オーブより大々的に人の移動が始まって、キラの周りは何かと面倒が起こるからと早めに子供達の避難が行われた。
カリダとハルマはキラが心配だと最後まで残る意志を示していたが、子供達にも保護者は必要であり、リボンズが連れて来たスーパーコーディネーターの子供達も、今は普通の子供として日々を過ごしており、このまま何も無く育ってほしいというキラの願いに従って、カリダとハルマも子供達と共にカグツチへと引っ越ししていった。
テレビ通話も繋げる事が出来るし、危険も今のところはない。
一年ばかり続けられる予定の世界大統領選挙も、まだまだ序盤も序盤。
始まったばかりである為、波乱はないと思われた。
しかし……。
「っ! ……来るね」
「キラ?」
「なんかお客さんが来るみたい」
キラを一人には出来ないからと、カリダたちを見送って、キラと共に波打ち際の家に残ったリボンズは夜の静かな空気の中、ゆったりと座っていた椅子から立ち上がり、家の外へと歩き出すキラに付いてゆく。
そして、砂浜の中央付近で立ち止まり、上空を見上げるキラのすぐ近くでキラと同じ様に無限の星空を見ていたのだが。
不意にキラ達を吹き飛ばす様な爆風が起こり、何もない星空の下に4機のモビルスーツが現れる。
「なっ!? モビルスーツ! 侵入者か!?」
「慌てないで。リボンズ。敵意は感じない。きっと話し合いに来ただけだよ」
「呑気な事を! モビルスーツを持ちだしてきて、話し合いなどと……!」
「気持ちは分かるけどさ。わざわざ、あんなものを持ち出してきたんだし。モビルスーツは意志の現われなんだよ」
「意志……?」
リボンズは現れた四機の灰色の装甲を持つモビルスーツが膝をつきながらパイロットをそれぞれ排出する様子を見やった。
G兵器と呼ばれる、世界大戦の最初期に現れた連合が、キラが作り出した驚異のモビルスーツ。
フェイズシフト装甲という存在の脅威を世界に知らしめたモビルスーツである。
そして、開発されていたG兵器をヘリオポリスより奪取したのは、ザフトの若きパイロット達。
「イザーク、ディアッカ。二コル。久しぶりだね」
「お前は何も変わらないな」
「相変わらず美人だぜ。キラちゃん」
「夜分遅くに申し訳ございません」
それぞれに、吹き荒れる風の中、ヴィアの様に長い髪を靡かせながら立つ女性、キラへと声をかける面々。
本来であれば、この様な場所に、この様な形で現れる様な事などは無かっただろうが、彼らが、かつて奪ったG兵器と同じ見た目のモビルスーツでここに現れた事には多くの意味があるのだろうとキラは考える。
「……それに、アスラン。久しぶりって言った方が良いのかな?」
「あぁ。3か月ぶりか。少々時間が空いたな」
「うん」
「世界会議で会った時以来という事であれば、まだそこまで時間も経っていないが……元気だったか?」
「そりゃあ。僕はいつだって元気だよ。争いのない平和な世界で、今日も元気に生きてる。今は世界中が選挙に夢中だしね」
「……あぁ」
「アスランは、出馬しないの? 世界を支配する王様になりたいんでしょ?」
「俺は……」
キラの純粋な目で見つめられ、アスランは少しばかり戸惑った様な顔をしてから、グッと息を飲み込む様な顔になった。
そして、決意を秘めた様な顔になり、キラを見つめる。
「俺は、やり直したいんだ」
「やり直す?」
「あの時、俺達が選択を間違えたあの日。あの場所に戻りたい。お前たちと戦った、この場所に」
「あぁ……その時かぁ」
キラは遥かな昔を思い出して呟く。
おそらくは、アスラン達にとって大きな過ちとなってしまった日の事。
キラ達はオーブの姫として、オーブでアークエンジェルを降りたと勘違いし、この地、アカツキ島にて、キラが操縦しているとは思わないままキラの駆るストライクと、セナとオルフェの乗るストライクセイバーを討った、あの日。あの時に。
「それで、戻ってどうするの?」
「今度こそ、お前の手を取って、共に世界を平和としたい。あの時とは違い、俺は一介の軍人じゃない。力を手に入れた」
「うん」
「やり直したいんだ。あの間違いを」
「間違い、ね」
キラはアスランの必死な言葉に、どこか懐かしい物を思い出す様な笑みを浮かべて、静かに言葉を紡ぐ。
「アスラン。僕はね、これまでの人生に、一つだって過ちなんて無いと思っているんだ」
「……」
「君やラクス、リボンズ達とは違うんだよ。僕とセナは。通って来た道に。僕らの選択が引き起こして悲劇に、目を逸らすつもりはないよ」
「っ! 違う! 俺は!」
「同じだよ。僕たちと君達とは違う。戻りたい過去なんて、僕には無いんだ。今、ここに居る僕も、これが歩いて来た結論だ。セナだって、色々な選択を超えて、今、ここにいる」
キラがハッキリとアスランを拒絶すると、アスランは戸惑った様な、迷った様な、苦しみを飲み込んだ様な顔になった。
そして、苦しみ、悶えながらも言葉を吐き出す。
「それでも、もし、お前たちの考えがそうだとしても、もしも、というのはあるだろう……?」
「無いよ」
「っ」
