コンパスの歓迎パーティーも終わり、いよいよ本題となるブルーコスモス迎撃作戦に入る事となった。
オルフェは作戦室でラクスやアスランに地理的状況や、敵を迎撃する際に、どの方向から攻めれば良いか、敵の本体はどれか。などを伝えてゆく。
「我らは防衛が主でしてな。直接戦闘には慣れていないのです」
「であれば、我らが敵本拠地へ向かいましょう。ブルーコスモスの部隊という事ですが、可変機ならば防衛網を突破するのは容易だ」
「ありがたい」
「しかし、これだけの部隊を揃えたとなると……この要塞には重要人物がいるのではないでしょうか」
「重要人物。というと、ブルーコスモスの盟主?」
「はい。
「っ! なんと、ミケール大佐ですか!」
「はい。確かか、それは分かりませんが」
「それならば、我々でそれを確かめましょう。俺達が先行します。状況は現地でも共有し、臨機応変に対応しましょう」
「お願いします」
オルフェは丁寧に頭を下げ、アスランは頷いてから部隊へと戻って行った。
そして、ラクスはオルフェと共にファウンデーション王国の隣国となるユーラシア連邦の軍人との交渉に向かう。
「我々、ユーラシアとしては、ブルーコスモスとの戦闘をする事は容認する。コンパスが我が国の内部で戦闘を行う事も容認しよう。しかし、ファウンデーション王国の部隊が軍事境界線を超える事は許さん」
「感謝いたしますわ。そのお約束で問題ございません」
「こちらとしても、我らはあくまでブルーコスモスを討伐したいだけ。貴国と争うつもりはございませんよ」
「理解に感謝する」
ユーラシア連邦から訪れて来たという軍人は精悍な顔つきをしたまま、表情を固くしてラクス達を見やる。
その瞳に誰かを探している様な気配を感じたため、ラクスはその事について問うた。
「なにかございましたか?」
「あ、いや。キラ様はいらっしゃらないのだな。と思いましてな」
「キラ?」
「えぇ。貴君と共にコンパスを設立した御方だ。重要な会議には顔を出すかと思っていたのですが、どうやら噂通りという事ですかな」
「ウワサ、というのは」
「キラ様はどこかに幽閉されているのではないか。という噂ですよ。ラクス・クライン」
「っ! どこから、その様な」
「さぁ。噂の発信源は分かりませんがな。以前の戦いからキラ様のお姿はすっかり見えなくなってしまいましたから。その様に噂されるのも仕方のない事かと思いますが」
「それは……ですが、我々はキラを幽閉などはしておりません」
「そうですか。キラ様を操り妹君を撃たせた。その事実は真実としてあるのですから、そういう噂が立つのは仕方のない事でしょう。しかし。コンパスはキラ様が理想とされた平和な世界を作る使者として作られた物。協力はしますとも」
どこか小馬鹿にする様な言葉で語られる軍人の言葉に、ラクスは唇を噛みしめたまま小さく頷く。
色々な所から文句を言われたり、嫌味を言われたりするのは今更な話だ。
ラクスは込み上げる感情をひたすら飲み込んで、耐えた。
そして、特に言い返される事も無かったため、ユーラシア連邦の軍人はため息を一つ吐いて、改めて要請された作戦に頷いた。
それから。
予定されていた作戦は順調に準備され、ブルーコスモスもこちらの動きを察知したのか戦闘準備を開始した。
そして、ある晴天の日に作戦は開始される。
「準備は良いか。突破力のある俺とシンとレイで突貫し、内部へと一気に攻め込む。ルナマリアとアグネスは地上よりファウンデーション王国へと踏み入ろうとする機体を撃破しろ」
『了解』
『分かった』
『こちら、了解です』
『なんか、暇そ』
「油断するなよ。アグネス。向こうはテロ集団だ。国際常識とか、国境とか、そういう物を気にする相手じゃない。戦うのなら徹底的に潰せ」
『はいはい。りょーかい』
アグネスはアスランの言葉に返事をしてから、モニターに戦況の図式を映し出して、フーンと考える。
それに、ルナマリアは通信を繋げて問いかけた。
「どうしたの? アグネス」
「んー。いや、ね。作戦の配置を見てたんだけど」
「うん」
「アタシらだけ頑張り過ぎじゃない? ファウンデーション王国のモビルスーツは後方待機だし」
「実戦経験が無いんだって。仕方ないんじゃない?」
「実戦経験がない。ねぇ。お気楽なモンだわ」
「なにー? なんか不満でもあるの?」
「別に。無いけどさ。地球に居ると、実戦経験がないって言えば逃げられるんだなって思ってさ。私たち、プラントには逃げ場なんか無いから。あそこは本国の前で戦うのならいきなり最前線でしょ。兵隊だって、実戦なんかよく分からないまま戦ってたわけじゃない」
「それはまぁ、そうだけど」
「ルナだって、観艦式の前に襲われて、いきなり実践、いきなり戦場。言い訳を言って、逃げられる余地があるのは良いなって」
「……まぁ、言いたいことは分かるわ。けれど、逃げたい人が逃げられる様にするのも、キラさんが夢見た世界にはあるんじゃないの?」
「確かに」
キラの名を出すと、アグネスは納得したのか息を吐いて地図を仕舞った。
そして、武器や武装の確認をしながら実践に備えていくのだった。
そのどこか真面目な様子を見ながらルナマリアは笑みを零し、自分も戦いに向けて準備を始めてゆく。
