キラの呼びかけにより開催される事となった世界会議は、ナチュラルとコーディネーターが争った大戦以来の世界を巻き込んだ出来事であり、誰もが緊張を胸に抱えながら会議が行われるという場所を目指していた。
移民船カグツチ。
移民船という名前も始めてながら、地上からすら姿が目視できるほどの巨体であり、あのレクイエムの直撃を耐えきって航行している船である。
現存の宇宙艦とは比べ物にならない程安全な場所であり、キラが指定した場所というだけの事はあり、地上よりも、月よりも、プラントよりも安全な場所であった。
しかも、会議の場であるカグツチの周囲にはコンパスの主要艦であるミレニアムやエターナル、デスティニープランを巡る争いで活躍したミネルバ、外宇宙の調査を行った後はファウンデーション王国との戦いで活躍していたガーティ・ルーも存在しており、それぞれの艦に収容されていたモビルスーツが警戒を行っていた。
そして、シン達の様にカグツチを外部から守っている者達とは違い、各地から来る者達の思考を読んで、暴動を起こす可能性は無いか、武器を隠し持っていないかという点は、かつてファウンデーション王国でコンパスの面々と戦っていたアコードの者達が行っている。
入艦手続きを行っている作業者から少し離れた場所より、心を読んで、その行動を見ているのだが。
「まぁ、キラ様が集めた面々じゃあ、おかしなことを考える奴はいないか」
「キラ様もセナ様も争いを憎んでいるからな。当然だろう」
「あーもー! 人多すぎ! リデルちゃん疲れちゃったー!」
「せっかく活躍の場を与えてくれているんだぞ」
「でもー!」
「リデルちゃん。我儘言っちゃってごめんね」
「っ!? キラ様!」
外からは見えない隠し部屋より入ってくる人々を監視していたリデルたちは、不意にこの会議を招集した人間であるキラが現れた事に驚き、リデルは勢いよくキラに抱きつく。
そのまま頬ずりしながらキラに撫でられて、話を聞くのだった。
「みんなも。ごめんね。こんな事お願いしちゃって」
「いえ! 内部で騒動を起こされても厄介ですから。これは当然の処置かと!」
「むしろ、あれだけの事をやっていた我らを警戒せずに招いてくれただけでも感謝ですよ」
「感謝……!」
「みんなは真面目だねぇ。セナからみんなが真面目だっていうのは聞いてるし。不安は無いよ。だから、お礼をしに来たの。他にも何かあれば……」
「なら、一緒に甘い物食べに行こ! 美味しい店!」
「良いよ。じゃあ、会議が終わったら一緒に行こうか」
「やったー!」
「リデル……! って、もう終わってるか」
「ふふ。グリフィン君もさ。一緒に行こうか」
「自分は断る理由はないですよ。そっちの護衛は面白くないみたいですけどねー」
「護衛?」
キラはグリフィンの言葉に振り返ってキラの護衛として立っている青年たちを見やった。
キラが呼びかけるまでは地上で災害救助などを行っていた者達。
ODR オーブ外務省外郭団体国際協力機構管轄団体組織国際災害救助隊の者達だ。
「別に僕らは不満とか持ってないけど。なぁ、ケン?」
「フン」
「いや、持ってるのかよ!」
キラの護衛として立っていた色黒の青年ケン・ノーランド・スセは同僚であり、仲間であるタツミ・ホーリの言葉を鼻で笑って、警戒をアコードの面々に返す。
「俺たちはあくまでキラ様の護衛だ。銃だって携帯している。キラ様もタツミもお人好しだが、俺は違う。いつでもお前たちを撃てることを忘れるな」
「はいはい」
「ワカリマシター」
棘のあるケンの言葉を適当に流して、アコードの面々は肩を竦めるのだった。
そして、リデルはもう少し頑張ってくる! と言って、キラから離れ、再び入場者たちの思考チェックに戻る。
そんなリデルに微笑みながらキラはケン達と共に艦内の移動を始めるのだった。
「外はシン君達が居るから順調。入り口もリデルちゃん達が見ているから順調」
「後は素手で暴れるとか、ですかね?」
「まー。無いとは言わないけど、オーブの軍人さん達はみんな銃を携帯してるしねー。暴れるのは難しいんじゃないかな?」
「オーブ軍から裏切者が出る可能性もある。ミレニアムの観艦式では、テロリストに入り込まれた」
「うん。会場に来ている人は先にオルフェ君とシュラ君が思考チェックしてるよ。だから安全」
キラは考えうる最悪を考えながら通路を歩いていたのだが、不意に通路の先より声がかかってキラはその声と顔に驚きながら目を見開く。
それは、ここにはいない筈の人物で……。
「……アスラン」
「警備が甘いんじゃないか? 入場さえ出来てしまえば、行こうと思えば何処へでも行けてしまう」
「っ! アスラン・ザラ!」
「キラ様に近づくな!」
廊下の通路に寄り掛かりながらキラに話しかけて来たアスランに、ケンとタツミは訓練された通りの動きで銃を抜き、キラの前に立って銃をアスランに向ける。
その剥き出しの敵意にアスランは無感動のまま視線を返した。
「俺はまだ何もしていないぞ」
「ここは立ち入り禁止だ! キラ様を裏切ったお前が!」
