全ての争いは終わりを迎えた。
月軌道上で行われたファウンデーション王国とプラント、及びコンパスとオーブ、大西洋連邦の戦いはセナ・ユラ・アスハの介入及び、コンパスの面々が介入した事で争いを終えた。
死者はそれなりに居るが、前回地球軌道上で行われた時の戦いとは違い、人々は自分の端末に現れた小さなセナと交流をする事で日々の不安や悩みから解放され、穏やかで平和な日常へと足を運んでいる。
彼らが持つ端末に居るセナは、デュランダル元議長が使用したデスティニープランの実行ユニットとも接続されており、端末を持つ者が望めば遺伝子から適性を知ることは可能であるし、セナとの対話から性格、性質をセナが知って、端末を持つ者が望む未来を導き出す事も可能だ。
『しかし、私はあくまで可能性を提示するだけ。道を選ぶのは彼ら自身です』
「……そっか」
『はい。キラお姉ちゃんの願う自由は守られていますよ。だから……』
「でも!」
『っ』
「君は、また世界の為に生きてる。真に解放される事は無くて……ただ、世界の為に」
『お姉ちゃん』
キラは砂浜に座り込みながら、自分の端末に映るセナに語り掛ける。
世界の人々と同じように。
しかし、キラの未来ではなく、セナの未来を願って。
しかし……。
『私は、今がとても幸せです。クリスタさんは、私をデュランダル元議長の所へと連れて行って下さるそうです』
「デュランダル元議長の所?」
『はい。あの方は隔離されておりますが、そこで遺伝子の研究を行っています。かつてメンデルに居た方々と共に』
「かつて……って、まさか!」
キラは驚きに声を上げ、セナはニッコリと深く微笑む。
ようやく本当の望みが叶うとでもいう様に。
『私は、怖がりなので、お母さんの所に自分を送ることは出来ませんでした。拒絶される事が怖かった。けれど、クリスタさんはそんな私に、「子供を否定する親など居ない!」と言って、私を連れて遠い宇宙の向こうへ』
「……クリスタらしい」
『はい。私も、その想いに応えたいと思い、彼女と共にお母さんとお父さんの元へ。私は娘であるべきでは無かったのか。娘で居ても良かったのか』
目を伏せながら小さく呟くセナに、キラはフッと笑ってから暗い砂浜の上から天を見上げて、ホープが飛んでいると思われる宇宙を見上げた。
キラキラと幾多の星々を輝かせている星空は、小さな機体を映す事はなかったが、そこには確かな静寂と願いがあった。
「そうだね。セナ。きっとそれは君たちにとっても大切な事だ。僕も、君たちの『大きな願い』が叶う事を信じてる」
『キラお姉ちゃん……』
「ヴィアさんと、ユーレンさんは、僕にとっては遠い人なんだ。僕のお父さんは偉大なるオーブの父、ウズミ・ナラ・アスハ。そして、本当の子供の様に僕らを愛してくれたハルマ・ヤマト。その二人だけだ。お母さんだって、カリダさんの方が真っすぐにそう思える。戦いが終わって、アカツキ島に来ても、二人は僕らを暖かく迎えてくれた。僕の大好きな。大切な人たちだよ。だから、ヴィアさんもユーレンさんも、僕に遠慮しないで、お母さん。お父さんって甘えても良いんだよ」
キラは呟く様に言葉を投げ、夜闇に輝く様な瞳で端末に映るセナに語り掛ける。
「本当の家族が欲しくて、頑張っていたんだろう? なら、きっとその願いは叶うよ」
『……はい』
セナはキラの言葉に、ウルっと瞳を揺らして、か細い涙を流しながらキュッと両手を抱きしめて涙を流した。
ずっと抱えていた辛さを吐き出す様な姿に、キラは優しく、小さく彼女へと言葉を贈るのだった。
そして、セナとの対話が終わり、キラはよっこいしょと砂浜から立ち上がったのだが、キラが座っていた後方には二人の男女が砂浜近くのベンチに座っていて、キラをジッと見つめている。
「あれ。珍しい組み合わせだね。ラクス。リボンズ」
「
「僕はキラを待っていただけだよ」
「いや、同じこと言ってるけど」
「浮気ではないと言っただけです」
「ハッ。誰がこんな腹黒女と」
「なにか仰いましたか? キラに何度も挑んで結局敗北したまま終わったリボンズさん」
「! き、きさま……! よくもまぁ、大それたことを言うじゃないか。貴様には負けていない!」
「あらあら。それがプライドの持ち先ですか?」
「黙れ! ラクス・クライン! キラの腰巾着が!」
「は……?」
「結局はセナが作り出した平和に、キラが終わらせた戦闘。それにただ乗っていただけだろうが。偉そうに語るな。何もしていない女が」
「そ、それは、随分と、大それた言葉を……!」
笑顔のままピクピクと額の血管を揺らすラクスに、怒りを滲ませたままラクスに口撃するリボンズ。
この瞬間を見ただけでも二人の相性は最悪であった。
