カガリが世界大統領選挙に出馬したという事で、世界中のニュースとなっている頃。
地球軌道上から少し離れた場所を航行していた巨大移民船カグツチに、一隻の戦艦が近づいてきていた。
戦艦の名は、ミレニアム。
すっかり争いの火が消えた世界の中で、今や存在感の薄い存在となってしまった最強戦艦である。
ミレニアムはカグツチの誘導により、カグツチ内部にある整備・開発ブロックへと入港して、巨大なドッグの中、ゆっくりとその巨体を艦の中に下ろした。
「ミレニアム着艦」
「各種モニター。特に問題はありません」
「ご苦労」
無事カグツチ内部に着艦した事で、艦長であるコノエは深くため息を吐きながら軽く周囲を伺った。
味方艦とは言え、ミレニアムよりも巨大な戦艦の中に居るというのは落ち着かない物である。
「しっかし、大きな艦ですねぇーカグツチというのは! 移民船でしたっけ」
「うん。超巨大移民船。大きさとしてはコロニーが一つ動いているっていう方がイメージとしては良いかもね」
「それは……! 確かに、こうして見ていると、そう言われるのもよく分かります」
アーサーはコノエの言葉に頷きながら、ドッグの様子をブリッジにあるガラスより眺めて、換装を漏らした。
そんなアーサーの喜びをブリッジに入って来た女性が咎める。
「アーサー。あなた、ミレニアムに来ても まだ 落ち着かないの?」
「も、申し訳ございませんっ!! って、グラディス艦長?」
「もう私は艦長じゃないわ。貴方はミレニアムの副官でしょう?」
「は、はいー!」
アーサーはブリッジに入って来た女性に敬礼をしながら恐縮し、アーサーに敬礼をされている女性、タリア・グラディスは共に入って来たナタル・バジルールと共に艦長であるコノエの元へと向かった。
「お久しぶりです。アレクセイ・コノエ大佐」
「こちらこそ。お出迎えありがとうございます。タリア・グラディス中佐。ナタル・バジルール二佐」
コノエは形式通りに敬礼をしながら彼女たちへと予定されていた事の確認を行いながら、艦長席より立って、待機していたアルバート・ハインライン、アーサー・トラインと共にブリッジを出て、廊下を歩く。
「地球圏はだいぶ静かになりましたな」
「えぇ。宇宙は海賊行為を行う者がはびこっていたのですが、キラ様が世界会議を行う際に、そういった者達を警備兵として雇い、そのまま義勇軍として既存の軍ではなく、コンパス直属の自由部隊として編成しましてね。アレで一気に数を減らしましたよ」
「あー。海賊を捕まえる専門の義勇軍、ですか?」
「えぇ。蛇の道は蛇と言いますが、義勇軍はアッサリと海賊共のアジトを発見し、着実に勢力を増やしています。下手をすると小国の戦力より多いくらいのパイロットが集まっていますね」
「なるほど……流石はキラ様という所ですか」
コノエは苦笑しながら、喜び勇んでキラの元へ集まってくる人間達を想った。
海賊も海賊のまま世界がまとまっていく姿を見るというのも苦しい所があったのだろう。
キラが、自分と一緒に戦おうと言うだけで、皆気安く集まってくるのだ。
「身勝手な話です。キラ様のご厚意に甘え、正規軍でもないのに、大きな顔をしているというのは」
「バジルール二佐はご不満ですか?」
「キラ様の行いは慈悲によるもの! 不満などはありません! ありませんが、規律の乱れた物が集まるというのは問題です!」
「ハハハ。バジルール二佐らしい」
コノエは笑ながらナタルの不満を流して、キラが元海賊の面々を義勇軍として正規軍から引き離した意味をより深く理解する。
ナタルが訴えた様に、今まで海賊行為で好き勝手やっていた連中が、キラの手足として偉そうにしているのが気に入らないのだろう。
その気持ちは分かる。
特に、過去より軍人だった者は、今までの戦いで散々苦しい想いをしながら戦ってきたのだ。
ようやくキラやセナの下、正義を振るう事が出来るのは非常に嬉しい事だろう。
それは苦労に対して、ようやく成果が出てきたからだ。
しかし、海賊はそういう苦労もなく、いきなり成果だけを得た様に見えるから腹が立つのだ。
その気持ちは正規軍として戦ってきたコノエにはよく分かる。
よく分かるが、見た目だけで判断出来ないのが世界という物だ。
確かに海賊というのが自由に動き回っていたというのは確かだが、彼らの心が自由であったかどうかは別の話だ。
海賊をしていても、生活が満足に行えるワケではない。
キラとセナの理想に夢を見て、軍人となったが、コーディネーターとナチュラルの争いに巻き込まれて、したくもない戦闘をし続けた者も多く居る。
そんな彼らが、今いる軍に不満を覚えて、軍を脱走して、生きる為に自分が覚えている技術を使うのは当然の事だ。
モビルスーツを使う、武器を操るというのは早々簡単に出来る事では無いのだから。
そうして、ギリギリの中で生きていた彼らが、キラに、自分と一緒に戦って欲しい。なんて言われたら喜んで参戦するだろう。
腹いっぱい食事をして、暖かい部屋の中で眠って、キラの理想を胸に正義を持って戦う事が出来て。
