『全世界の皆さん。はじめまして。私はアスラン・ザラ。本日より発足されたネオ・ザフトを指揮する者であります』
唐突に始まった全世界への放送に、キラ達ミレニアムの面々はゴクリと唾を飲み込んでから放送を見つめていた。
ミレニアムのブリッジの正面モニターには少し前まで味方として共に戦っていた男が映し出されている。
『我々は過去の戦争を振り返り、争いなどは下らぬ物として考えている』
『故に、少々強引ではあるが、友好の手を差し伸べるつもりだ』
「っ! 大気圏外より、複数のポッド! 地上に向けて放たれています!」
「なに!?」
「ニュートロンジャマー……?」
「核ミサイルか!?」
「シン! モビルスーツを動かすよ! 出撃準備……!」
『キラ!!』
「っ!?」
キラは不意にモニターの向こう側から聞こえて来た声にぎくりと動きを止めた。
そして、澄ました顔をしている男を見やる。
『これは攻撃ではない。幾多の災害と争いで苦しむ者達への支援だ』
『我らは苦しむ一般市民に支援をする訳だが、これを気に入らぬと考える者達もいるだろう』
『そう。今、苦しむ一般市民を抱える国である』
『彼らは我らからの手を悪意ととらえ、そう訴えるだろう』
『それは構わない』
『我らを憎めばいい。拒絶すればいい。我らは淡々と、苦しむ人々に支援を送るだけだ』
『何故なら、争い、憎しみ、向けられる銃口。それに刃を向ける行為はキラやセナの憎んだ『争いに繋がる行為』だからだ』
『この放送を聞く人々へ』
『我らは貴君らに争いの刃を向けに来た者ではない』
『我らはキラやセナの意志を受け取り、争いではなく平和を求めて来た』
『どうか争いにならぬことを願っている』
アスランは短く言葉を告げると通信を切って、直後にいくつかの個所からミレニアムへと通信が入った。
『キラ! 今の放送! 聞いたか!?』
『厄介な事になりましたよ。これは』
『キラ様! ご、ご支援を! ユーラシアはこの件をどのように対処すれば良いか!』
「皆さん。落ち着いてください。落ち着ける問題じゃない事は分かっているんですけど」
「……隊長。各国から通信が入ってきております」
「ひとまずは三国と話をしてからで。個別で対応します」
「了解しました」
艦長であるコノエと小声で会話をし、キラはモニターに映る三人へと顔を向けた。
まるで戦闘をしている時の様な真剣な顔を。
「まず、ミレニアムの動き、コンパスの動きに関して……ネオ・ザフトが戦闘を仕掛けてきているワケではない以上、僕らは動けません」
『……あぁ』
『でしょうね』
『キラ様……!』
「しかし、これは現在の話ですので、これから彼らが戦闘を仕掛ける様な事があれば、僕らは鎮圧の為に動きましょう。何かあればすぐにご連絡を」
『だが、戦闘ではないというのなら、何をしに来るんだ?』
『先ほどネオ・ザフトの彼が言っていたでしょう? 彼らは支援をする為に来るんですよ』
『支援? だが、その様な事をしてどうする。プラントだって、別に資材が余裕で有り余っているというワケではないだろう』
『えぇ。それは間違いないでしょうね。しかし、デュランダルの起こした事件から、農業用コロニーの開発はかなり進んでおりますし、争いを望まないコーディネーターも多い。そうなれば、人口以上の食料がある事は確かでしょう。我々大西洋連邦や移民船カグツチを持つオーブは問題ないでしょうが。他の国はこの支援を断れない』
『断れない……?』
『えぇ。キラやセナの名を出し、支援のみをすることで市民は彼らが善意の集団であるとすぐに理解出来るんです。そんな彼らを追い出す事は困難だ。やり方によっては悪意しかないと捉えられるでしょう。そうなればせっかく消えたテロリストも復活する』
『……』
『理由なく彼らを拒否する事は不可能だ。何故なら世界は善意による行動デスティニープランも、セナが各端末に現れる事も受け入れた。善意は受け入れる物なんですよ。世界にとって』
『……しかし、そうであるのなら、騒ぐことではないという事か?』
『バカですか。貴女は』
『何ィ!?』
『支援だけで終わるワケが無いでしょう。彼らの目的はその先にあります』
「……! 世界の、王?」
『どうやら妹の方が察しが良いみたいですよ。オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハさん』
『くっ!』
『世界の王というのは、どういう事なのでしょうか。キラ様』
「あ、僕も先ほど聞いたばかりで詳しいことはサッパリなんですけど」
アハハと頭をかきながら告げるキラに、通信でカガリに小言を言っていたアズラエルはため息と共に口を開く。
『いくつかの戦いを経て、地球にある国家の政府は信用を失っています。おそらくですが、キラやセナが世界を管理すると宣言して立てば、多くの国や人が支援しようと駆けつけるでしょう。そして、それはかつて地上に存在した地球軍と同等か、それ以上になる事が考えられます』
「……ごくり」
