広い宇宙の中、ミレニアムを中心として起こっている戦闘に、シンは逃げるでも、避けるでもなく、真っすぐに向かう。
武装も装甲も無い様なシャトルで戦場を走るのは自殺行為であるが、歴戦のパイロットであるシンも、愛娘の手助け以外には興味がないジゼルも気にしないまま止める人もなくミレニアムへと突っ込んだ。
そして、緊急着艦ゲートから内部へと突入したシンは、驚き声を上げる整備員に軽く言葉を向けながら空いている機体を探す。
「シン!? お前、どんな方法でここに来てるんだよ!」
「ヴィーノ。悪い! 今、急いでて、機体を探してるんだよ!」
「探してるって、何か目算でもあるのか?」
「ないけど! とにかく戦場に戻った方が良いって」
「ハァー。ったく。お前はエースになろうが、何も変わらないな」
ヨウランという名の青年は、わたわたと慌てるシンに、格納庫の奥にある機体を示す。
親指で乱雑にソレを示されたシンはそちらに顔を向けて、目を見開いた。
「これは……! デスティニー!? なんで!」
「代表からの贈り物だ。デュランダル元議長ともやり取りして、ここまで持ってきたんだよ」
「……そっか」
ゴクリと唾を飲み込んで、湧き上がる衝動を拳で握りしめて、シンは真っすぐにかつての愛機を見やった。
ライジングフリーダムは不意を突かれて破壊されてしまった。
咄嗟に回避行動をとろうとしたが、デスティニーではない、フリーダムではシンの無理な操縦に付いてきてくれる事はなく、無残にも落とされてしまった。
しかし、デスティニーはシンの為に作られた機体である。
どんな時でも、どんな戦場でも、シンと共にシンの想いに応えてくれるだろう。
「デスティニー。お前となら、俺は何だって戦ってやる!」
「すぐに出るのか?」
「あぁ! すぐに出る! この戦いを終わらせる!」
「了解! こっちもすぐに準備するからな!」
シンの言葉にヴィーノ達は関係各所へと連絡を急ぎながらデスティニーで戦える準備を進めてゆく。
その間にシンはデスティニーのコックピットに飛び込んで、すぐにでも戦える準備をするのだった。
そして……。
『カタパルト接続。全システムオンライン。超電導キャパシタ1番から10番臨界到達。誘導システム異常なし。進路クリアー。デスティニー、発進どうぞ』
「シン・アスカ! デスティニー……行きます!!」
シンは出撃してすぐに光の翼を展開して、レーダーに映るレイ達の元へと駆けてゆく。
途中に現れた敵の機体はビームライフルで順次撃ち落として、遠くへ、遠くへと走ってゆくのだった。
シンが戦場に参加した頃。
キラを追って、アルテミスを飛び出したオルフェとイングリットは、自分と同じ機体を目の前にして、動きを止めた。
ファウンデーション王国の技術の粋を集めて作られたブラックナイトスコードカルラと同型の機体。
かつて最強の名を欲しいままにしていたキラのストライクフリーダムと酷似したオルフェの機体だ。
しかし、オルフェはキラの持っている物を欲し、キラを欲した為、この機体を選び。
カルラと相対する機体に乗った、異世界の記憶を持つオルフェはキラの目指した物を見つめる為に、あえてこの機体を選んだ。
そして、二機のカルラはそう定められていた様にぶつかり合う。
かつての世界を参考として作られた異世界の記憶を持つオルフェのカルラは、この世界のカルラと酷似しており、オルフェはそれが彼らがファウンデーション王国から盗んだものだとして怒りを強くしていた。
『どういうつもりだ! 裏切者め!』
「どういうもこういうもない。私が扱いやすい機体を用意しただけだ」
『ふざけるな!!』
相対する機体から向けられる怒りに、オルフェはフンと息を鳴らしながら冷静に向けられる攻撃を捌いてゆく。
機体に優劣はほぼ存在しないが、パイロットとしての性能は間違いなく裏切者と呼ばれたオルフェの方が高かった。
だからか、そんなオルフェを倒そうとする、居なくなった彼の代わりに作られたオルフェは、一つの武装を使用可能とする。
『イングリット! ジグラートを呼べ!』
『はい』
「ジグラート……! 来るか」
「オルフェ。この状況で敵が増えたら……!」
「厳しいかもしれん」
「それなら、増援を」
「いや、キラ・ヤマトはこんな状況でも逃げずに私と戦っていたのだ。ならば!! 私も逃げる事は出来ん!!」
オルフェは強くイングリットの言葉を否定して、カルラの操作をより機敏に正確に、研ぎ澄ませて行く。
そして、静かにビームサーベルとビームライフルを構えながら戦闘の意識を研ぎ澄ませて戦場に立つのだった。
「イングリット。回避は任せる。危険な攻撃だけ連携してくれ」
「……は、はい! でも、オルフェ」
「大丈夫だ。私を信じろ」
「っ! はい!!」
