アスラン達との話も終わり、時は少しずつ過ぎて、いよいよ運命の時まで後半年となった。
そんな世界がせわしなく動いていく中で、キラは今日も今日とて何も変わらず海の近くにある家で静かな時を過ごしている。
読んでいる小説の続きを読んで、疲れたら、その本を横にあるテーブルに置きながら椅子に座って目を閉じる。
窓の外から中に向かって吹く風はキラ達の体を癒し、これから海岸の向こうへと沈みゆく夕日は世界を朱に染めていた。
そんなゆったりとした世界が繰り返されている中、遂にキラの持っている小型端末に最愛の妹より連絡が届く。
『キラお姉ちゃん。準備が整いました』
「そっか」
『私の意識を形とした人型のアンドロイドは、近代戦でも十分に活躍できる様に調整されたホープに乗り、暗黒宙域へと向かいます』
「……うん」
『彼らの活動を考えれば、私達が現地へ到着する頃に大規模な活動を始めます。ですが、活動が認められない場合は監視作業とします』
「出来れば、監視で終わる方が良いんだけどね」
『はい。ですが、現在でも暗黒宙域は観測されており、時折上がってくる情報では活動が活発になっています。これから始まる進行の準備をする様に』
「そっか。なら仕方ないのかな」
キラは無限に広がる様な星空を見上げて、ほぅと息を吐く。
凍える様な寒さでは無いが、夜は流石に冷える。
しかし、つい先日新年を迎えたばかりの地球では、ゆっくりとだが暖かい空気も混じってきており、オーブが位置する場所も赤道近くな為、比較的に過ごしやすい気候の中にいた。
だが、それでキラの気持ちが晴れるワケもなく、陰鬱とした暗い気持ちの中に居る。
「第一艦隊の旗艦は有人艦なんだっけ」
『はい。サイコフレームに意志を映しているだけの私だけではなく、クリスタさんも戦場へ向かいますから。クリスタさんは何が起ころうと必ず地球へと返すと』
「それは嬉しいけど、第一艦隊の人たちは」
『事が起これば、暗黒宙域が我らの死に場所になると、サザーランド少将は仰ってました』
「サザーランドさんが?」
『はい。戦いの時代は終わりを迎える。過去の時代の遺物はもう去るべきだ、と』
「サザーランドさんらしいや。けれど、その覚悟は汚しちゃいけないよね」
『私はそう考えています』
セナにハッキリと言葉を返しながらキラは、自分の中に降り積もってゆく想いを吐き出す様に息を吐く。
辛さを自分の中からにじみ出るのを抑える様に、キラは自分を抱きしめた。
そして、魂を震わせながらいつ出発するのか。宇宙へと行く。と言おうとしたのだが。
『はい。その為。明後日。第一艦隊に所属する面々が地上へ。この場所へ小型シャトルで降りてきます』
「うん……って、え!?」
『あぁ、私やクリスタさん、ラクスさんはシャトルですが、サザーランドさんはアズラエルさんにも用事があるとの事で、大西洋連邦へと向かう様です』
「そうなんだ……てか、僕が行かなくても良いの? みんなを見送りたいって言ったのは僕だけど」
『最後にお話がしたいのは、キラお姉ちゃんだけではありませんよ。私達も同じです。そして、今、キラお姉ちゃんが地球から離れてしまえば、地球に残された方々は不安になってしまうでしょう?』
「……知ってたんだ」
『私はキラお姉ちゃんの妹ですから。よく分かります』
セナは驚いた様に声を出すキラに語り掛ける。
その言葉にキラは、感心した様な、いつもの事に触れた様な顔で微笑んで、噛みしめる様に頷いた。
「まったく、僕には過ぎたくらい出来た妹だよ。誰にも気づかれていないと思っていたのに」
『残念ですが』
「うん?」
『宇宙に行った方々は皆、気づいてますよ。既に避難されている方も』
「当然僕もね」
「~~!? リボンズ!?」
セナと二人で話をしていた時、不意に後ろからリボンズに語り掛けられてキラは驚きながら飛び上がった。
下が砂浜である為、多少飛び上がっても落ちてからのダメージは無いが、心臓はバクバクと鼓動を早めており、後ろに上半身を向けながらも声を震わせる。
「どうして」
「僕がここにいる事かい? それとも、君がここにいる理由かな」
「どっちもだよ!」
「どちらもか。我儘だな」
リボンズは嘆息しながら一個ずつ事情を話していった。
「僕がここに来た理由は簡単さ。暗黒宙域まで移動を考えれば出発の時は近いだろう? そんな時にセナから話があるとして君に連絡が来た。内容はこれからの事だと思うさ」
「な、なるほど」
「そして、君がここにいる理由に僕が気づいている事だけどね。これは簡単だよ。少し考えれば誰でも分かる」
「……話して」
キラは勿体ぶる様な言葉を紡ぐリボンズをけしかけて、続きを話させる。
「遠い宇宙より何かが地球に迫ってきている。それは地球に住む人々にとっておとぎ話の様な物だ。しかし、現実として移民船団は活動を始め、対抗する部隊も動いている。カガリ・ユラ・アスハの政見放送だって、真剣な眼差しで語られた。だから、侵略者が来ることは信じられるだろう」