『幸い。というべきか。キラにもセナにも世界を手に入れようとする野心は無いし。世界国家が作られた以上、邪魔であった各国の指導者は悲しい目に遭うと思います。善良な市民たちによってね』
「それは」
『可能性の話ですよ。キラ。それにこれは現実としてあり得ない話だ。僕も一度は考えましたが、理想を持って暴れ始める仮初の王なんて厄介この上ない。だから、貴女方が政治から離れて平和を訴える活動をしているというのは都合が良いのです。世界は荒れていても、いつかは平和になるでしょうしね』
「アズラエルさん……」
アズラエルはどこか遠い顔をしながら小さく笑みを浮かべる。
しかし、キラへの言葉も終わり本題に入る前に少しだけ顔をしかめた。
『しかし、彼らはそんな地球を武力ではなく、平和という甘い言葉で支配しようとしているんですよ。この支援は足がかり。支援をする事によって活動拠点を地に置き、さらには民衆の支持をえる。民衆はこれが争いのキッカケか。もしくはデスティニープランかと警戒するでしょうが、彼らはあくまで支援以外は行わないでしょう。ただ民衆の支持を集めるだけだ。そして、何もしてくれない現政府よりも、ネオ・ザフトの方が良いと考える市民を増やす。それが増え続ければ、世界は彼らの物となる。というワケです』
『武力での抵抗はキラやセナの訴えが心に残っている市民には逆効果だしな』
『えぇ。しかも国は市民の支援ばかりしていられませんからね。他にもやるべき事は多数ある。市民の不満はすぐに彼らが飲み込んでしまうでしょう。最悪の中の最悪ですよ。これは。これなら戦争の方がマシだ』
アズラエルとカガリが語る話に、キラはゆっくりと自分の中に聞いた話を染み込ませて、小さく呟いた。
どこか航海を滲ませながら、悔しさを噛みしめて。
「僕らのせいか」
『キラ……』
「違います!!」
「っ! シン」
「シン君……?」
「キラさんも、セナも間違っていない! その想いを、願いを、利用して踏みにじった奴が悪いんです! 平和を求める理想は間違っていない!!」
シンの強く、熱い言葉に、モニターとは逆側に振り返っていあキラはホロリと一筋の涙を流した。
そして、次々に溢れる涙を弱弱しく腕で拭って、キラを心配するルナマリアとアグネスに支えられながら泣き続けた。
そんなキラを見て、キラの部下として戦ってきた二人の男は覚悟を心に宿す。
これは、いつかの時と同じだ、と。
キラの願いを踏みにじって、それを利用する。
その果てにキラを、セナを殺そうとしたコーディネーターとナチュラルで行われた戦争の時と、同じ。
「……アスラン・ザラ」
「レイ」
「シン」
「事と次第によっては俺が許さない。アイツは、俺が問いただす」
「……あぁ。状況によっては俺も参加する」
「助かる」
「戦おう」
シンとレイが静かな覚悟を決めている頃、モニターの向こうでは早速話が次から次へと運ばれて行った。
『彼らの狙いが世界の支配かどうかは、今後の動きを見ながらでも遅くはありません。最悪は隕石落とし等の奇襲もありますしね』
『まさか、とは思うがな』
『その、『まさか』はもう起こってますよ。今更逃げる事は出来ません。まずは各国で意見を合わせたい。状況確認を含めて世界会議の開催を要求します』
『あぁ……って、世界会議?』
『えぇ。各国、各組織の代表が集まり、話し合いをするんです。争いという手段がキラとセナによって徹底的に排除された以上、ここからは話し合いしかない。出番ですよ。カガリ・ユラ・アスハ』
『……唐突に来たな』
『事態はいつも唐突に動く物です。これは仕方ない。そして、世界会議の開催宣言はより影響力のある人間でなくてはいけない。キラ、分かりますね?』
アズラエルに名を呼ばれ、キラはぐずぐずと泣いていた涙を振り払って、涙を零しながらも前を向いて、アズラエルに言い放つ。
これが、これからの自分の役目だと。
「はい。分かりました。セナ」
『話は理解しました。すぐにでも世界中に情報を伝えます』
『頼んだよ。セナ、キラ』
「はい!」
『了解です!』
アズラエルの言葉に応えるキラとセナはすぐにでも行動を開始した。
セナは世界中の自分を通して、ネットワークを掌握、目の前にいるキラを映し出す。
『僕は、世界平和監視機構コンパスのキラ・ユラ・アスハ。本日は僕より皆さんに言葉を向けるべく話しかけています』
『ゆっくりと移り変わろうとする世界の中で、急激な変化を求める方々が現れた事により、混乱する国や団体、人々が居るでしょう』
『他の方の意見や考えが気になる方もいる』
『ならばこそ。だからこそ。僕は、それを打ち明ける事が出来る場所を用意します』
『かつて皆さんの前にお見せした、移民船カグツチ! その中に設置された会議場は多くの人を受け入れる事が出来る』
『国家、組織の代表は大気圏軌道上にあるカグツチへ』
『自力では不可能という方は、セナへと連絡をして下さい』
『そして、全ての人を集め……』
『世界会議の開催します!!』
キラは高らかに話し合いの場を世界中に伝え、その言葉に世界が湧いた。
これから始まる、争いではない新しい戦いの場へ向けて。