キラの招集で始まった世界会議であるが、出身も人種も考え方も。
何もかも違う数百人の人々がまとまる様な事はなく、それぞれの席に備え付けられた端末に自分の番だと表示された人が、有効化したマイクを用いて発言を行う。
最初は混乱もあったが、次に自分が発言出来るまでの番号も書かれている為、そこまで大きな混乱はなかった。
後は、発言者がどこかの勢力を指定して発言をするだけ。
それぞれが思いの丈をぶつけて、ある程度志向が一致する。
そう思われた。キラの中では。
『ネオ・ザフト! お前たちは何を企んでいるんだ!』
『行動しているままです。我々は平和の為に、苦しんでいる民の為に動いている』
『嘘を言うな! また戦争を仕掛けるつもりなのだろう!』
『地上へ降下した者達は、贈った資材の管理の為に土地を借りているだけで、要求があればいつでも土地は受け渡そう』
『言葉だけで!』
『既に撤収した地域もある。映像を共有しよう。EUの某国は武力を持って我らを排除した後、資材を全て政府が簒奪していった!! その資材は全て苦しむ民衆の為だというのに!! 我らの正義を愚弄したのは誰か!!』
『そ、それは、無秩序な施しというのは、逆に良くない物でして……』
「チッ。想像以上に最悪だな」
アズラエルは巨大なホールの中で行われる暴言の数々と、それを冷静に返し、あくまで正義の為だ。平和の為だと訴える男を見やった。
アスラン・ザラ。
かつて地球連合軍との戦闘で、ザフトを指揮していたパトリック・ザラの息子であり、父の様な狂気に溺れる事はなく、父と敵対してまでキラの味方となる事を選んだ者である。
彼の駆るジャスティスは、彼の信念を示している様に、常に正義を持ちながら活動していた。
そして、今もそれは変わらない。
「これは非常に厄介ですな。アズラエル様」
「あぁ。本当に。いつまでこの茶番を続けるつもりだか」
「発言は順に行われますから。今はまだ、あの男の為に行われているパフォーマンスの様な物ですな」
「パフォーマンス。まったく、その通りだよ。アレはパフォーマンスさ。どいつもこいつも、自分の考えを叫んでいる様で、アスラン・ザラにとって都合の良い事しか言えていない。奴のアシストをしているだけさ」
アズラエルは、サザーランド少将と話をしながら、既に回答が用意されていたと思われるアスラン・ザラの回答を聞きながらため息を吐く。
誰も彼もが、アスラン・ザラやネオ・ザフトが地球を侵略しようとしている。
武力によって攻撃を仕掛けようとしていると思い込んでいるが、あの男はそんな事をしない。
アスラン・ザラはキラの親友なのだ。
キラやセナの考え方を何よりも優先するし、プラントの者達を賛同させる為に、戦闘をしないとハッキリ明言しているだろう。
そう。あの男は戦争などしないのだ。
戦争をしないまま、一人、人気集めを始めた。
それは今までであれば意味のない事であったが、現政府が市民を抑えきれない状況で、政府に代わり、信頼できるトップが現れた時、市民は政府ではなくアスラン・ザラがトップに立つ事を願うだろう。
デスティニープランはセナとキラが否定した。
ならば、人の指導者なら……。
そして、キラやセナと親交が深く、混迷する時代の中でも私利私欲では争わず、あくまで平和の為にしか武力を使わない存在。
「随分と魅力的なヒーローだ」
「アズラエル様?」
「別に狙ったワケじゃないだろうけどさ。かつて地球連合軍であった僕らは、民衆の為に。なんて言っても聞き流されるだけさ。最悪はジブリール達みたいに殺される。だから、これまであった戦いを全てキラの味方としてあったあの男は、誰よりも、どんな者達よりも信用できるっていうワケだ」
「……確かに。これまでの状況は全て都合がよすぎましたな」
「あぁ。けれど……このまま、はいそうですか。と地球を渡すわけには行かないんだよね。僕らもさ」
「はい」
アズラエルは席に用意された高級ソファーに座っていたが、備え付けられたモニターの番号が自分を示した瞬間に立ち上がり、マイクへと語り始めた。
『大西洋連邦。国防産業理事のムルタ・アズラエルだ。ようやく自分の番が来たことだし。少々長い話をさせて貰うよ』
アズラエルはまず主導権を握る為に、自分の番が長くなると宣言してから会場の中央で司会をしていたキラに視線を送る。
本来はトップバッターで喋る事も出来たのだが、わざわざネオ・ザフトへの批判がかなりの数出てから自分の番を貰っただけあり、ネオ・ザフトに優位な状況になっていても特にうろたえる事はない。
『さて、現在はネオ・ザフトのアスラン・ザラへの批判が集中している様だね。けれど、僕としては彼の行為を批判する様な考えはない』
アズラエルが真っ先に宣言したことで、会議に参加していた者達からざわめきの様な声があがる。
『何故なら、ネオ・ザフトの行動は間違いなく正義だからだ。それはこの会議を見ている地球市民の者達も、プラントの者達も分かるだろう。彼は間違いなく正義を持って行動しているのだ』
『しかし』
アズラエルは一度ネオ・ザフトを讃えてから、自分の発言を否定する様に深く真逆の言葉を投げる。
『彼の目的が不鮮明なのは、確かだ。ネオ・ザフト。アスラン・ザラ?』
アズラエルはネオ・ザフトのアスランへと言葉を投げながら疑問を投じる。
『俺の行動は常に正義を持って行われている。それはこれまでの行動からも明らかだ』
