ダイダロス基地にあった、ムウの駆るアカツキによって破壊されたレクイエムは、静かに修理を進めてゆき、セナが戦場に入ると同時にオーブへと放たれた。
別にレクイエムを無視していたワケではないが、ファウンデーション王国やプラントの勢力を排除する為に動いていた面々は、暗い宇宙を照らしていく巨大なビームの光に目を見開いた。
そして、そのビームが焼き払おうとしている先を見て、知って、感じて、声を上げる。
『オーブが!』
防ぐことの出来なかった一撃に、コンパスの面々は誰もが声を上げる。
それは戦場に参加したシンとて例外では無かった。
しかし、流石のデスティニーであってもレクイエムの光を止める事は出来ない。
レクイエムはアウラの願い通り、セナの目的通り、地球にあるオーブ連合首長国。首都オロファトを砕くと思われた。
だが、レクイエムが放たれる少し前、オーブの上空。
大気圏外にオーブ全域を軽く覆う様な巨大な何かが蠢いており、アズラエルが指揮する部隊に守られながらゆっくりと活躍の時を待っていた。
そして……。
「っ! ダイダロス基地に巨大エネルギー反応!」
「レクイエムです! 狙いは不明!」
「擬装排除! 第1から第10エンジン全開! ヴォワチュール・リュミエール全開!」
「対ビームコーティング、正常! フェイズシフト展開!」
「艦上部にゲシュマイディッヒパンツァー! 展開!」
「キラの言う通り、ここまでは予定通り。かな?」
『はい。かつての世界の記憶を持つ私であれば、オーブを撃つ事でキラお姉ちゃん達の戦力を残したまま戦闘を終わらせようとしたでしょう。デスティニープランが例え悪だとしても、世界を導く国家などは必要ありませんから』
「レクイエム! 地球に向かって来ます!」
「対ショック体勢! 総員! 近くの物に掴まれ!!」
『この艦は大丈夫なのでしょうか』
「心配すんなって。俺達が作り上げたキラの夢はそんな簡単に壊れやしないぜ」
『……! そうですね』
ブリッジの中で、中央に置かれた指令席のモニターに映る小さな姿をしたセナは指令席に座っていたユウナ・ロマ・セイランから正面にある巨大モニターへと視線を移した。
モニターから浮かび上がる3Dの肉体は、手のひらサイズの大きさでしかないが、この艦の開発責任者である男と共に居る女性が作り上げた衣装を着て、アイドルの様にふわりとスカートを靡かせながら、両手を胸の前で組んだ。
そして……。
「レクイエム! 来ます!!」
「耐えろ! カグツチィ!!」
指令席に座った男、ユウナの隣に立っていたロウ・ギュールは近くにあった手すりに掴まりながら叫び、直後艦が大きな衝撃で激しく揺れる。
ちょうどレクイエムの光が、宇宙に現れた超巨大戦艦、カグツチの上部にぶつかった状態であった。
本来ならそれは艦を貫いて、艦の下にあるオーブへと憎しみの光をぶつける所であったが、カグツチが展開したゲシュマイディッヒパンツァーによってレクイエムの巨大ビームはカグツチを中継点として、別の場所へ。
地球とは関係がない宇宙の向こうへと流れて消えて行った。
それから少しばかり時間が経って、カグツチの内部に伝わっていた衝撃は収まり、宇宙には静寂が戻る。
「状況は!?」
「っ、か、カグツチ。上部破損状況。5パーセント以下です」
「航行に支障なし」
「ゲシュマイディッヒパンツァー。問題なく動作しています」
「ハァ……た、耐えられたか」
「当たり前だろう。俺達が作った最高の移民船だぜ? この程度の攻撃で壊れるもんかよ」
『ありがとうございます。ロウさん』
セナは自信を示して笑うロウに笑顔で礼を言ってから、全世界へと通信をつなげた。
ネットワークに存在しているセナは、容易くシステムに侵入する事が出来るので、メイリンが掌握したシステムも容易く奪って喋る事が出来る。
『皆さん。お久しぶりです。セナ・ユラ・アスハです』
ゆっくりと、以前と変わらない様子で語り始めるセナに、世界中の誰もが衝撃のまま声を上げる。
そして、それはレクイエムを操っていたアウラ・マハ・ハイバルも同様であった。
周囲に居る者達にセナの声が本物かどうか調べさせて、ジッとモニターに映るセナを見やる。
『私と同じ名前、同じ顔、同じ声の方が居るのは存じております。そして、彼女の狙いがデスティニープランである事も私は知っています』
『しかし、私はデスティニープランを良い物だとは考えておりません』
セナの言葉に、かつて地球軌道上で行われた戦いを知る者達は驚愕のまま声もなくセナが映るモニターを見つめる。
ゴクリと唾を飲んで。
込み上げる辛さを噛みしめる様に両手を握りこんで、静かにセナを見つめた。