それを理解していたキラは二人の間に入って喧嘩を止める。
「はいはい。もう子供達は寝てるんだから、喧嘩しないでよ。やるなら昼に。ね?」
「チッ」
「……仕方ありませんわね」
険悪な雰囲気のまま争いを沈める二人にキラは大きくため息をついてから二人が座っているベンチの、二人の間に座る。
とりあえず争いを鎮静化させ続ける為に。
「それで? 僕に用事っていうのは? まず、ラクス」
「はい。では、
「チッ」
「はいはい。後で聞くからね。じゃあラクス。お願い」
「はい。それほど大した事ではありませんが、お母様をお父様が居る場所へと送り届けて来ましたわ」
「っ! ジゼルさん」
「はい。ジゼル・クラインは、長く世界を飛び回り、様々な場所で暗躍をしていました。それはセナ様とデュランダル議長を繋げる事であったり、
「……ラクス」
「お母様のしたことがどうであれ、お母様はお父様を愛していました。ですから、お父様の元へ。お話合いはこれからですわね」
「そうだね。その時は!」
「キラ」
「……!」
「お母様の問題は家族である
「……わかったよ。でも、困ったことがあったら相談してね?」
「はい!」
ラクスは花が咲くような笑顔を浮かべてキラに笑いかける。
その笑顔を受けてキラは小さく息を吐いてからもう一人。リボンズの方へと顔を向けた。
「じゃあ遅くなっちゃったけど、リボンズ」
「あぁ」
「君の話を聞かせて」
「……あぁ。まぁ、大した話ではないけどね」
「うん」
「礼を言っておこうと思ったんだ」
「お礼?」
「あぁ。戦場を離れて、静かなこの場所に来て、カリダさんに甘えている子供達を見て、僕は何をやっていたのかと思うようになった」
「……うん」
「最初は子供を利用するだけだった。ただ、戦いのコマとして。けれど、カリダさんに甘えているあの子達を見ていると、何か間違えたんじゃないかって思うんだよ」
「そっか」
リボンズは深くため息を吐いてからベンチに寄り掛かった。
そして、目を閉じながら口を開く。
「僕は、何をやっていたんだろうな」
「人生、でしょ」
「……? どういう意味だ」
「そのままだよ」
キラは訝し気なリボンズに言葉を返して、微笑む。
「僕だって後から考えると何やってんだ。って事は結構あるけどさ。そういう事を積み重ねて人は成長していくんじゃないかな。最初から完璧な人は居ないよ」
「フン。僕は救世主……っ」
「こーら。もうそれは止めたんでしょ?」
キラは微笑みなあがらリボンズの口を自分の人差し指で止めて、笑いかける。
どこかいたずらっ子の様な笑顔に、リボンズはトクンと心臓が跳ねるのを感じた。
「言っておきますが、キラは
「っ! し、知っている!」
リボンズをジト目で見ていたラクスは、一応の言葉をかけて、リボンズは焦りながら言葉を返した。
その姿にラクスは胡乱な顔を続ける。
「油断も隙もありませんわ」
「ラクスは心配性だねぇ」
「っ!
「僕が?」
「それは、その……」
ラクスは純粋なキラの言葉に何も言い返す事は出来ないまま言い淀む。
そして、ハァとため息を吐いてから話題から逃れる様にベンチに寄り掛かった。
露骨に話題が終わらされてしまったキラは、微かな疑問を浮かべるがそれ以上出来る事もなくラクスとの会話を終わらせる。
「僕は、普通の人間になれると思うか?」
「リボンズが普通の人に? それはムリでしょ」
「なに……?」
落ち込んでいたキラに、リボンズは消えそうな声で問いかけるがキラはあっけらかんと笑いながらとんでもない答えを返す。
そして、キラの答えに疑問と怒りを込めながらリボンズが問いかけると、キラは微笑んだまま言葉を続けるのだった。
「地球連合に入って暴れて、ファウンデーション王国が暴れている隙に暴れて、モビルスーツを動かす腕をあれだけ示したのに、今更普通の道になんて戻れないよ。パイロットをやるか。もしくは立ち回りがうまいからどこかの国で秘書でもやるとか?」
「僕は誰かの下に付くつもりはないよ」
「そりゃ、中々難しいね」
キラはアッサリと言葉を返すリボンズに笑い、会話を落とした。
リボンズが話すべき話も話せたのだろうと、話を続ける。
「まぁ、どれが正解か。何か正しいかなんてわからないけどさ。やってみれば良いんだよ。試してみれば良い。それで失敗したって次の糧だよ」
「……そうだな」
リボンズはキラの言葉に短く同意を示してベンチに寄り掛かりながら満天の星空を見上げる。
そして、どこか喜びを滲ませたような声で呟いた。
「確かに。君の言う通りかもしれない。試してみなければ、分からない……か」
リボンズの呟きを聞きながらキラはリボンズと同じ様に夜空を眺めた。
長かった戦いの歴史が、ようやく終わる予感を覚えながら。