アラスカにて、理事国代表の大西洋連邦が一つの宣言を行った。
後に『アラスカ宣言』と呼ばれるこの事件は、これまでの世界の形を大きく変える物であり、戦争回避を願い、平和と救済を待っていた人々にとって、絶望の知らせでもあった。
『月面会議にて、平和を願っていたキラ姫やセナ姫の想い。そして、国連総長らの想いを踏みにじり、テロを起こしたプラントの行動は平和を願う地球への、ひいてはナチュラル全体への宣戦布告と同じである!
この様な蛮行を赦す事は出来ない!!
崩壊した国連に代わり、地球の国々をまとめ、地球に対する脅威と戦う存在として、『地球連合』の設立を宣言する!!』
大西洋連邦の大統領の言葉は、地球に住まう人々の心を奮い立たせ、この苦しい状況から脱却する為に立ち上がらせた。
無論、その手には銃を握りしめながら、だ。
こうして地球の国家がプラントとの戦争に向かっていく中、この状況を少しでも食い止めるべく、オーブの代表ウズミ・ナラ・アスハは一つの声明を行う。
『世界を一つとして、争いへ進んでゆく事をオーブ連合首長国は容認しない。
今後、いかなる事態が起ころうとも、オーブは独立、中立を貫く!
これは我が国の姫、キラとセナも同じ想いである!
一度でも銃を撃ってしまえば、もはや憎しみの連鎖は止まる事無く続いてしまう。
今一度、立ち止まり、考えていただきたい!』
ウズミ・ナラ・アスハの言葉は全ての国家、人に届く事はなかったが、それでも彼の言葉で立ち止まった者たちは多くいた。
地球連合もキラやセナの名を利用している以上、彼女たちの母国であるオーブを正面から批判する事は出来ず、戦争に向かいながらも、思うように戦力を集める事が出来ずにいた。
しかし、新たに増やす事が出来ずとも、既に今ある戦力を動かす事は出来るのだ。
地球連合はプラントに宣戦布告をし、月面のプトレマイオス基地より侵攻を開始した。
オーブにあるウズミの私室にて、キラはセナと共にウズミへ直談判をしていた。
「無理な物は無理だ。アストレイはまだ未完成であるし。オーブとして中立宣言をした以上、出撃など許可出来ない」
「でも! 少しでも被害を減らして! 戦争を止めないと! これからどんどん被害は大きくなってしまうんですよ!」
「しかし、機体が無ければ……「ありますよね?」っ!」
「セナ?」
ウズミの言葉を遮って発せられたセナの言葉には確信があり、その視線の強さにウズミは目を細めてセナを見据える。
静かなウズミとセナのやり取りに、キラはあわあわとしながらも、機体があるのならば、貸して欲しいとウズミに再度願いを投げかけた。
「どこで知ったのか分からぬが、アレは誰にも動かせぬ。無理だ」
「大丈夫です。私とお姉ちゃんなら、動かせます」
「……」
「それに、もし無理だったのなら、その時こそ、私たちは諦めます。それで良いじゃないですか。誰にも動かせなかったのでしょう?」
「……良いだろう」
ウズミはジッと見つめるキラとセナの視線に頷いてからエリカ・シモンズを呼び、キラとセナを連れてモルゲンレーテの地下施設へと向かった。
そして、一部の人間を除いて誰も入る事の出来ない奥の奥に向かい、厳重に隔離された扉を開いて、その白い機体を照明で照らし出した。
「これは……見た事のない機体ですね。オーブが製造したモビルスーツですか?」
「違いますよ。キラ様。これはオーブのモビルスーツではありません」
「そして、プラントのモビルスーツでもない」
「なら……どこの?」
「分からないんです」
「分からない?」
「はい。このモビルスーツはメンデルという名前のコロニーに突如として現れた物だと私たちは聞いています」
「……メンデル。確かL4宙域のコロニーだっけ。遺伝子研究とかしてた」
「はい。そして、メンデルでテロ事件が起きた際にオーブが回収した物なのですが、今日まで誰も動かす事が出来なかった物なんです。だから……」
「……大丈夫。彼は私達を受け入れてくれます」
セナはようやく自分の足だけで立てる様になった体で、真っすぐにモビルスーツへと両手を向けた。
母が子を抱きしめる時の様に柔らかい微笑みを浮かべながら。
そして、静かに行動を見守っているキラ、エリカ、ウズミを置き去りにして、セナはゆっくりと口を開いた。
「『ガンダム』。私たちに手を貸して下さい」
セナが言葉を発した瞬間、人型機械の顔に点いているツインアイが緑色に発光した。
そして、壁に拘束されている体を動かして、セナとキラの前に右手を差し出してくる。
「う、動いた!? パイロットも乗って無いのに!?」
「では彼も協力してくれる様ですし。行きましょうか」
「う、うん。だけど、セナ。本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。私を信じて下さい」
笑顔で頷くセナに、キラは覚悟を決めて、唾を飲み込んでからセナと共に『ガンダム』の手の上に乗る。
そして、腹部にある赤いコックピットハッチを開いて、二人は中に飛び込んだ。
コックピットの中は見た事のない計器ばかりで、キラはどうすれば良いか迷ってしまうが、セナが一つずつ教えてくれる。
そして、一つずつ動かし方を聞きながら、外に居るウズミたちへ、宇宙に上がる為の戦艦も要求するのだった。
