宇宙での戦いを続けながら、プラントは地上への作戦展開も行う事とした。
それが『ビクトリア攻略作戦』である。
この作戦は食料確保の目的もあるが、地球上にZAFTの拠点を作るという意味でも重要な作戦であり。
地球軌道上で、降下用のポッドに入ったジンと、そのパイロットたちは緊張した様子で、深呼吸をする。
コックピットには、家族や恋人の写真が置かれていたり。
血のバレンタインで失われた人の形見が飾られていたりする。
あの日から、コーディネーターは焼かれ続けているのだ。憎しみの炎に。
そして、怒りと憎しみのままに地上へ降りて、ビクトリア基地を攻撃したZAFT軍であったが、結果は敗退。
降下したジンとパイロット達は戦場から離脱しつつ、次なる作戦を待った。
この作戦失敗にあたり、プラント最高評議会はいくつかの敗北原因を考えた。
それは、地上戦力の不足であったり、物量差による不利や、モビルスーツが思っていたよりも地上での戦いに向いていなかったという点もあった。
その為、プラント最高評議会はいくつかの問題を解消する為に、今後の大きな方針を決める。
1つ。
地上における軍事拠点の確保。
2つ。
宇宙港やマス・ドライバー基地制圧による連合軍の地上封じ込め。
3つ。
新たな地上用モビルスーツの開発。
そして。
核兵器、核分裂エネルギーの供給抑止となる『ニュートロン・ジャマー』の散布である。
『ニュートロン・ジャマー』の散布に関しては、地上での深刻なエネルギー問題が懸念されたが、『血のバレンタイン』により、多くの犠牲者を出したコーディネーター達が止まる事はなく、作戦は実行された。
『オペレーション・ウロボロス』の発動である。
後に『エイプリル・フール・クライシス』と呼ばれるこの事件は、地球に住む者たちにとって最悪の事件となった。
核分裂抑止能力を持つ『ニュートロン・ジャマー』が地上全土を覆いつくし、全ての通信機器はジャミングされ、核エネルギー施設は全て使用できなくなった。
これにより地上は深刻なエネルギー不足に陥り、戦争による食糧不足なども合わさって、地上では数多くの犠牲者が出る事となる。
しかし、それでも地上に住まう人々が、この事件を切っ掛けとして反プラント、反コーディネイター感情を膨れ上がらせる事は無かった。
それは、『ニュートロン・ジャマー』が撃ち込まれた数時間後、オーブから各国へ使者が訪れたからだ。
「ま、まさか! 『ニュートロン・ジャマー』を無効化する物を既に実用化していると!?」
「はい。しかし、大型で一度設置すれば動かす事も出来ませんし。通信のジャミングに関しては変わらずとなってしまうのですが」
「いえ! これで多くの者が救われます! 感謝します! セナ姫様!」
セナとキラは、それぞれオーブの艦隊と共に各国へ向かい、『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』を無償で預けた。
あくまで民間人を救うため、戦争には使わないと約束して。
「ふぅん。『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』ね? 随分と手が早いじゃないか。キラ。君たち。知っていたね?」
「えぇ。知っていましたよ。アズラエルさんに初めてお会いした時から」
「なるほど。それで、地球の危機に協力出来るように。なんて話を持ってきたのか。最初は意味が分からなかったけど。ようやく分かったよ。要するに君らは、大西洋連邦の国民を救いたかったって事か」
「はい。その通りです」
「まったく。してやられたよ。これで理事国も、非理事国も皆、オーブに借りが出来たってワケだ。これを無視して核ミサイルなんて使おうものなら、その瞬間から世界の敵となるだろうね」
「私たちにとってはこれ以上ない状況だと思います」
「だろうね。こっちとしては最悪だけどさ。でも、これからどうするのかな? 地球の救世主、キラ姫様はさ」
「うーん。実はまだ悩んでいる状態なんですよね」
「ほぅ?」
「私達の目的は、戦争を止める事なんですけど。アズラエルさん達はこれで止まってくれたりしないですか?」
「無理だね。つい先日、コーディネーター共がビクトリア基地を攻めてきたばかりなんだよ? 僕らが手を出さなくても、向こうが撃ってくるさ」
「ですよね……」
「どこかのバカが核ミサイルなんて使うから、こういう事になるのさ」
「えぇ!? あの核ミサイルはアズラエルさん達が撃ったんじゃないんですか!?」
「……今の発言で君が僕をどういう目で見ているか、よく分かったよ」
「うっ!」
ジトっとした目をアズラエルに向けられ、キラは身を逸らしながらソファーに深く沈み込んだ。
しかし、そんなキラを見て、アズラエルはキラに追い打ちをかけるでもなく、ため息を吐いて腕を組む。
「僕がやるのなら、中途半端にプラントを一基破壊する。なんてやらないよ。地上の核ミサイルを全部集めて、プラントへ総攻撃するに決まってるだろ?」
「それは……いや、それも困るんですけど。確かに、そうですね」
「だから、あぁいう中途半端な攻撃は僕らの仕事じゃないよ。でもまぁ、アレでコーディネーター連中も地上に『ニュートロン・ジャマー』なんか落としてきて、進化した人類を自称する割にはやることが姑息だなと思ったりするけども」
「向こうからすると先に撃ったのは地球連合さんなんですけどね」
「知った事じゃないよ、僕は。でも、僕もここまでコケにされて黙って見ているという事も出来ない訳だ」
「地球連合の皆さんに非戦を訴えてくれるんですか?」
「ハハハ。僕が命令するのなら、『あの忌々しい砂時計を全て叩き落せ!』だろうね」
