キラが招集した第一回会議はアスランの……ネオ・ザフトの大勝利で終わった。
キラとセナを利用しただけなので、アレを大勝利と言っても良いのかは分からないが、少なくともアズラエルの敗北であった事は確かだ。
それに、中立国として、平和の国としての地位を築いていたオーブもまた苦境に立たされている。
「私のやってきた事は間違いだったのか」
「カガリ……! そんな事ないよっ!」
「キラ……」
酷く落ち込んだ様子のカガリはキラに助けを求める様に顔を向けた。
そんなカガリにキラは慰める様な言葉を向けながら続く言葉を吐くのだった。
「何が正しいとか、何が間違ってるかとか分からないけどさ。僕とセナの我儘をカガリはずっと聞いていてくれたじゃないか」
『そうですよ! カガリお姉ちゃん。お姉ちゃんはいつだって私達の味方で居てくれました』
「お前たち……!」
カガリはウルウルと涙を浮かべながらキラに抱き着いて、感動を伝え……様としていたのだが。
オーブ軍人の誰もが涙を流して感動する光景の中、涙などまったく浮かべていない男が姉妹の抱擁に口を挟む。
「時間は無限じゃないんですから。いつまでも無駄な時間を過ごさないで下さい」
「……アズラエル」
「貴女のお気持ちもわかりますけどね。このままじゃあ彼の思うままだ」
「っ、分かっている。少し、妹たちにヨシヨシされたかっただけだ」
フンと鼻を鳴らしてカガリは椅子に座りなおした。
世界会議は話さねばならない内容が多くあり、多くの人が話したい気持ちを抱えていた為、現在は小休止をしている。
「大西洋連邦とオーブが手を組んでいた。なんて証拠も何もないでっち上げですが、向こうは民衆を味方にする為なら、こういう話をいくらでも投げて来るでしょう。このまま話し合いをしていても意味はない」
「だが、アスランを暗殺した所で、向こうの意見を強くするだけだ。アレックスも向こうには居るんだからな」
「それは当然」
アズラエルはカガリの言葉を肯定してから続く言葉を吐く。
「しかし、このまま真っすぐに進んで行って、ネオ・ザフトの評価を下げる事は難しい。向こうの思う通りですよ。武力なく地球は支配される。拒絶しようにもキラとセナがせっせと戦争を否定し続けた結果。戦争を起こすのは難しい」
「だろうな」
アズラエルとカガリが言葉をぶつけ合っている中、キラはうーんと考えて、考えて、一つの答えを出していた。
「あのー」
「なんだい?」
「どうしたんだ。キラ」
「このままの状態で世界が進むと、アスランが世界の王様になっちゃうんですよね?」
「あぁ。まぁ、王という形では無いだろうけど、支配者になる可能性は高いね」
「なら、もう今時点で決めちゃえばいいんじゃないですか?」
「「は?」」
唖然とするアズラエルとカガリを放置してキラはポツリ、ポツリと想いを語る。
「確かに。このまま進めばアスランが世界を支配する可能性は高い。けれど、今じゃないですよね? 今はまだ戦乱が終わったばかりで、ファウンデーション王国と協力していたプラントを疑っている人も多い」
「それは……確かにそうだが、それでどうしようっていうんだ」
「はい。第一回世界大統領選挙をしたいと思います」
「「第一回世界大統領選挙?」」
アズラエルとカガリは声を揃えながらキラの言葉を繰り返した。
そして、その意味を考え、かみ砕いて反論する。
「いきなり大統領と言ってもな。それを誰が承認するんだ」
「別に承認とかしなくても良いと思いますよ。けれど、僕はその人を支持しますし。ラクスも、セナも協力してくれると思います」
「……貴女方は良いのですが、どうやって選挙を行うんですか? 各地域の代表でも選出するつもりですか?」
「いえ。セナにお願いして、全世界の人に投票して貰います。出来るかな。セナ」