ウズミは正直なところ、オーブの代表首長としても、キラやセナの父親としても送り出す事など出来ないと考えていたが、長く封印されていたモビルスーツが二人に反応して動き出した事。
そして、二人が平和を求めているという事から、イズモ級MS運用戦艦2番艦『クサナギ』を用意させ、キラとセナを宇宙へと送り出すのだった。
それから。
オーブのマスドライバーで『ガンダム』という名のモビルスーツと共に宇宙へと飛び出したキラはセナと共に『ガンダム』の操縦を覚えながら、武器などの確認をエリカと共にしていた。
「『ガンダム』は刻を超えてメンデルへ辿りつく前に行っていた戦いで、武装を全て失っています」
「前の戦い?」
「はい。ここではない世界で。地球に巨大な隕石を落とそうとした人たちが居て、それを止める為に戦っていたんです」
「ふぅーん。悪い人たちもいたんだねぇ」
「せ、セナ様は、どこからそういう知識を持ってきたんですか? 情報は何も得られなかったと思うんですけど」
「『ガンダム』が教えてくれました」
「な、なるほど」
酷く非科学的なセナの言葉にエリカは頷きながら、深くは考えないようにしようと心に決めた。
そして、現実的な話をキラとセナにする。
「えー、と。ですね。セナ様の仰る通り、機体の武装はありませんので、試作型のビームライフルを2つ持ってきております。アストレイ用の物ですが、『ガンダム』でも問題なく使える様に調整しております」
「おー! 流石はエリカさん! ビームライフルを実用化してたんだ!」
「試作型ですけどね。三発撃ったら使えなくなるので、注意して下さい」
「うーん。そうなると合計六発か。一回の射撃で何機落とせば良いのかな」
「普通の人は一回撃っても一機落とせるかどうかという所なんですけどね」
「普通の人で、戦争が止められるなら、何の苦労も要らないよ」
「仰る通りで」
キラの言葉にエリカは分かりましたと頷き、ビームライフルの仕様をキラに共有する。
その威力や連射性などを確認していたキラに、セナは落ち着いた笑顔で告げた。
「機体を落とす必要はありません」
「え? まさか戦艦を狙えって話?」
「いえ。撃ち落とす必要があるのは『ユニウスセブンへと放たれる核ミサイル』です」
「核!?」
「ミサイル!?」
セナの言葉にキラとエリカは叫び、その二人が叫んだ言葉を聞いて、格納庫の作業員たちがざわざわと騒がしくなった。
しかし、セナは何も気にせず、いつもの落ち着いた様子で言葉を繰り返す。
「はい。核ミサイルです。地球連合は……というよりも、地球連合の中にいるブルーコスモスは、艦隊の中に潜んで、プラントへ向けて核ミサイルを撃とうとしています」
「……そうなんだ。なら止めないといけないね」
「キラ様!? 今のお話を信じるんですか!? というか、分かっているのであれば、避難勧告を!」
「うん。一応、ラクスとかアスランとかには個別でメッセージを送ろうとは思うけど、もし、僕らが目標を知ってるってブルーコスモスにバレちゃったら。別の目標を狙うかもしれない。そうなったら、僕らも補足するのは大変だよ」
「それは、確かにそうかもしれませんが……ですが、それで、キラ様やセナ様が命をかけて止めて、結果的に亡くなられてしまったら、それこそ世界は止まらなくなりますよ!? お二人はオーブだけでなく、色々な国の方々に慕われているのですから」
「分かってる。だから、僕らも死なない様には気を付けるけど、核ミサイルだけは絶対に止めないと駄目だ」
「はい。もし核ミサイルがユニウスセブンを砕けば、コーディネーターの怒りと憎しみはさらに加速して、地球の全てを焼き尽くすまで止まらないでしょうから」
「そうだね。そんな風にさせない為にも、僕らがやろう。必ず止める」
キラは強い決意を込めた瞳でセナを、エリカを見つめて頷き。
静かにキラたちの話を聞いていたオーブ軍人たちは、イザとなったらクサナギを盾にしてでも二人を守らねば! と覚悟を決めるのだった。
そして、キラたちは内密にラクス、アスラン、パトリック、シーゲルへとユニウスセブンをブルーコスモスが核ミサイルで狙っているとメッセージを送った。
返事は返ってこなかったが、どちらにせよやるべき事をやるだけだ、とキラは宇宙の向こうにあるプラントを見つめる。
平和に暮らすコーディネーターを守る。
世界に広がろうとしている戦火を止める。
『キラ様! 戦闘の光が見えました!』
「分かりました。では僕とセナが出撃してから、クサナギは後方で待機を!」
『いえ! 我らもお二人と共に戦います!!』
「いけません。この戦場にオーブは介入してはいけないのですから。これはあくまで所属不明のモビルスーツが行った介入です!」
『キラ様……』
「心配しなくても、私たちは必ず帰ってきますよ」
『……セナ様』
「では、行きましょうか。キラお姉ちゃん」
「そうだね!」
キラとセナは『ガンダム』のコックピットから『ガンダム』を動かしてカタパルトへと移動する。
頭に付いている二本の金色アンテナと、肩に付いたAとユニコーンの頭部をモチーフにした赤いパーソナルマークを輝かせながら、白いモビルスーツ『ガンダム』は宇宙へと飛び出した。
「キラ・ユラ・アスハ!」
「セナ・ユラ・アスハ」
「「『ガンダム』行きます!!」」
少女たちの願いを乗せ、ガンダムは今、宇宙の彼方へと飛び出していく。