キラとリボンズが対談した次の日。
キラ達が生活しているアカツキ島にとある訪問者がやってきた。
「ねーねー! お姉ちゃん! アレやってー! あれー!」
「おー! あれね? てやー! つーかーまーえーた!」
「きゃはははは!」
「てりゃー! ぶんぶんぶん!」
キラは砂浜を走りながら子供の一人を捕まえて、両脇を捕まえて持ち上げながら振り回す。
落ちない様には調整されているが、遠心力で回転する子供は勢いよく回る世界の中で楽しそうに笑っていた。
そんなキラをカリダは微笑ましそうな顔で微笑んでおり、リボンズは考え込む様な顔のままキラを見つめている。
「ここはいつ来ても騒がしいわね」
「キラさーん!」
「ラスちゃん! それに、マユちゃん! どうしてここに!?」
わーとキラに向かって走るマユを抱きとめて、キラは砂浜に仰向けになって倒れながら笑う。
砂浜に寝ながらマユと共にケラケラと笑っていた。
「もう! マユ! カレッジに入るんでしょ。子供みたいな事してないでよ」
「はぁーい。ラスちゃんはいつもカリカリしてるなぁー」
マユはキラの上からどいて、長い髪を整えながらラスの隣に立つ。
そして、自力で起き上がるキラに微笑みかけた。
「お久しぶりです! キラさん!」
「うん。マユちゃんも元気そうだね」
「はい! 毎日元気にやってまーす!」
「そりゃいい事だ」
キラはマユの言葉に微笑んで、いつもの様にマユの頭を撫でながらいい子。いい子とやっていたが、それを見て、ラスが先ほど以上の文句を言った。
「もう大人の仲間入りするのよ! もっと大人のレディらしくしなきゃ!」
「えー? でもキラさんも、あんまり大人のレディらしくないけど」
「キラさん!! マユに悪影響与えてるじゃない!」
「そう言われましても……」
「ねぇ?」
「ねぇ?」
キラとマユは目を合わせ合って、同時に首を傾げる。
息の合った姉妹の様な動きに、マユとキラは楽しそうにケラケラとまた笑った。
実に和やかな雰囲気である。
「まったくもう!」
「はいはい。そんな怒らないでよ。今度カレッジに入るんでしょ? 大人のレディさん」
「バカにして!」
ラスはキラの言葉に怒りを示していたが、ふぅー! と怒りを大きな息と共に吐き出すとどこか誇りを混ぜた様な顔で笑った。
「けど、良いわ。許してあげる。これから私とマユは特別なカレッジに入って、特別な人間になるんだから」
「特別なカレッジ?」
「貴女。何も知らないのねぇ。つい先日、巨大居住戦艦カグツチの情報がテレビで発表されたでしょう? 私とマユはカグツチの最新鋭カレッジに特別生徒として入学する事になったのよ」
「カグツチにはお兄ちゃんも居て、これからは一緒に生活出来るんだって! ママが言ってた!」
「それは良いね!」
キラは輝く少女達に微笑みながら、その未来を純粋に称える。
移民船カグツチは、移民船である事は伏せられ、一般市民には、ただの居住用戦艦として伝えられている。
新しい形のコロニーとでも言う様な物だ。
いきなり戦艦だなんてと恐怖を感じる人も居るかもしれないが、本土より、普通のコロニーよりも、カグツチが安全な事は、ファウンデーション王国との戦いの中で、レクイエムの直撃を受けても無傷だった事から、頑丈な居住地として受け入れられている。
いつまたレクイエムが撃たれるか分からない中、安全な戦艦の中で暮らしたいというのはオーブに住まう者達の意志だ。
家族がカグツチに住んでいる人は、優先的にオーブ本国からカグツチへと移動する事が決まっており、カグツチの内部で自由に住む場所を決めている。
オーブに住む者は全て受け入れる事の出来る巨大移民船は、ゆっくりと三年の時間をかけて、オーブの国民全てをカグツチへと移動する予定だ。
ラスとマユはその過程で、カグツチに作られた新しいカレッジに入学する事となった。という事だろう。
「でも、二人が友達になってたなんて、なんか意外だな」
「そう?」
「そうかしら?」
「うん。だって、ラスちゃんは最初ギナさんに噛みついてたし。マユちゃんは甘えん坊の子供だったからね。性格的には真反対でしょ?」
「それはもう忘れてって……! もう」
「ごめんごめん」
「良いけど……それで? 私とマユが友達になった理由だっけ? キラは知らなかったんだっけ」
「うん。気が付いたら仲良かった感じ。出会いのエピソードがあるのなら、聞かせて聞かせて!」
キラはスリスリとラスに寄りながらエピソードを問う。
マユもどこか嬉しそうな顔をしながらラスを見ており、ラスはため息と共に期待を吹き払う様な仕草をしてから話を続けた。
「マユって普通の家の子なのに、お嬢様学校に来てたのよ」
「そうなの? マユちゃん」
「うん。お兄ちゃんが、折角だから良い所に行けって、いっぱいお金くれて」
「あー。シンらしいねぇ」
「そう。それで、学校は良い子ばっかりだったんだけど、やっぱり生活とか考え方とか違うから、浮いてたのよ」