そんな彼女たちをその場に置いて、敵地へと一気に進行する部隊の中に居たシンは、アスランの言葉を集中して聞いていた。
「目標が見えたら確保ってのは良いんですけど、モビルスーツで人間捕まえるのは難しくないですか?」
『まぁ、難しいだろうな』
「じゃあ、無理なんじゃないですか?」
『シン』
「なんだよ。レイ」
『無理だ。不可能だ。というのは誰にでもわかる話だ。しかし、最初から拒絶しては何も出来ない。だから、まずは受けたんだ』
「それって、結果的に無理でしたー。って言っても、何とかなるの?」
『何とか、はならないだろうな。何かしら問題にはなる。問題にはなるが、今気にする問題ではないという事だ』
「ナルホド」
シンはレイから聞いた建前に納得を示し、そこまで言う必要はないだろうと感じていても口は出さないままアスランは静かに頷いた。
もし、キラがここに居れば何が何でも確保しようとしただろうが、シンやレイの安全と敵の確保で比べれば考えるまでもない。
向こうは犯罪者だ。このまま放置しておいても良いことは無いだろう。
例え、確保に失敗したとしても本気でコンパスを非難する存在は居ない。
何故なら、アレの生存を望んでいる人間は居ないから。
『行くぞ』
だから、アスランは出来る事だけを考え、伝え、それを実行するべく作戦時間となって地上を飛び立つのだった。
シンもレイもアスランに続いて飛び上がり、変形をして国境の向こう側を目指す。
その過程で、空の向こう側から暗雲が迫ってきている事に気づいたが、特にシンは気にする事もないまま、戦闘空域に突っ込んだ。
瞬間、ピピピとロックオンの音がコックピット内に響くが、シンは焦りを見せないままそれを加速する事でかわし目標へと向かってゆく。
だが……。
『シン!』
「っ!」
レイからの通信に、フリーダムを操って緊急回避すれば、自機が居た場所に分厚いビームが通過し、空の雲を砕いてゆく。
並のモビルスーツでは放てないそれに、シンはかつてオーブで行われた戦闘を思い出し、地上を見やった。
「アレは! サイコガンダムか!」
以前よりも身軽に動いている様に見えるサイコガンダムは、両指のビーム砲をシンとレイに向けながら多数のビームを放ち、胸部にある拡散ビーム砲を放つ。
シンとレイは変形を解除して、モビルスーツ形態となってからそれを器用にかわし、ビームサーベルを抜いた。
「お前の弱点はもう分かってるんだ!」
『シン! 同時に行くぞ!』
「あぁ!」
シンとレイは互いに協力しあいながらサイコガンダムより距離を取って、攻撃をかわし続ける。
その間に、一機が狙われた瞬間、もう一機が接近して武装を破壊。
そして、今度はその一機が狙われたらもう一機がと、交互に繰り返して、サイコガンダムの武装を半数以上破壊してから、レイはビームライフルでサイコガンダムの足元の地面を撃ち抜いた。
崖というワケではないが、ビームライフルにより地面が削られ、体勢を崩したサイコガンダムは天を仰ぎながら倒れそうになり、攻撃も防御も出来ない中、ビームサーベルを構えていたシンと例が同時にサイコガンダムの腹部を貫く事で撃破となる。
『これで脅威は排除だな』
「あぁ。てか、アスランは?」
『先に行った。おそらくはミケールの所だろう』
「じゃあ俺らも行こうぜ!」
『了解だ』
無事、無傷のままサイコガンダムを後にしたシンとレイは、アスランが向かったと思われる奥の奥へと向かう。
だが、既にその行動は作戦の内である。
シンとレイならば問題なく撃破できるだろうと、二人に巨大モビルスーツを任せて、ミケール大佐の所へと向かっていたアスランは、不意に何かが頭の中を這いまわる様な感覚を覚えた。
それは平時であれば叫び声をあげてしまう程の不快感であり、アスランは揺らぐ視界の向こうに意識を持ちながら深く息を吐く。
そして、普段とは何かがおかしいと思いながらも、空中で変形を解除し、周囲を軽く見渡した。
何も異常はない。
異常はないというのに、まるで誰かに映画でも見せられているかの様に、視界から入ってくる情報はどこか違和感を覚える物だった。
そして……。
その視界の中で、アスランは自分に迫ってくる2機のウィンダムを目撃した。
それはブルーコスモスが使用している機体と同じであり、アスランは咄嗟にビームライフルを向けて、ビームを放つ。
二機はギリギリの所でそれを避け、空中に止まっていた。
何をしているのだろうか。
分からない。
分からないが、敵をそのままにしておく事は出来なかった。
敵は倒さねばならない。
過去の戦争より、指導者として戦争を始める者達も居るが、個人的な私怨から戦闘を行おうとする者もいるのだ。
ブルーコスモスの様に。
セナを信奉するテロリストの様に。
争いを望む者を消さねば、またセナの様にキラを利用しようとする者達が現れるかもしれない。
アスランはテロとの戦いを通して、こういう者達は倒す必要があると感じていた。
だから、ビームサーベルを片手に持って、二機のウィンダムへと向かっていくのだった。
「ククク。闇に落ちろ。アスラン・ザラ」
誰かの思惑を感じる事も出来ないまま。