二コル達に回収されたアスランは秘密裏にミレニアムの内部へと運ばれて、ミレニアムの格納庫内で外に出る事となった。
そして、ちょうど格納庫内で整備員に指示を出していたアルバート・ハインラインに発見され、声を掛けられる。
「無事でしたか。アスラン・ザラ」
「え、えぇ。貴方も無事で」
「我々は早い段階で彼らから情報を受け、退避の準備を行っておりましたから」
アスランは彼らと言われ、すぐ背後に居た二コルや、サングラスを付けているアスランそっくりの男、アレックス・ディノへと視線を向けた。
アレックスはアスランの視線を受けて、どこかバカにしたような顔をしながら口を開く。
「ファウンデーション王国はかつてキラを軟禁した国だ。警戒するのは当然かと思うがな」
「……分かっている」
「その割にはアッサリとアコードの罠に引っかかって。部下を危険に晒すとは」
「アコードの、罠?」
「あぁ。先ほどお前を襲った機体のパイロット、シュラ・サーペンタインはあの付近に隠れていて、お前に幻覚を見せていたんだ。それで、お前はシンとレイを敵だと思って戦闘をしていた」
「……あのウィンダムは」
「お前に何が見えていたかは知らないが、まんまと連中の罠にかかってな。ファウンデーション王国の城にいたラクス・クラインは奴らに攫われ大気圏外へと消えてしまった」
「ラクスが……!」
「あぁ。彼女の事だからうまくやるだろうが、状況は最悪だ。彼女が攫われた以上、ラクス・クラインとして利用される」
「……あぁ」
酷く落ち込んだ様な様子でアスランはアレックスの言葉に俯いた。
言われる言葉は言いがかりの様な物も多くあるが、それでもアスランにとっては痛い言葉ばかりである。
そして、落ち込んでいるアスランの前に二機のモビルスーツが緊急着艦ブースから出てきて、倒れる様に四つん這いで倒れた。
「うわぁ!」
倒れたモビルスーツはコックピットを開放し、中からショートカットの女性、ルナマリア・ホークが出て来る。
「降りるぞ」
「え、えぇ」
それから中より声が響いて、金髪の青年、レイ・ザ・バレルが降りてきて地面にスタッと着地した。
そして、上空に手を伸ばして落ちて来るアグネス・ギーベンラートを受け止めるのだった。
しかし、アグネスは酷くグッタリとしており、急いでレイはミレニアムの医務室へと向かい、残ったルナマリアがアスラン達の元へと向かってくる。
「アスランさんもご無事だったんですね!」
「あぁ、お前たちもな」
「えぇ。まぁ。私達は助けられたんです」
ルナマリアは倒れているギャンシュトロームを起こし、格納庫の壁に固定するゲルググメナースを見やった。
「ヒルダさん達が来なかったら、私達もおしまいでしたよ」
「……そうか。彼女にも感謝しなくてはいけないな」
「えぇ、ホント。まだ外で哨戒やってるヘルベルトさんとマーズさんにもお願いします。私は疲れたんで、医務室に行きますね」
ズルズルと体を引きずる様な動きをして去っていくルナマリアを見送って、彼女たちを助けたというヒルダ・ハーケンへと視線を向けた。
彼女はため息を吐きながらもどこかスッとした様な表情のままアスランの元へ歩いてきて、アスランの背中を叩く。
「見事にハメられちゃったね。アスラン」
「えぇ。本当に。言い訳のしようもありません」
「そう固くなるなって。本来であれば本国へと向けられるはずの核ミサイルも、戦場で爆発しただけだ。影響はそれなりにあるだろうが、以前よりもいい結果さ」
「……しかし、ラクスが」
「あの子が宇宙へ行くのは計画の内だ。だから、これは計画通り。それはあの子も承知済みだよ」
「……はい」
「問題としては……」
「……?」
「私らが助けたのは三人だけでね。シンの奴は助けられなかったって事だ」
「え!?」
ヒルダの言葉に、アスランは驚きながら声を上げる。
そして、急いで戦場へと戻ろうとしたが、それをアレックスに止められてしまった。
「邪魔をするな」
「戦場に戻ってどうするつもりだ」
「シンを、助け出す!」
「戦場には核ミサイルが直撃したんだぞ。我々にはどうする事も出来ん」
「それは……!」
「シンがどうなったか、それは俺達にも分からないんだ。アイツの強運にかけるしかない」
「くっ……」
アレックスの言葉にアスランは強く歯を噛みしめて、オーブへと向かって海中を進んでゆくミレニアムの格納庫で、戦場においてきてしまった弟分を思うのだった。
一方。
救出出来なかったと思われているシン・アスカであるが。
フリーダムが地面に落ちた後、コックピットの中で気絶していた所をある女性に救われて、核の影響がない海岸沿いの隠れ家へと運ばれていた。
「……うっ」
そして、激しい痛みの中、ゆっくりと目を覚まして周囲を軽く見る。
「こ、こは?」
「ここはファウンデーション王国の海岸外れにある秘密の隠れ家だよ」
「っ! アンタは!」
シンは何者かに話しかけられ、痛みの中銃を抜こうとした。
しかし、既に武器の類は奪われている様で、手は何もない空間で空ぶってしまう。
「これをお探し?」
「お、俺の銃!」
「ふふっ、そそっかしいんだね。なんか聞いていた話と違うなぁ」
桃色の長い髪を笑いとともに揺らす女性は、シンにとって一人の女性に酷く近い物であり、彼女が年を取った様な姿に見えた。
