ファウンデーション王国からの依頼と、ブルーコスモスの盟主の逮捕。
ファウンデーション王国とコンパスの狙いが一致した事により始まった共同戦線であるが、途中まで順調だった作戦は、突如として隊長であるアスラン・ザラが暴走する事で異常な事態を見せる。
ラクスは、戦闘の最中、『自軍』に向かって攻撃を仕掛けるアスランに通信を繋げて叫ぶ。
「何をやっているのですか! アスラン!」
『君の目には残酷な様に見えるかもしれないが、これも必要な事だ』
「なにを……!」
ラクスの声にもアスランは意味の分からない返事を返し、ラクスは戸惑った様に視線をさ迷わせる。
運よく……シンとレイはアスランに狙われながらも回避を続けているが、それもいつまで続くか分からない。
というよりも、こんな状態では作戦も何もあった物ではない。
「このままではいけませんね」
「っ! ま、待ってください! アスランは自分を見失っているだけで! 錯乱しているんです!」
『俺は冷静だ!』
「と、彼は言っている様ですが?」
ファウンデーション王国の宰相、オルフェ・ラム・タオは冷酷な目をモニターに向けながらラクスに問う。
それはアスランが正常か、どうかではない。
このまま彼に隊長を任せておくのか、それとも……撃墜するか? と問うているのだ。
そんな残酷なオルフェの言葉にラクスが言葉を詰まらせていると、通信の向こうからシンの叫び声が響いた。
『俺がアスランを説得します!』
その強い掛け声に、ラクスは僅かな救いを見つけた様な顔で、アスランからの攻撃を避けているシンを見やった。
本部へと通信を繋いで、自分がやると叫んだシンは、ビームサーベルを展開しながらアスランに接近戦を仕掛ける。
だが、アスランは器用にもセイバーを操ってシンからの攻撃を避けながら、ビームライフルを放ってくるのだった。
「ちぃっ!」
『どうやらアスランは接近戦をするつもりは無いようだな。シンの実力を理解しているからか。もしくは消耗を避けているのか』
「どっちでも良い! 遠距離でアスランを仕留められる程、俺は強くないんだよ!!」
シンは急加速をしながら無理にセイバーへと接近して、自分のビームサーベルでセイバーのシールドを弾いた。
そして、ビームライフルを向けようとするセイバーの腕を捕まえて叫ぶ。
「おい! どういうつもりだ! 何急に暴走してるんだよ!」
『離せ! お前たちと話す事など、何もない!』
「なに!? うわぁっ!」
シンはセイバーに蹴り飛ばされ、投げ出される。
そして、アスランは冷酷にそんなシンへとビームライフルを向けるが、ジャスティスに登場したレイよりビームライフルを撃たれ、回避しながら距離をとるのだった。
その行動は。
シンを撃とうとする姿は、どう考えても敵対している者の姿だった。
「くっ、くそ……なんでだよ。アスラン」
『シン。アスランは今、錯乱している。まともに相手をしようとするな。まずはアレを落とす』
「落とすって!? 殺すって事か!?」
『違う。キラさんの弟分であるお前には伝わると思ったがな』
「あ……あ、あぁ。そうか。無力化。無力化だな」
『大丈夫か? シン』
「あぁ。悪い。ちょっと気持ちが落ち着かなくて」
『良いさ。気にするな。信頼していた男が突如として理由もなく裏切ったんだ。誰だって動揺くらいはする』
「……あぁ、悪い」
シンはヘルメットの前部を開き、流れ出ていた汗を拭ってから真っすぐにアスランを睨みつけた。
まずは戦闘不能にする。
それから話す。
やるべき事は決まったのだ。
今はやるだけだと気合を入れた。
「行こう。レイ!」
『あぁ!』
二人は決意と共に戦場の中へ飛び込んで、アスランを相手に手加減をしながら戦闘力を奪おうと立ち回った。
しかし、アスランは器用にも武器が破壊される様な攻撃からは逃げ、決定打は受けない。
かわしながらも、シン達へと攻撃は続け、あくまで交戦の意志を示した。
そんな姿は本部のモニターでも見えており、オルフェはいつまでも仕留めきれないシンとレイを見て、はぁとため息を吐いた。
そのため息にラクスは反応するが、今出来る手段はない。
「このままでは話にならないですね」
「時間を、もう少し待ってください!」
「それは出来ない。何故なら、貴女方はコンパス。世界平和監視機構のコンパスだ。平和を作ると謳う者達が、自ら争いを起こしているなど問題ですよ」
「それは……」
「ユーラシア連邦の方々もそう思われているのではないですか?」
オルフェはラクスとの問答に、黙って状況を見守っていたユーラシア連邦の軍人たちへと視線を向けた。
その視線に彼らは応え、口を開く。
「我らとしても、早期の事態決着を望んでいる。何故なら、彼が戦っているのは軍事境界線のすぐ近くだ。コンパスが我が領土に足を踏み入れる事は許した。戦闘も許可した。だが、我が領土内で身内同士の争いが行われる事など容認した覚えはないな」
「……! はい」
「我々は悲しみすら感じていますよ。当初はキラ様が戦闘指揮をして、戦火を広げない様に最小限で戦いを終わらせると言っていたのに、今はどうです? 今、どうなっていますか? 地球へジェネシスを向け、人類を絶滅させようとした男、パトリック・ザラの息子、アスラン・ザラが戦火を広げている! キラ様の理想を踏みにじって!! 許される事ではない!! これは冒涜だ!」
