プラント最高評議会にて、一つの議題があがった。
それは中立国オーブの資源衛星ヘリオポリスにて、地球連合軍のモビルスーツが極秘裏に建造されているという件についてだ。
評議員たちは怒りを示しながら、円卓を叩き、感情のままに叫ぶ。
「中立などと言っておきながらこれだ!」
「所詮地球の国は、連中の仲間なのだ。中立など、我らの目から逃れる為の言い訳に過ぎん!」
「この件をキラ嬢やセナ嬢はご存じなのか!?」
「やはりプラントで保護するべきだったのだ。それを事を荒立てるべきではない等と言って……!」
「静粛に! 静粛に! 今は感情をぶつけ合っている時ではない!」
シーゲルの言葉に、議員たちは言葉を飲み込んで、シーゲルの話を待つ。
「信じられないと、嘆く気持ちは分かる。だが、これは非常に繊細な問題だ。感情のままに決定を下すべきではない。そもそもこの話が真実かどうかすら、まだ分からないのだ」
「しかし、だ。シーゲル。これはオーブの氏族から流れてきた話なのだろう? ならば、信用に足る情報だ、という事になる」
シーゲルの言葉に、パトリックは酷く冷静な言葉で立ちふさがった。
普段から険しい顔であるが、今日は一段とその表情が険しい。
「しかも、ここまで詳細な機体データがあるのだ。中立国が我らにこの様な虚偽をして何の意味がある」
「それはそうだが……そもそもオーブが我らにこの情報を流して何の意味があるというのだ」
「手土産のつもりなのではないか? 『GAT-X102 デュエル』『GAT-X103 バスター』『GAT-X207 ブリッツ』。この三機を我らに奪取させて、恩を売りたいのだろう。ムドウといったか? 例の氏族はオーブでそこまで高い地位を持たぬのだろう? 一種のクーデターなのでは無いか?」
「つまり、オーブは既に連合の一部として取り込まれているが、下級氏族が抵抗している。という事か?」
「私にはそう見えるな。例の男は、『キラ君』と『セナ君』をプラントへ連れて来る準備もあると言っていた事もあるしな」
「しかし、断るのならば、連合へ連れてゆく、とも言っていただろう? 信用は出来ん」
パトリックとシーゲルは静かな目で意思をぶつけ合わせながら、静かに言葉をかわす。
他の評議員たちは二人の言葉に耳を傾けて口を噤むばかりだ。
「しかし、悠長に事を構えている余裕もない。戦局が硬直しているこの状況で、連合に戦力が加われば、我らは一気に追い込まれる。多少のリスクは飲み込むべきだ」
「多少のリスクで済むのか? パトリック。コロニーに戦闘を仕掛けるのだぞ?」
「無論。被害が少なくなる様に、任務はクルーゼ隊に任せましょう。何の準備も無く核ミサイルを撃ち込まれるワケではありません。逃げる時間は十分にありますよ」
「……確かにな」
「そもそも連合のモビルスーツなどを開発している事が問題だ」
パトリックの言葉に、評議員たちの考えがパトリックの方に流れてゆく。
それに焦ったのか、シーゲルは言葉を荒げながらパトリックに反論した。
「しかし、オーブは、キラ君とセナ君の国だろう!?」
「ならばこそ! です!!」
「っ!」
「彼女たちの技術を悪用し! 戦火を広げる様な行為を! あの二人が認めると本気で思っているのか!? クライン議長は!」
「それは……」
「我らで救出するべきでしょう。彼女たちをオーブが連れ去らず、あのままプラントにいれば、多くの悲劇は起きなかったのですから。これ以上の悲劇を容認するべきではない」
「……!」
「ナチュラル共には過ぎた力だ。我らが適切に管理するべきだと私は考える。どうかな諸君」
「そうやって分断を煽るべきではない! 地球に住まう者たちは、『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』を正しい形で使っているではないか!」
