突如として、暗闇の宇宙に浮かび上がった蒼と白の機体、ストライクフリーダムは両手にビームライフルを持ちながら、スッとファウンデーション王国の面々を見やる。
機体に乗っている以上、視線は分からないが、キラは間違いなくファウンデーション王国軍の旗艦であるヴァナヘイム級惑星間航宙戦艦「グルヴェイグ」の艦長席に座るセナを見つめていた。
冷たく。鋭く。突き刺す様な瞳で。
『来たか。キラ……!』
「うん。来たよ。それは、都合が悪かったかな」
『こちらには、セナ・ユラ・アスハが居る!』
「僕がセナを殺す覚悟もなくここに来たと思ったの?」
『……いや、君なら、デスティニープランを止める為にセナを撃つ事もあると、私達は以前の戦いで知っている。だから!』
「だから……? っ!? ミラージュコロイドか!」
キラはストライクフリーダムを操り、機体を急上昇させて、宇宙の暗闇から放たれた攻撃をかわした。
まるで見えているかの様に捕獲攻撃を避けるキラに、暗闇をゆっくりと歪ませて現れた四機のモビルスーツのパイロットは驚きの声をあげる。
『ひゅー。流石はキラお姉ちゃん。今のを避けるんだ』
『油断するなよ。リデル。相手は伝説のパイロットだ』
『いくら伝説でもよぉ! この人数差じゃどうしようもねぇだろ!』
『その通り! このまま捕獲しますよ!』
四機は連携しながら離れるストライクフリーダムを追う。
しかし、ただ逃げるばかりがキラではない為、冷静に持っていたビームライフルで追ってくるブラックナイトスコードルドラの腕を正確に撃ち抜いた。
だが、ルドラは何ら影響を受けないままストライクフリーダムへと向かって突き進んでいた。
「ビームが効かない!? フェイズシフト装甲のビーム版か」
『その通り!』
『ビームの効かない機体で! 戦う事は出来ませんよ!』
「……確かに。フェイズシフト装甲は実体に無敵だもんね。ビームに無敵な機体でいきがる気持ちもわかるよ」
キラは放たれる攻撃をかわしながら、冷静にビームライフルをルドラに向けて、放った。
先ほどまでは何も無かった機体だと言うのに、突如としてビームを受けた場所が爆発し、左腕を喪失してしまう。
『な、なにぃー!?』
「やっぱり。ね」
『な、何をしたというのですか!?』
「聞きたい? じゃあ教えてあげるよ。レッスン1。この世に無敵なんて物はないんだよ。強い装甲があるのは確かだ。けれど、装甲と装甲の間。人の様に動かす為にモビルスーツとして形作られた以上、つなぎ目には装甲が採用出来ない。コンピューター制御された場所がある。このストライクフリーダムだって同じさ」
『隙間……?』
『いや、待て……! 今、高速戦闘を行っているんだぞ!?』
「だから?」
キラは正確に、ルドラの腕や足の関節を撃ち抜いて、戦闘出来ない様にしてゆく。
そのあまりにも正確な射撃に、キラと捕縛するべく接近していたグリフィンとリューは回避行動を取るが、それも意味はあまりない。
キラの射撃は彼らの回避を読んで、装甲ではない部分を正確に撃ち抜いていた。
『っ! バケモンか! こっちは心の声を読んでるんだぞ!』
『避けられない!』
『グリフィン! リュー!』
『加勢するぞ! リデル!』
『うん!』
二機ばかりでは勝負にならないと、リデル達も参戦し、接近戦を仕掛けるが、ストライクフリーダムが加速力を利用しながら距離をとり、先ほどまでと同じ様に関節を狙って攻撃を繰り返す為、リデル達にはどうしようも無かった。
これでは相手にならない。
このまま彼らの敗北か。という時になって一つの映像がキラの下に届けられた。
『動くな。キラ』
「……! ラクス」
『き、キラ……申し訳ございません。ですが、私に構わないで下さい!』
『やかましい! この女が何を喋っていようが、意味は無い。私には武器があり、この女は囚われている。この意味は分かるな?』
「……そうだね」
キラはため息を吐いてから両手に持っていたビームライフルを腰に装備して、空になった両手を上げた。
そして、降参だ。と短くオルフェ達に宣言するのだった。
キラと戦闘を行う事で、ファウンデーション王国自慢の兵器であるブラックナイトスコードルドラは半壊状態となった。
機体の修復にはそれなりに時間がかかり、今襲われたらひとたまりも無いだろう。
しかし。
しかしである。
「君と再び会えた事は嬉しく思うよ。キラ」
「……そうだね。こんな形じゃ無かったら、僕も嬉しかったかもしれない」
オルフェはストライクフリーダムから大人しく出て来たキラと対面し、言葉を向ける。
だが、キラはどこかそっけなくオルフェに言葉を返すばかりであった。
そんなキラに笑みを向けながら、オルフェは言葉を放つ。
「アスラン・ザラは死んだ」
「……!」
「知らなかったのかい? 可哀想な事だ。あの男は、核の衝撃に飲まれて消えたよ。ラクス・クラインや君を騙し、コンパスを操った罰だね」
「アスランは……アスランは、人を騙したりなんかしない」
「幼馴染だからと真実を見ないまま信じるのはどうかと思うが」
