警報が鳴り響く中をキラはラクスと共に、アレックスとオルフェに守られながら走る。
アレックスもオルフェも、話をするキラとラクスの前を走っており、キラもラクスも自分達を守る二人を信じながら廊下を進み続ける。
「よくここが分かったね。ラクス」
「ミーアさんが居場所を教えて下さいました。補給船に紛れながら侵入するのは容易かったですわ」
「流石というか、何というか。コンパスのトップがする行動とは思えないよ」
「
「君らしいね。ラクス。ありがとう。助かったよ」
「いえいえ。以前はキラに助けていただきましたから。今度は
「以前? なんかあったっけ?」
「ふふ。キラはもう忘れてしまったかもしれませんね」
「え。忘れたって、え!?」
キラはどこか意味深に笑うラクスに動揺するが、キラがどれだけ考えようと前世の事は分からず、走りながら考え続けているのだった。
それから少しの間考えていたのだが、答えには至らないと考えたのか、あ、と言葉を出してアレックスに問う。
「そう言えば、ミーアさんはどうなったの?」
「そちらは二コルとシュラが向かっている。アルテミスのシステムはメイリンとイングリットが操作している為、状況はこちらに有利だ」
「ナルホド。用意周到だね」
「お前たちを助けるんだ。当たり前だろう」
アレックスの言葉にキラは小さく笑みを作って、ストライクフリーダムの居場所も聞き、状況も尋ねる。
最悪というワケではないが、どうにも世界の状況は悪いらしい。
キラが敗北し、ファウンデーション王国の計画が進行している為、世界はデスティニープラン施行に向かって進んでいるという事だろう。
無論、それを受け入れられない者達もいる訳だが。
「……状況はまだ、戻れる」
「そうだ。だから、まずはお前たちを解放して……!」
アレックスが言葉を続けている所、キラは不意に足を止めて、廊下の途中にあった機密用のシャッターを下ろしてしまう。
その行動にアレックスもオルフェも驚いて足を止めるが、キラはシャッターを背にしながら手をシャッターに付けて彼らに聞こえる様な言葉を向けた。
「助けに来てくれて嬉しいけど。僕はまだやる事があるから、みんなはミーアを連れて脱出して」
『キラ!? どういうつもりだ!』
「どういうっていうのは無いけどさ。まだしなきゃいけない事があるんだよ。ここには」
『なに!? キラ!』
キラはシャッターから離れて、銃を向けながらキラの見る視線の先に立っている男を見やった。
裏切者と呼ばれるオルフェが、ファウンデーション王国から離れてから作られた存在。
シュラと同じく、量産型のシュラとは違い、オリジナルであるオルフェと同じ能力を持っている存在を。
「宇宙にある軍事要塞のシャッターなら、銃なんかじゃ穴は開かないよ。オルフェ君」
「……キラ。何故、我らの下を離れようとする!」
「何故って言われても困っちゃうけど。君達と同じ意見を持ってないからだよ」
「ここを出て行けば! 再び世界はお前を神として扱うだろう! 待っているのは、人としての死だ!」
必死にオルフェが言葉を向けながら手に持った銃をキラに向けている状況に、キラはオルフェやイングリットが追手の加わらない事に安堵を感じる。
それを表に出す事はないが、ラクス達が脱出するまでの間、彼と言葉を交わす事とした。
アレックスならば、キラを助けに来るよりはモビルスーツでこの基地を制圧しようとするだろうと考えながら。
「死はこの世界じゃ溢れたモノなんだよ。僕だけじゃない。多くの人が平和を願いながら死していった」
「だが、ここまで戦い続けた者はいない! 願うばかりでは意味がないんだ」
「だからこそ、僕は世界を変えようとした。それがコンパスだよ」
「しかし、コンパスはアスラン・ザラに奪われ、奴の思うままに動く操り人形となってしまった!」
「アスランはそういう人じゃないんだけど」
「ならば、何故世界にテロが増える! 何故キラとセナを呼ぶ声が消えない!」
「世界が変わろうとしている時だからだよ。理想がある人はそれを叫ばずには居られない」
「くっ……!」
「それにね。僕は、神になるつもりも、象徴になるつもりも無いんだよ。世界に平和が作られれば、僕はそれ以上するべき事はない」
「っ! キラァ!」
「僕はキラ・ユラ・アスハ。オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハの妹だ。けれど、それ以上は何もない。ただのキラなんだ。オルフェ君」