「キラは……事情があって、別の任務を」
「その様な言い訳は聞き飽きた!!」
「っ!」
「別の地域で重要任務があるというのならば、それは何ですか! ブルーコスモスの盟主を捕らえるよりも重要な任務が他にあると? バカにするんじゃない! ロゴスを撃ち、ブルーコスモスが大人しくなる事で世界は平和になった!! しかし、お前たちがセナ様を世界から奪ってから、テロ組織が生まれ! キラ様をどこかに連れ去ってから世界の争いは激化するばかりだ!! この責任をどう取るつもりなのですか!!? ラクス・クライン!!」
「責任、私は……!」
ラクスが言い淀んでいると、プシュっと空気の抜ける音がして、作戦室に一人の少女が護衛と共に入って来た。
その少女に、ラクスは瞳を見開いて、「ぁ」と小さく声を漏らす。
キラによく似た容姿、撃たれた原因もあり大きく成長出来ない体。
けれど、平和に向かう意思は強く瞳の中に刻まれている。
「呼ばれてきました。セナです」
「セナ様!!?」
「ぜ、前大戦で、シン・アスカに殺された筈では……!」
「え、えと」
「真実を語りましょう!!」
動揺するユーラシア連邦の軍人たちが口々にセナへと言葉を向けると、セナは戸惑った様に言葉を惑わせていたが。
それに助け船を出す様にオルフェは声を上げた。
そして、注目をオルフェへと集める。
「セナ様は生きておられた。我々は地上へと落下するホープを救出し、満身創痍であったセナ様を助け出したのだ。しかし、あの激しい戦いのせいか、セナ様は記憶を失っておられた。故に、世界から彼女の存在を隠し、国内で静かに過ごして頂いていたのである」
「お、おぉ、なるほど」
「しかし、記憶を失っているのか……おいたわしい」
「えぇ、悲しい事件です。悲しい事件でありました。しかし、平和を願うセナ様の気持ちは何も変わらない。そうですね? セナ様」
「っ、は、はい……! 私は、争いは無い方が良いと思います」
「私もそう思います。では、争いを起こす原因は、排除した方が良いですね?」
「そ、そうです……「欺瞞です!!」……ひぅ!」
ラクスは怒りに燃え滾る様な瞳をセナとオルフェへと向ける。
明らかな誘導尋問でオルフェの望む答えを出させようとしている状況に、我慢できず声を上げた。
だが、それはこの場において自殺行為と何も違いは無かった。
「思想だけで争いを持ち込む者はテロリストと何も変わりはしない。捕らえよ」
「「ハッ!!」」
オルフェの言葉で数人の兵士たちが作戦室に入ってきて、ラクスへと銃を向ける。
ラクスの護衛としてある者たちは誰も動かず、場を見守るだけだ。
が、そんなオルフェの行動を止めようとしたのはセナであった。
「だ、駄目です! オルフェさん! 可哀想です!」
「セナ様のお気持ちは分かります。ですが、彼女の平和を願う気持ちは利用されていたのです」
「利用……?」
「そう。かの悪名高き男、パトリック・ザラの息子、アスラン・ザラによって」
「……!」
「耳を、貸してはいけません!! セナさん!! 貴女の理想は、貴女の夢は! 誰かの気持ちを踏みにじる様なものじゃない!」
「黙れ!」
銃を押し付けられ、黙る様に言われても、ラクスは何一つ黙る事は無かった。
例え、ここで命を落としても曲げられない物は曲げられないのだ。
「気持ちは同じです。平和を、私達は求めている。アスランも、今、異常な事態に巻き込まれているだけなのです! だから……!」
「黙れと言っているだろう!!」
「うっ……!」
「ラクスさん!!」
殺すと脅されてもセナに言葉を向けていたラクスは、兵士に銃で殴られ、床に倒されてしまう。
そんなラクスにセナは駆け寄ろうとするが、そんなセナを捕まえてオルフェは優しい声で語る。
「彼女の意志は本物ですよ。セナ様」
「……オルフェさん」
「だが、それを利用しようとする者がいる。彼女はその意思を利用されているだけなのです。アスラン・ザラを消せば、彼女と貴女はよき友人となれますよ」
「聞いてはいけません!! セナさん!」
「そんなに必死に叫ばなくても聞こえていますよ。ラクス様。いえ。それほどアスラン・ザラの洗脳が強いという事ですか?」
「あなたは……!」
勝ち誇った様な顔をするオルフェにラクスは憎しみが込められた瞳を向ける。
が、それで事態を変える様な事は出来ず、セナは一つの覚悟をしたような顔で小さく頷いた。
「戦闘を、収束させて下さい」
「セナさん!!」
「戦いは! 誰も、望んでいない筈です。アスランさんという方がどういう方かは、私には分かりませんが、お話出来る状態になって欲しいです。今の様にモビルスーツで暴れているのではなく、触れ合える様な状態で」
「それがセナ様の願いであれば! 我らがそれを叶えましょう!! ブラックナイツ!! 全機、戦場へ向かえ! 『戦闘を収束』させろ」
「ハッ!!」
「オルフェ・ラム・タオ!!」
ラクスはオルフェの言葉に怒りのまま声を上げた。
しかし、既に出された命令を止める事は出来ず、ファウンデーション王国より、騎士団が出撃される事となったのである。