キラの提案で始まった世界大統領選挙は、カガリの誠心誠意の願いによって決着した。
初代世界大統領は、カガリ・ユラ・アスハ。
得票数80%超えという圧倒的な成績を持って選挙を終わらせた。
その結果に、キラのお陰だ。セナの姉だからという声もあったが、それは選挙演説で既に返答されている。
これからのカガリの対応を見て欲しいという事だ。
そして、多くの人の願いを受けながらカガリはオーブ連合首長国の代表首長を辞退し、本格的に世界大統領の座に就く。
大西洋連邦の国防産業連合理事、ムルタ・アズラエルに、プラントのてプラント最高評議会議長ワルター・ド・ラメント。
オーブ連合首長国新代表首長のユウナ・ロマ・セイラン。
地球総合商会の代表のフェアネス・ツヴァイクレなど、数多くの著名人が集まり、世界連合を運営してゆく事となった。
彼らがそれぞれ持つ、自分の領域に有意な政策を進めて行こうとする考えもあるが、それ以上に今差し迫っているのは
世界存亡の危機。
暗黒宙域より地球へと向かう未知の存在が、総量合わせて惑星クラスの重量でもって、地球に攻めて来るのだ。
「世界は一つとなったとおもうんですけど。それで? 連中には勝てるんですか?」
「無理だろうな」
アズラエルは開幕、まったく状況を隠すつもりもなくしゃべり始めるカガリに肩を竦めた。
そして、その発言にいくつかの勢力の者達はザワザワと自分達で話し始め、場は少し混乱する。
「大統領! それでは、兵たちはむざむざ死ぬために戦場に向かうという事ですか?」
「ですから。それはもう僕が言いましたよ。同じことを繰り返して何の意味があるんですか?」
「ぐっ、ムルタ・アズラエル……!」
「先ほど大統領も言ったように、勝てないんです。この戦いは。じゃあ、なんで勝てないからどうしよう。こうしよう。なんて考えるだけ無駄じゃないですか?」
「それは! あまりにも身勝手な思考ではありませんか!? 兵たちにも家族がいます!」
「だからなんだって言うんです? これから死ぬ兵士に補償でも送りますか。それも構いませんけどね。移民船に移る民にも資材は回さないと、飢えた中で宇宙をさ迷う事になりますよ?」
アズラエルはバカにした様な顔で、人権派の政治屋を横目で見つめた。
あまりにも、あんまりな発言に、その政治屋は口をつぐんでしまい、彼の代わりにフェアネスが口を開く。
「移民船に収容できる人数はどうなっているんですか?」
「戦いに参加出来ない者達の収容は順調だ。いつでも地球を離れる事が出来る様に、ミラージュコロイドを始めとした偽装の準備も順調に行っている」
「どの程度、地球に残りますか」
「およそ七割超だな。希望者の中から優先的な者を宇宙へ連れて行っているし。次の船も建造が進んでいる。しかし、全てをまかなう事は出来ん」
「そうですか」
「こんな事を言ってはなんですが、セナが各人の下へ現れたことが良い方向に運んだと僕は思いますよ。彼女が居れば民衆が不安になる事もないし。自分だけ逃げ出そうともしない。便利な物ですよ」
「貴様! アズラエル! 貴様は、自分が地球に残される民では無いからその様な事が言えるのだ!」
「はい?」
「残される者達は! 戦場に向かう者達は不安を日々抱えているのだぞ! それをセナ様が支えて下さっているだけだ!」
「分かった様な事を」
アズラエルはため息を吐きながら、椅子から立ち上がりポーズをしながら激昂する男に語り掛ける。
「ダイダロス基地、特別攻撃大隊。特殊攻撃指揮官」
「なに……? 何を急に言う」
「敵を少しでも減らす為に、ダイダロス基地が壊滅するまでレクイエムを撃ち続ける部隊の総指揮官。それが僕です」
「は……な、な……!?」
アズラエルは慇懃無礼な態度を一切崩さないままに叫び続けていた男に自分のこれからを語った。
その言葉に男は言葉を失って、意味のない音を発し続ける。
「艦隊を用いて、連中を殲滅する第一次防衛ライン。モビルスーツを中心とした連中の進行を止める第二防衛ライン。そして、残る戦力を全てぶつけて敵を殲滅する第三防衛ライン。それが抜かれたら、もう地球はおしまいです。そして、地球が危険な時に月が安全だと思いますか」
「……!」
「移民船がギリギリまで製造されます。それは、地球に残った民を救う為です。しかし、月から移民船に移動する手段など存在しませんよ。僕らはただ、一兵も残らず、最後の瞬間まで抵抗する。キラと同じ様にね」
「……アズラエル」
「この蒼き星は誰が守るのかっていう話ですよ。勇敢な兵士? 慈愛の女神? それも良いでしょう。しかし、ダイダロス基地では僕らが地球を守る為に戦い続けます。蒼き星を守れ。清浄なる蒼き世界の為に。ってね」
アズラエルはかつてブルーコスモスの合言葉であった言葉を皮肉の様に応えながら演説を終わらせて席に着く。
アズラエル達が移民船に乗り込むと思っていた者達はアズラエルの覚悟を聞いて黙り込み、沈み込んでしまった。
それを確認してからプラントのラメント議長はゆっくりと口を開いた。
「プラントは既に避難が殆ど完了していますよ」
「っ! そうなのか! プラントは早いな」