「ですよねー」
キラはアズラエルの返答に肩を落としながらも、はぁと深くため息を吐いた。
核を撃たれたプラントは勿論の事、今回の『ニュートロン・ジャマー』で地球の人たちも火がついてしまった。
どちらかと言えば静観する立場であった国々も、地球連合への参加を考えているらしい。
一応、オーブから『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』を配ったのだから、ある程度は抑えてくれると信じているが……正直な所、キラにはどうなるか分からない。
「まぁ。でも。手が無いわけじゃない」
「アズラエルさんから建設的な意見が!?」
「……別に僕は教えてやらなくても良いんだけどね」
「嘘です嘘です! アズラエル様! ご意見を拝聴したくー!」
「まったく。都合のいい事だ」
「申し訳ございません! アズラエル様ばんざーい!」
「……まぁ、良いだろう。無知なお姫様に教えてやろうじゃないか」
「わぁー! ありがとうございます」
キラの子供の様な反応に、アズラエルは呆れた様な顔でため息を吐きながら、キラが出来る戦争を止める手段。
かつ、自分たちが得をする様な案を提示した。
「キラ。セナと共に地球連合でモビルスーツの開発をするんだ」
「嫌です」
「戦争を止めたいと僕は聞いていたと思うんだけどね」
「……なんで、地球連合のモビルスーツを開発する事が、平和に繋がるんですか」
「簡単な話さ。プラントよりも地球連合の方が圧倒的な力を持つようになれば、連中も容易くは攻められない。その状態である程度譲歩した停戦条約でも結べば……はい。これで平和の完成。めでたし。めでたし、だ」
「そんなに簡単にいきますかね?」
「まぁ、簡単ではないだろうね。でも、どの道、現状の地球連合はプラントに数でしか圧倒出来ていない。これではプラントが交渉に応じる事はないだろうね」
「それは、確かにそうですが……」
「だから、まずは戦力増強。そして、停戦。終戦と繋げれば良い」
「うーん」
「何が不満なんだい君は。さっきから」
「いや、だって。強いモビルスーツ作ったら、サザーランドさんとか喜んで、プラントに攻め込みそうじゃないですか」
「否定はしないよ」
「アズラエルさんだって、その技術応用して、もっと強化したモビルスーツ作って、核攻撃隊とかと一緒に編成してプラントに向かいますよね?」
「無いとは言わないね」
「やっぱり平和にする気なんか全然ないじゃないですか!」
「宇宙に住むコーディネーター共が全員消えれば世界は平和になるさ」
「そういうのは平和って言わないんですよ!!」
キラは怒りに声を荒げながら、アズラエルに訴える。
どうして平和を望んでくれないのか。戦争ばっかりしたがるのか、と。
しかし、アズラエルはそんなキラの反応に、軽く息を吐くと、仕方ないと呟きながら最後の提案をした。
「なら、地球連合の中でも、キラが信用できると思った者にモビルスーツの技術を託せば良いだろう?」
「信用できる人?」
「えぇ。そう。地球連合第8艦隊所属。デュエイン・ハルバートンという男は知っているね?」
「あ、はい。月面会議でご一緒しました。とても紳士的で。サザーランドさんとかアズラエルさんとは違って良い人でしたよ」
「なるほど。君はあぁいう男が好みなんだね。あまりオススメはしないけれども」
「そういう話はしてないです」
「ふっ、分かっているよ。それで、その男が、どうやらモビルスーツに興味を持っているみたいでね。開発計画を立てているから、それに乗れば良いという話さ」
「……! それじゃ」
「あの男と協力して、モビルスーツを開発し、あの男の派閥でそれを運用すれば良い。それなら僕らも自由には動かせないし。上手く行けば、プラントに力を見せつけて、停戦まで持っていく事が出来るかもしれない。そうすれば、コーディネーターとナチュラルが手を取り合う未来が来るかもしれないね」
「なる、ほど!」
キラはアズラエルの話に納得し、首を大きく縦に振ってから立ち上がった。
そして、早速アズラエルから話を通して、ハルバートンと面会の約束をするのだた。
「ありがとうございます。アズラエルさん!」
「いやいや。大した事じゃないよ。精々、平和までの道を頑張って作ってみれば良い」
「はい! あ! 『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』は悪用しちゃ駄目ですからね!」
「分かってるよ。僕も君らを敵に回したくはないからね。可哀想な民間人の為にでも使ってあげましょうとも」
「はい! それが良いと思います! ついでに福祉に投資とかしてくれたら、もっと素敵です!」
「気が向いたらだね。貧乏人が何かの役に立つとは思えないし」
「もう! アズラエルさんは素直じゃないんですから!」
「はいはい。分かったから。話は終わりだ。大西洋連邦の施設は僕の方でやっておくから。君は別の国へさっさと行きなさい」
「はーい! キラ・ユラ・アスハ! 行ってきまーす!」
元気よく手を上げながら部屋から飛び出して行ったキラを見送り、アズラエルはやれやれ。と呟きながら笑みを零した。
面倒で、不遜で、自分勝手で、夢見がちな子供。
だというのに、いつの頃からか。彼女と話す事が心地よいと思うようになっていた。
アズラエルは紅茶を手に窓の外を見ながら、誰も居ない部屋で呟く。
「コーディネーターとナチュラルが手を取り合う未来、か。まったく。柄じゃない事を言う物だ。僕も……しかし、不思議と嫌な気分にはならないな」
憑き物が落ちた様な笑顔で目を伏せるアズラエルは、静かに小さく息を吐くのだった。