幸せな日々の中で、自分達と同じ様に海賊行為に堕ちてしまった者達へ、この幸せを伝えたいと願うのは普通の事だ。
しかも、キラは苦しむ同胞を呼んでくるだけで喜んでくれるし、褒めてもくれる。
そんな環境では信じられない様な速さで海賊が消えるのも納得できるというワケだ。
本当にキラが率いているのかと疑ってしまう人が居たとしても、キラなら何のためらいもなく前線へと行くだろうし、通信だってすぐに繋がる。
彼らはようやく得た幸せの中に今、居るのだ。
それは正規軍であった自分やナタルには分からぬ事かとコノエは内心で頷いてナタルの不満を流し続けた。
ナタルの訴えも分かる物として。
それからコノエたちはミレニアムの廊下を進み、格納庫へと到着して、既に待機していたモビルスーツ部隊のパイロット達を連れ、カグツチのブリーフィングルームへと向かった。
彼らはまだ知らないが、これから重要な任務がある為である。
そして、たどり着いたブリーフィングルームには数多くの人間が居り、コノエ達と共に来たシン達は緊張からか体を固くしながら、歴史上に現れる様な重要な人間ばかりがいる環境に息を飲み込む。
「見ろ。パトリック」
「ほぅ。彼が、そうなのか」
「あぁ。間違いない。あのデスティニーのパイロット。シン・アスカ君だ」
「良い顔をしているな。確かに、キラ君が未来を任せたいという気持ちもよく分かる」
シンを見やって言葉を交わす二人の老人に、シンよりもアグネスとルナマリアが驚きながらシンの背中をバンバンと叩いた。
「いっづ! 痛いよ。ルナ。アグネス」
「ちょっと! アンタ! シン! どこであの方たちに会ったのよ!」
「あの方たち?」
妙な言い方をするルナマリアに疑問を返すと、アグネスが脇に拳を叩き込みながらルナマリアの代わりに言葉を続けた。
「パトリック・ザラとシーゲル・クラインの二人よ! コーディネーターの歴史を始めた偉大な人たちよ!?」
「うぐっ、そ、そうなのか」
苦しみながらもパトリックとシーゲルへと視線を送るが二人はどこからどう見ても偉大な人物には見えず、疑問ばかりがシンの中に浮かぶ様であった。
そうして、ある意味でコーディネーターの中だけで分かるアイドルとの出会いがあって動揺していたシン達であったが、もっと動揺する様な人がシン達の前に現れる。
「皆さん。お集まりいただきありがとうございます」
「セナ!?」
「シンさん。お久しぶりです。端末では毎日お話していますけど、こうして会うのは久しぶりですね」
ニッコリと微笑むセナはいつかの時と何も変わらず、当たり前の様にシン達の前に立って微笑んでいた。
広いブリーフィングルームの中にはステージの様な場所があって、他の場所よりも僅かに高いのだが、それでもセナの小ささがよく目立つ。
そして、セナが復活したのかと喜びを顔に浮かべるシンを止める様に、セナとそっくりな見た目を持つ少女がセナの隣にたった。
「残念だが、シン・アスカ。セナは死んだ」
「は……?」
「かつて地球軌道上で行われた戦いにより、セナはこの体に精神を繋ぎとめる事が出来なくなり、宇宙にその魂を散らせる事となった。私達はそれを死と呼んでいる。同じ体に私が居る為、この体は動いているが、セナはこの体へ戻る事は出来ず、セナ・ユラ・アスハという存在は、死を迎えたのだ」
「いや、死んだって……でも、セナはこうして生きているじゃないか!」
シンの疑問に今まで話をしていたセナと同じ体を持つ者、クリスタは話をしようとしたが、それをセナが止める。
そして、セナが分かりやすい様にシンへと事情を語った。
「シン君。私は生命としては死を迎えています。ここにあるのはサイコフレームによって繋がれている意志の残滓。シン君と共にあるステラさんと同じです」
「ステラと……?」
『ステラ?』
シンはセナの言葉に、自分の斜め後ろへ振り返り、いつもの様にあどけない顔をしながら首を傾げている金髪の少女、ステラ・ルーシェを見やる。
そして、ステラと視線を交わしてから再びセナへと視線を戻したのだが、セナの代わり、セナの後ろに居た女性……成長したキラやセナと同じ見た目をした女性がセナの肩を軽く触れながらセナに代わりに語る。
「サイコフレームを用いれば、死した人間とコミュニケーションをとる事が出来る。というのは、かつてメンデルに落ちた白いモビルスーツと赤いコックピットに搭載されたサイコフレームによって知る事が出来たの。だから、私は、その技術を使って、自由に動くサイコフレームを使ったアンドロイドの体を作り出したのよ」
「アンドロイド……」
「そう。人の体の様に見えるけれど、人の体では無いわ。だから、今は仮初の体に過ぎないの。本当は、人である時に、話をしたかった人も、いるでしょうけどね」
セナによく似た女性、ヴィア・ヒビキはセナの肩に触れながら罪を打ち明ける様に言葉を並べるが、セナはそんなヴィアの手に触れながら彼女に微笑みかける。
そんなセナにヴィアは何度も謝罪をしながら礼を言っているのだった。