『あの戦いは、デスティニープランを否定する為に行われた物でした。私が最も信頼するキラお姉ちゃんに。幾多の不幸を乗り越えて、希望を見せてくれたシン君に、デスティニープランを打ち破って欲しかったのです。世界には自由が必要なのだと示して欲しかった』
静かに自分の考えを語るセナに、誰もがかの戦いによる苦しみを思い出しながら、届かぬと分かっていても声を上げる。
それではこの世界はどうすれば良いのかと。
自由を持っていても争いは消えないと。
ただ、ただ届かぬ叫びをあげた。
しかし、そんな叫びをあげた人々の持っていた端末が淡く光を放ち、そこに小さなセナが画面より浮かび上がり小さな体を持って画面の外で躍る。
あくまで画面の範囲しか動けないが、ある程度は自由に動ける様だった。
そして、彼女たちは世界に現れてから語る。
『自由をただ得ても人は苦しいばかりです』
『だから、聞かせて下さい。私なら、いつでもお話出来ます』
彼らが持っていた端末から現れたセナはふわりと微笑んで、持ち主に笑いかける。
その姿に。
人間としての肉体を失ってなお、優しく人々を包もうとする姿に、誰もが端末を抱きしめながら泣き崩れ、持たされていたデスティニープランという理想を捨てるに至った。
セナの願いは、運命で世界を導く事ではない。
ただ、人が幸福に生きていく事が出来る事だと。
争いではなく、願いで世界を導く事だと。
カグツチの中から世界へと向ける。
彼女の純粋な想いを。
全てのネットワークを繋げて、全ての個人の元へ。
オーブの代表首長カガリの元へも。
カグツチを護るために艦隊を動かしていたサザーランド少将の元へも。
サザーランドと共に戦場に居たアズラエルの元へも。
戦場に戻ってきて親友を助けたシン達の元にも。彼らと争っていたブラックナイトスコードの面々の元へも。
レクイエムを撃つ為に指示を出していたアウラの元へも。
「セナ……! わらわの所にも」
『えぇ。貴女がどの様な人であっても、私は変わりません。話を聞かせて下さい』
「……セナ! わらわは……!」
そして、レクイエムを護るために立っていたサイコガンダムのコックピットにいるセナの元にも。
「……貴女が、セナ・ユラ・アスハ」
『はい。初めまして、ですね』
「そうですね。まずはお話から、でしょうか」
『それが良いと思います』
クスリと笑うセナに応えて、モニターのセナはニッコリと微笑んだ。
そして、これはセナやアウラだけではない。
戦場に居る。
地球圏に居る全ての者がセナと触れ合い、キラが愛した自由の未来へと足を踏み出すべく想いを向ける。
数少ない例外を除いて。
『っ! バカな! これで! この程度の事で争いが止まるだと!?』
リボンズは、コックピットの中で叫び声をあげた。
目の前には悲し気な顔をしたセナがリボンズを見つめているが、知った事じゃない。
世界が平和になってしまえば、救世主など、必要のない世界になってしまうではないか。
このままでは、セナが、世界の救世主となってしまうではないか! とリボンズは叫ぶ。
『まだ、こんな事で終わってたまるか!!』
「投降しろ! リボンズ・アルマーク!」
『黙れ! まだ、この戦場は、僕の戦場だ!!』
リボンズは周囲の子供達に命令をして、ストライクフリーダムを囲む。
しかし、ストライクフリーダムはあえて子供達が迫ってきている方へ向かって、子供達に囲まれると、両手に持ったビームライフルで周囲にいる子供達を狙撃するのだった。
左右同時に。
高速で、狙った瞬間には既に撃っている様な速さで、子供達の持っている武器を破壊してゆく。
両手に持ったビームライフルで一気に戦場を支配してゆくキラに、リボンズは怒りながら巨大ビームをキラに放った。
キラはその瞬間に、既に破損していた翼を廃棄して、上部に飛ぶ。
キラが廃棄したドラグーンシステムを操作する為の翼は、リボンズが放った一撃により爆破するが、既に逃れているキラには影響を与えず、キラは飛んできた戦闘機と軸線を合わせる。
「ラクス! この憎しみを終わらせよう!」
『っ! 戦闘機!? 新しいドラグーンシステムか! だが、戦場で合体など! バカのする事だ!』
リボンズは戦闘機と合体しようとしているキラを落とす為に。
力を見せつける為に、あらゆる装備を使ってキラを狙い撃った。
ビーム砲も、ビームライフルも、ファングも。
全てをキラに向けて……放つ。
「プラウドディフェンダー! ドッキング!」
『ここで落ちろ!! キラ・ユラ・アスハ!!』
戦場で立ち止まり、一機の戦闘機と合体しようとしていたフリーダムは、リボンズの駆るリボンズガンダムによって様々な攻撃を叩き込まれ、爆炎と巻き起こる煙の中に包まれた。
そして、リボンズはその煙を見て、満足気に笑みを浮かべるのだった。