ファウンデーション王国が起こした戦闘も終わり、荒れた世界は少しずつ改善に向かって進んでいる。
現政府に起こっていた不満は、セナがテロリストの面々と対話し、それぞれの想いを受け取り、返す事で争いではない方向に進んでいる。
それは、現政府を認める事ではないが、テロに頼る様な争いを求めた作戦ではない。
もっと平和的な方向に転がって行った。
そんな穏やかに争いから、対話へと移っていく世界の中でキラは世界最強の戦力を集めたミレニアムの中、オーブ本国より通信を繋いできたカガリと会話をしていた。
「妙な事って言われてもねぇ。何も見てないよ。僕らは」
『そうか』
「ま、カガリたちに隠す理由もないしさ。戦闘があればそっちは分かるじゃない?」
『確かにな』
「だから、そんなに心配しなくても良いんじゃないの? アスランだって何か考えがあって居なくなったんだろうし」
『……そうだな』
どこか心配そうな顔をしながら俯くカガリに、キラはうーんと腕を組みながらしばし考えていた。
そして、双子の姉であるカガリを安心させる様な笑顔を向けながら言葉を紡ぐ。
「マリューさん達が見つけた宇宙の向こうのアレもさ。まだ研究中だし。世界だってセナが静かにしている途中だ。けれど、何か不安があるのなら、僕らだって居るじゃない。注意しながら世界を見て回るよ」
『すまんな。キラ。忙しい所に』
「良いよ。別に戦闘は無いしね。大した事じゃないからさ」
キラはカガリに微笑んで、話は終わりと言葉を終わらせる。
それにカガリも礼を言いながら通信を切って、静かなまま姉妹の話し合いは終わるのだった。
「しかし、代表も難しいですなぁ。お立場がある以上は、個人で動くのも難しいですし」
「そうですねぇ。争いは起こっていないですし。きな臭い国も組織もない。この状況でアスランが何故消えたのか」
海上を静かに進むミレニアムのブリッジでキラは艦長であるコノエと共に腕を組みながら考えていた。
そんな二人の話に入り込む様に、副長として立っていた一人の青年、アーサーが彼女たちに言葉を向ける。
「もしかして、またファウンデーション王国みたいな国が現れるんですかね?」
「それは無いと思いますよ。セナが消えた事で生まれた不安は、セナが再び現れる事で解消されましたし」
「そのセナさんが原因で消えたのではないですか?」
「……? どういう事ですか? ハインラインさん」
「我々は争いを沈める為に戦っていました。しかし、サイコガンダムはセナさんが、ガンダムはキラさんが倒し、結局二人が全てを解決してしまった」
「そんな事無いと思いますよ。僕らだけじゃあの戦力は崩せなかった。現に僕だって最初は負けましたし」
「無論それは私も理解しています。しかし、お二人に頼らずに事を終わらせようとしたアスラン・ザラにとっては屈辱的だったのではないでしょうか」
「うーん。そうなのかなぁ」
まるで事実の様に語るハインラインに、キラは腕を組みながらさらに深く考え込んだ。
そんなところへ、定例業務を終わらせたシン達がやってくる。
「隊長! オーブとの通信はどうでした?」
「シン。みんなもおかえり。定例報告はいつも通りだよ」
「まぁー、なーんにも無かったですからね」
「アンタが食べ過ぎて倒れた以外はね」
「っ! 良いだろ!? それは! 勧められたんだから!」
「いくら勧められたからって、何でもかんでも食べないわよ。ったく」
アグネスの言葉にシンは憤りながら言葉を返し、それを聞いていたルナマリアとレイは肩を竦めながら笑う。
「アグネス。それくらいにしてあげて。僕だって、いっぱい食べてベッドの上で呻いてたんだからさ」
「隊長は良いんですよ! 隊長は! 色々な方に話しかけられてましたし! 市民の方々も隊長とお話が出来て喜んでいました!」
「ふふ。ありがと。アグネス。アグネスは優しいね」
「うぇ!? うへへ。えぇへへ」
「アグネス。アグネス。口、口。よだれ垂れてるから」
「っと! ありがと。ルナ」
ルナマリアに注意されたアグネスは取り出したハンカチで口元を覆って、ワタワタとしているアグネスをシンは苦笑しながら見ていた。
しかし、シンの隣に立っているレイは少々厳しい視線をシンに向ける。
「シン。キラさんは笑っているが、敬語である俺達がキラさんから離れるのは良くない事だ」
「そうだよな。悪い。レイ」
「いや、民衆に囲まれていたお前が脱出するのは難しいだろう。だが、意識があれば脱出は可能な筈だ」
「あぁ」
「あー! っと、シン。レイ!」
「……?」
「なにか問題でもありましたか? キラさん」
「問題っていうかさ。食事の場で、市民の人たちとご飯食べてる時は、誘われたらなるべく一緒に食べて上げて」
「それは……しかし、我らには使命が」
「うん。護衛として、兵士として立ってるんだよね。分かるよ。けれど、僕らは兵士であると同時に、セナを救った救世主。でしょ?」
「……はい」
