地球での逃亡生活に限界を感じていたヴィア達は、地球を離れ、月面都市コペルニクスへと生活拠点を移すべく、シャトルに乗って地球を離れた。
そして、たどり着いたコペルニクスの宇宙港で偶然ヴィアは妹であるカリダと再会をする。
二人は離れていた時間の空白を埋める為に、カリダが既に購入していた家へと向かうのだった。
宇宙港からエレカという名のソーラーカーを一時間ほど走らせて、ヴィアたちはカリダの家に到着した。
途中の道はそれほど混雑しておらず、コペルニクスが静かで落ち着いた場所である事がよく分かる。
そんな月面都市コペルニクスの中でもカリダ達が選んだ家は住宅街が多い地区で、近くには幼年学校もある立地であった。
カリダの家も含めて住宅街に大きな家が多いのは、金持ちが多い場所であるという事もそうだが、月面都市の土地が地球よりも安価である事も原因の一つであった。
人類は宇宙へと生活拠点を移し始めても、地球という母なる星を離れがたく感じているという事なのかもしれない。
しかし、宇宙で生活する事に抵抗の少ないカリダやヴィアにとっては、大きな家が立ち並ぶ住宅街は、人の目も少ない為、非常に住みやすい場所であるのも事実であった。
「はい。ここが私たちの家よ。まだ引っ越しも終わってないから、ダンボールとか荷物が散らかってるけど、あんまり気にしないで」
「タイミングが悪かったわね」
「むしろちょうど良いんじゃない? 引っ越しの時期から居た方が、周りも変に想わないでしょ?」
「まぁ、それもそうか」
カリダの言葉に、ヴィアはなるほどと頷いて、積み上げられたダンボールを避けながら廊下を進み、玄関から入ってすぐの所にあったリビングへと入った。
そして、リビングとリビングから見える開放的なキッチンへと視線を向ける。
「カリダのセンスでも、ハルマさんのセンスでも無いわね。建売物件かしら」
「その嫌な癖。やめてって前にも言ったでしょ」
「あぁ、ごめんごめん。気になっちゃって」
「姉妹だから良いけど。他の人にやらないでよ? そういうの」
「大丈夫大丈夫。他じゃやらないから」
「まったくもう」
いつもは張りつめた様な様子でいたヴィアが、おどけたように笑う姿を見て、ラウもセナも驚くが、セナは二人の雰囲気から喧嘩をしているのでは無いかと察し、二人の元へと駆け寄った。
そして、心配そうに二人を見上げながら服を掴む。
「あの、喧嘩は良くないです、よ?」
「あー」
「そうね。確かに喧嘩は良くないわ。ありがとうセナちゃん」
「いえ……」
「でもね。私たちは姉妹だから、駄目な所はちゃんと駄目。って言わないと、喧嘩するより良くない事になっちゃうのよ」
「そ、そうなのですか!?」
「えぇ。放っておいたら、危険な研究を始めちゃったり、テロリストに狙われてるのに人類に必要だからーって、突き進んだりするんだから」
「……?」
「あ、あはは。ま、まぁ、人類の未来に必要だったのは確かだから? ほら、人工子宮が出来れば、高齢出産のリスクだってかなり減るのよ? 不妊治療にだって役立つし」
「はぁー。どうして研究者ってこうなのかしら。情勢を少しは考えなさいよ。私たちがどれだけ心配したか……」
「悪かったわよ。カリダ」
肩を落としながら謝罪するヴィアに、カリダは大きなため息を吐いてから、セナの間にしゃがみ込んで笑う。
心配な事は何も無いのだと示す様に。
「だからセナちゃんも、家族や大切な人が危ない事をしようとしていたら、止めてあげて。喧嘩をしても良い。生きてさえいれば、また仲直りは出来るから」
「……はい」
「まぁ、まだ小さいから分からないかもしれないけどね。いつかセナちゃんにもそういう日が来るかもしれないわ」
特に、お母さんはよく道を踏み外すからとヴィアをジト目で見上げながら、カリダは言葉を続け。
セナもまたヴィアを見上げて、分かりましたと強く頷いた。
二人に呆れられてしまい、ヴィアは助けを求める様にラウへと視線を向けるが、ラウはヴィアからの救いを求める様な目をスッと逸らし、自分は関係ないと不干渉をアピールするのだった。
それから。
ヴィアとカリダは、長旅で疲れているであろうセナとラウに別室で休んでいる様に言って、二人の話を始める事にした。
流石というか、何というか。
ラウは別室で休んでいて欲しいという言葉から、自分達には聞かせられない話かと察し、自分達の荷物を持ってからセナを連れて早々にリビングから去っていくのだった。
「頭の良い子ね」
「まぁ、私の子供だからね」
カリダはヴィアの言葉を軽く流し、テーブルへ座る様に言った。
そして、バッグからお茶を取り出して、ヴィアに渡す。
長い話になるという合図で合った。
「キラの事。話しても良い?」
「えぇ。聞きたかったわ」
「そう。そうよね」
「キラは、ウズミ様の子供としてオーブに居るんでしょう? 何故オーブから離れる必要があるの?」