「裏切り? 俺はキラを裏切ってなどいない」
「でも、貴方が世界を混乱させているから、キラ様が世界会議を開く事になったんでしょう?」
「混乱、か。俺たちは争いを起こすワケでもなく、ただ支援しただけなんだがな」
溜息を零す様なアスランの言葉に、ケンとタツミはジリジリと前に進みながらアスランに銃を向け続ける。
そんな二人をキラは止めようとしたのだが、上から落ちて来た存在によって口を塞がれてしまった。
「んむ!?」
「暴れるな。キラ」
「っ!? 後ろ!?」
「甘いな」
ケンが後ろから聞こえたキラの悲鳴に振り返った瞬間、アスランがケンの元まで賭けてきて銃を蹴り飛ばしタツミが向けようとした銃を手ごと自分には当らない方向へと向けて、手刀をタツミの首に当てる。
「タツミ!」
「そのザマで護衛だと? 守れていないじゃないか」
「くっ!」
「……!」
「このままキラを攫っても良いんだがな。アレックス」
「あぁ」
「っ!」
アスランの合図でアスランによく似た青年アレックスはキラを開放して、数歩下がる。
解放されたキラはアレックスを一瞬見てから、アスランへと視線を戻した。
口は開かれないまま視線だけが向けられている。
「キラ。改めて言う。俺は争いなど起こすつもりはない。過去の悲劇を繰り返すつもりは無いんだ。この世界から全ての争いを消す」
「……君が、世界を支配して?」
「必要であればそうしよう。お前やセナを生贄にして、世界を平和にする事など、俺は望まない」
「生贄って……」
「生贄だろう。セナは世界中の人の為に意識を散らした。それが犠牲では無いと、お前は言うつもりか。キラ」
「それは……」
「妹ばかり犠牲にするのはおかしいと、お前もこうして戦っているんだろう」
「知った様な事を言うね」
「俺はお前の幼馴染だからな。知った様な事くらいは言う」
「……」
「それに、お前たちを解放する為なら、支配者にだってなるさ。それが平和への最短距離だ」
「そうやって、セナを開放するつもり?」
「あぁ。それにキラ。お前もだ。お前たちは自由に生きるべきだ」
「っ! これは僕が、セナが選んだ道だ!」
「選ばされた道だろう」
何を言い返そうと聞き入れないアスランにキラは声を荒げたが、その声がアスランに届く事は無かった。
アスランは頑なに自分の意志を貫いたままキラへと想いを返す。
「今回はそれだけだ。俺は争いなんか起こすつもりが無いんだとお前に知っていて欲しかった」
「っ、カガリは!!」
「!」
アスランはキラに背を向けて立ち去ろうとしたが、キラの言葉に足を止めて振り返る。
ジッとキラを見つめて言葉を待った。
「カガリは、君の帰りを待っていたよ」
「そうか」
「あの子はお父様の意志を継いで、オーブを運営している。その意志を踏みにじるの……?」
「カガリは……」
アスランは何かを言いかけてから、グッと言葉を飲み込んだ。
そして、小さく息を吐いてからキラに向かって口を開く。
「カガリも同じだ。俺は世界を一つにまとめるべきだと考えている。その為に必要な事であれば支援だろうが、話し合いだろうが、なんでもやる。ただそれだけだ」
「アスラン……」
「話は以上だ。警備は見直しておけ」
アスランは最後に小言を向けてからそのまま立ち去って行った。
敗北してしまったケンとタツミは悔しさを滲ませたまま立ち尽くしており、キラもまた諦めた様な息を吐いてから立ち上がり、ケンとタツミに行こうか。と声をかけるのだった。
そして、キラと別れ、ズンズンと廊下を進むアスランの後ろからアレックスがアスランに話しかける。
「あのまま攫ってしまっても良かったんじゃないか?」
「バカを言うな。キラやセナの願いは平和な世界だ。彼女たちを利用して平和を作る事に意味など無い。デュランダルの様にアウラ・マハ・ハイバルの様に。彼女たちを利用して己の理想を通す様ではいけないんだ」
「だからこそ、遠回りの道を、か?」
「あぁ。それこそが平和な世を作る為に必要な事だ」
「……」
「カガリも、キラも、セナも、年頃の普通の人間として生きる道を捨てる事になった。そんな世界を俺は憎む」
アスランはアレックスに言葉を返しながらスタスタと与えられている部屋へと向かった。
そして、会議が始まる前までその場でジッと時が来るのを待つのだった。
それから。
アスランとキラの邂逅も終わり、議会が始まる時間となった。
中央にある主張席を囲むように円形の椅子が段々に作られており、数人が座れる椅子は小さな部屋で区切られている。
内部を通って椅子のある部屋に入る仕組みの為、隣の席に干渉する事は不可能だ。
いったい数百人、数千人受け入れることが出来るのかは分からないが、各部屋にはモニターが付いており、他者の主張も見る事が出来る為、話し合いの場としては最適である。
全ての場は整った。
多くの人々が集まる会議場の中央で、キラは集まった人々を見上げながら宣言をする。
「お集まりいただきありがとうございます。これより世界会議を始めます!!」
キラの宣言により会議は静かに、そして大きく話し合いの場へと進んでいった。