「アスランは過去を見ているのかもしれないけどね。僕は今を見ているんだ。未来により良い結果を導く為に、今を生きている。だから、今の僕が正しいと考えて出した結論は、それがどんな物だとしても、間違いでは無いんだよ。僕が選んで出した結論なんだ」
キラの言葉に、イザーク、ディアッカ、二コルは一定の納得を示して、ハァとため息を吐いた。
そして、アスランへと視線を向けて、「戻るぞ」という。
「まだ、まだ俺はキラと話す事があるんだ!」
「もう無いよ。アスラン」
「無いなんて、そんな……!」
キラは必死に言葉を並べるアスランにハァとため息を吐いてから、言葉を紡ぐ。
「アスラン。君は、後悔しているんだね」
「っ! 俺は」
「もし、僕らがあの時、手を繋いでいれば、確かに、ここには違う未来があったかもしれない。イザークと結婚する未来だってあったかもしれない」
「ばっ!? は!? お前は何を言っているんだ」
「あり得ない話だが、お前の言いたいことは分かる」
「貴様ぁ! アスラン!! どういう意味だ!!」
「どうどう。落ち着けって、イザーク」
「そうですよ。今はシリアスな話をしているんですから」
怒り狂うイザークを放置して、キラとアスランは互いに見つめ続ける。
想いを、言葉に乗せて交わし合う。
「僕らには指導者としての力なんか無いからね。きっと、あの時、選択が違えば、お父様やパトリックおじ様。アズラエルさんが手を取り合う未来もあったと思う。今だから分かる。その未来はきっとあったよ」
「……キラ」
「これは君を慰める為じゃない。けれど、君や、カガリ、ラクスが望むように。僕らが能天気な姫として、平和を訴えるだけで、終わる世界もあったと思う」
「……あぁ」
「けれど、やっぱりそれはイフの世界なんだよ。僕はその未来が正しいとは思えない。傷ついて、苦しんで、ここに立っているからこそ、戦う道を選べる。戦い続けて力を得て来たから。それが正しい道なんだよ。君の信じる正義も僕の思う正しさも、結局は同じ物なんだ」
「正義、か」
「うん。君は優しいから、きっと僕やセナが苦しんでるって思ってくれたんでしょ? それは分かってる。伝わってるよ。イザーク。ディアッカ。二コル。君たちの思いもね」
キラはニッコリと微笑んで、ここに来た面々を輝く様な麗しい笑顔で見つめた。
その光に、イザーク達はどこか気恥ずかしさを感じて、目を逸らす。
そして、アスランはキラの想いを真っすぐに受け止めたまま、小さく頷いた。
「そうか」
「アスラン」
「なんだ? キラ」
「カガリは好き?」
「あぁ。愛している」
「なら、そうだね」
キラは少しばかり考えて、砂浜を一歩、二歩と歩く。
そして、ビシッとアスランへと指を向けながら真っすぐに語った。
「アスラン。大統領選挙に出馬して」
「……しかし、俺は」
「良いから。参加して、そして、カガリと正面から戦ってよ」
「カガリと?」
「うん。カガリと対等な立場で正面から戦って、そしてカガリの頑張りを見て。僕やセナのオマケじゃないんだって。ちゃんと見て」
アスランは気圧される様なキラの気配に頷きながら、世界大統領選挙に出馬する事をキラに告げた。
その言葉にキラは満足しながら、来た時と同じ様にミラージュコロイドを使って消える四機を見送る。
そして、キラとリボンズだけが残った砂浜で再び家に戻ろうとしたのだが……。
「キラ」
「うん? どうしたの?」
「このまま返してしまっても良いのか?」
「別に戦闘を仕掛けに来たわけじゃないし。良いんじゃない」
「良いんじゃないって……」
「アスランはさ。色々と気を遣いすぎなんだよ。セナがあぁなったのも。僕がこうなったのも自分の責任だって」
「面倒な奴だな」
「かもね。けれど、誰にも、何にも揺れない正義を持っていて、それが信念になっているから、ジャスティスにだって乗れてるんじゃない? 我儘で結構だと思うけどね」
「ふーん」
リボンズは興味無さそうに砂浜を背にして家に戻ろうとした。
そして、そんなリボンズに付いて歩きながらキラも家に戻ろうとしたのだが、不意に先を歩いていたリボンズが立ち止まり、振り返りながらキラの手を取った。
「わ」
「決めた」
「決めた? なにを……」
「僕も世界大統領選挙に出馬する」
「え? そうなの?」
「あぁ」
ずいッと顔を突き出して、キラに触れる様な近さに寄りながらさらに言葉を向ける。
「アスラン・ザラは過去を悔やんで、過去を見ていた。フェアネス・ツヴァイクレは未来の事ばかりを気にしている。だが、僕は今を見よう。今、僕らが居るこの地球。この世界を。世界の全てを見よう」
リボンズは夢を語る様にキラの手を取ったまま、星空に叫ぶ。
声を上げる。
想いを打ち明ける。
その様子に。
まるで子供が初めて夢を見た日の様に、輝く様な笑顔で語るリボンズにキラはフッと笑みを零した。
「そっか。じゃあ、僕も協力しようかな」
「本当かい?」
「うん。だって、僕は何もやることがないし。暇だからね」
キラはイタズラっ子の様な顔で微笑んで、リボンズへと言葉を返すのだった。