「色々と理由はあるんだけど、一番大きな問題は、世界情勢かしらね。ウズミ様の子であるキラがコーディネーターで、カガリがナチュラルであるという事実が、キラの立場を難しくしているわ」
「……キラが代表首長になるのが気に入らない人達が居るって事?」
「そうね」
「でも、オーブはコーディネーターとナチュラルが共存する国でしょう?」
「国としての立場はそう。でも、テロを完全に防ぐ事は難しいわ。ただのコーディネーターなら許せるけど、国家の代表となる事が許せない人たちはいるってこと」
「……そう」
ヴィアは酷く落ち込んだ様子で目を伏せるが、そんなヴィアにカリダは微笑みかけながら話を続けた。
何も心配は要らないのだという様に。
「でも悪いニュースばかりじゃないわ」
「……?」
「キラもカガリも元気だし。ウズミ様も、他の氏族の方も二人の事を受け入れているわ。オーブとしても、コーディネーターとナチュラルが手を取り合い、支え合う姿こそ、理想の世界だとしているしね。国民も概ね受け入れている立場だと思う」
「後は、一部の過激派を何とかすれば、という事?」
「そういうこと。だからオーブを安定させるまでの間、キラを避難させよう。って事で私達と一緒にコペルニクスへ引っ越す事に決めたのよ」
「そういう事だったの」
「だから、心配は要らないわ。近くにはオーブの軍人さんも身分を隠して住んでるしね」
カリダの言葉に、ヴィアは安心した様に深く息を吐いた。
そんなヴィアに、カリダは続けて別の提案を始める。
「という訳で、ヴィア。貴女もこの家に住まない? 勿論あなたの子供達も一緒に」
「っ!? 良いの!?」
「良いの? というか。私から提案している事なんだけど」
「それは、そうなんだけど……ほら、私が居ると面倒な事にならないかしら。テロの事もあるし。キラの事も……」
「テロの話は、さっきも話したけど、オーブの軍人さんが居るからね。そこまで心配は要らないと思う。そもそもこの辺りはテロから身を隠す為に住む地球やプラントの方も多いからね。確かな身分証が無いと入れないし」
ヴィアは街の中に入る前に通った、厳重なゲートを思い出して頷く。
カリダはほぼ素通りであったが、本来はもっと厳重なのだろう。
オーブの代表首長の関係者であるから、素通り出来ているだけなのだ。
「でも、キラはどうする? キラはカリダとハルマさんが本当の両親だと思っているんでしょう?」
「そうね。でもまぁ……姉妹の子供って結構似るみたいだし。問題ないんじゃない?」
「さ、流石にそれは無理があるんじゃあ……?」
「大丈夫よ。キラは貴女によく似て、興味がある事以外はいい加減だから。そういう物か。って納得すると思うわ」
「まさか! 私の子供なのに?」
「貴女の子供だからよ。忘れたの? 自分だって子供の頃、お父さんやお母さんのどちらにも似てないって泣いてたけど、お隣さんも似てないよ。って言葉で納得してたじゃない」
「いや、アレは納得してたワケじゃなくて、確かに似てない可能性の一つとして受け入れただけで、遺伝子工学への興味もそこから生まれたし。それに、カリダやハルマさんなら、おかしいって気づくんじゃないかしら! 子は親に似るのよ!?」
「……そうね。確かにそうかもしれない。でも、そうなったら、事情を話せば良いわ」
「受け入れてくれるかしら」
「分からないわ。でも、私やハルマ、貴女やユーレンさんやウズミ様の誰に似ても、話は聞いてくれるでしょう? 分かろうともしてくれるわ」
「……そう、ね」
「だから、そんなに怖がらないで。キラは優しい子に育ってるから」
「うん。分かった。ありがとう……カリダ。貴女とハルマさんに託して良かった。ウズミ様にも」
「いつか。本当の事をキラとカガリに話せる陽が来ると良いわね」
「そうね……。いつか」
カリダとヴィアは遠い未来に希望を向けながら、ふぅと息を吐いた。
長く重い話はひとまず終わりを迎える。
そして、これからは明るい話が待っていた。
「じゃあヴィア達もここに住む事が決まったし。家の中を片付けましょうか。キラ達が来る前に家の中を綺麗にしてしまいたいし」
「え。別にハルマさんが来てからでも良いんじゃあ?」
「セナちゃんとラウ君をダンボールばかりの家に住まわせるつもり?」
「くっ、それを言われると……何も言えない」
「さ。そうと決まったら立って。まずはセナちゃんとキラ。ラウ君の部屋を決めましょうか!」
カリダはヴィアと共にセナとラウが休んでいる部屋に向かい、この家に一緒に住もうと交渉に向かった。
二人は戸惑いながら、ヴィアに伺う様な視線を向け、ヴィアが頷いたのを確認してから小さく頷いた。
「じゃあ、最初の仕事は二人の部屋を決める事ね。二階に部屋はいくつかあるから、見てから決めましょうか!」
元気よく放たれたカリダの言葉に、ホテル暮らしで自室を持った事のない二人は抑えきれない喜びを顔に出しながら分かりましたと返事をするのだった。