争いは終わりを迎え始めている。
『セナ様! 我らもあの地へ馳せ参じるのだ!』
『了解! っ! か、艦にダメージ! エンジン部が破壊されました!』
『どういう事だ!?』
『こちら、情報省。イザーク・ジュール中佐である。戦闘行為を止めろ! ジャガンナート中佐!』
『何ィ!?』
『貴様らが反乱を企て、行動した証拠は全て手に入れている。これ以上の戦闘行為は無駄だ! 投降しろ!』
イザークは叫びながら部隊を率いて、ジャガンナート中佐の部隊を制圧してゆく。
その行動にはディアッカと二コルも含まれており、制圧は順調に行われるのだった。
そして、アウラ達が占拠したダイダロス基地のレクイエム発射装置付近には多くの兵がなだれ込み、いくつもの銃口を向けてその動きを止める。
ファウンデーション王国の主だった兵たちは次から次へと争いを止めていた。
だが、そんな中にあってもただ一人、かつて抱かれていたファウンデーション王国の理想を胸に戦っている少女が一人。
それはサイコガンダムという機体に乗ったセナという名の少女であった。
そして、その機体を止めようとシュラは戦闘に参加するが、機体のサイズが違い過ぎてしまう上に、あらゆる攻撃が弾かれてしまう。
『この!』
『無事か! シュラ!』
『っ! これは、サイコガンダムか!』
『お前たち! 無事だったか!』
シュラはアレックスとアスランに受け止められながら、何とか機体を動かす。
向こうが手足を振るった程度で、シヴァの頑強な装甲は砕かれ、行動不能になってしまうが、それでもシュラは戦う意思を消してはいなかった。
そして、それはアスランとアレックスも同じ。
だが、三人となった彼らの戦いであっても、セナの駆るサイコガンダムを傷つける事は出来ず、不意にサイコガンダムが展開した幾多のドラグーンシステムによって機体を傷つけるのだった。
しかも、そのドラグーンシステムはアカツキと同じヤタノカガミによってビームの攻撃を防いでおり、例え正確にドラグーンシステムの攻撃機を狙い打つ事が出来ても、弾かれてしまった。
万事休すという所ではあるが、彼ら以外にも戦う者はおり、純白の機体ホープに乗ったクリスタはサイコガンダムの攻撃をかわしながら懐に入り込み、接近戦をしかける。
「いつまで戦いを続けるつもりだ! セナ!」
『中途半端に終わらせる事は良くないと、私は前の世界で学びました』
「っ! デスティニープラン!」
『そう。デスティニープランを施行した時、世界は自由を求めて戦いを始める。抑えようとしても人類の意志は消える事が無い。だから、こうして争いになる事は良いのです。しかし、この様な戦いをいつまでも続ける事は良い事ではありません』
「身勝手な!」
『責任という物です。私が敵となり、ここに存在する事でデスティニープランを信奉する方は立ち続ける事が出来ます。しかし、私が立ち続けては、世界はデスティニープランを求めてしまう。だから自由の象徴である方が、私を倒すべきなのです。そうなるまでは、決して倒れません』
「これ以上! キラに重荷を背負わせるつもりか!」
『彼女が望んだ事。自由であることを望んで、誰よりも先頭で戦う意思を示したのであれば、この様な事は当然あり得る話です。己の勝利とするのであれば!』
セナは想いのままに叫び、クリスタはそれを受け止めながら流れる水の様にサイコガンダムの懐へと飛び込んで、攻撃を加える。
しかし、かつて地球軌道上で行われた戦いの際に使われたデミスシルエットによって形作られているサイコガンダムは非常に強力でホープの攻撃を受けなかった。
だが、それでも。
サイコフレームの光がクリスタの想いを戦場の中に伝えてゆく。
フィールドを切り裂かれ、火花を散らしながらフリーダムの前に浮かんでいるリボンズガンダムの中で、リボンズは荒い呼吸を繰り返し、キラを睨みつけていた。
『君の! 勝ちだというのか!』
「違うよ。僕は……! クリスタ?」
キラはリボンズに語り掛けながら、不意に流れて来たクリスタの意識に笑みを落とす。
そして、僅かに笑みを浮かべたままリボンズに話しかける。
「僕は勝利なんか、望んでないんだよ。勝ちなんて願ってない」
『なに……?』
キラの声は、フリーダムのサイコフレームを通じて、再びホープに乗りながら戦っているクリスタの元へと届く。
『そうさ! キラは勝利なんか望んでいない!』
『っ! ならば、何故、どうしてこの様な戦闘を仕掛けるのですか!』
クリスタの言葉に、セナは叫び、クリスタは笑みを浮かべる。
『「終わらせる為に!」』
『終わらせる?』
『そうだ。いつまでも、いつまでも終わらない戦いを、今日で終わらせるために』
「これはセナも望んでいたことなんだよ。だからあの子は、人々の気持ちを救い上げる為に、それぞれの人へ飛んだんだ」
『だ、だが……! 世界はお前たちを勝者として受け止める筈だ!』
「そうはならないよ! もう! 勝者なんて、居ない!!」
『っ!』
キラはリボンズガンダムが動き出して、キラに襲い掛かって来た事で、今度こそリボンズガンダムの動きを止める為に、持っていた『対艦刀フツノミタマ』を真っすぐにリボンズガンダムへと向けて、突き出した。