しかし、それを言わぬまま会話を続ける。
「貴女は……」
「私はジゼル。娘を助けようと思ってここに来たんだけど、娘は自分でどうにか出来るみたいでね」
「は、はぁ」
「影武者を助ける様なお人好しじゃないんだ。私は」
「なるほど」
何の話だろうかと思いながらも、シンは女性の言葉に頷いて会話を続けた。
それが良かったのか、悪かったのか。女性はシンを見て、ニコリと微笑む。
「私の話は大して面白くないよ。君の話を聞かせて欲しいな。シン・アスカ君」
「っ! 俺の名前!」
「知っているよ。君は有名人なんだ。あのセナ・ユラ・アスハのデスティニープランを打ち破った英雄としてね」
「俺は、別に英雄なんかじゃあ」
「私にとっては英雄だよ。あのままデスティニープランが施行されれば、娘はきっと支配者として生きる事になっただろうから。愛する人と一緒に居られるのはとても幸せだと思う」
「……そう、ですか」
「うん。だから、私にとっても君は救世主なんだ。娘はただ人として生きていく事を望んでいたからね。そうある様にと願った君の行動は、私にとっては間違いなく救世主としてのモノだったんだよ」
どこか演技の様な言葉を使いながらしゃべる女性に、シンはどこか居心地の悪い様な感覚を覚えていたが、それでもと口を開く。
オーブに生まれ、キラを護るためにプラントへ行き、世界を護るためにセナを撃った……戦いの思い出を。
「……そうか。キラ・ユラ・アスハ。そんな人だったんだね」
「はい。キラさんは世間で言われている様な凄い人じゃなくて、いや、凄い人なんですけど、どこか抜けてて普通の女性なんです」
「なるほど。君の言うことはよく分かる。いや、でも……だからこそ、あの子は惹かれたのかもしれないね」
「っ! やっぱり……貴女は」
シンが確信を持ちながら女性の正体を問おうとした瞬間、女性はスッと目を細めてシンを貫いた。
その視線の鋭さに、シンはウっと引きながらも負けじとその場に留まる。
「じゃあ、君は、そんな尊敬するキラの妹であったセナ・ユラ・アスハについてはどう思っている? 尊敬するキラを裏切った敵?」
「違います!」
「……!」
「セナは、確かに俺はセナとも戦ってたんですけど、けれど、それは憎かったからじゃありません! セナを救いたかったからです!」
「救う? セナ・ユラ・アスハを?」
「はい。キラさんと同じく、セナは、セナもみんなが言っている様な、完璧な人じゃないんです。いつも人の事を考えてて、それで、傷ついて、苦しんで、でも……! それでもって世界の為に戦ってたんです! それはキラさんも同じで……俺は二人みたいに、何かを考えていた訳じゃないから」
「じゃあ、何も考えないまま戦ってたの?」
「いえ……あの時は、マユも父さんも母さんも、キラさんもセナも、レイもルナも……みんな、みんな助けたくて、でも、みんなは自由な世界で生きていく方が良いって思えたから、俺は戦ったんです。運命じゃない。
「そう……」
女性はシンからの回答にしばし考える様に瞳を閉じた。
そして、シンもまた考えている女性の邪魔をしない様に静かな瞳で彼女を見つめる。
「君のお陰で、セナ・ユラ・アスハの事が分かった様な気がする。ヴィアがあの子に謝らなきゃって言ってた気持ちも分かる気がするわ」
「……やっぱり」
「うん?」
「やっぱり、貴女は、ラクスさんのお母さんなのでしょうか」
シンが唐突に問うた質問に、ジゼルはふわりと微笑んで、出来の良い子供を褒める様に口を開いた。
「正解よ。シン・アスカ君」
「……!」
「そして、あなた達を襲ったアコードを作ったアウラ・マハ・ハイバル。貴女を利用しようとしたギルバート・デュランダル。キラ・ユラ・アスハの母親であるヴィア・ヒビキ。その夫、ユーレン・ヒビキと共にメンデルで研究を行っていた人間よ」
「アウラ・マハ・ハイバル!? アコード!?」
「えぇ。そう。おそらくは、この世界において最も罪深い存在が私達だわ。シャア・アズナブルから宇宙に進出した人類が、ニュータイプと呼ばれる進化した人類へと至ると聞いて、その夢に挑む為に、『セナ』を造り出した。その結果が今になるのだから、何だか笑ってしまうけれどね」
「セナも……」
「シン君。私達はサイコフレームを最も効率よく動かせる人間としてセナ・ユラ・アスハを造り出したわ。けれど、それはニュータイプとして、その存在を示す為に造り出しただけ。まさか、あの子が別の因子を持っているなんて思わなかった。それはヴィアも、ユーレンも、私も、アウラも知らなかった事だわ。あの子を作る為に利用した量子コンピューター。ヴェーダ。アレを利用する様に仕向けて来たギルバート・デュランダル以外は、誰も」
「!? セナには、セナには何があると言うんですか!?」
「知らなかったというのは、罪の形だわ。シン・アスカ君。蘇ったセナ・ユラ・アスハは、変わらずあの因子を持っている。デスティニープランは関係なく、人々を支配する存在、イノベイターの因子を」
「イノ、ベイター」
「彼女が再び蘇ったのなら、アウラはあの力を使って世界を支配しようとするかもしれない。ラクスとキラさんの自由を守る為にも、もう一度、戦って欲しいの」
ジゼルの願う様な言葉に、シンはゴクリと唾を飲んで彼女の要求について考えるのだった。