やった。
そして、その横に座って、先に座っていたアグネスよりジュースを貰う。
「聞いて。ルナマリア。私ね。良い女なのよ」
「はぁ」
「この国の国防長官。近衛師団長にシュラっていう人が居るでしょ? あの人が、貴女は月の様だって、言ってたのよ」
「へー」
「まぁ、気持ちは分かるけどね。その情熱的な言葉も分かるけどね。でも、私にはキラさんがいるじゃない?」
「アンタの一方的な片思いだけどね」
「だから、貴方とは付き合えないって言ったんだけど、せめて私と共に戦って欲しい。なんて言われてね。なんていじらしいのかしら! って思ったの」
「人手不足なんじゃないの?」
「けれど、私はキラさんと共に歩く道を選んでるから、それは出来ないわ! って断った。けれど、彼を惑わせてしまうなんて、罪な女だと思わない? これも全部、私が美しいから……!」
「幸せそうで何よりよ。アグネス」
ルナマリアはこれ以上アホの言葉を聞いていられるかとベンチから立ち上がろうとした。
が、そんなルナマリアの肩をガシッと捕まえた自称良い女は、そのままルナマリアをベンチに押さえつけて、話を続ける。
ルナマリアは逃げ出そうとしたが、アグネスが彼女を逃がす事はなく、そのまま話をする事となったのであった。
そんなドタバタな面々を中庭に置いて。
宮殿の中ではラクス・クラインが外交の為に、うっすらとした笑みを浮かべたままファウンデーション王国の面々と話をしていた。
女王のアウラ・マハ・ハイバル。
それに宰相であるオルフェ・ラム・タオなどだ。
「そうか。世界はそれほどに荒れているのだな」
「テロ事件とは嘆かわしいものです」
「えぇ、
ラクスは彼らの言葉に同意しながら微笑む。
そんなラクスにオルフェもアウラも融和な笑みを浮かべながら応えていた。
そして、世間話の様な物をしてからオルフェはラクスをダンスに誘い、二人は会場の中心で踊り始める。
それを見て、アウラは先ほどまでの笑顔はどうしたのか、ハッと小さく笑い小言を呟いた。
「小娘め。母親によく似て忌まわしい顔をしておるわ」
テーブルに置かれていた皿からブドウの実を一つ取り、それを口に放り込んで踊る二人を見やる。
「しかし、オルフェを小娘に寄せて作ったのは良かったの。二人はお似合いのようじゃし。小娘だけ取り込んでも……」
「アウラ様」
「なんじゃ」
「セナ様が」
「っ! すぐに行く」
アウラは気分よく酒を飲みながら踊る二人を見ていたが、コッソリと近づいて来た侍女が耳打ちをする事でその場を離れて急いで侍女と共に奥へ行く。
現在は作戦進行中であるが、アウラにとって作戦よりも大切な存在が侍女の待つ城の奥に居るのだ。
廊下を突き進んで、最奥にある扉を両手で勢いよく開き、ベッドに座りながら俯いている少女を見やった。
「セナ~。どうしたんじゃ。ママが居なくて、寂しかったか~?」
「ううん。ちがう」
「違うのか? ママはアコードでは無いからなぁ。何か不満があるのなら、言ってくれたら何でもするぞ?」
「……ほんとうに?」
セナはどこか希望を持った様な目で、自分の隣に座った幼女の姿をしたアウラを見つめる。
二人の背丈はほぼ同じ姿であり、知らぬ者が見れば同年代同士の少女たちが戯れている様にも見えるだろう。
「ママ、私ね。パーティーに行ってみたい」
「パーティーにか? では、今度盛大にパーティーを開こう! オルフェ達が盛り上げてくれるぞ」
「そのパーティーにコンパスの人たちはいるの?」
「コンパス? はて? 何の話じゃ?」
「……誤魔化さないで。お城に来た人達だよ」
「っ」
セナは話をしながら、虹の虹彩に包まれた瞳をアウラに向ける。
アウラが仕込んだアコードの因子ではない。ユーレン・ヒビキが作り出したスーパーコーディネーターの因子でも無い。
アウラも知らない未知の力を示すセナに、アウラは息をのんだ。
そして……。
「外を『視た』のかの」
「うん。いっぱい人が居て、楽しそうだった」
「そうか」
「それにね。ステラがシンともっと話をしてみてって……!」
「シン・アスカに近づく事は許さん!!」
「っ」
シンの名が出て来た瞬間、アウラは突如として般若の顔となり、セナを怒鳴りつける。
その勢いは激しく、セナはビクッと震えた跡、体を小さくして、俯いてしまった。
そんなセナをアウラは抱き寄せて、優し気な言葉をかける。
「シン・アスカは危険じゃ。お主にはそう見えぬかもしれんが、あの男はデスティニープランを否定し、大気圏での戦いで……殺した」
「……? 誰を」
「あー。まぁ、そうじゃな。私達にとって、大切な者じゃ。やり直したいと願っても、あの瞬間には戻れぬ」
「……」
「セナ。苦しい事は背負わなくても良い。思うままに生きて良い。私がメンデルで見た未来の世界で、お前は世界を背負おうとした。しかし、愚かなる者達はお前を利用し、お前を苦しめた。それは憎むべき未来じゃ。あの未来を望んではならぬ。お前を運命の贄にする事は良しと思わん。愚かなる者達は従え、利用するだけで良い。心を寄せるな」
「……ママ。ママは、なんで、セナには優しいの?」
セナの純粋無垢な瞳を向けられたアウラは、何かを思い出す様にフッと笑ってから暗い部屋の中、天井を見上げた。
「はじめは、別に大した理由は無かった。デスティニープランは支配に良いシステムだと思っておったし。それを自在に操っていたお主は支配者の適正があると思っておった。しかしな。キラと共にこんな世界で平和を必死に訴えるお主たちを見て、聞いて、知って……何故、こんなにも小さな子達が幸せになれんのか、と思ったんじゃよ」
「……しあわせ」
「そう。幸せじゃ。この世界では小さな箱庭の中にしかない物じゃが、沢山苦しんだお主たちには、幸せの中に居て欲しいと思っておる」
「……ママ」
「そう。ママじゃよ。娘が幸せになってくれたら嬉しい、ママじゃ」
朗らかな、少女の様な顔をして笑うアウラに、セナは「しあわせ」という言葉を呟いて、目を閉じながらアウラに寄り掛かるのだった。