キラが世界会議にて訴えた事は、一気に世論や各方面の権力者を巻き込み、現実的な流れとして受け入れられていった。
そして、いつ頃キラやセナが世界大統領として立候補するのか。
その際に自分の立ち位置はどうするのか。
その事ばかりを各組織の代表は考えていたのだが、第二の衝撃として訪れたのは、そういう気持ちをキラが受け止めて世界会議が終わった後にキラが訴えた事であった。
『僕は世界大統領選挙には出馬しません』
開幕発せられた言葉に、世界中の人間が頭に疑問符を浮かべた。
例えオーブの代表カガリ・ユラ・アスハであろうと、大西洋連邦の実質的な支配者であろうと。
最近有名になりつつあるプラントのアスラン・ザラであろうと。
キラの知名度と人気には勝てず、ほぼ無風選挙として、キラが大統領になる事は確定であったからだ。
しかし、そのキラは選挙に出ないという。
ならばセナだろうかと世界中の人は思考する。
だが……。
『そして、セナも世界大統領選挙に出る事はありません』
すぐにキラが発した言葉により、セナが世界大統領になるという考えも否定される。
意味不明である。
なにか考えでもあるのだろうか。何か重要な考えでも……。
と人々が苦悶の中から導き出した答えに、キラは淡々と笑顔を浮かべながら応えてゆく。
『かつてあった世界を巻き込んだ戦争。そして、その影響を受けながら起こされた二回目の大戦争。つい先日あったデスティニープランの意義をめぐる戦争。それらは全て過去の話です。争いが起こらぬ様にと過去の人々が祈り、願って始まったコズミック・イラは、ようやく争いの無い世界に進もうとしています』
『しかし、これで全ての問題が解決されたワケではありません。僕らは人同士の争いを終わらせ、外宇宙へと再び目を向けます』
『外宇宙には、この地球圏で起こっていた以上の『何か』が起きる可能性はいくらでもあります』
『僕らの技術力では勝てない相手、どうしようもない状況もあるでしょう』
『ですが、僕はどの様な状況に直面しても、逃げません。戦います。今まで通り、最前線で』
『僕らは、願えば容易く大統領という地位に就く事が出来ると思います』
『しかし、僕は戦う事しか出来ず、セナは願う事しか出来ません』
『その様な僕らに大統領という地位は』
『これから外宇宙へと向かう皆さんの先頭に立って、人の意志をまとめる事は出来ません』
『僕らは想いを伝えるだけの人間です。状況により、必要と不必要を切り分ける様な役目は出来ません』
『だから、ごめんなさい。セナから聞こえる皆さんの願いに応える事は出来ません』
キラの語る言葉に、湧き上がっていた世界中の熱情は一気に冷めてゆく。
キラが大統領とならないのであれば、この様な選挙に意味などないと考えながら。
しかし……。
『ですが、僕はどの様な方が大統領となっても受け入れます』
『様々な苦難がその方を襲うのであれば、その方を支えます』
『それが、外宇宙へと向かう僕らには必要な事だからです』
『僕らは一つにならねばなりません』
『初代大統領の任期は四年』
『おそらくは、苦難の多い四年となるでしょう』
『ですが、僕は大統領が解任となる四年間は、その方を支えると誓います』
『どうか、地球圏の為に、僕と、セナと一緒に、四年間、よろしくお願いいたします』
ペコリとキラは動画に向けて頭を下げてニコリと微笑んだ。
細かい事、詳しい事はセナから聞いてください。
僕も、いつでも皆さんの助けになりますよ。と告げて、キラのメッセージは終わりを告げた。
後は静かに四年任期の大統領選挙を行う。
そう思われたのだが……世界の反応はキラの予想を遥かに超える物であった。
「え? 大統領選挙に出馬する人が五百人を超えた?」
『はい。昨日時点では』
「そんなに多いんだねぇ。十人とかそのくらいかと思ってた」
キラの呑気な言葉を聞いて、アズラエルはため息と共にキラへと言葉を向ける。
「貴女は、まったく。そんな呑気な事を思っていたのですか?」
「え? アズラエルさんは違うんですか?」
「えぇ」
「えー!? そうなんですか!?」
「最初は各国の代表が出馬するかな。程度には思っていましたが、アナタの放送! アレがいけなかった」
「僕の放送?」
キラはまったく意味が分からないと首を傾げて。ぽえーと空を見る。
それはキラと一緒に大きなやらかしをしてしまったセナも同様で、意味はよく分かっていない様だった・
そんな二人にアズラエルはため息を吐いて、アズラエルの代わりに同じ部屋の中、話をしていたカガリが口を開く。
「最初はキラかセナが大統領になると思っていたんだ。まぁ、その際にはお前が言ったように、お前を利用しようとする奴が世界大統領政府には集まっただろうがな」
「うん」
「しかし、お前が出馬しない以上、世界大統領というのは名前ばかりで魅力的ではない組織になったのだが、明確にお前が世界大統領と共にあると宣言したせいで、今まで以上に世界大統領は魅力的なポジションになった。というワケだ」
