カーペンタリア基地がZAFTに制圧されてから、地球で戦場は広がりつつあった。
『第一次カサブランカ沖海戦』
カサブランカ沖で、ユーラシア連邦の部隊を中心とした地球連合軍の地中海艦隊とZAFT潜水空母艦隊が衝突。
ZAFTは水中用モビルスーツ『グーン』を、実戦に初投入し、戦闘に勝利した。
その後、ZAFTはアフリカ北岸より侵攻開始し、ジブラルタル基地を建設開始する。
『スエズ攻防戦』
エル・アラメインにて、連合軍とZAFT地上軍が衝突。
戦いが始まった当初はユーラシア連邦の大戦車部隊が戦場を優位に進めていたが、ZAFTの指揮官アンドリュー・バルトフェルドの奇策により、状況は逆転する。
陸戦用モビルスーツ『バクゥ』の活躍もあり、戦いに勝利したZAFT軍はアフリカ北岸から南下を開始。
以降、アフリカでの戦いは『アフリカ戦線』と呼ばれる事になり、この戦いで多大な戦果を上げたアンドリュー・バルトフェルドは『砂漠の虎』と呼ばれる様になった。
また、戦いの場は地上だけでなく宇宙にも広がっており。
月の支配権をかけて争っていたZAFTと地球連合軍の『グリマルディ戦線』は連合の重要な資源供給基地であったエンデュミオン・クレーターでの攻防戦へと戦場を移しており、激しい攻防戦が行われていた。
しかし、もはや戦いは一方的なモノになりつつあり、地球連合軍は第3艦隊壊滅の憂き目を見るが、鉱床・施設破壊を兼ねて、レアメタルの混ざった氷を融解するための設備『サイクロプス』を暴走させ、地球連合軍に多大な被害を出しながらもZAFT軍を撃破。
ZAFT軍はエンデュミオン・クレーターでの敗退をキッカケとして、『グリマルディ戦線』を放棄、月より一時撤退する事となった。
だが、この戦いは地球連合軍にとっても大きな痛手であり、地球連合軍は敗戦とも言えるこの戦いを覆い隠すために、モビルアーマー『メビウス』でジンを5機も撃破した『ムウ・ラ・フラガ』を英雄と祭り上げる事で、世界の目を逸らそうとするのだった。
この時より、『ムウ・ラ・フラガ』は『エンデュミオンの鷹』と呼ばれる様になり、敗戦の記憶を二つ名と共に刻み込まれ、ムウは苦い思いをする事になるのだった。
そして、当然の事ながら、戦いは宇宙でも広がっていた。
『「新星」攻防戦』
L4のアジア共和国管理下の資源衛星『新星』を巡り、ZAFTと地球連合宇宙軍の衝突。
この戦いは、双方とも決定打のないまま、1ヶ月近く小競り合いが繰り返され、L4コロニー群が多数被害を受けつつも、
ZAFTはこの衛星を改装しつつL5まで移送し、軍事要塞化してから、以降名称を『ボアズ』と変更し、プラント本国の防衛の一翼として置く事になった。
地上でも、月でも、宇宙でも、戦いが繰り広げられ、多くの命が散っていった。
しかし、戦争は終わる事なく続いてゆく。
『「新星」攻防戦』以降は大規模軍事行動こそ無かったが、地上・宇宙を問わず、小競り合いが繰り返され、戦局は膠着状態となった。
ただ、漫然と相手を撃ち、街を焼いて、兵器を破壊し、人々を殺す。
この戦いに意味があるのか。
自分に問いかけても、根には憎しみがある為、人々は変わる事なく銃を持ち、相手を撃ち続けた。
自らが最初に憎んだ相手がどうなっているか、知ろうともしないまま。
コーディネーターが、ナチュラルが、そこに居るから。
人々は銃を手に、戦い続けるのだ。
終わる事のない、戦いの渦に世界はただ、相手を殺す方法だけを日々考え、ただ、生きていた。
そんな終末に一歩、一歩と近づく世界で、一人の少女が小さな体を動かしながら走り回っていた。
場所はアフリカ。つい先日戦いがあった場所だ。
「お水です。どうぞ」
「あぁ、ありがとうございます。天使様」
「天使とかじゃないです。でも、あなたが救われるのなら、天使でも大丈夫です」
栗色の髪を靡かせて、砂漠の熱い熱に肌を焼きながら、少女は老婆から離れ遠くを見やった。
そこにはモビルスーツのミサイルで破壊された街の区画があり、多くの人が亡くなったのだとよく分かる。
「……人は、いつまで戦いを続けるんでしょうか」
「さぁて。その答えは僕も探していてね」
「っ!?」
「あぁ。そう怯えないでくれ。敵じゃない。今は、ね」
少女は背後から聞こえた声に身を震わせながら振り返った。
そして、カラフルなシャツに、しゃれた帽子、大き目のサングラスを付けた男を見やる。
癖の強そうな短い栗色の髪は、砂漠の熱に焼かれ、今日も跳ねている。
「やぁ。また会ったな。砂漠の天使クン」
「バルトフェルドさん……」
「僕もこれ以上殺すのは好きじゃなくてね。出来れば名前は伏せておいてくれると助かるよ」
「あ、これは申し訳ないです」
「いやいや。これは僕のワガママさ。君が謝る様な事じゃない」
「……はい」
少女は、難しい顔をしながら自分と同じ様にミサイルが爆発した場所を見つめるバルトフェルドを見て、口を閉じたまま思考する。