実体を持つ剣をリボンズガンダムのフィールドは防ぐ事が出来ず、以前と同じ様に内部に居るリボンズガンダムへと突き刺さって、ギギギと動きの鈍い機械音を出しながら止まってしまった。
そしてそんな状態となったリボンズガンダムに乗るリボンズへとキラは語り掛ける。
「救世主になんて、ならなくても良いんだ。世界は勝者なんて望んでいない。戦いなんて、願ってはいない。静かな終わりを求めてるんだよ。それを僕やセナは知って、世界から消える事にしたんだ」
『……き、える……か』
「人は、誰かに導かれて生きるべきじゃない。自分の人生は、自分で選んでいくべきだ。その為には僕らはもう必要ないんだよ」
キラはリボンズに言葉を向けながら隣に座るラクスを見やる。
そして、小さく頷いてからリボンズへとフリーダムの右手を差し出した。
『これ、は……』
「行こう。リボンズ・アルマーク。君は救世主になりたかった訳じゃないんだろ? それしか道が無かった。だから救世主になろうとしただけだ。それが己のするべき事だと考えて」
『……』
「ねぇ。リボンズ。これから、道を探そうよ。君が願う。君が歩きたい未来の先へ続く道を」
『……未来、か』
リボンズはキラの言葉に溢れさせていた闘争心を息と共に、自分の中から霧散させた。
そして、天を仰ぐようにシートにもたれかかって、目を閉じてから小さく言葉を呟く。
『僕の負けだ。キラ・ユラ・アスハ』
リボンズが戦う意思を失くしている頃、クリスタと戦っていたセナは焦りを表情に浮かべながら汗を流す。
急速に戦う意思が消えていく戦場の中で、それでもとセナは戦っていたが、サイコガンダムが少しずつ動きを鈍らせているのだ。
『くっ……!』
「動かないか? セナ」
『どうして……』
「簡単な事だよ。デミスシルエットも、そのサイコフレームで作られたサイコガンダムも、人の意志で動く機体だからだ。世界が戦う意志を示す事が出来ないのであれば、お前も戦う事は出来ない」
『……そうですか』
セナはいよいよ動かなくなった機体の中で、ハァとため息を吐いた。
そして、膝立ちのまま動かなくなったサイコガンダムの中で、純白に輝くホープを見やる。
『戦いは私の負けですね』
「で? どうする?」
『出来れば、このまま私を撃ってくださると嬉しいのですが。キラさんでなくとも、貴女でも』
「断る!」
クリスタはセナの要求を弾き飛ばし、ホープのコックピットを飛び出した。
それからサイコガンダムのコックピットへと近づいて、システムを操作してから内部に居たセナに会う。
「かつての世界と同じ、変わらない見た目をしているのだな。セナ」
「えぇ。そういう貴女も。けれど、私はこの世界に望む物はありません。願うものも。だから……」
「ならば! 私と共に来い!」
「……クリスタさんと?」
「ファウンデーション王国に残ってもやるべき事は無いんだろう?」
「それは……はい」
「であれば、私と共に生きる意味を見つける旅に行くぞ。そこに意味があるか無いか分からないが、それでも、お前がここに居る意味を私は見つけ出したい」
「……我儘ですね。クリスタさんは」
セナはやや驚いたようにクリスタへと言葉を向けた。
しかし、そんなセナの言葉にクリスタは笑みを浮かべて言い返す。
「今更だろ。私は、お姉ちゃんから、自由に生きる良さを教えて貰ったんだ」
「……自由ですか」
「そうだ。どちらにせよ、私達は表舞台に居ない方が良い。ならば、隠れながら、自由を探そう。私といっしょに」
「一緒に。そうですね。貴女がそれを望むのであれば」
セナはゆっくりと微笑んで、クリスタに頷いた。
そして、クリスタと共にホープへと乗り込んで皆が行こうとしている方向とは別方向に向かって飛ぶ。
『っ!? ホープ! どこに行く! 戦艦はこっちだぞ!』
「アスランか。すまない。私達は象徴になる気は無いんだ。このままどこかに消えるよ」
『消える!? まて、セナ!』
「じゃあな。アスラン・ザラ」
クリスタはそれだけ言って通信を切り、ちょこんと座っているセナ。
それにモニターに映る困り顔のセナ・ユラ・アスハへと視線を向ける。
「じゃあ、私達の旅を始めよう。これから落ち着く世界に私達は不要だ」
「はい」
『クリスタさんは仕方ないですね。では、行きましょうか』
『クリスタ様にセナ様! 勝手に何処かへ行くのは許しませんよ!』
「うげっ! ラクス・クライン!」
『今度のご旅行も、
ホープの近くへと飛んできた小型シャトルから聞こえて来た声にクリスタは深いため息をつくが、それでも深いさは表情に浮かんでいない。
どこか嬉しさを滲ませた様な顔のまま、シャトルをガシッと両手で捕まえて、声を向ける。
「共に行くのなら、来い。こちらの方が早い」
『クリスタ様……!』
「来ないのか? なら」
『行きます! 行きますから!』
シャトルから飛び出して来た少女がホープのコックピットの中に飛び込んで、軟体生物の様にクリスタの後ろに回り込んで、後ろから抱き上げる。
そんなラクスの行動にクリスタはため息を吐きながらホープの操縦桿を強く握った。
虹色の光を暗黒の宇宙に描きながらどこまでも遠くへ。
彼女たちがどこへ行ったのか。
その先を知る者は居ない。