「我々は住んでいる場所が初めからコロニーですし。キラ様やカガリさんの邪魔をするつもりもありません。移民船は地球軌道上に居るカグツチの近くへと移動して、避難は終了となります」
「助かる」
ラメント議長の言葉に黙って彼の発言を聞いていたアズラエルはフンと鼻を鳴らしながら茶々を入れる。
「なら、無人となったプラントは兵器にでも改造していただきたいですがね」
「アズラエル……! もし地球が勝ったらプラントに戻る人たちも……!」
「無論、アズラエル氏の云う様に、戦力が大事ですからね。既に改造計画は進んでいますよ」
「「え?」」
アズラエルとカガリは驚いたように声を上げ、ラメント議長はホッホッホと笑いながら現状を語る。
「サイコフレームにより別世界を知ったギルバート・デュランダルより、コロニーレーザーなる物の情報を聞きましてね。軍事施設として利用している一部のプラントを除き、全て改造する予定です」
「そんな……! では、プラントは」
「そんな物は勝ってから考えれば良い。そうではありませんか。大統領」
「……!」
「無論、プラントを兵器としたからと言って勝てるワケではありません。ですが、それでも勝率が少しでも上がるのであれば行うべきです」
「ラメント議長……」
「アズラエル氏と同じ様に、戦えるものは戦場へと追いやって、コロニーレーザーの指揮は私が執る予定ですから。私の事は気にせず、移民船は地球に到着した物が全ての民を乗せた艦であると認識ください」
静かに、烈火の様に。
激しくありながら、それでも静かに燃える炎を有しながらラメントはカガリにコーディネーターの民たちを託して静かに目を閉じる。
彼の中に思い起こされるのは、静かな湖面の様な瞳で、自らの死を語るキラの事であった。
まだまだ若い女性であるというのに。
幼い少女の頃から世界の為にと活動し、命を捨てることをどうとも思わない。
そんな姿は気高くも、美しくも見えるが、ラメントは若い者は薄汚くても長く生きるべきだと考えているのだ。
だから、軍に志願しようとした者達も、若い者、子供が幼い夫婦などは無理にでも移民船へと誘導した。
無論第二世代の出生問題はあるが、それも解消し始めている。
移民船に乗った研究者が問題を解決するだろう。
つまり、未来は既に繋がっているのだ。
ならば、ラメントは残された未来の為に、己が体を最後の瞬間まで賭けるつもりなのであった。
キラと同じ様に。
そんなアズラエルとラメントの覚悟を聞いたカガリは、言いたいこともあるが、それは言わぬまま話を進める。
そして、ラメントの次にはオーブの代表としてやってきていたユウナが口を開いた。
「オーブだけど、移民船団の旗艦となるカグツチに重要人物は全て移動している。まだカガリ大統領は移動していないが、彼女の部屋や彼女が仕事をする場所は確保している。大統領の所属船だけど、カグツチという事で良いよね?」
「は? いや、ちょっと待て! ユウナ! 私は」
「カガリ。悪いけど。今回は君の我儘を聞くつもりは無いんだ」
「我儘って……!」
「そうですねぇ。カガリさんは、まぁ、まだまだ未熟ですが、移民船団の中で起こるトラブルなどたかが知れていますしね」
「大統領は民を導く役目がある。生き残った方が良いでしょう」
ユウナの言葉に、アズラエルとラメントが同意を示し、他の者達もゆっくりとカガリが移民船に乗る事に同意を示してゆく。
それを嫌がっていたのはカガリだけであった。
「駄目だ! 私も地球に残って戦う!」
「オーブもそれなりに軍艦とモビルスーツは出せるから、どこに配置するか決めよう。軍の代表を呼んだ方が良いかな?」
「そうですね。大西洋連邦の艦隊もサザーランド少将が指揮する予定ですが、詳細な打ち合わせは必要でしょう」
「こちらも艦隊指揮を行う者は居ますが、気分で決めても良いことは無いですからな。場を作って下さると助かります」
「聞け! 私は、キラの姉なんだぞ!」
「だからなんだって言うんだい? カガリ」
「なんだって……!」
「キラはその気高さもあるし、強さもあって最後の一人になると宣言していた。それは彼女の正義だ。それで? カガリ。君は戦場に出て、何が出来るっていうんだい」
「モビルスーツに、乗れる!」
「君程度の腕なら、いっぱい居るよ。何せ世界中のパイロットが集まっているんだ。不備はない」
「しかし……!」
「カガリ・ユラ・アスハ!!」
「っ!」
「カガリ。何度でも言うよ。これは遊びじゃない。戦いなんだ。そして、この戦いに向かえば、僕らは死ぬ」
「僕らって……ユウナは」
「僕も当然オーブ艦隊と一緒に行くよ。ギナだってゴールドフレームで出るつもりだ」
「そんな……!」
「だから、僕らとは、そこでお別れなんだよ。けれど、君は世界大統領だ。世界を導かなくてはいけない」
「せかい、を、みちびく……」
「そうさ。ウズミおじ様と同じ、国の。世界の為に生きるんだよ。カガリ。それが君の役目。それが君にしか出来ない。正義だ」
ユウナが諭すように言った言葉に、カガリは動揺を表に出したまま口をつぐんだ。
だが、そんなカガリに慰めの言葉を向ける者はおらず、会議はしめやかに終わりへと向かって突き進んでいくのだった。