カガリの政見放送で語られた男の話は、支離滅裂で要点も掴めず、何も知らぬ者が聞いていたら意味不明であっただろう。
しかし、男の想いを理解する者は世界中に多く居て、男に共感する者達が男の話から動き出していた。
「ぷ、プロデューサー! 大変です!」
「なんだ!? どうした!?」
「今、大量のメッセージが来ているんですが、その数が尋常じゃなくて……!」
「尋常じゃない?」
「はい! 今回の為にキラさんがメッセージを十分に受けられる様にって、システムを構築してくれたんですけど、それがエラーを出してるんです!」
「は? はぁ!?」
「受信状況を見ると、多分、メッセージが来すぎてて、パンクしてると思われるんですが」
「パンクって、いや、キラ様が改良して下さったんだろ? どれだけ来てるんだよ」
「分からないですが、十万とか、百万じゃ足りないくらいの数が」
「な、んだと……!」
プロデューサーと呼ばれた男はメッセージを管理していた者から聞いた言葉に驚愕しながら、慌ただしく電話応対をしている者。
そして、番組のコメント欄のエラーを解消しようとしている者を見やる。
「何が起きているんだ……! こりゃあ」
プロデューサーは急に慌ただしくなった現場に思わず声を上げるが、その理由は分からないふりをしながらも彼には分かっていた。
そう。
キッカケはあの男の声明である。
あの男の叫びが、世界中の人間に火をつけたのだ。
「っ! 確認だ。来ているメッセージに批判はあるか? 隠した事への怒りとか」
「あるにはありますが、それもごく少数で、ほとんどは、自分も戦うと」
「……!」
「番組を配信しているサイトのコメント欄も、従軍経験は無いが、三年あるならやれるとか。覚悟があるとか、そういうコメントが多いです」
「……そうか」
プロデューサーは話を聞いて、理解した。
全てを。
己がするべき役目を。
「キラ様!」
男はまず放送のメインであるキラに話しかけて、ガラス越しに目で、状況を訴えたのだが、それにミゲルがすぐさま反応をした、
『話は聞こえたよ。バーク・アッカーさん。俺はミゲル・アイマン』
『え? あ、あぁ。よろしく』
『おう。よろしく。それで、だ。俺はコーディネーターの、元ザフト。つまりは従軍してた時のアンタの敵なんだが、俺とも一緒に戦う覚悟はあるのかい? もう戦わないって決めたとしても、先日まで俺たちは戦ってた。それでも、背中を預けられるのかい?』
『……俺は、そういうのはよくわかんねぇ。キラ様が一緒に戦えって言ってるのなら、その結果、誰かに背中を撃たれても文句はねぇよ』
『そうか……』
ミゲルは男の言葉に納得を示して、静かに言葉を締めた。
そして、フッと笑ってから男に言葉を返す。
『なら、俺からも口利きをしてやる。モビルスーツを調達しよう』
『っ! 本当か!?』
『あぁ。俺は嘘をつかない。一緒に戦おうぜ。バーク。俺も、地球の危機に。人類の危機に。可愛いキラちゃんの未来に、黙って全てが失われるのを見てる気なんかねぇんだ。俺も最後まで戦うぜ』
『ミゲルさん……!』
『おっと。止めるなよ。キラちゃん。これは男の覚悟って奴だ。死ぬことが怖いんじゃない。大切な者が、ただ失われていくのを見るのは嫌だっていう、我儘さ。な? バーク』
『あぁ。その通りだ。キラ様。これはキラ様が起こした事じゃない。俺が、俺達が、我儘で始める抵抗なんだ。もし俺達が死ぬとしても、キラ様が背負う事じゃねぇよ』
『バークさん……!』
キラは通話から聞こえてくる声にポロリと涙を流して口元を塞ぐ。
そして、ミゲルはそれをチラリと見てから、ガラス越しのプロデューサーに視線を送って頷いた。
