キラが危機に陥って、それを助ける為にラクスはミレニアムにあったプラウドディフェンダーに乗り込んで、キラの元へと駆けた。
近くに来たことを伝えると、キラは既に使えないドラグーンシステムを操作する為の翼を捨ててプラウドディフェンダーの飛ぶ飛行上に浮かび上がる。
そして、プラウドディフェンダーが接近した事を知ったミレニアムのアルバート・ハインラインが遠隔操作でプラウドディフェンダーを動かし、ストライクフリーダムとプラウドディフェンダーは無事、戦場で合体する事が出来たのであった。
合体した影響でストライクフリーダムのエネルギーは全て回復し、更には機体を覆うようなバリアが現れる。
そのバリアは透明であるが、プラウドディフェンダーから溢れた粒子を形作っており、それが固体化してある程度の攻撃までを防いでしまう。
リボンズガンダムが張っているフィールドと同じ様に。
「プラウドディフェンダー。出力正常」
「キラ」
「ラクス。ここまでありがとう。嬉しいよ」
「
プラウドディフェンダーのコックピットから飛び出してきて、ストライクフリーダムのコックピットの中に飛び込んできたラクスを受け止めて、キラは笑う。
そして、ラクスもキラの隣に座りながら微笑みかけた。
ここには二人だけの空間が出来ていたが、周囲を覆っていた煙が消えて、フリーダムの姿が現れた時、フリーダムに攻撃を仕掛けてきていた者から驚愕の声が届く。
『ば、ばかな!? 無事だと!? バカな!』
「驚いても、声を上げても何も変わらないよ。君の欲望じゃあ僕は落とせない」
『くっ、くぅぅう、何故だ! どうしてお前は! こうも抵抗をする!』
「生きる為だよ。それが僕が戦う理由だ」
『生きる事ならいくらでもできるだろう! 戦わなければ良い! 戦場に居なければ良い! 姫として、生きていけば、この様な事は無かったはずだ!』
「そうかもね。けれど、僕もラクスもセナも、選んでしまったんだよ。戦う道を。世界を平和に導く道を」
キラはビームサーベルでリボンズの放つビームを切り祓い、リボンズガンダムへ向けて走る。
リボンズはキラに近づかれない様に様々な武器を放つが、フリーダムには一つも届かず、接近されて、プラウドディフェンダーに装備されていた刀により、片腕を切り落とされてしまうのだった。
そして、レクイエムが防がれても戦闘を止めて無かったのはリボンズだけではない。
月からやや離れた戦場でぶつかり合う白亜の機体。
それらの搭乗者であるオルフェとイングリット達もまた、セナが現れようと戦闘を続けていた。
『裏切者め! これほどの力を持っているとは!』
「アウラに従うだけの存在が、これほどの物か!」
二人は同じ顔、同じ声を持ちながら、機体を同時にぶつけさせて叫ぶ。
力をぶつけ合う。
『それだけの力、それほどの見識があれば分かるだろう! この様な物に意味など無いと!』
「なに!?」
『セナ様は、世界を救われた! だが、それに何の意味がある! それぞれの端末からでもアクセス出来る様になったセナ様は、世界の悩みを消してしまうだろう! しかし、それはセナ様に依存する日々を、ただ深めるだけだ!』
「だが、争いは世界の動きを止めてしまう! 進もうとした人を殺してしまう!」
『だからこそデスティニープランだ! 世界をセナ様が管理して、我らがセナ様をお守りする! 世界を導くのだ!』
「くっ!」
ファウンデーションの為に戦っていたオルフェはビームサーベルを展開したまま勢いよく、コンパスのオルフェに襲い掛かった。
そして、ビームサーベルを叩きつけながら叫ぶ。
『逃げ出して、世界を見て、どうだった!? 我らの使命を捨て、生きて、どの様に感じたのだ!』
「私は……!」
『かつての戦いで、セナ様はお一人で戦われた! あの戦いを見た時、我らは為すべき事を! 戦うべき理由を見つけたのだ!』
ただの操り人形ではない。
理想の為だけに生きる人間ではない。
確かに生きている存在として、攻撃を続ける男にオルフェは少しずつ追い詰められてゆく。
追い詰められていく中で思い出すのは、かつてあった戦いの事だった。
キラとラクス。
自分とイングリットが敵となり、自分が想いを……言葉をキラに、ラクスに向けていた。
『人の愚かさ故に我らは生まれた! 平和だ、平等だと口にしながら他者に変わることを要求し、決して自ら変わろうとしない!』
『だからいつの時代も争いは絶えない。怨みを忘れず、破滅に瀕しているというのに! 目先の損得や思い込みに取りつかれ、足を引っ張りあう! みんな愚か者だ!』
『導く者が必要なのだ! この分断と流血の歴史を終わらせる。それが我らの生まれた意味だ!』
かつてオルフェは使命の中で生きていた。
そして、オルフェは世界を導いて、自分が世界を平和にしようと意気込んでいた。
しかし、この世界ではセナが居り、セナが世界を導く。
オルフェはただ、彼女を守るだけで良い。
だが、それでも。
ただ、戦うだけの存在であっても、セナが戦う力を持たない以上。
周囲の存在が、世界が彼女を排斥しようとすればするほどに、彼の絶望は増えてゆくのだ。
平和を、平和をとセナは訴え、行動を、言葉を尽くして、世界の為に動き続けて来たのに世界はそんな彼女を排斥するだけだった。
平和から目を逸らして、争いばかりを続けるだけだった。
だから、オルフェは守りたかったのだ。
小さな体で世界の為に戦い続ける少女達を。
セナを、キラを。
彼女たちがどれだけの力を持っていたとしても、変わらない世界の中で、争いばかりが満ちる世界の中で、小さく可憐な花を守る者になりたかったのだ。