「だからさ。お礼を言いたい人の気持ちもわかる。話したい人の考えも分かる。無論、何が入ってるか分からないから食べないっていうのは正しいし、それで良いと思う。けれど、危険が無さそうなら話してあげて欲しいんだ」
「キラさん……」
キラの言葉にシンとレイは静かに反応しながら小さく頭を下げた。
そのまま言われた言葉を全て受け入れる事は出来ないが、言葉としては受け止めるという事である。
そして、彼らとの対話もそこそこに、オーブのカガリより伝わった話題に話は移行してゆく。
「そう言えばさ。シンやレイはアスランの事。何か聞いてないの?」
「アスラン?」
「アスランさんがどうしたんですか?」
「いやぁ。なんか数日前にオーブ軍を離れて単独行動を始めたらしいんだよ」
「なるほど」
「しかも、その理由は誰も知らなくてね。もしかしたら何か事件が起きるかもしれない! ってみんな考えてるんだけど、世界は平和じゃん?」
「そうっすねぇ」
キラの言葉にシンは先ほどまでのキラと同じ様に腕を組みながら考えていた。
そして、何かあるのだろうかと考えていると、不意にレイが口を開く。
「プラント」
「……? プラント?」
「はい。プラントに何か動きはあるのでしょうか」
「いや、別に動きは無いと思うけど。あるのなら、連絡が来るだろうし」
「であれば、考えすぎですか」
「考えすぎッて、何かあるのかよ」
レイが返事と共に深く沈み込みながら思考している様子に、どこか気の抜けているシンは気軽な様子でレイに尋ねた。
そんなシンにレイは深く沈み込んだ思考のままシンに言葉を返す。
「ザラ派だ」
「ザラ派ぁ?」
「あぁ。大きな戦争を経て、戦争犯罪者は裁かれた。しかし、デスティニープラン騒動の際にユニウスセブンを落とそうとしたザラ派の者達は裁かれないまま元の部隊に戻っている」
「……けど、ファウンデーション王国との戦いがあった時には出てこなかっただろ?」
「それは、ファウンデーション王国の者達がデスティニープランを主として掲げていたからだろう。コーディネーターを優良種として考える者達の行動だ。ザラ派の中に、コーディネーターを優位とする考えよりも、ナチュラルを敵視する考えの方が強かったのかもしれん」
「なるほど」
「もしくは……」
レイは言葉を途中で止めてからジッとキラへと視線を向けた。
キラはその視線の意味に気づかないまま首を傾げたが、レイの視線の意味に気づいたコノエは「なるほど」と呟き、ハインラインは考えを口にする。
「キラとセナさんの願いは平和。あくまで平和的に世界を支配しようと考えたという事でしょうか」
「はい」
「え? え!? どういうこと!?」
ハインラインとレイは何かを通じ合わせる様に言葉を向け合っていたが、それにキラは焦った様な言葉を向ける。
そんなキラに、レイは静かな口調のまま改めて口を開いた。
「キラさん。彼らはデスティニープランを主とは認めていません。ですが、世界に王が必要だとは考えているんです」
「……? 王」
「はい。それは民衆を導く、平和を訴えるキラさんやセナ、ラクス様の様な姫ではなく、理知的に世界を導く王。強大なカリスマを持ち、新人類たるコーディネーターをまとめる人です」
「コーディネーターをまとめるって言っても……」
「キラさん。キラさんの記憶にはある筈です。地球との戦いの中、穏健派であるシーゲル・クラインより政権を奪取してから、プラントを支配していた男を、彼のカリスマを」
「……! まさか! けど、パトリックおじさまは静かにオーブで!」
「はい。無論、彼らもジェネシスを使って地球を滅ぼそうとした彼をトップに据えようとは思わない筈です。それは地球からの悪感情が強くなりますから」
「……そう、だよね」
キラはレイの言葉に小さく納得を示しながら自身の唇を細く長い指で触る。
そして、レイの思考領域までまだ到達していないキラに、レイは冷たく言葉を続けた。
「ですが、一人居るのです。パトリック・ザラの様に狂気のまま地球を滅ぼそうとした男ではなく、パトリック・ザラと同じカリスマを持っていて、かつ、パトリック・ザラと敵対する道を選びながら力によって世界に意を示していた男を。正義の意志を持ち、立ち続けていた男を」
「……それって」
「そう。それこそが……」
レイが続く言葉を言おうとした時、レイ、コノエ、ハインラインが想像していた最悪の現実がミレニアムのオペレーターより届く。
「っ! 緊急通信! 全世界に発信されています!」
「正面モニターに映せ」
「はい!」
『……ザザ』
最初砂嵐で隠されていた画面は不意に綺麗な画面となり一人の男を映し出す。
藍色の髪を持った、決意に秘められた翡翠の瞳を持つ青年を。
数日前より行方不明となっていた男を。
『全世界の皆さん。はじめまして。私はアスラン・ザラ。本日より発足されたネオ・ザフトを指揮する者である』
「……アスラン」
通信より聞こえて来た声に、キラは呆然とした様な声を漏らすのだった。