イングリットはオルフェの言葉に大きく頷いて周辺情報をまとめ始めた。
そして、緊急性の高い攻撃だけは避けられる様にオルフェへと短く連絡出来る方法を確立してゆく。
相対するカルラではイングリットがジグラートの操作を行いながら、オルフェがカルラの操作をするべく最適化を行っており。
それが完了すると同時に、彼らは再び苛烈な戦闘へと身を投じるのだった。
新旧オルフェ達の争いが行われている頃。
彼らから遠く離れた宇宙では一つの争いが終わりを告げようとしていた。
それは、ファウンデーション王国との戦いが始まった当初から行われていた戦いであり、一対一の戦いに不利を感じて、クローンのシュラを二人投入させた戦い。
そう。アスランとオリジナルのシュラがぶつかっている争いである。
ファウンデーション王国との戦闘初期から戦っていたアスランは、シュラとの戦闘の中で、武装の半分以上を失っており、途中から複数の敵と戦う事でエネルギーも相当に消耗していた。
モビルスーツでの実戦経験は多いが、シュラがアスランの想像以上に強かった事も原因の一つだろう。
アスランは徹底的に追い詰められていた。
正面に三機のシヴァが居て、背後には破壊された巡洋艦が居る為、後方に逃げる事は出来ない。
また、上方や下方に逃げようとも、三機に挟まれるのは容易に想像がついた。
そして、そんな行動をした所で、既にこの状況が終わりのなかに居る事をアスラン自身はよく理解していたのである。
『ここまで苦戦させられるとはな。流石はアスラン・ザラだと言っておこうか。しかし! これで終わりだ!』
オリジナルのシュラは合図をしながら三機同時に仕込みニードルをアスランへと向け、フェイズシフトの上からでも一気にエネルギーを奪い取って決着としようとした。
しかし、そんなアスランへと向けられた多数の刃は、一機のモビルスーツがアスランの前に降りて来た事でアスランには届かぬままそのモビルスーツが受け止めてしまう。
多くの爆炎を撒き散らしながら、フェイズシフトではない装甲を削って、両腕で中央を守りながらインフィニットジャスティスの前に立つ。
その姿は……。
「ズゴック!? まさか」
『ここに来るまでにいくつもの悩みがあった。しかし、その悩みがこの様な状況を作ってしまった様に思う』
ズゴックから聞こえる声は、どこか自嘲の様な。
反省の色が含まれている様に聞こえていた。
アスランは急な乱入に驚きながらも、再び始まる戦闘の為に準備を行ってゆき。
ズゴックが乱入する事で、動きを止めてしまったシュラ達は、呆然としたままボロボロのズゴックを見やる。
そして、シュラの目に晒されながら、爆発するボロボロのズゴックより真紅の影が上空に飛び上がり、格納していたバックアップを展開して、ジャスティスよりもスリムな機体でビームサーベルを展開する。
『な、なぁー!? ジャスティス!? インフィニットジャスティスか!?』
『違う! これは俺の為に開発された機体! インフィニットジャスティスではない! そして!!』
アレックスはビームサーベルを展開したままシュラ達の所に飛び降りて、動揺したまま動けずにいたクローンのシュラが居るシヴァのコックピットをビームサーベルで貫いて、爆発させる。
オリジナルのシュラとクローンのシュラは咄嗟にアレックスを避けようとするが、今まで追い詰められていたアスランはいつの間にかビームサーベルを抜いており、クローンのシュラのコックピットに二本のビームサーベルを順に刺してゆくのだった。
『ば、バカな!? まさか! 俺が追い詰められるとは! 次だ! 次のクローンを寄越せ!』
シュラは焦りと驚愕を滲ませながらファウンデーション王国へと通信をするが、返答が戻ってくる事は無かった。
何故なら、シュラを多く量産する為に占拠した月の施設は既に脱走したシュラによって破壊されており、もうシュラのクローンが戦場に投入される事は無かったからである。
そのことを知らぬままシュラはひたすらに通信を呼びかけ、遂には二機のジャスティスに前後を挟まれてしまうのだった。
そして、アスランとアレックス。
正面に居る機体からの攻撃に対抗して、攻撃を弾こうとするが、もう一機の機体からの攻撃には対応できず、コックピットをビームサーベルで貫かれてしまう。
『ぐ、はっ……! ば、バカな。最強たる、俺が、多数いれば、負けるハズなど』
「数を増やせば良いという事ではない」
『お前の敗因は、その驕りだ』
アスランとアレックスに言葉を向けられ、シュラはコックピットを前後からのビームサーベルに貫かれたまま爆発の中に散る事となった。
『この俺が……!』
最後の言葉は虚しく宇宙の中で散り、戦場にはアスランとアレックスの二人だけが残される事となったのであった。