『あぁ。そうだね。君は確かに正しい。けれど。それを君が行う必要はあるのかな』
『なに?』
『この戦艦! 移民船カグツチには巨大な農業用ゾーンが存在し、その生産力はこの艦の持ち主であるオーブ連合首長国の必要量を遥かに超える。何故だと思う?』
『……』
アズラエルが笑みを浮かべながら床を勢いよく踏みながら発した言葉に、アスランは瞳を鋭くして言葉を飲み込んでいた。
そんなアスランに、アズラエルはやはり知っていたかと心の中で考えながら言葉を続けた。
『正解は。この艦で、完全自動化と大量生産が確立した農作物は! 全て世界の市民に配られる為に作られた物だからだ』
アズラエルの言葉にザワザワと再びざわめきが周囲で起こる。
しかも、それは先ほどまでの物とは違い、歓喜の様な声も混じっていた。
『カガリ・ユラ・アスハは、キラ・ユラ・アスハとセナ・ユラ・アスハの姉である。世間では二人の地位を簒奪した者と呼ばれている様だが、彼女は幾多の戦争の被害者を救うための準備をしており、先の戦争でカグツチが姿を見せた以上、その救いは秒読みだったという事だ。どこかの誰かが、急に居なくなり彼女の周囲を混乱させ、『既に知っていた救済措置』を略奪して行動する前まではね』
『なるほど。中々に詳しいようだな。ムルタ・アズラエル。しかし、一つ大きな疑問が俺にはあるな』
『なに?』
『これだけの巨大戦艦。食料問題を解決する為に、オーブが動いていたというのも、分かる話だ。『今、始めて聞いた』俺としても、理解出来る話ではある。そして、その話も真実なのだろう。しかし。しかしだ。その話、何故オーブ連合首長国ではなく、貴国、大西洋連邦から聞こえて来たのか。そこが疑問だ』
『……』
『皆も覚えているだろうか。この世界を襲った最初の大戦。我らがもはや争わぬ、戦いなど捨てると決めたコズミック・イラ。その中で行われた始まりの憎しみ。その中で、モビルスーツという兵器が戦場に投入されたのだが、大西洋連邦……いや、地球連合軍が作り出したG兵器。アレはどこの誰が開発した物であったか。諸君は覚えているだろうか』
『キラ・ユラ・アスハが開発し、その一機、ストライクに乗った事はあまりにも有名な話だが、それは……』
『そう! キラだ! まだ十代の幼い少女が。オーブと大西洋連邦。国家と国家の密約に深く関わり、戦局を大きく変える様な兵器の開発に関わっていた? あの平和を愛する少女が! 誰かの命を奪う為の兵器を! 作り出していた!! 妙じゃないか。G兵器が開発される以前、彼女はオーブのモビルスーツ、ガンダムを駆り、ユニウスセブンへと放たれようとしていた核ミサイルを狙撃する為に、戦場に飛び込んでいたのに! 誰かを助ける為ならば、自分の手を汚す事すら厭わない彼女が、何故!!』
『何が言いたい……! アスラン・ザラ』
『かつての大戦で、オーブ連合首長国は、地球連合軍より攻撃を受けた。しかし、その戦いは中途半端で終わり、次の大戦ではオーブと地球連合軍は同盟を結んでいる。これをどう考える? ムルタ・アズラエル。俺なら単純に一つの答えを導くだろう』
『……!!』
『そう。オーブ連合首長国は、地球連合軍と古くから繋がっていたのだ。平和を愛する姫。キラ・ユラ・アスハ、セナ・ユラ・アスハを利用し、地球連合の重要な位置に自らの国家を置く為に、行動してきた。それが起こした事象なのだ!』
『どこにそんな証拠がある!』
『証拠などはない。これは俺の想像だ。そして、この想像をより強固にする話をしよう』
『なに……?』
『我々ネオ・ザフトの前に、オーブ連合首長国は苦しむ市民の為に準備していたと言ったな? ならば、何故その準備が終わった段階で行動を開始しなかった。我らが先に動いていた為か? キラとセナを利用してまで得て来た人気取りが出来ないからか? 他にはなんだ。どんな理由がある! オーブが、流石は平和の姫がいた国だと讃えられないから動かない。その様な言葉で苦しむ市民は放置されたのか!? そこに正義はあるのか!!』
アスランは怒りを込めた様な声でアズラエルを、オーブを糾弾する。
ネオ・ザフトの後では、真似をしている様だと市民への供給計画を止めていたカガリは、アスランの言葉にグッと唾を飲み込む。
キラやセナなら、確かにアスランの後だろうが何だろうが、市民が救われるならと行動しただろう。
しかし、カガリはオーブの代表である。
世界の苦しむ市民もそうだが、まずはオーブの利益を第一に考えなくてはいけないのだ。
そうして、何とか利益に繋がる様に話を運んで、救助計画も始める予定だった。
だが、そんなことを言っても意味はない。
結局は、キラやセナとは違い、平和の為だけの行動していたワケでは無いのだから。
『自国では無い物に手を伸ばす。それは偉大な事だ。例え見返りがあったとしても、救済される市民にとっては救い以外の何者では無いだろう! しかし、キラやセナならば、ただ、人の為にと手を伸ばした。俺はそれを見続けて来た! だからこそ、俺は迷わない! 道を誤らない! 正しき道を歩む! それこそが真の平和に繋がるのだと考えているからだ!!』
アスランは高らかに宣言しながら会議の場に、世界に、自分の考えを打ち明けた。
この言葉に、アズラエルは言い返す言葉を持たぬまま沈黙してしまうのだった。