「幼馴染だから、じゃない。アスランだからだよ」
「話にならないな」
「こんなやり方をして、自分が思う通りに進めようとする君よりも、アスランの方が良い男だよ」
キラが微かな笑みを浮かべながらオルフェに言った言葉に、オルフェは強い怒りを覚えて、キラの細く白い腕を握る。
そして、グイっと自分の方へと引き寄せて怒りのままに言葉を向けた。
「僕が、あの男に劣るというのか!」
「そう、だよ。アスランは真っすぐな人、だから……! いつだって、正々堂々としているんだ」
「君は何も知らないだけだ! あの男は、あのパトリック・ザラの息子なんだぞ! 君だって、あの男に撃たれたと聞いた!」
「レノアさんが、酷い目にあっていたんだ。おかしくなるのは当然だよ」
「許すと、赦せるというのか!? 君は」
「うん。この世に許せない罪なんかない。僕は、自分に向けられる悪意なら、意味があると考えるよ」
「君は……君達、姉妹は、理解が出来ない」
オルフェはどこか怯える様な顔をしながらキラを手放した。
無重力の中、キラの体はオルフェからやや離れ、宙を動くが、人質が取られている為か、逃げる様な気配は見せなかった。
「理解されないのは今更だよ。僕たちは、ずっと、誰にも理解されないまま、平和を訴えていたんだ。今更だ」
「くっ……! 僕は、私は!」
「オルフェさん。まだまだ時間はある。落ち着いてから話をしよう。話せば人は理解出来る。理解し合える」
「君は……っ」
オルフェはキラに哀れみの目を向けられながらもクッと自分の中にある感情を握りしめ、立ち上がる。
大いなる存在へと立ち向かう覚悟を決める。
「君の力は予想通り、装甲などでは勝負にならない物だった。ニュータイプ的な感覚と、君の研ぎ澄まされた戦闘技能があれば、向かう所敵なしだろう」
「……」
「だが、君がこうして囚われた以上、もはや世界に打つ手はない。セナ・ユラ・アスハも、キラ・ユラ・アスハも、ラクス・クラインも! 誰もが僕らの手の中にある! 君たちはもう負けたんだ」
「まだだよ」
「……なに?」
「まだ、彼らがいる」
「っ! アスラン・ザラは死んだ! シン・アスカも、死んだ! コンパスの面々が生き残っていようが、それが僕らに対抗できる物か! 僕らの力に勝てるものか!」
「それでも、僕は彼らを信じるよ。僕の戦った映像は、世界に発信された。戦う意志のある人へ。僕の意志を示した」
「チッ……!」
オルフェは頑ななキラに舌打ちをして、近くに居た兵隊にキラをオルフェの部屋へと連れて行く様に言った。
貴賓室でも良いが、ラクス・クラインから近い場所にキラを置いておきたくなかったというのもあるし。
オルフェの部屋であれば、常に監視出来るし、あの少女が部屋に向かう事が出来るからだ。
キラは、オルフェを怒らせてからやけに綺麗な調度品ばかりがある部屋へと案内された。
まぁ銃を向けられながら歩いたため、あまり居心地の良い物ではなかったが、敵の戦艦に居る以上、あまり贅沢は言えないだろう。
「……ハァ。僕ってば、いつもこんなのばっかり」
キラは自分の両手に付けられた手錠を見てため息を吐く。
思えば敵に囚われれる経験の多かったキラである。
記憶を探れば、行動を阻害された数は多かったのであった。
「けど……僕の戦った映像。届くと良いな」
キラはやけに大きなベッドの上に仰向けのまま寝転がり、天井を見上げて一人ごちる。
静かな時を過ごす様に。
そして、そんなキラの下へ。
オルフェの部屋に一人の客人が来た。
「今、大丈夫ですか?」
「……君たちの艦なんだから、好きにすれば良いじゃない」
「そうかもしれませんが。人が居らっしゃる部屋であれば、声を掛ける必要があると、私は思います」
「ん?」
どこか丁寧な声が扉の向こうから聞こえ、キラは上半身を起こして扉の方をみれば、外から扉を開けて入ってくる少女が一人居た。
キラと同じ……栗色の長い髪と、紫水晶の瞳。
それに融和な笑みを浮かべたまだ幼い少女の様に見えるセナが。
「……セナ」
「はじめまして。で良いでしょうか。キラさん」
「あぁ。うん。そうだね。『君と会うのは』はじめましてかな」
「はい」
ニッコリと微笑んで、セナはキラに微笑みを向ける。
その無邪気な様子に、キラは小さくため息を吐いてからセナに言葉を向けた。
「さっきはごめんね」
「先ほど? なにかありましたか?」
「君を撃つって言ったでしょ」
「あぁ。その事でしたか。であれば気にしておりませんので、大丈夫です」
「そ。なら良いや」
「はい。忘れてしまいましょう」
ポンと小さい両手を叩いてセナは微笑みながら、キラにそう告げる。
どこか空気が抜けてしまう様なやり取りに、キラは拍子抜けした様な気持ちになったままセナに問うた。
「それで? 何をしに来たの? 君は」
「はい。実はお願いがあってここに来たんです」
「お願い?」
「はい」
セナはあくまで笑みを浮かべたまま、少しだけ真剣な表情になってキラに言葉を向ける。
「私を、殺して下さいませんか?」
キラとしては、予想出来ていたが、聞きたくなかった言葉を。