「……うん」
「しかし、それが
「そんな……でも、それはカガリが言っていたじゃないか」
「どれだけ真に迫った様な語り方をしていたとしても、信じられるかどうかっていうのは別の話さ。用意が出来たら宇宙に居る人間は自分達を捨ててさっさと何処かへ行ってしまうかもしれない。宇宙の部隊だって、外宇宙へ向かう連中の為の部隊かも。なんて、考えれば嫌な想像はいくらでも出来る」
「……うん」
「けれどね。彼らは、どんな時でも彼らの為に戦っていた女性たちを信じているんだよ。セナとキラを。セナは毎日話しかければ応えてくれるし。キラは何事もない様に、地上に留まっている。二人が居るのだから、地上はまだ大丈夫なんだ。キラはずっと自分達を見守ってくれているんだってね」
「そこまで考えているのかな」
「まぁ、君は考えていなかっただろうね」
キラの言葉に、リボンズは嫌味の様な事を言いながらサラりと言葉を返した。
そして、どこかいじけた様に膨らむキラに、リボンズは笑みを零しながら続きを話す。
「君は最後の時までここに居よう。地球から離れるのは良くないから。くらいの考えかもしれないけどね。みんなはキラが地上に居るから慌てなくても済んでいるんだよ。落ち着いていられる。パニックにはならない」
「……そうなのかな」
「あぁ。世界のニュースでも見れば良い。どこもかしこも平和な話ばかりさ。だから、宇宙の人々は感謝しているんだよ。キラのお陰で余計な鎮圧をしなくても準備が出来る。最大数の人間をギリギリまで救い出せるってね」
リボンズの、どこか血の通っていない話にキラは嘆息しながら頷いた。
そこまで考えていたことでは無いが、世界はいい様に解釈してくれているらしい。
そして、その一環で宇宙に居るセナ達も、地上に降りて来るというのだ。
『はい。ですから、キラお姉ちゃんは地上に居るまま、私達が動く方が良いと判断されたんです』
「そっか」
『皆さん。どこまで考えているかは分からないですが、キラお姉ちゃんがこのままここにいて下さることが一番だと考えているという事です』
「……まぁ、そういう事なら、僕はまだここで星を眺めているよ」
キラはセナやリボンズと語らいながら、いつもの様に星空を見上げた。
どこまでも広がる様な無限の星空は、キラの想いを乗せて、宇宙を染めている。
『キラお姉ちゃん』
「うん」
『第一艦隊、その先方である私とクリスタさんは、彼らを説得する為にホープで向かいます』
「……うん」
『人類だって、無力な存在ではありません。ぶつかれば互いに大きな損害を出すでしょう。平和的に終わることが一番の筈です』
「それは間違いないね」
キラはセナの話に同意しながら平然と言葉を回してゆく。
そして、核心を突く様な言葉をセナに向けた。
「ねぇ、セナ」
『はい』
「未来の世界では……セナが生きていた世界では説得とかってしなかったの?」
『いえ……彼らを最初に発見したDSSDの方々が説得を』
「それで?」
『……』
「まぁ、そうだよね。セナの居た世界は、地球が壊滅して、プラントで生活してたんだもんね」
『壊れたプラントを隠れ蓑にして、いくつかの生活できるプラントに隠れ住んでいました』
「ありがとう。ツライ事を思い出させて」
『いえ! 私は……!』
「説得は、多分失敗する」
『っ!』
キラはハッキリと事実を伝える様にセナへと冷たい言葉を投げた。
そして、言葉と共に視線を向けて、セナに向き直る。
「そして、第一艦隊と彼らは武力衝突する事になるよ。きっと有人艦の人たちは生きて帰れない」
『それは……はい。サザーランドさんも言っていました』
「そうなの?」
『はい。軍人は常に最悪の事態を想定して動いていると』
「……サザーランドさんは優しいね」
過去の世界が手を尽くした挙句、滅ぼされた事を知って。
サザーランド少将も交渉が成功するわけがないと考えただろう。
しかし、それはセナの責任ではないと先に言っておいたのだ。
何だかんだと長い時間セナと接してきて、どこか親の様な気持ちになっていたのかもしれない。
もしくは気の良い祖父としてか。
分からないが、それでも彼らは最悪の事態の覚悟も決めて地球へと降りる準備をしてきたという事だ。
「それぞれの考えと、想いが戦場へと向かう、か」
「キラ」
「大丈夫だよ。リボンズ。僕はまだ、ここにいる。僕がここにいる事で良い結果となる事もあるんだ。僕は、逃げないよ」
キラはリボンズへと語り掛けながら再び大空の向こう。
満天の星空へと視線を映した。
それが最後の景色というワケでも無いだろうに。
キラはいつまでも、いつまでも、終わることなく星空の下に居るのだった。
いよいよ人類の存亡をかけた戦いが始まる。
個々人が抱いていた正義は、人類の生存をかけた希望へと向かって走り始めた。
これから何が始まるのか。
それはまだ誰も知らない。