瞬間、プロデューサーの指示で様々な場所から届いていた声をスタジオの中に響かせる。
『俺も戦います!』
『俺は、あのヤキン・ドゥーエ攻防戦の生き残りですよ! 力になりますぜ!』
『バカの突撃っすよ! 俺も参加するっす! 俺もバカなんで!』
『命知らずのバカが減れば移民船にも空きが出来るんじゃないか?』
『必ずや力になってみせます!』
『自分! 車が運転出来るんで! モビルスーツも動かせますよ!』
『ようやく、ようやくキラ様のお力になれる時が来たんだ!』
『この時の為に生きてきました! 参加させて下さい!』
多くの声がスタジオの中に、そして世界中に広がってゆく。
その声は優しさに満ちていて、最初はカガリに文句を言っていた者達も小さく、やがては消えて行った。
『ぐすっ……うぅ、でも……きっと、きっと死んじゃう、んですよ』
『だからどうしたっていうんだよ。キラちゃん』
『俺は生き残ろうなんて考えてませんよ。ただ、一緒に戦いたいだけなんです』
『そうだ!』
『俺もやるぞ!!』
『すぐにでも行ける!』
『いっそこっちから殴りこんでやろうぜ!』
『負けてられるか!』
『殺す為の戦いじゃない! 守る為の戦いだ!』
『やるぞ!!』
多くの声援が、投げられる中、ドン! という激しい音が響いて、誰もが泣いているキラではなく、額をテーブルに叩きつけたカガリへと視線を送る。
『この様な事を頼めた事ではないが!! 私はキラの姉だ! キラの幸せを願っている!!』
そして、顔を上げて、額から血を一筋流しているカガリを見やった。
『多くの者の覚悟。決意。受け止めた。必ずや私が皆の想いを実現させよう。勝つ為の武器を用意させる。全員分だ! 全員で戦おう!! キラを願う全ての人が、戦う事が出来る様に、準備をする!』
『だから……!』
『キラを助けてやってほしい……!』
『私の可愛い妹なんだ。キラが生き残れる様に……!』
『頼む……!』
ガン! という音と共に、カガリは再び机にぶつかる様な勢いで頭を下げた。
その勢いに、見ていた者達は彼女が感じているであろう痛みを理解してあぁ、と心の中で頷いた。
覚悟はある。
姉妹の情も見た。
恩がある。
決意は力へと変えられる。
未来は、希望へと繋がる。
多くの願いが人々の間で繋がり、形となって大いなる力を芽生えさせていった。
そして、カガリの政見放送を聞いていたプラントのある一室では、藍色の髪の青年がため息と共にうな垂れた。
「っ! アスラン……! 大丈夫ですか!?」
「俺の……負けだな」
「良いのか? アスラン」
「あぁ」
「まだ勝負はついてないぜ?」
「だが、お前たちも、大統領にはカガリが似合うと思うんだろ?」
アスランは自嘲気味な笑みを作って、仲間たちを見やる。
その顔に、イザーク達は何も言わぬまま笑みを浮かべた。
「セナ」
『はい。アスランお兄ちゃん』
「すまない。俺は大統領選挙を辞退する」
『分かりました』
「そして、ジャスティスを用意してくれ」
「また戦場へ向かうのか? アスラン・ザラ」
「そうだ。俺はキラを救いたいと思った。セナを助けたいと願った。カガリを自由にしたいと祈った。しかし、彼女たちは強い。俺が手を差し伸べる必要はないだろう」
「……そうだな」
アスランは自分と同じ顔をしたアレックスに言葉を返しながら椅子から立ち上がる。
そして、開発部へ、軍部へと連絡を取りながら言葉を続けてゆく。
「彼女たちに必要なのは、王からの庇護ではない。共に戦う戦士だ」
「アスランらしいですね」
「プラントにも戦える者は多い」
「希望者は先に避難させて、プラントも一部改良するっていう手もあるぜ?」
「三年ある。出来る事は多くあるぞ。アスラン・ザラ」