『はい! お安い御用です!』
「という事なので、大統領に立候補する人は選挙に出馬して貰って、セナに投票して貰いましょう。そして、結果を集めまして、全世界で公開。これで良いんじゃないですか?」
「良いんじゃないですか。って、キラ。お前なぁ」
「いきなり世界の代表などと」
「難しいのは分かります。けれど、みんな自分が関係ない場所で偉い人が決まって、その人達同士の戦いで、殺したり、殺されたりして、ウンザリしているんじゃないかなって。技術的には可能ですし。みんなの未来を決めるんです。どうせならみんなで決めたいですよね?」
「言っている事は正しいですが、組織票もありますし、有名な人間が上に立ちますよ」
「そういう結果もあるでしょうね。なので、不満がある場合にはそれをセナに伝えて貰いましょう。そして、不正投票もセナが防いでくれる。後は、僕らで立候補する人間が常に喋っているサイトを作りますよ。いつでも政見放送が見られるようにね」
キラはニコッと笑って、アズラエルとカガリに言葉を返して行った。
これが完璧な意見ではない。
無論、足りない所もいっぱいあるだろう。
世界大統領だなんだと言っても、全員が全員頷くわけではない。
だが、それでも何かやるべきだとキラは訴える。
そして、それはキラの端末から話し合いに参加していたキラも同じであった。
『私はいくらでも協力します。駄目なら駄目で、また違う作戦を行いましょう』
「しかしなぁ」
「今はまだ名前だけだけど、みんなで協力すれば、世界を一つにまとめる為の切っ掛けになるかもしれないんだよ。カガリ、アズラエルさん。きっとこれはチャンスなんだよ」
「そう見えるのは確かにそうですね」
「アズラエル!?」
「はぁ。分かりました。僕は受け入れましょう。世界大統領。よほどの事が起きない限りは大西洋連邦もその人間を推しますよ」
「いや、お前、本当にいいのか!?」
「良いのかも何も、ここで拒絶しても会議の場で勢いのまま投げられる可能性だってある。それを利用されるくらいなら立場を表明するくらいは良いでしょう。細かい策定は会議で決めればいい」
「それはそうだが……」
「なんですか? 妹さん達の考えが気に入らないんですか? 貴女は」
「そんなことは!」
カガリはアズラエルの言葉を否定して、すぐにウルウルとした瞳を向けて来る妹たちを見やった。
なにかとキラとセナに甘いカガリはキラとセナの視線に耐える事が出来ず、渋々ながら頷いてしまう。
そして、これが、これより世界を波乱の渦に叩きこむ事となった。
会議が全て順調に終わり、コーディネーターとしての、政治家の父を持つ息子としての姿を存分に見せたアスランは暗殺に警戒しながら休憩を終え、再び会議場へと来ていた。
ムルタ・アズラエルを下した以上、残る敵はカガリやキラのみであるが、アズラエルよりもお人好しな彼女たちに出来る事などないとアスランは考えていた。
そう。この戦いはアスランの勝ちなのだ。
デュランダル議長の反乱が終わった時より、アスランはこの時の為に準備をしていた。
無論、何事もなく戦を終わらせることが出来たのなら立ち上がる事などはなかったのだが。
ファウンデーション王国との戦いで、キラが無茶を超えて戦っていた事。
セナが自分を犠牲にしながらテロリストを消し、世界を平和へと導こうとしていたこと。
それを見て、知って、アスランは強い悔しさを感じていた。
いつかの時、キラが平和を訴えると言っていた時、アスランは彼女の剣になろうと考えた。
キラを支えるカガリと共に、キラが苦手とする場所で彼女の力になろうと考えた。
だが、その結果は御覧の通りだ。
キラはアスランの前を走り続け、セナは傷を増やしながら世界を抱きしめて。
結局二人が苦しみながらも得た世界の形が今だ。