「今は。世論がそうであるからそうしていうだけですよ。議長。何か切っ掛けがあれば、奴らはあの力も兵器として使うでしょう。その様な事を許してはならない。力は、優れた種族である、我らコーディネーターが管理運営しなくてはならないのだ」
パトリックの演説の様な言葉に、評議員たちは立ち上がりながら拍手し、連合の新兵器奪取作戦は、クルーゼ隊が実行する事となった。
この作戦でどれだけの犠牲者が出るかについて、見えないフリをしながら。
「……その考えの行く先は、全ての人間の管理だぞ。パトリック」
そして、喝采が響き渡る評議会で、シーゲルの言葉は誰にも届くことなく消えていった。
評議会で正式に作戦が決定した翌日。
『ナスカ級高速戦闘艦:ヴェサリウス』の艦橋では、ZAFTの白い制服を身に纏い、顔を隠す白い仮面と金髪の男、ラウ・ル・クルーゼが、部下であるクルーゼ隊の面々に作戦を説明していた。
「評議会から下された作戦は以上だ。何か質問はあるかな?」
「はい。隊長」
「何かな? 二コル」
「この作戦、中立国のコロニーを襲撃するんですよね? 問題はないのでしょうか?」
「フン。あるワケないだろ?」
「そうそう。中立とか言っちゃってさ。連合の味方してんじゃん。敵だよ敵」
「イザーク! ディアッカ! オーブはキラさん達の国なんですよ!?」
「だとしても。連合のモビルスーツを作っているのなら、許される事じゃない」
「アスラン……」
「キラだって、セナだって、こんな事は望んでいない。二人は戦争が始まってからも、ずっと平和を訴えていた。それが利用されてたまるか!」
イザークとディアッカの軽口も、二コルの心配そうな声も、ねじ伏せて、アスランは燃える様な瞳でクルーゼ隊の面々を見据えた。
そんなアスランにクルーゼは笑みを作りながら、応える。
「そうだな。アスランの言う通りだ。キラ姫とセナ姫の地球での活動を利用するオーブは討たねばならない。可哀想だからと見逃してしまえば、戦火は広がり、それこそ二人を傷つける事になるのでは無いかな?」
「そうですね……申し訳ございません。隊長」
「いや、気にする事はない。どちらにせよ、最高評議会からは犠牲者をなるべく少なくしろ。という無理難題も来ていたからな。気持ちは同じさ」
「はい」
「他に何か質問はあるか?」
「おう! 俺があるぜ!」
「カナード! 隊長には敬語を使え! 敬語を!」
「いでっ! 殴んな! ミゲル! はいはい。敬語な。えーあー、質問がありますです! だ!」
ラウと古い付き合いである為、どこか気の抜けた様な言葉遣いをするカナードにミゲルは頭を抱えるが、ラウはクックックと笑うばかりだ。
そして、話せと首を軽く動かしてカナードに合図をする。
「襲撃はいつやるんだよ」
「ですか! だろうが!」
「ですかー!」
「ふむ。時期だな。内通者の情報では、1月25日に連合のパイロットを輸送する為に、偽装した宇宙戦闘艦を受け入れるらしい。その時は、周辺宙域の警戒も弱まる様だから。そのタイミングだな」
「なるほどなー。って事は、アスランたちに内部へ行かせて、俺とミゲルで外か?」
「あぁ。そうなる。何が出て来るかは分からん。整備はよくしておけよ」
「ハッ!」
「あいよー」
「ふむ。他に確認事項は無いようだな。では解散だ。各自準備を怠るな」
「「ハッ!」」
そして、プラントでヘリオポリスの襲撃作戦が可決されている頃。
大西洋連邦首都ワシントンにある、アズラエル財閥の一室で、アズラエルとオーブの下級氏族を名乗るムドウという男がアズラエルに面会していた。
「ふぅん。じゃあコーディネーター共はちゃんと動くってワケだね」
「はい。何も問題はありません。プラントには6機のモビルスーツの内、3機の情報をリークしました。これで連中は慌てて奪取しに来る事でしょう!」
「それはご苦労サン」
アズラエルは面白くもない話を聞かされている。という様な顔をしながら、紅茶の入ったカップに口をつける。