「あぁ。だから、非戦闘員を中心として地球への支援は続けてくれ。それと、地球市民の避難を協力してくれ」
「そちらは僕の方で手配します」
「頼む。二コル」
「お任せください!」
「移民船。か。おそらくはラメント議長辺りが知っているだろう。人員や資材が足りないのなら、補充を、可能な限りの人員を乗せる」
「俺がやろう。情報局の手を使えば動きが早い」
「すまない。イザーク」
「任せておけ!」
「後は軍備の拡張だが」
「お。残るのは俺の役目だな」
「良いのか? ディアッカ」
「お前たちが走り回ってるのをただ見てる事なんか出来ないだろ? それに、今回の放送でみんなやる気一杯さ」
「だろうな」
「後は俺の方で各部隊を編制させて……」
「アスラン・ザラぁ!!」
「っ!? ジャガンナート中佐!?」
仲間たちへと細かく指示を出していると、アスラン達が居る部屋の中に一人の男が従者を引き連れながら入ってきて、アスランの胸倉を掴む。
そして、叫んだ。
「大統領を辞退しろ!」
「は? はぁ!?」
「私はもう辞退した! お前も急げ! 今、世界は一つにならねばならんのだ! コーディネーターだ、ナチュラルだと種を分けている状態ではない!」
「ジャガンナート中佐は、それでも良いんですか……?」
「当たり前だろう! お一人でも残って戦われる覚悟をキラ様が示しておられるのだぞ! ナチュラルだろうが、コーディネーターだろうが、そんな小さな事を気にしている状況か! 今は、少しでも多くの力を集めるのだ! 既に各方面には連絡をとった! 後は我らの意志をいち早く世界に示す時だろう!」
ジャガンナート中佐の叫びに、イザーク達は笑みを零して、アスランは頷きながら彼に肯定を返した。
そして、いくつかあったプラントの派閥は今回の放送から一つにまとまって行き、これから起こる最後の戦争への準備を進めてゆく。
アスラン達が慌ただしく動いている頃。
オーブの高級な喫茶店の個室の中では、二人の男が正面に向き合いながら紅茶を飲んで笑っていた。
「まさか、選挙前に全てを明かすとは」
「予想出来なかったか? フェアネス・ツヴァイクレ」
「その通りですね。こんな展開は、まるで予想できませんでした」
「そうだろうな。僕もそうだ。だからこそ、君の誘いを受けて、ここで手を組もうとしていたのだから」
フェアネス・ツヴァイクレに言葉を向けられたリボンズ・アルマークはフッと笑みを零しながら言葉を返す。
カガリとアスランに対抗するべく、二人は手を組んで大統領になり、世界にエビデンス01の事を打ち明けようとしたのだ。
それで、世界が混乱しようと、キラが生き残る手段は残ると。
しかし、そんな彼らの思惑を破壊してカガリが全てを打ち明け、世界中の人々を味方としてしまった。
「しかし、既に世界の危機は明かされてしまった。私達はどうするか」
「なんだ、君はこのまま手を引くのか?」
「……? どういう意味かな。既に我々は大統領選挙を辞退している」
「そうだね。だから、大統領にはならない。けれど、君の力をそのまま放置するのは勿体ないだろう?」
「……!」
リボンズはフェアネスにカガリを手伝う為の手段を残して、ここから去ろうと椅子から立ち上がった。
そんなリボンズにフェアネスが声をかける。
「君も、カガリさんの下へ行くのか?」
「まさか」
リボンズは笑みを残して、そのままスタスタと店を出て行くのだった。
彼の願うコトはここに既にあるとして。
「僕は救世主だよ。誰かの下にはつかない。僕は、そう。あのキラ・ユラ・アスハを追い詰めた人間なんだから」
政治ではなく、武力として戦うと、リボンズは言外に言葉を残してこの場から立ち去るのだった。