オルフェはキラを威圧する様にキラのすぐそばを撃とうとした。
しかしオルフェが持っていた銃は何者かによって弾かれ、オルフェは咄嗟に物陰に飛び込みながら自分の銃を撃った者へと視線を向ける。
「嫌な登場だね」
「せっかく助けてやったのに、随分な言いぐさじゃないか。キラ・ユラ・アスハ」
「頼んでないよ。リボンズ・アルマーク」
キラはオルフェが立っていた所から少し離れた廊下へと視線を向け、何もない空間へと語り掛ける。
そして、キラの言葉が響いてから廊下にあった空間が揺らいで、一人の青年がパイロットスーツのまま姿を現した。
かつてキラと死闘を繰り広げた青年、リボンズ・アルマークである。
「よく僕の事が分かったね」
「まぁね。君の殺意はチクチク肌を刺すくらいに痛いからさ」
「なるほど、殺気か。その様な物も感じるとは、流石というべきかな」
「別に褒めなくても良いよ。どうせそんなつもりも無いんだろうし」
キラは銃を構えているリボンズを恐れる事はなく、淡々と言葉を向けてゆく。
オルフェやイングリットとは違い、リボンズはいつキラを撃ってもおかしくはないのだが、キラが怯む様な事は無かった。
「気に入らないね。僕はいつでも君を撃つ事が出来るんだよ?」
「撃ちたければ撃てば?」
「……なに?」
キラは挑発する様にリボンズへと言葉を向ける。
そのバカにする様な言葉にリボンズは反応して怒りを真っすぐにキラへと向けた。
「モビルスーツでの戦いは僕が勝った。けれど、君はこうして直接僕を撃つ事で決着としたいのならそうすれば良いっていう話だよ。僕が死んだらもう二度と君は勝てないけど」
キラの言葉にリボンズはピクピクと青筋を浮かべながら怒りをひたすらに募らせる。
「生意気な小娘だ。僕が怒りのままに引き金を引けば、君は死ぬんだ。それが理解出来ているのかい?」
「だからさっき言ったじゃないか。僕は死んで勝ち逃げでも良いんだよ」
「……! ここで、君を殺して、コンパスを壊滅させてやったって良い!」
「好きにすれば良いじゃないか。どうせ死んだ僕には分からないんだからさ。勝ち逃げされた事が悔しくて、負け惜しみがしたいのなら、好きにすれば良いだろ」
「キラ・ユラ・アスハ!!」
挑発が限界に達したのか。リボンズは怒りのままに引き金を引いて、キラの肩を撃とうとした。
殺すワケではない。
ただ恐怖を植え付けようとしただけだ。
しかし、キラはリボンズの攻撃を悟って横に飛び込みながら銃弾を回避し、更に下ろしていたシャッターを開ける。
ちょうどキラを迎えに来ていたアレックスは急にシャッターが開いた事におどろきを示したが、すぐ目の前にキラが居て、その向こう側に銃を持ったリボンズが居る事ですぐに動き出し、リボンズの銃を撃ち抜く。
「キラ!」
「助かったよ! アレックス! 行こうか!」
「っ! 分かった!」
状況は分からないが、アレックスはキラと共に廊下を進み始める。
アレックスが現れた事で呆気に取られていたリボンズであるが、すぐに銃を取って、キラの所へ向けて廊下を進み始めるのだった。
キラとアレックスが去り、リボンズが去ってから、誰もいない廊下の中で、リボンズに弾かれた銃を拾ってオルフェは怒りのままに壁を殴る。
キラがあえてここに留まってリボンズと言葉を交わしていたのも、ミラージュコロイドを使った彼と会話をして、自分に注意を向けさせてからリボンズをここから引き離す為だったのだろう。
オルフェが聞いたキラの心の声は、安全になったら逃げてと告げていた。
「……助けられた!!」
怒りのままに壁を殴りつけてから、キラの居た部屋からこちらに来たイングリットへと顔を向ける。
「オルフェ! ラクス様が、キラの部屋に来て、私達が捕らえていたラクス様は偽物で」
「あぁ。状況は聞いた。しかし、このままでは終わらせん」
「じゃあ」
「カルラを動かすぞ!! キラを我らの下へ取り戻す!!」
「はい!」
オルフェとイングリットは言葉を合わせてから急いで格納庫の方へと走って行った。
そして、オルフェやリボンズから離れたキラは、アレックスに案内されるままアレック達が侵入の為に使ったとされる補給艦へと向かい、その中にあったストライクフリーダムのコックピットへと飛び込む。
「まさか、ストライクフリーダムまであるなんてね」
