アスランがオーブの本土へと向かった後の海岸で、キラは何をするでもなく星空を見上げていた。
そんなキラにわざわざここまでボートを運んできたリボンズが語り掛ける。
「キラ。どうだった?」
「良い男だったよ。アスランは。いつだって真っすぐでさ」
「ふぅん。あぁいう男が好みなのかい?」
「さて、どうだろうね。昔は好きだったけど、今は戦友の一人かな」
「顔だけは良いからな。あの男は」
「……やけに突っかかってくるね。君は」
数回しか会ったことが無いだろうに、妙にアスランへと当たりが強いリボンズへとキラはジト目になりながら文句を言う。
そんなキラに、リボンズは誤魔化す様な顔をしながら言葉を紡いだ。
「別に。突っかかっているつもりは無いさ。彼が顔だけなのは周知の事実だろ。ラクス・クラインも言っていたぞ。奴は初デートの際にジャンク屋に女性を連れて行く様な男だと」
「アスランならありそうだけど。それがおかしいって思う君はどこに行くって言うの?」
「ふむ。僕なら、か。まぁ、僕なら店に行くなら服屋かな。あまり見た目は高そうな店じゃない方が良いね。後から値段を知って、驚く方が良い」
「いやらしい」
「何!? どういう事だ! キラ・ユラ・アスハ!!」
「言った言葉のままだよ。人の気持ちを推察して操ろうとしている精神が気持ち悪いって言ってるの」
「きも……!? なんだと!? これでも前世ではかなり女性に好かれた人間だったんだぞ!?」
「まぁ、君も顔は良いからね。多少性格に難があってもモテるよ。そういう人にだけど」
「貴様ー!」
怒るリボンズがキラに向かって走り出し、キラはいやー! なんて笑いながら砂浜を走り出した。
二人は恋人の様に走り回っていたのだが、不意に数機のモビルスーツが上空より降りてきて、ジャスティスの周囲に着地する。
敵意は一切なく、以前と同じ様に来ただけであった。
「あらー。またお客さんだ」
「……どうやら敵意は無いようだが、今は向こうの相手か」
「そうだねぇ」
「さきほどの話は後でするからな……!」
「しつこいねぇ……君も、粘着質というか」
「これ以上僕を怒らせるなよ。黙っておけ」
リボンズはキラに忠告をしながら降り立った四人を見やる。
かつてこの地に来たアスランの親友たちと、一人。
用件は既にここに来ていたアスランだろうか。
「二コル! イザーク! ディアッカ! アレックス! 今日はどうしたの」
「あぁ。キラさん。申し訳ございません。キラさんに会いに来たワケでは無いんです」
「そうなの? じゃあアスランに会いに来たんだ」
「えぇ、まぁ。護衛として途中までついて来たんですけど、大気圏突入をする際に、アスランは加速したまま地上に向かいまして。僕らは減速しながらここまで来たので、タイムラグが起こってしまったんです」
「はー。そうなんだ。アスランらしいね」
「そそっかしい男だ」
「リボンズー。文句は後で、ね?」
「チッ」
キラに窘められ、リボンズは舌打ちをしながらキラの後ろで時間を過ごす。
そんな二人のやり取りに苦笑しながらもキラと話をしていた二コルを横にどかして、イザークが真剣な表情で口を開いた。
「アスランが来るまで、お前とも話がしたい。キラ」
「僕と? 遂にお嫁さんを連れてこいってエザリアさんに怒られちゃった?」
「ばっ! 馬鹿を言うな! 誰が貴様なぞ!」
「まぁ、そうだよなぁ。お前にはシホちゃんがいるもんなぁ」
「ディアッカ!? 貴様!」
「あらー。シホちゃんといい関係なの? やるじゃんイザークぅ。この、このぅ」
「イライライライラ」
「苛立ちを口に出さないで下さい。イザーク」
「うるさい!」
何歳になろうとも変わらないイザーク達のやり取りを見て、キラはクスリと小さく笑みを零す。
かつてそうであったように、キラもイザーク達も、幼少の頃から何も変わらない。
姿かたちは変わっても、持っている想いはあの時のままだ。
「チッ。俺の話は良い。いや、良くは無いんだが」
「イザーク」
「……! なんだ」
「シホちゃんはどうするの? あの子はモビルスーツだって乗っるんでしょ?」
「関係ない。いくらモビルスーツが動かせようが、シホは母親だ。これから生まれる子供と共に心中する事は良い事では無いだろう」
「子供!?!?」
イザークが何気なく放った言葉にキラは目を白黒とさせながらイザークを睨み、二コル、ディアッカへと視線を映した。
キラの視線に二コルとディアッカは居心地が悪そうな顔をしており、言い訳をする様に口を開く。
「あー。いや。実は結婚式も先日やっててな。キラちゃんも招待した方が良いんじゃないかっていう話になったんだけどよぉ」
「キラさんを招待するほど上等な人間じゃないとシホさんがおっしゃいまして」
「そういう事だ」
「そういう事だ。じゃないでしょ! イザーク! 君が僕を招待すれば良いじゃないか!」
「プラントで小さな式を行ったのだ。わざわざ地球からお前を呼び寄せる程じゃない」
「呼び寄せるほどの事だよ!」
キラは怒りながらイザークへと文句を並べるが、イザークは特に気にした様子も見せないまま口を開く。