『かつての戦いで、世界は平和になることが出来た! しかし、お前たちがそれを拒絶したのだ! 平和など要らぬと! 争いを求める! そう叫んだのだ!』
「違う! 私達は! 生きたかっただけだ! 自分の足で、自分の体で、ただ、生きていたかっただけなんだ!」
「……オルフェ」
オルフェは迫りくる機体のビームサーベルを弾き飛ばし、機体ごと遠くへと追いやってからドラグーンを展開し、それらの攻撃を重ねながら叫ぶ。
「私には恨みがあった! 憎しみがあった。誰も望んでいないというのに、こんな世界に産まれて、世界を導く使命だと押し付けられて! 愚かな者達の旗頭になれと言われた! だが、私には仲間がいた! 婚約者が居た! それで、その使命で良いと思えた! しかし、キラに倒されて! 愛を見て! 私は知ったのだ! この世界で、彼女達に触れて……愛を、知ったのだ!!」
『っ!』
「世界は変わらない! 理不尽は消えない! 戦いは理想を踏みつけてばかりだ!! しかし! それでも私には確かにある! 私の胸には確かに煌めく物がある!」
『そ、それは、なんだ!?』
「イングリットの! 愛だ!!」
オルフェは叫びながら敵のドラグーンを避けて懐へと飛び込み、袈裟斬りをする様に敵の機体を斜めに切り裂いた。
無論、これでいきなり爆発する事もないが、機体が斬られた事で、内部で機体を動かしていたオルフェは爆発により、ダメージを受けてしまう。
計器が爆破し、飛び散った破片がオルフェの体に突き刺さった。
『オルフェ!』
『ぐっ、くぅ……く、くぅ……あい、だとぉ!?』
『動いては駄目! オルフェ!』
後部座席から飛んできた敵機のイングリットは苦しんでいるオルフェに寄り添いながら言葉を向ける。
しかし、オルフェはそんなイングリットを見る事もないまま、ただモニターに映る男を見やった。
自分が生み出される前に、ファウンデーション王国を出て行った男。
なにかを掴んだのか、異様な力を持って戦場に居た者。
真っすぐに自分の想いを否定する存在。
彼はオルフェにとって一つの壁であった。
そして、その壁が言葉を叩きつけてから、宇宙空間に立ち、静かに自分達を見つめる。
それは、勝者からの余裕では無いだろう。
哀れみの様な物を感じた。
だからこそ、オルフェはそれが気に入らない。
目の前にある壁が気に入らない。
食いついて、食い下がって、彼の言葉に反論したかった。
しかし、意識は最後まで繋ぎきる事は出来なくて、苦しみの中、意識を失ってしまうのだった。
『……負けてしまったのね。私達は』
「イングリット」
『その名前は、貴方の後ろにいる人の名前だわ。私は、私達は名もなき存在。本来ならここには居なかった人間』
「……」
『だから、行って。勝ったのは貴方なのだから。私達は、このまま行くわ』
「行くって、どこへ……!」
通信から聞こえて来た声に、どこか切羽詰まった様な声を出しながらイングリットは問う。
しかし、そんな言葉に名もなき女はクスリと笑って、言葉を返す。
『どこかしらね。まだ分からないわ。けれど、私達が生きていく道は、私達が選ぶわ。だから、いつか、また』
「……あぁ」
「いつか……また」
オルフェは通信から聞こえてくる声に背を向けて、機体をまだ戦っている宙域へと向けて飛んで行った。
機体はボロボロだが、まだ出来る事はあると。
そして、そんなオルフェ達を見送りながら、破壊された機体の中で、女性は柔らかく微笑む。
まるで母の様な笑顔のままコックピットの中、意識を失っている男性を引き寄せて、抱きしめる。
「愛の力……私達も、それを探すのも、良いかもしれないわね」
ファウンデーション王国の面々が次々と敗北し、遂には宰相であるオルフェ・ラム・タオまで敗北した事で、残される戦力はレクイエムを守る面々だけとなった。
しかし、それぞれの端末に現れたセナにより、彼らは戦う意思を奪われている。
それはファウンデーション王国の王女であるアウラ・マハ・ハイバルも同じであった。
だから、このまま戦闘は終わると思われたのだが、一機。
まだ一機、これだけ追い詰められた状況であっても戦いを止めぬ者が居た。
「どうやら皆さん。敗北してしまった様ですね」
『っ! セナ様! 貴方は』
「私ですか? 私は投降などはしませんよ。戦いを続けます」
『っ!』
「確かに、デスティニープランの欠陥はセナ・ユラ・アスハさんが世界に訴え、終わりを迎えた様ですが。それでも、戦いを始めた彼らの意志を無駄にする事は出来ません。私一人でも戦います」
セナはサイコガンダムを動かして、正面に居るシュラへと迫った。
そして、戦闘を始めようとしたのだが、そんなセナに一つの声が届く。
『やはり、こうなった様だな。セナ』
「……この声は、セナ・ユラ・アスハさん? いえ、ですが、喋り方が」
『フン。気づいたか。ならば、久しぶりだな。とでも言っておこうか! セナ!』
「久しぶりって……まさか、貴女は」
セナは驚きながら、サイコガンダムの前方、上空に立つ一機の機体を見上げた。
暗く、黒い宇宙にあって、その存在をハッキリと示す様な純白に包まれた機体。
かつて、地球軌道上で彼女が世界に意志を示す為に搭乗していた、世界にたった一つしか存在しない。フルサイコフレームで構成された希望の機体。
「行くぞ! ホープ! もはや争いなど、憎しみなど必要ない! 私達が終わらせるんだ!」
『クリスタさん……!』
セナは驚愕しながら、落ちて来た機体の一撃を受け止めるのだった。