考えているのは、どう話しかけるか。なのだが、バルトフェルドはそんな少女の思考を読んでいるかの様に軽快な様子で話し始めた。
「しかし。酷いもんだなぁ」
「そうですね。多くの人が亡くなったと思います。ここに居たのは軍人さんでは無かったというのに」
この悲劇を引き起こしたであろう男に対して、セナは少しだけ責める様な口調で返す。
しかし、バルトフェルドはそんな言葉など予想していたとでもいう様に、軽く言葉を返した。
「しかし、それでも。24万人が突然何も分からないまま死んだわけじゃない」
「っ!」
詳細な事を何も言わずとも、バルトフェルドの言葉が何を指しているのか分かったセナは体をビクッと震わせる。
思い出すのは、あの日。あの宙域で止められなかった核ミサイルの事だ。
一基のコロニーが崩壊し、宇宙の闇に消えて行った数多の『声』の事だ。
「だから許せ――。なんて言うつもりは無いけどね。コーディネーターの中には、この程度は当然だと思っている者も多い」
「しかし、『血のバレンタイン』に関係していないナチュラルの方も、理不尽に命を奪われました。数の問題ではありません。憎しみは……やはり憎しみを産むだけです」
「そうだねぇ。まったく。難しい問題だ」
バルトフェルドは頭をガシガシと掻きながら吐き出す様に言葉を投げ捨てた。
彼自身、地球に降りてからずっと悩んでいるのだ。
自らの手で、指揮で、命を奪う度に、復讐だと必要のない殺戮をする部下を見る度に。
我々はこのまま憎しみに飲み込まれて、どこまで行ってしまうのかと。
不安になる。
「だから……まぁ、君らの活動には、ただただ尊敬の念を抱いてはいるんだ。僕は」
「私たちの?」
「そう。僕らが落とした『ニュートロン・ジャマー』は本来、もっと多くの被害を起こす物だったんだ。深刻なエネルギー問題は戦争継続が困難な程の打撃を与え、餓死者はユニウスセブンの比では無かっただろう」
「……」
「しかし君たちが平和を訴えながら世界各国に与えた『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』は地球の者達から多くの憎しみを奪ったんだ。それが地球連合軍の勢いを削いではいるが、同時にZAFTに参加した者たちも複雑な気持ちの中で戦う事になった」
「プラントも、そうなんですね」
「そりゃそうさ。特に砂漠は酷い。平和を訴えているお姫様が銃を持たず、彼らの前で両手を広げているのだから。憎い相手は撃ててもな。守りたかった子供は撃てんよ」
バルトフェルドは本当に困ったよ。なんて言いながら少女をジッと見た。
しかし、少女は特に表情を変えないまま無に近い顔でバルトフェルドを見つめ返す。
「だから、な。君には警告をしに来た」
「警告、ですか?」
「そうだ。このまま『アフリカ戦線』が停滞している事を上は面白く思っていなくてね。その原因を排除しようと考えている」
「私を、殺しますか?」
「おいおい。そんな冗談は口にしちゃいかんぞ。親御さんが泣く」
「……そうですね」
「多少ナチュラルに睨まれようが、オーブとの関係に亀裂が入ろうが、『セナ・ユラ・アスハ』をプラントで抱える価値があると判断したんだよ。いずれ君を『保護』する為の者たちがここへ来るだろう。そうなる前に、逃げたまえ」
真剣な表情で少女……セナに語るバルトフェルドにセナはやや驚いた様な顔をバルトフェルドに向けた。
「あなたは、良いんですか? それで」
「まぁー、良くは無いだろうなぁ。しかし、小さな子供の願いを踏みにじる様な真似が、僕は嫌いでね」
「そう、ですか」
「それに、僕はこれでも平和主義者なんだ。プラントでは平和の歌を毎日聞いていた程さ」
「平和の歌……ラクスさんの?」
「お。なんだ。オーブでも有名なのかな? プラントの歌姫ラクス・クラインはさ」
「はい。大切なお友達です」
「ふむ。そうか。ならやはり。君に傷ついては欲しくないね」
「分かりました。では、私はオーブへと帰ります」
「うん。それが良いだろう。君と話せて楽しかったよ」
「私も。楽しかったです。また会いましょう」
「そうだね。次は、出来れば戦場では無い場所で」
軽く手を振り、去って行くバルトフェルドの背中に視線を送りながらセナは静かに目を伏せた。
セナが砂漠に居るという事が、プラント本国まで伝わったという話を胸の奥に秘めながら、遠い宇宙の向こう側で、今日も『世界を変える為の力』を作っている姉に想いを向ける。
「どれだけ平和を訴えても、世界は変わらない」
「なら、この世界を変える事が出来るのは、やっぱりお姉ちゃんだと思います」
セナは、砂漠の町を歩きながら強く決意を込めた目で前を見据える。
歩むべき道を。
世界に平和を作る為に、必要な手順を。
「キラお姉ちゃんに自由の翼を。アスランお兄ちゃんに正義の刃を。ラクスさんに、永遠の箱舟を」
「そして……私は、平和へと続く道を」
「作りましょう。永遠に終わらない平和な世界を」