先ほどまでの軽口とは違う、確かな信頼の表情で。
「貴様は、シホを大切に想っているのだな」
「当然でしょ! 僕はシホちゃんの友達なんだから!」
「ならば……! シホが乗るプラントの移民船を守ってくれ。戦いになど行かず、俺が、俺達が居なくなった後のシホを、母上を、コーディネーターの皆を守ってくれ」
「は……?」
「お前が第三防衛ラインで、人類最後の防衛線の指揮官になっている事は知っている。だが、もう駄目だという時に逃げる事は容易だ。多くの移民船と共に、俺達が残す希望と共に、逃げてくれ」
イザークはキラに何も言わせないまま綺麗な姿勢で頭を下げた。
そして、イザークだけではなく、二コルとディアッカもイザークと同じ様に頭を下げる。
彼らの姿に困惑したキラへと一人静かに状況を見つめていたアレックスが口を開いた。
「生き残った者達には重い責任が押しかかる。生き残ってしまった。そういう選択を選んでしまった後悔がある。しかし、キラがその選択に希望があると説けば、彼らは納得するだろう」
「アレックス……!」
「戦うばかりが美徳じゃない。お前の代わりなら、俺達がこなす。だから、いよいよという時は、移民船団と共に地球を離れろ」
「君は、何を言っているんだ! アレックス! 僕が戦わないだって!? この島に隠したフリーダムは、今あるどんな機体よりも強い! ディスラプターっていう武装だって、ようやく完成した。だから……!」
「お前がどれだけ強くても関係がない。生き残るべき人間というのは居る」
「っ!」
「それとも、お前はカガリ・ユラ・アスハに全ての責任を押し付けて、一人逃げるつもりか?」
「それは……!」
キラはアレックスに言われた言葉を飲み込んで、胃の中にムカムカとした気持ちを抱えながら何かを言おうとして、しかし言えなくて。
口をパクパクとさせながら、アレックスに何かを言い返そうとしていた。
そんなキラの代わり、話を静かに聞いていたリボンズが静かに口を開く。
「死んでもいい人間。生き残らねばならない人間。その役目の通りに生きる。それがお前の正義か? アレックス・ディノ。いや、アスラン。ザラ」
「……貴様は」
リボンズはキラの後ろから前に出て、アレックスを静かに見つめる。
そして、アレックスもリボンズを静かに見つめ返した。
独特の緊張感が周囲に満ちる。
「気に入らないな」
「なに?」
「お前も、イザーク・ジュールもニコル・アマルフィもディアッカ・エルスマンも、皆、綺麗に死ぬつもりか?」
「どういう意味だ。貴様」
「言った言葉のままさ。キラに生き残れと言って、戦場で死んで、それで終わりなつもりか? お前たちが死んだ先でキラが前を向いて生きていくとでも?」
「……!」
「お前たちの死など何も気にしないで、笑って生きていくと? ふざけるなよ。劣等種が」
リボンズは瞳の光彩を輝かせながらイザーク達に罵る言葉を向ける。
激しい怒りを持ちながら。
「こいつがそんな殊勝な女か。キラは事あるごとにお前らを思い出し、泣いて、しかし人前では平然な様子で振舞って、いつかその差に苦しんで、壊れる! そういう女だ! お前たちも見て来たのだから知っているだろう!」
「しかし……今回の戦いは生き残る以前の問題だ」
「あぁ。その通りだ。きっと死ぬだろう。お前たちは、誰一人生き残れない」
「リボンズ……!」
「黙っていろ。キラ。こいつ等には分からせてやらなきゃいけない!」
リボンズは止めようとしたキラを振り払って、更に強い言葉をイザーク達へと向ける。
「戦って、戦って、戦った果てにお前たちは死ぬ! 抵抗も何も出来ない世界で、悔やみながら、未来を望みながら死ぬ! だが、それがどうした。それがお前たちの望んだ道だろうが! それを綺麗に死ぬからとキラに責任を押し付けて……甘えるなよ!」
「……」
「誰かを決意の理由にするな。己がそうだと決めたのなら、そう生きろ」
リボンズの言葉に、アレックス達は震えた様な反応をしていたが、やがて小さく覚悟を決めた様な顔になってから頷いた。
「すまなかったな。キラ」
「ううん! ううん! 全然! 気にする事なんか、何も無いよ! これから先の分からない戦場に行くんだ。怖いに決まってるよ。そう言うのは何も恥ずかしい事じゃない」
「そうだな」
「まったく」
「やれやれ」
「え? あれー?」
キラは肩を竦めながら微笑みかけるキラに微妙な反応を示し、苦笑しながら二コルがキラに言い放つ。
「キラさんは強いですね」
「えぇー!? 別に強い事とかは言ってないけど!」
「貴様はそうかもしれないが、俺たちの覚悟は決まった」
「え? う、うん」
「俺たちは最後の瞬間まで戦うぜ」
「みっともなくあがいて、最後の瞬間まで諦めません」
「それが、戦士として正しい姿なのかもしれないな」
「だから! キラ」
「っ! イザーク……!」
「シホたちと共に、待っていてくれ。再び会える時まで」
「……うん」
イザーク達が覚悟を顔に映しながら言った言葉に、キラは静かに頷いて、その言葉にイザーク達は微笑み返すのだった。