「キラさんとお友達っていうと、引かれちゃって、お兄ちゃんはオーブ防衛線の英雄だよっていうと、引いちゃって」
「それは別にお嬢様学校じゃなくても浮いちゃうんじゃないの?」
キラはマユとラスから聞いた話に突っ込みを入れながら続くラスの話を聞く。
「みんなマユとどう接すれば良いか分からなくて、遠巻きに接していた時、私が友達になったってワケよ。お父様の会社はモビルスーツ開発の重要企業。オーブでも王族に凄い異界存在だからね」
「はー。なるほど。ラスちゃんくらいの人じゃないとマユちゃんと対等になれなかったって事か」
「私は別にキラさんとかセナちゃんみたいに王族の人じゃないんだけどね。なんか、そうなってた」
「そりゃ仕方ないね」
「そして、お父様にもマユちゃんと友達になった事を告げると、あのシン・アスカの妹って事でビックリしてたけど、是非親しくなりなさい。将来ラスの力になるからって、言ってたわ」
「人脈って大事だからねー。まぁ、ラスちゃんは家族経由で王族とも親しいけど」
「そして、学園では親友として過ごして、成績もトップクラスの私達は是非! って言われて、新しいカレッジに通う事になったの!」
「なるほどなぁ。まぁ、カグツチのカレッジは新しい技術もいっぱい学べるし、頑張ってきてね」
「はい! お父さんとお母さんはモルゲンレーテで働いてますし。技術は多く学びたいですからね」
「当然! 会社だってもっと躍進させるから!」
笑ながらそれぞれの夢を語る少女達にキラは良かった、良かったと微笑ましいエピソードに笑みを向ける。
少女たちの知らない真実の話としては。
モルゲンレーテの重要な社員であるシンの両親、アスカ夫婦には早い段階からカグツチへと移動の話は来ていただろうし。
オーブのモビルスーツ開発において、重要なポジションにいるラスの父親もアスカ夫婦同様に打診は来ていただろう。
本国に居続けるよりは、早めにカグツチへと移って生活拠点を確立させる方が良いと。
アスカ夫婦とラスの父親は、二人が友人となった時から親交があり、ラスの父親としても家族と共に居る為にカグツチへと移動するのは本望だろうし。
マユと親交を続ける事で、世界最高とも言われるレベルのパイロット、シン・アスカとのつながりも出来る。
キラとの繋がりもより強固になる。
オーブの深い位置とも繋がりが出来るという事で、今回の件は良い事ばかりの筈だ。
地球から逃げる話を知らなかったとしても、引っ越し自体は何度も頷きたくなる様な話だろう。
一人娘で、誰よりも大切なラスの為に、出来る事をしたいと願った結果がきっとこれなのだ。
「それでね。カグツチの家を決める時に、ちょうど良いからってお兄ちゃんが通いやすい所に家を決めて、しかもその家の隣にラスちゃんが住んでるの!」
「ま。お父様も、マユと交流するのなら隣家の方が良いって言っててね」
「しかも、お兄ちゃんの家の隣にはレイさんの家とか。ホークさんの家とか、ギーベンラートさんの家とかがあって、すっごい有名な人がいっぱい居るんだよ!」
「冷静に考えるとマユの繋がりも凄いわね。ホント」
「えっへん!」
ラスの驚きを軽く流してマユは誇らしげに笑う。
そんなマユを突いてラスは笑っていたのだが、キラは色々な思惑が絡む中で、幸せに、日々を喜びの中で生きている少女達に祝福を贈る。
これからも幸福が彼女たちに降り注ぐようにと。
「そっか。じゃあ、これから楽しくなると良いね」
「キラさんは」
「うん?」
「キラさんはいつ、カグツチに来るの?」
「本土はニュートロンジャマーの影響もあるし、要塞化して市民は全員カグツチに移動する予定なんでしょ?」
純粋に、キラもカグツチに移動すると信じている少女達にキラは真実を告げるべきかと悩んで、すぐにニッコリと微笑んだ。
「僕はこう見えてもオーブのお姫様だからね。やる事はいっぱいあるし。すぐに移動って訳にはいかないかな」
「えー」
「それは残念」
「でーも。そんなにしないで僕も行くからさ。いっぱい勉強して待っててよ」
「うん!」
「早く来ないと、私達すっごい特別になっちゃうからね!」
楽し気に。
嬉しそうに微笑みながら未来を夢見る二人にキラは目を細めながら微笑む。
そして、確定している未来だけはゆっくりと語るのだった。
「カグツチはオーブ本島と似たような内装してるんだけどさ。疑似的な海岸もあってね。そこに孤児院を作るつもりなの」
「うんうん」
「そして、そこには子供達も住む予定だからさ。良かったらまた顔出してよ」
「仕方ないわねー!」
キラはすぐ先にある未来に、遥か先の未来を託して海岸の向こう側に落ちてゆく夕日へと視線を送る。
日々は何気なく過ぎて、今日も何もなく一日が終わる。
確実に破滅の未来は近づいてきているというのに、今はそんな気配など何も無かった。
ここには静かな平和がある。
「また、会おう。マユちゃん。ラスちゃん。二人の未来を願ってるよ」
キラは押し込めた感情を外に見せる事のないまま、明るい少女達に笑みを向けた。
今はまだ、平和な世界の中で。