『キラがストライクフリーダムに乗るのは脅威だろうからな。他の場所に封印されていたのを確保してきた』
「アレックスは本当に気が回るねぇ。アスランとは大違いだよ」
『当然だ。アレはあくまでオリジナルというだけで、俺ではない』
「ふふ。アレックスは本当に……」
キラはアレックスの言葉に笑みを向けていたのだが、不意に顔をバッと上げると、ストライクフリーダムを動かして、振り下ろされるビームサーベルをビームシールドで受け止める。
そして、機体を動かして、アルテミスの外へと、真紅に染まる機体を連れて飛んで行くのだった。
『キラ!?』
「僕の事は良い! ラクスとミーアを連れてミレニアムへ! まずは世界に僕らの声を向けて!」
『分かった! すぐに戻る! すぐに出るぞ!』
『私も行こう!』
『そろそろ俺の出番か! 俺も行くぞ!』
『熱血な方が多いですねぇ。僕も出ます』
輸送機の中からアレックスと共に三機のモビルスーツも動き始め、それに合わせて、アルテミスでもオルフェのかる純白のモビルスーツ、ブラックナイトスコードカルラも動き始めた。
アレックス達がアルテミスを脱出する為に行動を開始した頃。
アルテミスの外へと真紅のモビルスーツと共に脱出したキラは、真紅のモビルスーツを勢いよく突き放して、右手にビームライフルを握る。
「前のガンダムは捨てちゃったの? リボンズ・アルマーク」
『ふははは! 捨ててはいないよ。けれど、前は機体の性能差で負けてしまったからね! 今度はそうならない様にしたっていうだけの話さ』
『性能差、ね』
以前と同じレーダーに映らない機体に乗ったリボンズは高らかに、気分のまま叫ぶ。
ようやくこの時が来たと、その喜びを示す様に。
「口では何を言ったって無意味だよ。結局君は負け犬のままだ!」
『それは今日変わる、この新しい力! リボーンズガンダムで!』
「何が、ガンダムさ!」
キラはビームライフルでリボンズを撃ち抜こうとするが、リボンズはフィールドを展開して、それを弾くと内部より強力なビームをストライクフリーダムに放つ。
「チッ!」
『その程度の攻撃は効かないよ!』
リボンズは接近戦を仕掛け、キラは接近しても出来る事は無いと、ビームライフルを放ちながら距離を取ろうとするが、不意に何もない空間からビームが放たれ、ストライクフリーダムは咄嗟に回避をするが、動きが止まって、リボンズの攻撃を受け止める事になってしまう。
「これは!」
『驚いたかい!? 君との決着の為に僕が用意した駒だ! 』
キラはリボンズの言葉に、現れた数機のモビルスーツへと意識を向ける。
そこから感じる子供の様な小さな気配に。
そして、彼らが乗っているのは、かつてリボンズが乗っていたガンダムに酷似した量産型の機体であった。
「これは、子供!?」
『そうさ。君と同じ究極のコーディネーターだよ。僕が作り出した。君を従える為にね』
「なんて事を!」
リボンズガンダムの蹴りでストライクフリーダムは再び宇宙の中に飛ばされビームライフルでリボンズを狙い打つが、フィールドで弾かれるばかりだった。
数機のモビルスーツを従えて、リボンズは機体の両腕を広げながら語る。
『ふ、ふははは! 君が始めた事だよ。キラ・ユラ・アスハ』
「僕が、始めた!?」
『そう。君が。君だよ。かつてユニウスセブンを目前とした戦いで、放たれた核ミサイルを、君は狙撃した。それが世界にどれだけの衝撃を与えたか! 分かるまい!』
「それが、何だっていうんだ!」
『ふ、ふふ。君はやはりその程度の認識なのだな。君の行動を見ていると分かるが』
「なにが……!」
『世界はね。キラ・ユラ・アスハ。あの瞬間に神を視たんだよ。君達姉妹に! 信仰を見出した!そして! 救世主に、神となったんだよ『ガンダム』は! あの瞬間に!』
『救世主たる僕ではなく! 君たちは誰よりも早く。どんな物よりも強く。世界にガンダムこそが神である。救世主であると示した。そのガンダムに乗る自分が! 世界を救う存在だと! 世界に見せつけたのだ』
「くっ……!」
『だからこそ。僕もこう宣言しよう! かつての救世主である君に!』
「リボンズ・アルマーク……!」
『この機体こそ! 人類を導く! 『ガンダム』だ!』
高らかに宣言されたリボンズの言葉に、キラは歯噛みしながらキュッとストライクフリーダムの操縦桿を握りしめるのだった。