そんな冷めた反応を前にしても、ムドウは興奮した様子で語っていた。
「全ては計画通り進行しております。3機のGと3機のGで争い合う事で、戦闘データは溜まり、すぐにフィードバック。そして新型機の開発と量産機の性能向上に繋げられます!」
「良いデータが取れれば良いんだけどね。でもさ。キラとセナの作ったナチュラル用のOSがあるって言っても、乗ったのがナチュラルですぐに負けちゃいました。とかじゃ話にならないんだけどね」
「それは心配いりません! パイロットにはコーディネーターを用意していますから。十分データを取る事が出来ます。貴重なナチュラルのパイロットを消費する必要はありませんよ!」
「そうですか。なら良いんですがね」
「えぇ、えぇ。コーディネーター同士で殺し合う姿というのも、喜んで頂けるかと思います!」
「……ハァ」
心底面白くもない話を繰り返す男に、アズラエルもいい加減退屈の方が勝ってきて、ため息などが漏れてしまうが、男は自分の話が物足りないのではないかと判断して、さらにアズラエルが喜ぶであろう話を考えて口走る。
「そ、そう! それだけではありません! この計画を実行すれば、ウズミの権威は失墜! 五大氏族は全てオーブから排除する事が出来ます!」
「それで?」
「え?」
「それで、僕にどんなメリットがあるんですか?」
「そ、それは……その、アズラエル様の忠実なしもべである私が、オーブを支配しまして、アズラエル様のお力を増大させる事が……!」
「ハァ。君の話は、本当に退屈ですねぇ」
もはや同情する様な笑みを浮かべながら、言葉を刺したアズラエルに、男はさらに焦り、言葉を重ねる。
「そ、そう! オーブにはアズラエル様を煩わせる者達もおりますから! オーブが手に入った際には、『キラ』と『セナ』にはこちらまで謝罪に来させましょう! それに! コーディネーターですから、多少痛めつけても……!」
「もう良いです。貴方の話は面白くない。後は計画を進めるだけで良いですよ。では、お引き取りを」
アズラエルは手を振って、男を追い出すと、深い深いため息を吐いた。
そして、テーブルの上に置かれた資料を手に取りながら退屈そうに見ながら呟く。
「キラ。残念ながら君の願いは、君の愛する国に踏みにじられる様ですね」
「まぁ、これがオーブやコーディネーター共から離れるキッカケになれば安い物、ですか」
「最近は君達も来なくてマリーも退屈していますしね。これで現実という奴が分かれば良いんですが……」
そして、はぁ。とため息を吐きながら資料をテーブルの上に投げ、吐き捨てる様に言った。
「どこの誰か乗るか知りませんが、せいぜいコーディネーター同士で殺し合って、戦火を広げ、キラとセナを失望させて欲しい物ですねぇ。やはり自由に飛び回られると、厄介ですから」
そんなアズラエルの言葉を知る事もなく、アズラエル財閥の建物を追い出されたムドウは、オーブの船に乗り込むと、オーブ本国へ戻りながら独り言を呟く。
「フン。アズラエルめ。ナチュラルのお前が図に乗っていられるのも今の内だ。『キラ』と『セナ』さえ手に入れれば、出来ない事はない! 人望も、兵器も、全て!」
「そして、俺は世界の王となるのだ。俺をバカにした氏族共は皆殺しにしてやる! サハクも! アスハも! 全て!」
「……ふっ、そうと決まれば、早速ヘリオポリスへ向かわねばな。どうせなら、俺が直接モビルスーツに乗る方が良いだろう。イージスかストライクか。ヘリオポリスにいるキラとセナを助けて、アークエンジェルに乗り込んで、二人の為に戦っているとか何とか言えば、女などすぐに俺に靡く。完璧だ」
「そう! 全てはこの手の中に!」
ムドウは理想とする未来に高笑いをしながら、オーブ本国へ、そしてヘリオポリスへと向かっていった。
これからヘリオポリスで起こる悲劇に、自身も参加する為に。