優しき少女達に甘えて世界の平和を手にして、彼女たちを崇める様な形で争いは消えていくだろう。
そして、その信仰はいつしか彼女たちを永遠の物として世界に縛り付けるかもしれない。
かつてデスティニープランに命を捧げようとしたセナの様に。
キラもセナも、その時が来ればまた自分を犠牲にしながらそのシステムに飛び込むのだろう。
手を伸ばし、彼女たちを止めようとするアスランを振り切って……。
それがアスランには許せなかった。
だから、旧ザラ派の者達をまとめ、動き出す時を待っていたのだ。
旧友であるイザーク達も協力してくれているし、プラントの人間は殆どがアスランの味方だ。
全ての作戦は順調に進んでいる。
どれだけ時間がかかるかは分からないが、争いではない形で、世界を女神への信仰から、人間の王への恭順に塗り替える。
人間でも、女神たちを崇めなくても世界を変えていく事が出来るのだと。
アスランは世界に示したかった。
「アスラン。そろそろ時間です」
「そうか。助かるよ。二コル」
「この程度は問題ありませんよ」
「そうだぞ。世界をまとめると決めたのなら、自分の足で立って見せろ。アスラン・ザラ」
「……イザーク」
「俺らもさ。お前の考えには賛成さ。キラちゃんとセナちゃんに全てを任せるべきじゃない。それは間違いないぜ」
「ディアッカ……」
「あぁ。だからこそ、自信をもって歩け。お前の考えは正しい」
「アレックス。すまない。助かる」
アスランは揺らぎそうになる想いを友たちに支えられ、眩い世界へと向かって歩き出した。
まだまだキラやセナの方が民衆の支持を集める事は容易いだろう。
キラが世界会議を開くと言って、すぐにでも人が集められたのがその証拠だ。
誰もキラがこの場所で指導者を殺める、事件があるとは考えていない。
信じられているのだ。
だが、だからこそ。
アスランは。
アスラン達は。
人類の未来をあの小さな少女達に委ねるつもりはない。
自分の未来は自分の手で、自分たちの手で掴み取るモノだと考えているからだ。
そう。
そう考えていたというのに。
『会議にお集まりいただきありがとうございます。お話合いに移る前に、僕の考えを一つ、皆さんに共有させて下さい』
「……キラ?」
眩い会場の中心で、幾多の光と、世界中の人の目を受けながらキラは歌うように語る。
『人を信じる事が難しい世の中です。国を動かす方も、行く末を決める方もどこかで決まってしまう。そのことに皆さんは不安を感じているのでしょう。先ほどありました。ネオ・ザフトの方と大西洋連邦の方との争いがまさにそれです。人は見えない物に疑いを持ってしまう』
「……」
『だから、僕は、全てを明かすべきだと思うのです。全ての人が世界の未来を決めれば良いと思うのです』
「あの馬鹿。何をするつもりだ」
「キラちゃんの事だぜ? どうせロクな事じゃねぇだろうよ」
「それでもきっと、人の為に何かをしようとしている」
キラは眩い光を受けながら両手を広げて世界を受け入れる。
『皆さんで決めましょう。世界の行く末を決めるに相応しい人を。世界大統領を!』
「なに……?」
アスランは予想外な事に驚きを口にして、遠く離れた場所に居るキラを見やった。
『私はキラお姉ちゃんのお願いを聞いて、私も同じ願いを持ちました』
『僕はセナと共に、皆さんに一つの提案をします。今より、全世界の人が投票権を持つ! 世界大統領選挙を始めましょう!!』
「っ!? 馬鹿な!」
『立候補する方はセナに連絡を』
『投票に関する不正は一切出来ません。全て私が監視しています』
『未来は、僕ら自身の手で掴みましょう』
「やられた……!」
アスランはこの場、世界中に湧き上がる様な歓声を聞いて、思わず苦難の声を漏らすのだった。