「どういう意味?」
キラの疑問には苛立ちを表に出していたアズラエルがすぐに応える。
「世界大統領になる事で、キラやセナの影響力をすぐに受けられる位置になった。という事です。これまではオーブの姫。平和の姫。という立場でしたが、これからは世界大統領の側近として、ある程度自由に動く事が出来る。無論、戦争は圧政は難しいでしょうが、自分の望む政策を進める事は可能になったというワケです。しかも自国や自地域という枠を超えて、世界的にね」
「はぁー。それは凄いですねぇ」
「ハァ。貴女はもっと自分の影響力を……!」
アズラエルはため息を吐きながら、数年前から変わらず気分だけで多くのやらかしをしてきたキラを見やる。
何年経とうとキラは変わらないのだ。
「申し訳ございません! アズラエルさん! カガリ!」
「今更ですよ。全てね」
「仕方のないことだが、起きてしまった以上は仕方ないだろう」
「そうですね。こうなった以上は、強力な人物を大統領候補として立てる必要があります」
「そうだな。オーブとしても協力は惜しまないつもりだ。無論、まともな人物であればという話だが」
「それに関しては特に問題はありませんよ。彼女なら、キラもセナも喜んで支えてくれることでしょう」
「かのじょ……? という事は女性か。どんな人物かは分からないが、私も協力出来る事ならする」
カガリはアズラエルの言葉に頷きながら世界を良き方向に進めるべく言葉を並べる。
が、そんなカガリにアズラエルはどこか胡乱な瞳を向けながらため息と共に、カガリが想像もしていない様な言葉を投げた。
「そうですか。それはありがたい。では、初代大統領就任を目指して、お願いしますよ。『カガリ・ユラ・アスハ』さん」
「あぁ! あぁ? はぁ!? わ、私か!?」
「えぇ。当然」
「何故私なんだ! 私はオーブ連合首長国の代表だぞ!」
「オーブの事など、ユウナとギナが居れば問題ない。それよりも、世界の行く末をどこの誰とも分からぬ相手に渡す方が問題だ。特にコーディネーターが大統領になったら最悪ですよ」
「お前のコーディネーター嫌いも相当だが……いや、しかしな」
尻込みするカガリに、アズラエルは言葉を並べながらカガリを責め立てる。
「今更何を怖気づいているというのですか! 貴女の妹君! キラ・ユラ・アスハもセナ・ユラ・アスハは世界を救った英雄! 貴女はそんな彼女たちに誇れる姉となりたいんでしょう!?」
「っ!」
「これは絶好の機会なんですよ。貴女がここで大統領になる事が出来れば、二人に近づく事が出来る。無論、貴女が出馬すれば、キラやセナに近いからと投票する人も多く居るでしょう。ですが、それが何です! 世界大統領となってから、自らの手腕を世界に見せつければ良い。今は派閥も、陰謀も何もない。思ったまま、願うままに世界を動かす事が出来ます!」
「……!」
「キラの言った通り、我々はこれから最悪の場合『地球を捨てる』可能性すらあります。カグツチも、大西洋連邦やプラントで建設している移民船にも、全世界の人間が乗る事は出来ない。命の選択をしなくてはいけない時が来る! その選択権を誰か、他の人間に委ねるのですか!?」
熱く激昂し、言葉を投げかけるアズラエルに、カガリはぐぅと言葉を飲み込んで、深呼吸をした。
そして、ため息を吐きながらどこか遠くを見やる。
「私に、そんな役目が務まるのか?」
「さぁ」
「さぁ、ってお前」
「未来の事は分かりません。ですが、貴女はオーブで必要と不必要を分ける選択を何度も行ってきたのでしょう? それをまた行うだけです」
「世界規模だぞ」
「その重みを知っているのであれば、貴女こそ相応しいと僕は考えます」
アズラエルは酷く優し気な言葉でカガリを説得する為の言葉を言い続けた。
それにより、カガリは小さく受け入れ、見えない様な微かな動きで頷く。
「やれるだけ、やってみよう」
「それでこそカガリ・ユラ・アスハですよ。オーブの獅子。ウズミ・ナラ・アスハも貴女の選択を称える事でしょう」
「そうだな。お父様の娘だと示す為に、キラとセナの姉である為に。やろう!」
「うん。カガリ。君が世界を導いてくれるのなら、僕らも安心して世界を任せられるよ」
「あぁ! 任せておけ!」
それからカガリはアズラエル、オーブ、プロデュースの元、世界大統領選挙へと出馬した。
ただし、カガリの希望もあって、キラもセナもカガリを応援していない。
無論、表立って応援していないからと言って、二人の事を信じる人々が投票しないという事も無いのだが、それでもカガリは意地を通したのであった。
『はじめまして。私はオーブ連合首長国。代表首長のカガリ・ユラ・アスハです。本日は私から皆さんへこれからの世界についてお話をさせて下さい』
丁寧に語られるカガリの言葉に多くの人が耳を傾けながら静かに動く世界の中に揺蕩っていた。